DX(デジタルトランスフォーメーション)が今、注目されています。
2018年には総務省が、2019年には経済産業省が、そして2020年には、新しく誕生した管内閣の管総理大臣が、DXを取り上げ、日本のビジネスシーンの、次の課題として多くの人が興味関心を抱いています。
しかし、DXとは一体何なんでしょうか?
具体的にどのようなケースが考えられるのでしょうか?
自治体では?官公庁では?行政では?どのように使われているのでしょうか。
DXと公共の関係をみていきます。
役所受付のDX化
私たちが役所に向かうとき、何を求めていくでしょうか。ほとんどが何からの申請手続きです。住民票の写しが必要、結婚したので婚姻届を出す、親が亡くなったので届を出す、引っ越ししたので転居届を出す・・・。そうした手続きにおいて、役所のUI(ユーザーインターフェース)の悪さは昔から課題になっているものでした。
受付でナンバーを渡され、ひたすら待ちます。番号を呼ばれて、申請して、また待ちます。この待ち時間が異様に長く、しかも平日の昼間に届けをしなくてはならないことから、ビジネスパーソンには特に不評でした。
しかし、最近の区役所・市役所はほとんどがDXによって改善され、使いやすくなっています。受付のナンバーは自動発行、呼び出しもパネル式です。ただし、受付のナンバー自動発行も、スタッフが張り付いて、いちいちボタンを代理で押してあげるなど、人間ありきのDXになっているのが現状です。
本来なら、ここでスマホアプリでも受付できるように改善するのが、DXの本領発揮、といったところなのでしょう。ただしそうなると、デジタルデバイド(ITの恩恵を受ける人とそうでない人の格差)がさらに広がるため、ITに慣れていない人でも対応できるように、合わせているものだと思われます。
マイナンバーカードによるポイント付与
さらに、DXの促進として行われているのが、マイナンバーカードによるマイナポイント付与です。マイナンバーカードを、キャッシュレスのPay業者と連携すると、5000ポイントが付与されるというものです。ポイントをためる活動、通称「ポイ活」が盛んな昨今、ポイント目当てにたくさんの人がマイナンバーカードを実際に取得し、促進事業はうまくいっているように感じられます。
問題はペイ周りのセキュリティとマイナンバーのセキュリティですが、国が関係するのはマイナンバーのものです。マイナンバーはただの番号であって、他者に知られたところで実害はないのですが、それでも大切な番号であり、個人情報なので情報漏洩は避けなければなりません。
国や自治体のセキュリティは、技術力に不安を覚えるところですが、何度も何度もテストを重ね、わずか数行のコードを修正するのにも何百万も投資して変更しますので、意外と安全だったりします。DXでシステムを組むときも、比較的「枯れた」技術を選択しがちなので、それほど危険性があるわけではありません。
コンビニでの住民票取得DX体験
そのマイナンバーを使用して、コンビニで住民票を取得するというDX体験が可能です。これは一般の人にも非常にわかりやすいDXで、マイナンバーをコンビニのコピー機にかざすことで、総合複写機として通信し、印刷機から住民票が取得できます。これもまたマイナンバーの普及促進の一環として生み出されたサービスではありますが、利便性が高いので広く普及しています。
役所というものはなかなか時間があわずに訪問しづらいものですが、コンビニなら日常的にいく、という行動様式の人はとても多いため、かなり便利になったDXのケースだと考えられます。
基本的にマイナンバーは所得を捕捉し、税収を適正化するためのものなので、官公庁の担当の範疇です。しかし、発行は自治体に任されていますので、自治体業務・役所手続きのために使われるのは非常に便利なのではないでしょうか。
マイナンバー制度を本当に広めるなら中途半端に促進せず、徹底的に普及率を上げ、役所のサービス向上、税還付などの手続き簡素化、そしてゆくゆくは国民総背番号制へと進んでいくのがDX化にふさわしい公共のありかたではないでしょうか。しかし、なかなか普及が進んでいないのが事実で、5000ポイントがもらえるといっても、一部の人だけで盛り上がってるのが現状のようです。
脱・はんこ
一方、とてつもないスピードで改革が進められようとしているのが、役所のはんこレス・脱はんこです。はんこは文化としてはとても魅力的で、外国人も自分の苗字のはんこを作りたがるぐらい興味深い文化です。しかし、日々暮らす中で、行政の手続きにいちいちはんこが必要で、しかもとりたてて実印でなくともよいというのは、なかなか面倒なものでした。かといって、印鑑登録して実印を作っても、大型のローン契約に使う程度で、めったに利用しません。
特に認め印がかなり面倒で、申請書類を書き終えたあと、いちいちはんこと朱肉を取り出して、きちんと押印し、手続きする、というフローでした。たしかにはんこはきちんと押せると気持ちいいのですが、気持ちよく押せる、というだけのものに形骸化していたのは事実です。
IT大臣がはんこ議連の会長であったこともあり、文化としてのはんこを守る必要はあるのですが、一部の利権・既得権益を守るために、利便性を引き換えにする訳にはいかず、以前から問題になっていました。
どうしても、国の改革は遅いので半ば諦めムードもあったのですが、2020年9月に新内閣が誕生し、行政改革がとてつもないスピードでスタートし始めました。手始めに脱はんこがあげられ、行革大臣の鶴の一声で、一気に公文書のはんこが廃止になったのです。
従来は、市民だけでなく役所の内部も、決裁にはんこ(もしくは電子印)を用いており、上の決裁ルートの人が出張や休暇であれば、決裁が止まったり、代理ではんこを押してあまり意味をなさなかったりしていた役所のはんこ文化ですが、いきなり脱はんこしたので事務スピードが大幅にアップしました。これは、市民も役所の中の人も、DX体験をしたといっていいでしょう。もともと、非DXであったものが、一気にDX化されたのです。
情報公開
そして、役所や官公庁の重要な仕事のひとつとして、公文書の情報公開があります。これは市民が、公的機関がきちんとワークしているか外部チェックするための重要な取り組みですし、法律で認められた市民の権利です。
その情報公開の仕組みも、DX化されています。情報公開は、申請して紙を受取るだけ、といえばだけなのですが、オンラインで申請も可能になっています。ただ、裏側では、個人情報に黒塗りをしなければならず、そこは苗字を自動でピックアップする仕組みが働いています。日本人の苗字の99%を網羅するアルゴリズムがあり、それに該当する文書を指定してくれるのです。
日本人の苗字は多種多様ですから、残りの1%は目視で確認する必要がありますが、アルゴリズムは常にアップデートされており、珍しい苗字の方でも100%検出できるようになる可能性は高そうです。
DXは公共も変える
DXは、公共セクターも変えようとしています。従来非常に手間をかけ、アナログで、慎重で、変化を嫌う業界だった役所が、DXによって大きく変わろうとしているのです。とにかく市民を優先し、便利に素早く、そうでありながら従来型の手続きではないと難しい高齢者なども置いていけぼりにせず、改革を進めていくのは困難だとは思いますが、トップダウン型で一気に変わりつつあります。
自治体・官公庁・行政のすべてを、DXが席巻しようとしています。次に役所にいったときには、驚くほどスムーズに手続きできるようになっているかもしれません。