DX(デジタル・トランスフォーメーション)が話題となっています。DXはそもそも2018年に総務省が、2019年に経済産業省が、さらには2020年には、管政権がDX化を推進したいと宣言し、DXはますますバズワードとして広まっています。
では、そのDXの事例としてどのようなものがあるでしょうか。
古くからある小売り・食料品業界は、一体DXでどのように変化し、何が変わって、進化しているのでしょうか?
今回は、小売り・食料品業界を例に、みていきます。
DX化によって、配達の効率性が生まれた
まず、小売りや食料品店の大きなDX事例として、ネットスーパーそのものが挙げられます。インターネットが発達する前から、スーパーによる宅配は存在しましたが、より便利に、日常に密着しています。スーパーは、後述します通り1920年代から存在するのですが、宅配がスマホとクレジットカードひとつで、決められた時間通りにやってくるというのは大きなメリットです。
スーパー側も、数百円ながら送料を取って、効率よくルート配送すれば、それほど負担にはならず、エリアごとにまとまった売上も期待できます。
小売り・食料品業界の歴史
そもそもスーパーマーケットという形式は、1920年代にアメリカで登場しました。当時はまだ小売店しかなく、パパママストアがたくさんあったのはアメリカでも日本でも同じです。しかし、食料と日用品をまとめて取り扱うスーパーマーケットの登場によって、ほとんどのパパママストアは駆逐されてしまいました。
スーパーマーケットの登場によって、さまざまな科学も生まれます。購買の科学、行動の科学、消費心理の科学・・・スーパーマーケットはただお米やお肉や果物を売るだけの場所ではなく、科学的な実験の場所なのです。たとえば、スーパーは、絶対に入り口が新鮮野菜になっています。合理的に考えると、重たい野菜を持って店内をウロウロするのは非効率で、本来なら野菜売り場はレジの手前あたりにあるべきです。
しかし、スーパーマーケットは、入り口に野菜を置くことで、「この店の商品はすべて新鮮ですよ」という隠れたメッセージを消費者に送り、買い物を自然とうながしているのです。
また、卵・牛乳・豆腐などの必需品が安く抑えられることによって、「私はあなたの味方ですよ」というメッセージを送っているのです。
こうした科学的な考察がちりばめられたスーパーマーケットは、巨大産業として世界中に広がりました。なぜなら、データが取れるからです。
POSレジデータによってより緻密に
そのデータが、スーパーマーケットを世界規模にしたと行っても過言ではありません。データを取らないことには、勘に頼り仕入れて経験で売ることになります。そうこうしているうちに、POSレジが登場し、何をいつ、どのような属性の方が購入したのか、分析が可能になりました。小売り・食料品を問わず、商材単価が低い場合はデータ分析がとても大切になります。
さらに、DXと行動心理学を組み合わせた“値付け“も行われています。たとえば、西友のネットスーパーは、オーダーの商品価格が5000円以上であれば、送料は無料になります。一方、イオンのネットスーパーは、必ず送料が300円かかるのです。
西友はまとめ買い需要を喚起していて、イオンは少しネットスーパーの回数を抑えようとしているのです。おそらく、イオンは需給のコントロールをしているものとみられ、送料が300円であっても、西友の利用者は無料になるのであればまとめ買いをしようとします。
そして、送料が必ずかかるイオンは、当日配送のスケジュールが常に空いています。「300円かかるのであれば、ネットスーパーはやめて、現地で買おう」という行動につながるからです。イオンは店舗がたくさんありますので、競争優位が強いので、そうした強気な価格設定でも戦えるのです。
一方、西友はまとめ買い需要を喚起します。そして毎回5000円以上なら送料無料に惹かれて消費者はたくさんの買い物をしますので、「どうせなら、あれも買って一度に5000円以上にしよう」という購買行動を取りがちです。さらに加えて、ネットスーパーは当日配送の枠がほぼなく、つねに配送スケジュールが埋まっていることからも、こうした戦略が明確に違いをわけることがわかります。
これらはすべて、DXと行動心理学を組み合わせた値付け、つまり“プライシング”と呼ばれる仕掛けです。プライシングによって、市場は簡単にコントロールできる好例といってもいいでしょう。
DXによって推進されるオムニチャネル
また、2016年頃ブームとなったオムニチャネルもDXのひとつに数えられ、大きな注目を集めていました。オムニチャネルは、小売りにおいて顧客と接する際に、ありとあらゆる魅力的な購買体験を創出するとうことです。つまり、スマートフォンのアプリでも、実際の店舗でも、オンラインショッピングでも、つねに顧客至上主義を徹底すると言うことです。アプリであってもそれは変わりません。
特徴的なのが、ソーシャルメディア(SNS)ではないでしょうか。インスタグラムやツイッターでは、たくさんの小売業者が販促に熱心です。SNSはDXのひとつとして数えられます。クラウド・5G・IoT・ビッグデータ・そしてSNSによって、主にDXは推進されます。
SNS上でのビジネス展開
そのSNS上でのビジネス展開は、DXを人力で進める良いマーケティングの手法です。マーケティングには自動化ツールなどもありますが、やはり人の心にアプローチする以上は、自動のアプリよりも人の手で伝えたほうがより刺さるのは事実です。
DXでマーケティングも進化しています。
ただ、SNSのプラットフォームも、付帯の広告サービスを使わず、タイムライン(投稿の一覧)で商売されてしまっては、売上になりません。よって、タイムライン上でのURL投稿が表示されづらくなるなどと、プラットフォームごとの個別リスクを抑えておく必要はあるでしょう。
DXは、SNSも含んだ概念ですから、SNSの動向にも注意を払っておくべきでしょう。社内のSNSや短縮動画SNSなど、新しいメディアもたくさん登場しつつあります。普通の消費者が多く使っているSNSは、toCのビジネスである小売業と相性がいいので、たくさんの販売サイトが生まれ、良いものをたくさん届けています。
最後に
小売り業や食品業と、DXの事例についてみてきました。
どちらも大量消費で売上をあげるスタイルである以上、バックエンドのデータ分析はとても大切です。よって、デジタルの変革ツールであるDXと非常に相性がよいといえます。
DXによって、小売りも進化していきます。古くはPOSレジから始まって、現代ではアプリによるスマートな宅配まで在宅が進む昨今ではよりDXの重要性は高まることでしょう。ものを売る、ものを運ぶという販売と物流が絡んでくる以上は、極限まで効率化しても限界がありますが、それでも5Gの登場で、ARやVRでの試着販売なども可能になります。
現代では、ECでのカメラを使ったバーチャル試着ができるのを見かけることもあるのではないでしょうか。そうした小さな進化も、大局でみればとても大きなうねりになります。DXによって、小売り・食品はますます大きな発展を遂げることは間違いありません。イコール、私たちの生活がダイレクトな影響を受け、生活の便利さが格段に向上するので、とても楽しみな事ではないでしょうか。DXは生活に良い影響を与えるのです。