税関係の手続きや契約書管理、株主総会のスケジュール調整など、多岐にわたる業務をこなすのが総務部門です。そのような総務部門にも、ほかの部門と同様、DXの波が押し寄せてきています。
しかし、「総務部門にもDXは本当に必要なのか」「具体的にどのようなことを実施すればいいのか」といった疑問を抱える方も多いはず。
そこでこの記事では、総務部門におけるDXの重要性や、具体的な施策6つ、成功のためのポイントなどについて解説いたします。
そもそも「DX」とは
そもそもDXとは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略で、「ITが浸透することにより、人々の生活がよりよくなる」という概念です。ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授がはじめて提唱し、日本においては、経済産業省が以下のように定義しています。
“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。”
DXは単なる「デジタル化」とは違い、組織の文化・風土を根本から変革したり、競合他社と差別化したりする、攻めの取り組みです。近年では、AIやビッグデータを活用して顧客の多様なニーズに応えたり、IoTを実現して製品の製造コストを大幅に削減したりと、目に見える形で変化が起きています。
営業や製造、マーケティングなど、顧客と接点がある部門でのDXについてはよく語られますが、総務部門に関しては、あまり触れられることがありません。しかし総務部門のDXは、企業の改革を進めるうえで、非常に重要な役割を担っているのです。
出典:経済産業省:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0
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なぜ、総務でDXが重要なのか?
総務部門のDXが重要になってきた理由のひとつに、新型コロナウイルス感染症の拡大が挙げられます。現在では、大多数の企業がリモートワークへ移行することを余儀なくされ、電話対応や書類の管理、情報共有など、あらゆる事務作業をデジタル化する必要が出てきたからです。
たとえば電話対応業務ひとつ取っても、旧来のアナログな方法ではリモートワークに対応できません。ビジネスフォンやPBXを導入している企業だと、代表電話がかかってきても会社でしか受電できないため、在宅勤務の遂行が困難になってしまいます。
また、社内の稟議書や報告書を紙で作成・運用している企業は、リモートワーク環境下だと担当者へいちいち郵送しなければならず、非常に非効率です。
一見地味な業務に見えても、非効率さが積み重なれば、組織全体の生産性低下につながってしまうでしょう。まずは、「縁の下の力持ち」である総務部門からDX化を進めていくことで、会社全体での生産性向上につながります。
総務部門のDX推進を阻む、3つの壁
総務部門がいざ、DXのための取り組みを進めようとしても、思うようにいかない場合が多いようです。ここでは、よくありがちな課題を3つご紹介いたします。
1.それぞれが何の業務をやっているのかが分からず、属人化している
ひとつめに、総務部門のなかで業務が属人化していることが挙げられます。誰がどのような業務をおこなっているのかが把握できずにいると、全体像が分からないためにDX施策を始められません。
たとえば、「備品や消耗品の管理担当は〇〇さん」と、特定の業務に一人しか担当がいない場合、その人が具体的にどのようなツールを使って管理しているのか、どのような業務フローでおこなっているのかが把握しづらいです。これが数人単位で増えていくと、業務がブラックボックス化し、DX化が思うように進まなくなってしまいます。
総務部門がDXを進めていくためには、まず業務の全体像を把握することから始めることが大切です。
2.日々の業務に忙殺されていて、DX化に着手できない
総務部門の仕事内容は、保険手続きから安全衛生管理、社内イベント企画、株主総会の運営まで、非常に多岐にわたります。とくに忙しい時期だと、さまざまな業務が一気に押し寄せてくることも多く、対応しきれない場面も出てくるでしょう。
そのようなときに、「総務部門でDX化を進めよう」との号令がかかっても、どこ吹く風と聞き流してしまうでしょう。結局、DX推進は後回しになってしまい、いつまでたっても着手されない状況が続いてしまいます。
総務部門がDXを進めるためには、業務に余裕を持つこと、DX化の重要性を認識することが重要です。
3.変化への抵抗が強い
今まで慣れ親しんできた業務フローが、DX化によって変わってしまうことに抵抗感を覚える担当者もいます。場合によっては、DX施策をあきらめざるを得ない状況にまで追い込まれることもあるでしょう。
とくに総務部門は、社会保険・雇用保険の手続き、給与処理、契約管理など、定型的な事務作業が多いのが特徴。なかには、旧来の非効率な手法が、長年採用され続けている例も少なくありません。さらに、総務の仕事は企業の利益に直接結びつくものではないことから、「効率化」や「生産性向上」にまでは手が回らないものです。
そのようななかで、いきなり「DX化を進めよう」と言っても、なかなか響かないのが実情。まずは、DX推進の重要性を理解することから始める必要があります。
総務部門で進められる、DX推進のための施策6選
ここでは、総務部門で進められるDX推進のための施策を6つご紹介いたします。
1.RPAの導入:定型的な事務作業の効率化
RPAは、「Robotic Process Automation」の略で、今まで人がおこなっていたパソコン作業を、ロボットで自動化できるツールです。
たとえば、定型作業のプログラムを自動で実行したり、システムから取得したデータを別のシステムへ自動で転記したりすることが可能。総務部においては、勤務時間の集計作業や従業員の引っ越し手続き、株主総会への招待メール送信などを自動化できるのがメリットです。
総務部がRPAを活用することで、事務作業の生産性が向上し、各人がより重要な仕事に専念できるようになるでしょう。
2.FAQシステム/チャットボットの導入:社内問い合わせの効率化
FAQシステムは、「よくある質問」とその回答を作成し、検索して閲覧できるようにするためのツールです。
総務部が社内用のFAQシステムを活用することで、従業員からの問い合わせ件数の削減を期待できます。たとえば、社会保険の手続きに関する問い合わせが多く、対応に疲弊している場合、FAQシステムに回答内容を載せれば、社員が検索をして自己解決できるようになります。
加えて、社内向けのチャットボットを導入することで、問い合わせのチャネルを増やすことが可能です。自社ホームページや社内システムなどに設置することで、社員は、人間とチャットでやり取りをしているような感覚で疑問を解決できるようになります。
3.物品管理システムの導入:備品管理の効率化
物品管理システムは、ICタグやバーコードを備品に付けて、在庫数や所在などを確認できるようにするためのツールです。ひとつのシステムから備品の入出庫履歴を一元管理し、在庫がなくなってきたタイミングですぐさま発注をかけられます。
総務部における備品管理でよくある課題として、「消耗品が在庫切れになったタイミングで発注している」「備品の在庫を確認するために、定期的に棚卸しをおこなわなければならない」といったことが挙げられます。
物品管理システムを導入することで、設定した在庫数になったタイミングでアラートを出したり、棚卸機能を使って実在庫との差異をスムーズに突合したりすることが可能。さらに、収集したデータを活用することで、ほかのDX施策に応用することもできます。
4.電子契約/文書管理システムの導入:契約・社内文書のペーパーレス化
テレワーク導入時によくある課題が、契約や文書管理の仕方についてです。今までと同じように紙で管理していると、上司や取引先へ書類を送るために、いちいち郵送をしなければなりません。
そこで、インターネット上でも安全に文書のやり取り・保管ができるよう、電子契約システムや文書管理システムを活用する企業が増えてきています。
たとえば電子契約システムでは、紙の契約書に捺印する代わりに、電子署名やタイムスタンプを付与することで、真正性を確保したままWeb上で契約を締結することが可能です。また、文書管理システムを活用することで、OCR機能で紙の文書を文字データへ変換したり、アラート機能で文書の保管期限を通知したりできます。
5.グループウェアの導入:情報共有の効率化
チャットで社員同士がやり取りをしたり、ファイルやデータを共有したりするために、今やグループウェアは必須のツールになっています。グループウェアは、組織内で情報共有をするためのもので、チャットやファイル共有、タスク管理、スケジュール管理など、リモート環境でのコミュニケーションに欠かせない機能が備わっているのが特徴です。
従来の情報共有の仕方といえば、対面での会議、メモ書きによる伝言、口頭でのスケジュール共有などが一般的でした。しかしそれでは、記録をデータとして残しづらいため、伝達漏れが発生したりするなどの問題が起こります。
グループウェアを導入することで、欲しいデータへのアクセスやスケジュール共有が容易になり、デジタル空間でのコミュニケーションがより活発になります。
6.クラウドPBXの導入:リモート環境での外線・内線通話の実現
テレワーク導入時に、意外と盲点になりやすいのが社外での電話対応についてです。とくに固定電話へかかってきたときの対応が難しく、受電業務のために、わざわざ社員に出社させている会社もあります。
上記の課題を解決するのが「クラウドPBX」。通常のPBXとは違い、インターネット上で通信をおこなうため、社外でも固定電話を受けることが可能です。さらに内線機能を使うことで、取り次ぎ先がテレワーク社員でも、保留にしたままスムーズに電話をつなげられます。
総務部門がDXを推進するためのポイント
ここでは、総務部門がDXを推進するにあたって、特段に気を付けておくべきポイントについて解説いたします。
DX推進の目的を明確にする
まずは総務部門で、何のためにDXを推進するのかを明確にしましょう。目的として挙げられるのは、以下です。
- 総務部門内の業務効率化
- 全社的な業務効率化
- テレワーク環境の整備
- データ活用体制の構築
目的を明確にすることで、今進めている施策が正しい方向へ進んでいるかを、都度確認できるようになります。たとえば、RPAやグループウェアを導入しただけで、満足して活用されずに終わってしまう、といった事態も防ぐことが可能です。
目的を明確にしたら、必ず関係者に周知するようにしましょう。その目的を達成するために具体的に何をすればいいのか、今どの程度進んでいるのかを共有することで、より効果的に進められます。
施策の優先順位を定める
総務部門におけるDXの目的を明確化したら、次に、施策を洗い出して優先順位付けをおこないましょう。重要度の高いものから順に実施することで、スピード感のあるDX推進が可能になります。
なかには、自動化した方がよさそうに見えても、実際は手作業の方が効率的である業務もあります。優先順位を検討する上では、どの順番で取り組むのかだけでなく、本当にデジタル化・自動化する必要はあるのかを検討するようにしましょう。
自社の総務部門で、今一番実施すべき改革が分かったら、あとは行動に移していくのみです。
総務部門のDX化を進めて、組織の生産性を向上させよう
この記事では、総務部門がDX推進をする重要性や課題、ポイントなどについて紹介しました。総務のDX化は、利益に直接結びつかないために後回しにされがちですが、実は、組織の生産性を底上げするために非常に重要な役割を担っているのです。
とくに文書管理や社内コミュニケーションなど、ほかの部門もかかわる業務については、総務部門が舵を切って、いち早く取り組みを進めるべきです。また、総務部門内での業務効率化に取り組むことで、今までよりも総務の業務負荷を軽減することができるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、総務部門のDX化を進めてみてください。