少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少。育児や介護、趣味、休養などの生活と仕事の調和を図るワークライフバランスの拡がり。新型コロナウイルス感染症拡大の影響。今、日本の労働環境はさまざまな課題に直面しています。

そのため、多くの企業が時短業務やテレワークを推進したり、休みの取りやすい就業制度を取り入れたり、副業を正式に認めたりするなど、働き方改革への取り組みを強化しています。このような取り組みは、一般的に「外発的動機付け」と言われています。トップダウンで制度化しやく、短期的な成果を出しやすいとされています。その反面、継続的な社員のモチベーション維持にはつながりにくいと指摘されることもあります。

一方で、働くことの楽しさ、充実感・達成感、学習意欲の向上、といった「内発的動機付け」は、個人の成長や業務品質の向上を創出し、組織全体の生産性の向上、そして、企業力の底上げにつながると言われます。ただし、これらは個人によって価値観が異なるため、外発的動機付けと比べると定着までに時間を要し、成果につなげるためには難易度が高いと言われています。

本コラムでは、このような「内発的動機付け」による社員のモチベーション向上策のひとつとして、業務の可視化を起点とした労働環境の改善について考えてみたいと思います。

接客重視の眼鏡販売チェーンにおける事例

それでは、業務の可視化によってどのように社員のモチベーションを向上させることができるのか。今回は、眼鏡販売チェーンの事例を見ながら考えてみたいと思います。

今回事例として取り上げる眼鏡販売チェーンは、中~高級品を中心とした商品ラインナップを取り揃え、実店舗の対面販売で、お客様一人一人のこだわりを的確に把握し、そのニーズに合致する商品を提案するスタイルで根強い人気を誇っています。

そのため、店舗スタッフには高い接客スキルや商品知識が求められます。同時に、お客様の要望に応じて、メーカーや倉庫、他店舗から商品を取り寄せたり、季節やトレンドの変化によって店舗在庫を調整したり、きめ細やかな商品管理や店舗運営も必要です。

当然、同社にとって店舗での接客は最優先事項ですが、接客を重視すればするほど一人のお客様に対応する時間が長くなり、繁忙時には十分に対応できないお客様が出てしまうことがありました。そして、店舗運営や各種伝票の処理などにかかる作業が後回しになってしまい、残業対応せざるを得ない状況が続いていました。結果として、店舗スタッフにかかる負荷やストレスが増加していることが大きな課題となっていました。

顧客接点を中心にすべての業務を可視化

同社は、業務改善に取り組むにあたり、「きめ細やかな接客」は絶対に妥協しないという方針を立てました。なぜなら、それは会社にとって最大の武器であり、ブランドであるからです。そして、従業員にとっても、お客様にご要望通りの商品を提供し、喜んでもらうことこそが働く意義であり、店舗スタッフ全員の共通認識だったからです。

まず、顧客満足度調査を実施しました。お客様が、どのような点に満足していて数多くある眼鏡チェーンの中で同社を選択した理由はどこにあるのか、そして不満に思っている点は何か、徹底的に調べることから始めました。すると、店舗スタッフが、商品の在庫状況や納期を調べたりする間の待ち時間に、多くのお客様がストレスを感じていることが分かりました。

その後、顧客接点を中心に店舗の全業務を洗い出し、業務の流れをフローチャートとして可視化しました。その結果、次のようなことが分かりました。店舗スタッフは、接客している中でお客様の要望に沿った商品を検索する際に、店舗に供えているPCの所まで移動して、在庫管理システムで在庫状況を調べるという業務が発生しており、累積するとかなりの時間を要していたのです。この時間を短縮できれば、よりスムーズな接客ができるようになります。お客様との会話も中断しなくて済みます。その結果、店舗スタッフの接客時間の短縮にもつながり、お客様の満足度も向上することが期待できます。

改善策として、タブレット端末で在庫管理システムにアクセスできるようにして、店舗内のどこでもお客様の目の前で在庫状況を確認・発注できるようにしました。さらに、バーコードを用いて商品在庫を管理できるシステムを導入して、短時間で簡単に棚卸作業ができるようにもしました。

その結果、次のような成果が出ました。

  • これまでより短い時間で在庫状況を伝えることができるようになり顧客満足度が向上
  • 他のお客様への接客に対応できる時間が増え、売り上げもアップ
  • 顧客満足度や売り上げがアップすることで、店舗スタッフのやりがい(モチベーション)が向上
  • 店舗スタッフの長時間労働による負荷やストレスが軽減
  • 残業時間が削減(コスト削減)
  • 定時退社により、販売員のワークライフバランス実現に寄与。
  • その結果、積極的に学習(商品知識や販売スキルの向上)に取り組む店舗スタッフが増加

その後、可視化した業務のフローチャートを基にして、全社において改善活動が活性化してきました。在庫管理システム上で商品写真も閲覧できる機能を追加するなど、さまざまなアイデアが提案され採用されました。接客時にお客様に商品の色や形を確認してもらうことができ、顧客満足度や購買意欲を向上させるだけでなく、店舗スタッフの声を改善案に反映することで、モチベーション向上にも結び付きました。

さらにこの先、商品をタブレット端末で見せるのであれば3Dで上下左右の画像を見せられるようにしたい、商品の検索履歴をAIで分析してリコメンドや顧客動向の分析にも生かしたいといったアイデアも議論されると良いですね。

業務の可視化による従業員満足度の向上

このような改善策は単なる思いつきではなく、業務を可視化・分析することで、経営層から現場までが共通認識を持って議論ができたからこそ生まれたものです。また、業務が可視化されたことで、現場からのアイデアを適切に精査できます。業務全体で見たときにだれ(どの部署)が対応するのか、どのような業務に影響するのか、どこまで対応するべきなのか、どのくらいの成果が上がるのかを客観的に分析して、見極めることができるようになります。

今回の事例では眼鏡販売チェーンをご紹介しましたが、BtoBの業務であっても、社内業務であっても、サービスや商品を提供する側と受ける側がいますので、どの業態・職種にも当てはめて考えることができます。大切なのは、従業員が積極的に改善提案をできる環境をつくること、そして経営側は、提案を適切にビジネスプロセスに組み込み、業務が円滑に流れるように調整することです。業務を可視化することで、この相互関係と改善のサイクルを実現することができます。そして、それぞれの場面で業務環境の改善を図ることが従業員満足度の向上を図ることにつながり、その結果、生産性の向上や優秀な人材の定着が期待できます。

従業員のモチベーションが上がらないと悩んでいる企業は少なくないと思います。まずは、業務の可視化というアプローチから職場環境の改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。

第1回目はこちら


【業務改善のお困りごと あるある9選】
第1回 :「人」のせいにせず、業務ミスを解消する方法

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