最近、働き方改革の一環として労働時間の短縮を目標に、社長の特命でRPAの導入検討を行っていると言うお話を耳にするようになりましたが、みなさんの会社ではいかがでしょうか。また、RPAの導入検討を始めようとはしているが、RPAベンダーに話しても引き合いが多い為か、思った以上に問い合わせに対する回答に時間がかかり、期待しているスピード感で導入検討が進んでいないなどで苦労されているお話もあるようです。今回はこれまでの記事のまとめとして、RPA導入で注意するべきポイントを考えていきたいと思います。
注意すべきポイント①「RPAツールの選定」
RPA導入の流れとして、本来であれば全ての業務に対して業務の可視化・改善を行った上で、システム改修や人的BPOを見据えたRPAの適合検証、その後RPA実施と言う手順を踏むところです。このステップであれば、自社の必要項目が明確になっているので、RPAツールの選定が可能となります。しかしながら、ややもすると時間的な制約などが先行してしまい、RPAの適合検証のための「ツール選定」をいきなり始めざるを得ないことになるケースもあるかと思います。
現時点ではまだ十分に各RPAツールの情報が開示されておらず、各ベンダーから開示された断片的な情報のみで、自社に最適なRPAツールを比較・選定するのは、なかなか難しい状況かと思われます。
国内有名RPAツールの一例-2017年8月更新
公開されている情報から1次選抜し、候補となる複数のツールにて実証検証を行って適合度の高いツールを選定する方法は、コスト及び時間がかかり過ぎてしまいます。
株式会社サン・プラニング・システムズでは、まず自社で必要と思われる機能の有無に関するアンケートを作成し、候補となるベンダーの回答内容や対応状況などを評価し、適合度の高い順にツールを検証する方法をお勧めしています。
アンケート項目のイメージ
なお、現状のRPAツールでは、RPAツール間でシナリオの互換性がないため、あるRPAツールで作成されたシナリオを別のRPAツールに持っていくことができず、1から作成し直す必要があるので注意が必要となります。
注意すべきポイント②「RPAの対象業務」
RPAツールは「システム」と「人」の中間に位置します。ソフトウェアのロボットにより「ルールと手順がしっかり決められた定型処理のパソコン操作を、人の代わりに自動化する」ことを得意としていて、特に大量のデータを短期間に処理する業務や曜日、季節などで作業量が大きく変動するような業務、さらに海外との時差で営業時間外に行う必要があるなどの時間的な制約がある業務に向いていると言われています。
そういった意味で、どちらかと言うと業務の種類というより、作業の形態によって対象が決められるのではないかと思われます。
RPAはいろいろな業務で適応が可能
但し、以前の記事にも書きましたが、システムを経由せずRDBやAPIへの直接連携だけを利用する場合には、データの関連性をマウスで設定するだけで簡単に設定が行えるような、ビジュアル系のデータ連携(ETL)ツールに軍配が上がる部分もありますので注意が必要です。
(海外のRPA取り扱いベンダーの中には、RPAツールと上記のようなETLツールを組み合わせたソリューションを提供している会社もあるようです。)
システムを経由せず直接RDBやAPIへの連携
また、RPA導入当初からいきなり多岐にわたる部署のさまざまな業務を対象として始めるのは、それなりにハードルが高いと思われますので、一般的に「ルールと手順がしっかり決められた定型処理作業」の割合が大きいとされる、営業事務部門や経理部門、さらに情報システム部門などの特定部門にターゲットを絞り、該当部門内で難度や影響度などを勘案した業務から「小さく始めて大きく育てる」のも良いかも知れません。
但し、将来的には特定部門だけではなく、全社的なRPA導入を考えられていらっしゃる場合には、RPA導入を主導している部門だけに閉じた形でRPA導入を進めると、傍からは「客観的な評価ができていない」などと捉えられる場合もありますので、RPA導入を主導している部門以外の業務も当初から対象にすることをお勧めいたします。
注意すべきポイント③「RPAツールの費用・運用管理」
RPAツールは、ERPなどのシステムに比べて費用が少ないとは言われていますが、それなりの初期費用、ランニング費用が掛かります。
RPAツールの中には、従来型である買取型以外に年間サブスクリプション型のライセンスを提供しているもの多くあります。トータルコストもさることながら、早い段階から費用対効果を発揮できる、年間サブスクリプション型も一度検討してみることをお勧めいたします。
特に、先に述べたようにRPA導入において「小さく始めて大きく育てる」方式で進めようと考えている場合には、RPAツールや関連設備の費用にもよりますが費用対効果が発揮されるまでにそれなりの時間がかかることも想定する必要があります。
RPAライセンス費用と導入効果のイメージ
また、RPAツールのライセンスや関連設備の費用、ロボットの開発費用だけでなく、業務やシステムの変更に合わせて作成されたロボットの維持管理も行っていく必要がありますので、その維持費用も念頭に置いておく必要があります。
導入当初は、適応範囲も小さくロボットの数も少ないので、しっかりとした体制を構築をせずとも、必要に応じた都度対応で進めていくことで何とかなる場合が多いと思います。しかし、時間の経過とともにRPAツールの適応範囲が広がり、それに伴いロボットの数も増えていく為、きちんとした維持・管理体制を構築しておかないと後々運用ができなくなってしまうことが予想されます。
導入当初より、RPA導入を主導している部門だけでなく、情報システムを管轄する部門や、全社に渡って連携するための関連部署などとうまく連携を図り、将来的な管理体制を想定して進めることをお勧めいたします。
まとめ
RPAツールは、適合する業務の範囲で利用する分には、労働生産性を高めるのに非常に有効なツールではないかと思います。
但し、目的に合った対象業務の選択や現場への十分な理解が浸透しないと、本来RPAツールの持っているパフォーマンスを十分に享受できなくなる場合もあるようなので注意が必要です。
ここで事例を1つ紹介します。もともと時間外労働の削減を目的にある業務にRPAツールを導入した、とある企業様のお話です。RPAツールの導入によって、該当業務の労働時間を削減することに成功をしました。しかし、本来の目的が十分に現場に伝わっていなかった為に、削減された時間分をこれまで翌日以降に行っていた別の作業を前倒して実施するようになりました。業務サイクルは短縮されて、その分売上が上がるようになったのですが、本来の目的であった時間外労働の削減は、結果として達成されなかったというケースです。
また、現場への対応におけるとても重要なポイントととしては「RPAツールが人の作業を奪うのではなく、従来の単調な作業や時間外の作業を代行させることで、より付加価値の高い作業へ移行させてくれるツールであること」を現場にしっかりと伝える必要があります。現場に十分に理解してもらえていないと「人員整理の布石かもしれない」と思わぬ誤解を生み、RPA導入反対という立場を取られてしまうこともあるようです。
さらに、以前の記事にも書きましたが、すぐに成果を上げることが期待される局面も多いので、現場の要望に合わせたボトムアップ的な視点でRPA化を実現していくことも必要と思われます。しかし、ある程度の成果が見えてきたところで、トップダウン的な視点で業務を見直し、本質的な業務の改善を行いながら、システム改修や人的BPOも睨んで適材適所にRPAを適応させていく事が非常に重要なことだと思います。