DX(デジタル トランスフォーメーション)と総務を考えるとき、欠かせないバズワードがあります。DXそのものもバズワードですが、もっとも総務のDX化に貢献しているのが、テレワークです。
テレワークは、新型コロナウイルス感染症が蔓延した2020年に急激に普及しました。テレワークの普及にともなって、オフィスでは総務の役割も変化しています。DXと総務はまったく無関係のようにみえながらも、実は大いに関係があります。
テレワークとは?
そもそもテレワークをしよう、テレワークを進めようという考え方は、それこそコンピュータがオフィスに浸透しだした1990年代から存在します。しかし、2000年になって、インターネットが爆発的に世の中に発展しても、2010年代にiPhoneが世界的大ヒットしても、それでもテレワークはなかなか浸透しませんでした。経営者に「通勤すべき」という考え方があったのと、そもそも日本の雇用環境では、成果主義ではなくオフィスに出社し、極端な話をすれば席に座っていることが重視されるような仕組みがあるからです。
それが、新型コロナウイルス感染症の蔓延で一気に変わりました。なかば強制的にテレワークが進み、それに従って総務業務の働きも変化したのです。テレワークで必要とされるのが
- Web会議
- チャットツール
- ドライブフォルダ
といったSaaSのサービスです。
クラウドをベースに使われているこれらのサービスは、どこからでも、どのデバイスからでもアクセスでき、同時にひとつのサーバーにデータを保存しません。離れていて複数のサーバーに保管するからこそ、クラウド(雲)なのです。そして、ひとつのサーバーに保存していた頃より、安全性も向上していますし、値段も下がっています。
Web会議、チャットツール、ドライブフォルダといった、SaaSサービスは、サブスクリプション(月額課金)です。従量課金制もあれば、アカウント数に比例するものもあり、導入には総務と現場管理職の話し合いが必要です。といっても、大抵は安く、インストール型のオンプレミスよりも遥かにコストの削減になりますので、もしまだ導入していないのであれば、テレワークかオフィス通勤かにかかわらず、導入してみるといいのではないでしょうか。
テレワークに必要な総務の仕事
総務業務は、社員がより働きやすくなってもらうために、あらゆる手を尽くして働きます。もちろん、オフィスに出社したときの消耗品管理や備品管理も重要な仕事ではありますが、テレワークになった際の、SaaSサービスのID管理や、情報システム部と連携しての不正アクセスのチェックなど、さまざまな仕事が発生します。
総務業務に関してDXと強く関連性がある部分といえば、セキュリティに紐ついたところが多いのではないでしょうか。実際に出社しなくなりオフィスの管理が不要になる代わりに、バーチャル空間をしっかりと守る必要が生じます。
クラウドとともにはじまったSaaS
では、SaaSサービスのID管理とはどのようなものでしょうか。
基本的に、IDの使い回しは厳禁です。SaaSのIDがそれぞれ発番されることで、正確にコストを見積もり、同時に不正アクセスや不祥事の切り分けが可能になります。
SaaSサービスは、15年前であれば存在できなかったサービスです。15年前はインターネット回線もそれほど太くなく、広く普及してはいたものの、あまり堅牢ではなかったので、どこかのサーバーにアクセスするよりは、自社でサーバーを持つことが主流でした。
それが、ここのところの回線増強で常時接続も当たり前になり、その結果としてサーバーにアクセスが容易になったのです。クラウドの時代のはじまりです。クラウドが普及したことで、自社サーバーを持たない代わりに、セキュリティがより重要視されるようになりました。
といっても、基本はIDとパスワードの管理だけです。SaaSを導入する際、セキュリティ面はSaaS企業が準備してくれますので、あとはひとりひとつのアカウントを徹底し、総務は情報システム部と管理者アカウントを使いながら、仕事が滞りなく進んでいるか確認するという仕事が発生します。コロナ時代の新しい総務のあり方は、業務の進行もチェックしなければなりません。
パスワード添付メールの悪癖をDXでなくす?
日本のビジネスシーンには、あまり良くない習慣がいくつかあります。
そのうちのひとつが、パスワード添付メールです。添付ファイルを送る際、パスワードロックをかけるのはいいのですが、添付ファイルを送った次のメールでパスワードを送付するというもの。これでは、万が一送付先を間違えたときに、パスワードをかけている意味がありません。
このパスワード送付は以前から識者などによって指摘されてきたことでしたが、依然としてビジネス慣行で残っているものです。では、パスワードを送付がよくないのであれば、最新のDXを使って、どうにかならないものでしょうか?
実は、添付ファイルを送信したいのであれば、クラウドのドライブにいれて、ドライブのリンクを送るという方法があります。これならば、受け取った相手は重たい添付ファイルをダウンロードしたり、知らないファイルを開いたりするリスクを取らずに済み、同時に送った側は、万が一間違えたなら、ドライブのリンクを切ればいいだけなのです。
つまり、クラウドサービスというDXによって、パスワード添付メールという悪癖を卒業できるのは間違いありません。問題は、クラウドドライブのリンクを送るという行為を、あまり利用者が理解していない点にあります。それを周知するのが総務の役目ではないでしょうか。
DXによって、パスワード添付メールという悪習慣が駆逐できれば、生産性は上がらないかもしれませんが、セキュリティは向上します。メールはどうしても予期せぬ相手に送ってしまうというトラブルが起こり得るので、添付ファイルはあまりよくありません。それでも、他の方法を知らないという知識の問題で、ずっとビジネスシーンで残り続けていました。
パスワード添付ファイルを卒業できるのが、DXの魅力でもあります。小さなことかもしれませんが、セキュリティはまず意識からです。
最後に
DXと総務の関係について見てきました。従来、総務業務は属人性が強いといいますか、トナーを変えたり電球切れを手配したりなどの雑務が非常に多かったのですが、リモートワークが一気に普及したことで、環境整備も総務の仕事になりました。
会社からの貸し出しパソコンやインターネット回線の補助代金申請、そして勤怠管理やID管理など、総務がやるべきことはたくさんあります。それらを、DXで補強できれば、負担も減りますし人件費の削減にもなりえますし、同時に生産性も上がります。バックオフィスなので生産性は関係ないと思われるかもしれませんが、大いにあります。
DXの本当のパワーは、こうしたバックオフィスにまで生産性向上をもたらすことで、DXにより競争優位を獲得できます。前線の部門が市場の変化に合わせてDXを利用して最適化し、バックオフィスの総務部門も、同時に生産性を向上させます。これで、競争の激しいビジネスシーンにおいても、戦っていくことができるのです。
総務にもDXが必要で、根っこの部分で仕事を支えているため、DXによる生産性向上は、とても全体のためになります。DXの導入により、効果が大いに期待できるでしょう。