成功につながるDX戦略の立て方と事前準備のアプローチ方法とは?

デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現において、大きな役割を果たすのがDX戦略の存在です。DX戦略をあらかじめ固めておくことで、無駄な施策に時間やお金をかける事なく、確実に成果につながるプロジェクトの推進に集中する事ができます。

今回は、DX実現を確実なものとするためのDX戦略の立て方や、どのような準備が必要なのかについて、ご紹介していきます。

DXの目的

そもそもDXの目的は、デジタルの力で企業の競争力を強化し、業務効率化や生産性の向上、あるいは新しい働き方の実現など、様々な課題を解決することにあります。

達成すべき目標は企業によって異なり、それぞれの課題に向き合いながら、最適の施策を進めていく事が求められます。DXの取り組みが複雑なように見受けられるのは、DXという大きな枠組みのなかで、各企業が別個の施策を実行している点も背景に挙げられるでしょう。

自社課題の解決に絞ってDXを検討してみると、案外シンプルな取り組みで達成が可能なものもあるため、まずは自社に落とし込んでみる取り組みが必要です。

なぜDXには戦略が必要なのか

DXの程度には各社で異なる部分も多いのですが、実施企業に共通して求められるのがDX戦略の策定です。ここでは、なぜDXの実行に戦略策定が必要なのかについて、ご紹介します。

組織の抜本的な改革が必要になるため

一つ目の理由は、DXが組織の抜本的な改革を求める取り組みであるためです。DXは単なるIT技術の導入とは異なり、組織文化を丸ごとデジタル化しなければならない、という構造的な課題が迫られます。

というのも、DXの実施の上では組織横断型のデータ活用が求められたり、主観的な意思決定の割合を小さくし、データに基づく客観性の高い情報を重視した判断が優遇される経営戦略が求められるためです。

もちろん、IT活用ゼロの企業がDX化でいきなりこのような組織体制を構築することは難しいものですが、最終的には上記のような体制を目指すことになるでしょう。

そのためには、長い目で組織を見据えたDX戦略の策定が必要です。

余計なコストを削減するため

二つ目の理由は、余計なコストを削減し、最短距離でDXを実現するためです。前述の通り、DXという枠組みで企業が取り組める施策は非常に多様で、何をすれば良いかわからないという問題も出てくるでしょう。

そんな時に最も回避すべきなのが、とりあえず効果のありそうな施策を展開してみる、という根拠のないDX施策です。DXはシステム構築や社内ルールの変更、研修の実施などを必要とするため、導入前に費用対効果を検証しておかなければ、意味のない負担に悩まされる懸念もあります。

DX戦略の立て方

DX戦略の立て方

続いて、DXを成功に導くための戦略策定の指針について、ご紹介します。具体的なステップについては各社の方針によって様々ですが、基本的には以下の3つのステップが共通して必要になるでしょう。

課題を洗い出して目標地点を設定する

戦略策定の一歩目が、目標地点の設定です。DXの実現にあたって、最も重要なのがどんなゴールを目指すのかというところで、ここが定まらないと適切な施策の実現を遠のかせてしまいます。

正しいゴール設定を行うためには、まず企業の課題発見を進めていく事が必要です。どんな部門のどんな業務で、どのような改善の余地を残しているのかなど、詳しく社内で精査を進めていきましょう。

意思決定権のある少数で決めてしまうのではなく、現場の声も正確に聞き取りながら、取り組むべき事案の選定を進める必要があります。

目標達成につながるソリューションを見出す

課題を洗い出し、達成すべき目標が見つかった後は、ゴール地点にたどり着くための手段を探します。

DXには様々なアプローチがある分、ソリューション選びを正しく行うのは難しいものです。専門家の意見を取り入れながら、最適なツール導入やフレームワークの策定を進め、実行に向けた準備を進めます。大切なのは、実現可能なソリューションを見つけ、早い段階で実行に移していく姿勢です。

ロードマップを描く

効果が得られそうなソリューションを見つけられた後は、今後のロードマップについても検討しておきましょう。

DXの実現は一朝一夕で達成することは難しく、長期的な取り組みが求められます。そのため、実現に当たっては目先の取り組みだけでなく、今後も継続して取り組むための計画や、次の段階で実施するソリューションについても検討を進めておく必要があります。

また、予算についてもはじめの一歩で使い果たしてしまうことなく、継続的に取り組めるよう配分を考えておかなければなりません。すぐに取り組めること、徐々に取り組んでいきたいことを順序立てておき、最終地点に目標が据えられているようなロードマップが理想です。

DX実現の際にぶつかりやすい課題

DX実現の際にぶつかりやすい課題

DXの実現に当たっては、いくつかの課題に直面することも日常茶飯事です。ここであらかじめよくある課題についても確認し、対処方法を押さえておきましょう。

目標設定がまとまらない

DXを目指す企業によくあるトラブルとしては、一つに目標設定がまとまらないというものが挙げられます。達成すべき目標や解消したい課題が山積しており、それぞれ違うアプローチが必要なため、解消のための道筋を見つけられないというものです。

DXの枠組みでできることは多様である反面、各企業が取り組める時間やリソースには限りがあるため、取捨選択が必要です。初めてのDXの場合、まずは最も優先度が高い課題から取り組みを進め、課題解決を目指しましょう。

優先順位を高くするべき課題の基準としては、会社に大きな損失を与えていたり、実現までのステップが短かったりと、取り組みを優先したい動機付けが複数あるかどうかです。「どう考えても早く解決すべきだろう」という課題から一つずつ向き合っていき、段階的に全ての課題を解消してくのがおすすめです。

DXを推進できる人物が見つからない

二つ目の課題は、DXに対応できる人材が見つからないという問題です。DXは世界中でトレンドとなっているテーマであるだけでなく、日本ではその需要の拡大とは裏腹に、深刻なDX人材の不足が問題となっています。

IT化が遅れている企業では、DXをどこから、どのように進めていけば良いのかの知見もなく、DXのトレンドから置き去りにされてしまうリスクも存在します。

最近では、DXを支援するサービスの拡充も進んでおり、自社で人材を確保できなくとも、コンサルタントやツールのベンダーが丁寧なサポートを実施してくれるケースが増えています。積極的に外部のサービスを活用し、迅速な環境構築を進めていきましょう。

DX戦略を成功に導く事前準備のポイント

DX戦略を成功に導く事前準備のポイント

失敗しないDX戦略の策定と実行のためには、以下の4つの点を押さえておくことが重要です。順に見ていきましょう。

DX人材を確保する

一つ目は、DX人材の確保です。DXの知見がなければ、自社の課題をどのように解消できるのかもわからず、適切な指針を立てる事が難しくなります。どれくらいの実効性があるのかの見通しも立たないので、適切なロードマップを描く事が難しくなります。

自社で確保ができるのであれば積極的に採用し、即戦力として外部のサポートを受けるのも有効です。また、自社で継続的なDXを実現するためにも、既存社員向けの研修やマニュアル作成にも力を入れる事が重要です。

十分な予算を確保する

二つ目のポイントは、予算の確保です。DXは長期的な取り組みとはいえ、初期費用や継続的なコストの発生は免れません。あらかじめ予算を多めに確保しておき、当初の戦略を遂行できるよう経済的な余裕を持たせておく事が重要です。

もちろん、近年は初期費用がかからないツールやクラウドの活用など、中小企業でも取り組みやすい手段が次々と登場しています。これらも適宜採用することで、費用対効果の高いDX戦略を固めていきましょう。

準備に時間をかけすぎない

三つ目のポイントは、準備に時間をかけすぎないという点です。DXは事前の戦略が大事な一方で、実際に行動へ移すことも大切です。

準備に時間をかけすぎて、様々な懸念やリスクを意識してしまい、実行のタイミングを見失っている企業も少なくありません。DXは実際に手を動かしていかなければ、その効果を確かめたり、実効性の高い改善を施す事ができないため、行動力もDXの成功には不可欠と言えます。

先行事例を比較しながら自社に当てはめていく

四つ目のポイントは、すでに成果が確認されているDX戦略や、実施の例を参考にしながら自社に当てはめていくという事です。

ゼロからDX戦略を固めていく場合、プロでなければ実現可能なアイデアに落とし込むのは非常に困難です。しかしすでに別の企業で効果が確認されている戦略であれば、自社向けにスケールを調節したり、採用するツールをより適切なものに変更するだけですぐに実施できるものもあるため、失敗のリスクを大きく減らせます。

DXに知見がない場合でも、DXの先行事例を参考にすることで、「そんな効果があるのか」「そうやって進めていけば良いのか」という手がかりを掴めます。まずは事例を参考にしながら、自社の課題発見や戦略策定へ落とし込んでいきましょう。

参考になるDX戦略の事例

参考になるDX戦略の事例

最後に、日本国内で実施されているDX戦略の事例について、3つご紹介します。規模こそ大きいものの、エッセンスを上手く抽出することで、自社でのDXに落とし込むチャンスを発見できるでしょう。

京セラ

京セラではDXの長期的な推進を計画しており、年間あたり100億円もの予算を計上し、実現に向けて動き始めています。

少子高齢化によって新卒採用の見通しが立たず、定年退職による自然減少も合間って、今後深刻な労働力不足が同社では懸念されています。そこで現状比3割程度の業務効率の改善を目指し、人手不足に対応するべくDX推進が行われています。

新たな基幹システムを導入し、間接業務を本社で一括管理するなどの集約化を進めるとともに、製造部門においても生産性倍増計画を掲げ、ロボットやAIの活用を進めています。

参考:ニュースイッチ「京セラが年100億円を投じるDX戦略の中身」
https://newswitch.jp/p/20581

NEC

NECでは全社横断のDX戦略を発表し、抜本的な組織改革を進めていくとして注目を集めています。印象的なのが、代表取締役の直下にDX推進を実施するプロジェクトを立ち上げ、経営層が主体的にDXへコミットする姿勢を見せている点です。

DX推進の軸となるのが、同社の掲げる「コアDX」です。コアDXは、国内IT事業を従来の個別最適から全体最適に転換し、営業利益率を8%から13%に高めることを目標にしたもので、コーポレートと事業の双方におけるトランスフォーメーションを実現したいとしています。

また、同時に社員10万人規模のリモートワークを可能にする「Smart Work」を運用し、新しい働き方の実現にも積極的な動きを見せています。

参考:ZDNet Japan「NEC、社内DX戦略を発表–社長直下に全社横断の推進室設置 」https://japan.zdnet.com/article/35172314/?utm_source=newspicks&utm_medium=news_distribution&utm_campaign=newsfeed_distribution

業務スーパー

安さと品揃えが売りの業務スーパーでも、DXの積極的な推進が進められています。同社では次世代型の店舗を2018年以降展開しており、AIを使った品切れ検知システムや、バーコードを消費者が事前に読み込むことでレジ精算を済ませられるシステムの構築など、最新技術を積極的に採用してきました。

そんな同スーパーのDXに大きく貢献したのが、ソフトバンクです。国内におけるDX推進の筆頭とも言えるソフトバンクとパートナーシップを結ぶことで、自社にノウハウがなくとも迅速にDXを進められる体制を構築しました。

参考:日経ビジネス「安さと品ぞろえで業務スーパーが一般に浸透 DX戦略に死角なし」
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00290/091500016/

おわりに

今回は、DXに戦略が不可欠である理由や、どのように事前準備を進めていけば良いのかについて、そのポイントをご紹介しました。DXは多くの企業にとって喫緊の課題であるため、事例も次々と登場しています。

予算や人材の確保など、実現には課題も立ちはだかりますが、先行事例を参考にしながら、実現可能な範囲でDXを進めていきましょう。