
企業が業務の効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上で、システム導入は欠かせないステップです。しかし、システム導入には多くの工程があり、適切なプロセスを踏まなければ、コストの増加やスケジュールの遅延、期待した効果が得られないといった問題が発生する可能性があります。本記事では、システム導入の流れを6つのフェーズに分け、それぞれの工程を詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
システム導入の流れを6つのフェーズに分けて解説
1. 企画・計画フェーズ
システム導入の最初のフェーズでは、現状の業務プロセスを分析して課題を見つけだし、導入目的を明確にして解決するための計画を立てます。このフェーズで行う工程は、以下の3つです。
- 現状分析と課題の洗い出し
- 導入目的の明確化
- RFP(提案依頼書)の作成
現状分析と課題の洗い出し
現状の業務フローを可視化し、各プロセスの担当者、作業時間、使用ツールなどを詳細に記録します。業務フローの中でボトルネックとなっている箇所や、非効率な作業、重複作業などを特定しましょう。
現状分析と課題の洗い出しをする際は、実際に現場で手を動かしているスタッフの意見を取り入れることもポイントです。現場の意見を取り入れないと、システムを導入しても現場の実態に合っておらず、使われないシステムになってしまうおそれがあるので注意しましょう。
導入目的の明確化
次にシステムの導入目的を誰が見ても分かるように明確化しましょう。システムの導入目的が明確になっていないと、必要な機能や性能が決まらず、導入が進まなくなってしまいます。
また、目的がはっきりしていないとシステムの導入後の効果測定も難しくなり、導入した成果がわからなくなってしまうので注意しましょう。「コストを◯%削減」「作業時間を◯時間短縮」など、数字で定量的に測定できる目標を定めることがポイントです。
RFP(提案依頼書)の作成
RFP(提案依頼書)とは、システム導入を請け負うベンダーに対して自社が求めるシステムの仕様や要件を伝えるための書類です。システムに求める要件をまとめる要件定義をベンダーやシステム開発会社に任せたい場合は、この時点でRFPを作成してベンダーに相談をしたり、提案を求めたりします。要件定義まで自社でできる場合は、RFPの作成をこの後の要件定義フェーズで行います。
RFPには、システムの導入が必要になった背景や現状の課題、システム導入の目的・目標、予算、求める機能、スケジュール、運用体制(予定)などをまとめます。
2. 要件定義フェーズ
要件定義フェーズでは、導入するシステムに必要な機能や性能を具体的に定義します。システム開発の土台とも言える重要なフェーズです。
この時点で定義のミスや認識のズレがあると、導入やそれにともなう開発が進んでから修正することになり、追加費用が発生したり、スケジュールが伸びたりするので注意しましょう。
要件定義は、以下の2つの工程に分けられます。
- 業務要件の定義
- システム要件の定義
業務要件の定義
業務要件の定義では、業務フローをより詳細に分析して「誰が」「いつ」「何を」「どのように」行っているかを把握します。その上で、導入するシステムでどの部分をどのように改善したいのかを具体的に定義しましょう。
例えば「顧客からの問い合わせをシステムでリアルタイムに一元管理して、担当者間の連携をとりやすくする」などです。
システム要件の定義
システム要件の定義では、業務要件を実現するために、どのような機能が必要なのかを機能単位で定義します。
例えば、先ほど例に挙げた業務要件なら「問い合わせ履歴を表示する」「顧客名で問い合わせを検索する」「ネットワークでリアルタイムに共有する」などの機能を定義します。

3. ベンダー選定フェーズ
ベンダーの選定フェーズでは、システム導入を依頼するベンダーを選びます。ベンダーの選定はシステム導入の成否に大きな影響を与える大切なフェーズです。
ベンダーの選定は、以下の3つの工程に分けられます。
- ベンダーの提案内容の評価
- ベンダーの比較・検討
- ベンダーとの契約締結
ベンダーの提案内容の評価
初めに、RFPを提出して見積もりを依頼し、ベンダーから提案書を受け取ります。その提案書の内容を精査して、自社が計画している導入計画の要件を満たしているかを確認しましょう。
費用は予算内か、導入スケジュールに問題はないか、必要な機能は備わっているかなどを確かめます。また、疑問点があればそのままにせずに担当者に質問をして明確にしておくこともポイントです。
ベンダーの比較・検討
提案書を確認して問題のないベンダーが複数ある場合は、それぞれの提案内容を比較して、どのベンダーが自社のシステム導入計画に合っているかを検討しましょう。
ベンダーを選定する際は、コスト面だけで選ばずに、実績や担当者とのやりとりから信頼できるベンダーを選ぶことが大切です。
ベンダーとの契約締結
システム導入を依頼するベンダーが決定し、社内の稟議も承認されたらベンダーと契約を結びます。
契約の際は、システムの機能だけでなくスケジュールや予算、導入後のサポートなども確認することがポイントです。
4. 設計・開発フェーズ
既製品のシステムで全ての機能要件を満たしている場合はあまり必要のないフェーズですが、機能が足りない場合など要件を満たしていない場合は、このフェーズで機能を開発します。
また、既に導入しているシステムと連携させる場合も、このフェーズで設計・開発をすることになります。
設計・開発のフェーズは、主に3つの工程に分けられます。
- システム設計(外部設計、内部設計)
- 開発
- テスト
システム設計(外部設計、内部設計)
システム設計は外部設計と内部設計の2つの工程に分けられます。
外部設計ではユーザーの目に直接触れる画面や帳票、操作方法などのUI(ユーザーインターフェース)部分を設計します。
内部設計では、外部設計で定義した内容を実現するためのデータベースやプログラムの内部処理などを設計します。
開発
システムの設計が終わったら、実際にシステムの開発に取り掛かります。開発中は、メールによる進捗の確認や、事前に定めた中間成果物の受け取り・評価をすることがポイントです。
定期的な進捗確認をしないと、スケジュールの遅延に気づかなかったり、必要な機能が足りていない場合に気付けなかったりするリスクがあるので注意しましょう。
テスト
開発が終わったら、開発したシステムをテストします。最初に機能単位でテストする単体テストをして、問題がなければ各機能を結合してテストをする結合テストをします。最後に全てを結合した状態で本番と同じように構築した環境でテストをして問題がなければ完成です。問題があれば、修正をしてまたテストをします。
5. 導入・移行フェーズ
テストで問題がなければ、導入・移行フェーズに入ります。このフェーズは、主に以下の3つの工程に分けられます。
- システム移行準備
- テスト運用
- 本番移行(実装)
システム移行準備
初めに、システムを移行するための準備をします。既存システムからの移行の場合は、これまでのデータを新しいシステムに移行するための準備をしましょう。また、新システムの操作方法や運用方法もこの時点で担当者に学ばせておくと良いでしょう。
テスト運用
テスト運用では、完成したシステムを本番環境(実際に運用する環境)に実装して、問題がないかをテストします。
このテスト運用では、問題があったときにトラブルが大きくならないように、一部のユーザーにのみシステムを導入するなどの工夫をすると良いでしょう。また、システムがあまり稼働していない深夜や休日などにテストをすることも効果的です。
本番移行(実装)
テスト運用でも問題なくシステムが利用できたら、実際にシステムを導入します。システムの導入時に業務に支障が出ないように、夜間や連休中などに行うケースも多くあります。
6. 運用・保守フェーズ
システムを導入した際は、安定稼働させるための運用・保守が必要不可欠です。折角新しいシステムを導入しても、エラーが出たり稼働が止まってしまったりしては、当初の目的を果たせません。そのため、運用と保守が必要になります。
自社の社員で運用・保守ができない場合は、システム開発会社に任せることになります。運用・保守フェーズでは、主に以下の3つの観点で運用・保守をします。
- システム運用
- システム保守
- ユーザーサポート
システム運用
システム運用では、システムが正常に稼働しているかを監視して、問題があればメンテナンスを行います。また、システムの利用者に向けて操作マニュアルを作成したり、修正したりする作業もシステム運用にあたります。
システム保守
システム保守では、トラブル発生時の対応だけでなく、バグ修正、セキュリティ対策、法改正や業務の変化に伴う機能改善なども含みます。運用が「現状維持」を目的とするのに対し、保守は「問題発生時の対応や、システムの継続的な改善」を目的とすると考えるとわかりやすいでしょう。
ユーザーサポート
ユーザーサポートでは、システムを利用するユーザーからの問い合わせに対応します。例えば、操作方法を説明したり、疑問に答えたり、要望を聞いて改善点をまとめたりする作業が挙げられます。
注文システムや予約システムなど、社員だけでなく顧客にも使わせるシステムの場合は、顧客満足度にも関わるため、ユーザーサポートの質も重要になります。
システム導入で失敗しないためのポイント

システム導入で失敗しないためのポイントを5つ紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
- システムを導入する目的を明確にする
- システムに求める機能や性能を明確にする
- システムに対する意識を社内全体で共有する
- 目的に合うベンダーやシステムを選ぶ
- 保守や運用まで計画をする
システムを導入する目的を明確にする
システムの導入を計画する際は「なぜシステムを導入するのか」を明確にしておくことがポイントです。なぜなら、目的が明確になっていないと、業務要件や機能要件が正しく定義できなくなってしまうからです。
また、システムを導入した際に関係する全ての部門・部署で目的を共有していないと、話がうまくまとまらずに計画が滞ってしまうおそれがあるので注意しましょう。
目的を明確にする際は、数値で定量的に測定しやすい目標を設定するとひと目で分かりやすくなるのでおすすめです。
システムに求める機能や性能を明確にする
システムを導入する際は、必要な機能や性能を明確に定めておくこともポイントです。
システムに機能を多く搭載すると、その分だけ費用も高額になってしまいます。予算内に収めるには、必要な機能に優先順位を付けておき、予算を超えそうなときは優先順位の低い機能を省くことも視野にいれましょう。
また、初めは最低限の機能だけ実装して、事業や業務の拡大に合わせて機能を追加する方法も場合によっては有効です。
システムに対する意識を社内全体で共有する
システム導入の目的やメリットを社内全体で共有しないと、現場の協力が得られず、システムが有効活用されないおそれがあるので注意が必要です。
システムの導入に対する意識がきちんと共有できていれば、現場のスタッフから「実務に合っていないからこうして欲しい」などの改善案が事前に得られることもあります。その場合、一度導入してから修正をしなくて済む分、修正にかかる費用を浮かすことにもつながります。
システム導入は、一部の担当者だけでなく、社内全体が関わるプロジェクトとして取り組むことが重要です。
目的に合うベンダーやシステムを選ぶ
システム導入を依頼するベンダーを選ぶ際は、自社の導入目的に合うベンダーやシステムを選ぶことがポイントです。
システムにも販売管理、生産管理、会計管理、顧客管理など、様々な種類があるため、自社の業種・業態や目的に合ったシステムを選ぶことが重要です。例えば、顧客との関係性を強化したいならCRM(顧客管理)システム、製造プロセスの効率化が目的なら生産管理システムを導入すると業務を効率化できます。
また、ベンダーを選ぶ際も、自社が導入を考えている種類のシステムの導入実績や自社と同じ業種・業態の会社への導入実績が豊富な会社を選ぶと、これまでのノウハウを持っているため失敗しにくいのでおすすめです。
保守や運用まで計画をする
システムを導入する際は、導入後の保守運用の計画も立てることが重要です。システムは導入した後に運用してこそ効果を発揮します。そのため、システムを安定稼働させるための保守や運用は必要不可欠です。
導入後の保守・運用は自社でやるのか外注をするのか、外注した際に対応してもらえる範囲はどこまでか、どこから有償になるのかなどを必ず確認しましょう。
まとめ
システム導入は、単なるソフトウェアの導入ではなく、業務改善や企業の成長を支える重要なプロジェクトです。
本記事で紹介した6つのフェーズを理解し、自社の課題に合ったシステム導入を正しく進めましょう。また、導入後の運用・保守まで見据えた計画を立てることで、長期的に効果を発揮するシステムを構築できます。
システム導入の失敗を防ぎ、企業の競争力を高めるために、適切なプロセスを実践していきましょう。