DX

テレワークが急速に拡大した2020年、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という単語を耳にする機会も増えました。

一方「DXとは何か?」について明確に語れる人は少数です。なぜなら、DXの定義は広義である上に、DXへ取り組み効果が表れるまでには数年かかるため、現時点での成功事例が少ないからです。

ただ、以前からDXへ取り組んでいる企業、今まさに取り組んでいる企業が存在するのも事実です。そこで中小企業がDXに取り組むための具体的な進め方と成果を出されている企業の事例をご紹介します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)のゴールとは

経済産業省では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を以下のように定義しています。

簡単にまとめると「ITシステムを活用して業務や組織などを変革することで、ビジネスそのものを発展させる」ということです。つまり、DXで目指すべきゴールとは、「ビジネスモデルを変革して新たな価値を創出すること」だと捉えることができます。

では具体的にどういったステップを踏んでビジネスモデルの変革まで辿り着けばよいのか、という点を解説します。

ビジネスモデルの変革に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)の4つのステップ

ビジネスモデルの変革といっても、一足飛びに辿り着くことはできません。なぜなら、ビジネスモデルの変革を行うためには、いくつもの要素が必要となるからです。例えば、新たな価値を生み出す施策を検討するため、現状の課題を分析しようとすると大量のデータが必要となりますが、そもそも業務がアナログのままだとデータが蓄積されておらず、分析ができません。

そのため、まずはアナログに行っていることをデジタル化していくというステップを踏んだ後に、新たな価値を創出するビジネスモデルの変革を行う、という流れになります。

1)アナログのデジタル化

まず最初は「アナログの業務をデジタル化すること」です。具体的には、以下のような業務のデジタル化が挙げられます。

・紙を使った業務を廃止して、電子データでやり取りを行う(ペーパーレス化)

・紙の契約書とハンコを廃止して、電子契約を行う

・Excelを見ながら手作業でシステムへ入力する業務を自動化し、Excelからシステムへ自動で取り込みする

・オフィスに設置されているサーバーをクラウドへ移行する など

アナログの業務をデジタル化することは「業務効率化」「コスト削減」という目的で以前から取り組まれている企業も多いのではないかと思います。最近では「RPA(Robotic Process Automation)」という、単純作業を自動化するソリューションを導入する企業も増えており、以前に比べてアナログ業務のデジタル化は進んできています。

2)業務プロセス全体のデジタル化

アナログ業務をデジタル化できた後は、一連の業務プロセス全体を自動化します。

先にご紹介したアナログ業務のデジタル化では、契約業務、入力業務、など特定の業務プロセスをデジタル化するというものでした。一連の業務プロセス全体を自動化するというのは、複数の担当者や複数の部門が携わる業務プロセス全体を自動化するということです。

具体的な例として、受注業務のデジタル化についてご説明します。

通常の受注業務は以下の流れで行われるとします。

【アナログの業務】

(1) 取引先から紙の注文書を受領する

(2) 営業担当者が、事務担当者へ紙の注文書を渡す

(3) 事務担当者は注文書を見ながら基幹システムへ受注情報を登録し、承認申請を行う

(4) 上長が確認して、受注を承認する

(5) 基幹システムから注文請書を発行して印刷し、先方の取引先へ郵送する

ステップ1のアナログのデジタル化対応後は以下のようになります。

なお、取引先から受領する紙の注文書をデジタル化できるかどうかは、取引先次第となりますので、ここでは紙のままの注文書を受領する想定とします。

【アナログのデジタル化】

(1) 取引先から紙の注文書を受領する

(2) 営業担当者が、OCR(画像データのテキスト部分を認識し、文字データに変換する光学文字認識技術)で紙の注文書を読み取り、事務担当者へ注文書データを渡す

(3) 事務担当者が注文書データを基幹システムへアップロードして登録し、承認申請を行う

(4) 上長が確認して、受注を承認する

(5) 基幹システムから注文請書データを出力し、先方の取引先へメールで送る

ここまではイメージしやすいと思います。

次に、ステップ2業務プロセス全体のデジタル化の対応後は以下のようになります。

【業務プロセス全体のデジタル化】

(1) 取引先から紙の注文書を受領する

(2) 営業担当者が、OCRで紙の注文書を読み取ると、RPA(作業を自動化できるソフトウェアロボット)が自動的に起動する

(3) RPAが注文書データを基幹システムへアップロードし、承認申請を行う

(4) 上長が確認して、受注を承認する

(5) 承認されたら自動で注文請書データが先方の取引先へメールで送信される

ポイントは自動で業務が進んでいくことです。
人が介在するのは、(2)の営業担当社がOCRを使って紙の注文書を読み取るところと、(4)の上長が承認するところだけで、他はすべて自動的に業務が進んでいきます。

このように業務プロセス全体をデジタル化することで、業務効率化できる範囲を広げることができます。

3)高度化

ここから先が「ビジネスモデルの変革」と言われるステップで、ステップ1と2によってデジタル化された業務から得られるデータを活用していくことで、新たな付加価値を生み出していきます。

具体的には、レジが不要の自動決済、無人コンビニ、ロボット活用による自動物流などが挙げられます。

高度化において重要なポイントは、業務がデジタル化され、情報がデータ化されていることが前提であることです。例えば、ロボットを活用して物流を自動化するといっても、先方から注文を受けた後の受注業務がデジタル化されていないと、効果が限定的になってしまうからです。

また、新しい価値を生み出すための施策を検討する材料としても、データ化された情報が必要になります。

例えば、店舗で顧客が行う決済方法の9割がクレジットカードであると分かっているから、事前にクレジットカードを登録した上でレジを不要にした自動決済を行うことができます。この例では「店舗で顧客が行う決済方法の9割がクレジットカードである」という事実に基づいていますが、そもそも顧客の決済方法が何かという情報を収集する仕組みがないと、検討することができません。

こういったように、データに基づき業務やビジネス自体を高度化していきます。

4)企業間での全体最適化

最後のステップとしては、自社のデジタル化・ビジネスモデルの変革に留まらず、企業間で取り組みを行うということです。1社が頑張ってデジタル化を推進しても、やはり限界がありますし、自社ではなく業界の全体最適を考えると、ビジネスモデルを大きく変革できる可能性があるためです。

例えば、物流業界全体で利用できる出荷指示や出荷実績のデータを連携する仕組みを用意することで、各社がその仕組みを使えば、業界全体がデジタル化できます。業界全体がデジタル化できれば、各社毎に発生するコストを削減できますし、出荷までのリードタイムをより少なくすることができるかもしれません。

実現するまでには仕組みの構築だけではなく、各社との調整などが必要ですので、時間がかかります。しかし、長い時間を費やしても、企業間・業界全体でビジネスモデルを変革することで市場全体を大きく成長することも可能であると考えられます。

図1.DXへ取り組むための4つのステップ

各企業・自治体が取り組む「DX事例」の紹介

実際に各企業や自治体での取り組み内容についてご紹介します。

神奈川県秦野市「鶴巻温泉 元湯陣屋」

■課題

神奈川県秦野市にある老舗旅館の陣屋では、約10年ほど前は「あと半年で倒産」と言われるほど危機的な状況で、当時は約10億円の負債を抱えていました。経営の立て直しを図るために、課題を分析したところ「情報の不透明さ」が一つの要因だとわかりました。

例えば、女将の頭の中だけに情報がある、営業担当者の手帳の中にしか商談に関する情報がない、紙で予約台帳を管理している、原価計算は月次のドンブリ勘定、正確な人件費を把握できない、売上は紙で管理している……といった状況でした。

■DX取り組み内容

誰が対応しても一定のクオリティーを担保できること、PDCAサイクルを月次から日次へと切り替えることを目標に掲げ、Salesforceという営業支援・顧客管理システムを導入し、タブレットを使って業務を行うようにしました。Salesforceをベースにカスタマイズして陣屋オリジナルのシステムを構築することで、システム上での情報共有を徹底し、Web予約システムでの業務を開始し、紙の電子化も推進しました。

■効果

約3年で黒字転換に成功しました。また、業務効率化により生産性を向上したことで旅館業では珍しい「週休3日」を実現しています。働き方も改善することで、元々30〜40%だった離職率が、今では数%程度にまで減っており、売上は伸び続けています。

こういった取り組みが評価され、日本サービス大賞で総務大臣賞を受賞するまでに注目されています。

※自社で構築した仕組みをクラウド型旅館・ホテル管理システムとして外販し、全国300以上の施設が導入

https://www.jinya-connect.com/

図2.SalesForceやタブレットを活用した旅館業務のデジタル化

北海道神恵内村「Fishtech」

■課題

北海道では全国平均を上回るスピードで人口減少や少子高齢化が進んでおり、神恵内村では、漁業を営む人手不足という課題に直面するだけでなく、乱獲(自然環境にある生物を無闇に大量捕獲すること)や密猟などにより浅海資源が減少、総漁獲量が低下しており、漁業者の経営状況は厳しいものでした。

■DXの取り組み内容

民間企業と協力して「Fishtech」という養殖管理システムを導入しました。

具体的な仕組みとしては、まずウニ・ナマコの水槽にIoTセンサーとカメラを付け、水温・水質を常に測ることで、水槽内を適切な環境に整えます。そして、IoTやカメラで取ったデータはすべてクラウドシステム上で一元管理され、簡単に参照することができ、データ分析も行うことができるというものです。

■効果

通常は約2ヶ月間しか出荷できないウニを、データを管理して適切に養殖することで、一年中出荷できるようになりました。また、養殖する際に今までは紙で管理したり人づてに情報を伝えていましたが、煩雑な作業が自動化され、データ活用もできるようになったため、生産性が約30%向上しました。

図3.IoTセンサーを活用した養殖のデジタル化

徳島県上勝町「IRODORI」

■課題

徳島県上勝町は「つまもの」という料理にそえる葉っぱを収穫する産業が盛んな町です。しかし、65歳以上の高齢者の割合が約50%で、徳島県の中でも最も高齢化比率が高く、主要産業である農業が衰退していました。

■DXの取り組み内容

クラウドシステムを活用した受発注システムを導入しました。

つまものを収穫する農家、受注状況を確認するJA、出荷状況を確認する仲介・卸売業者、注文を依頼する小売業者、という各関係者がシステムを使えるようにすることで、情報のやり取りを効率化しました。

また、季節ごとの需要予測も可能で、生産計画にも役立てることができます。

■効果

平均年齢70歳の高齢者がタブレットでクラウドシステムを積極的に利用したことで、年間2億6,000万円の売上を創出しました。

図4.kintoneを活用した受発注・需要予測のデジタル化

まずは業務効率化に向けたデジタル化から始める

少子高齢化により労働力人口が減少している状況を鑑みると(2065年には労働人口が4割減少すると言われています)、DXへ取り組むかどうかに関わらず、少ない人数で業務を行えるように生産性向上へ取り組むことは”必須”であると言えます。

DXに取り組んでビジネスモデルを変革する、という高い目標を立てて、実行を踏みとどまるのではなく、まずは第一歩目として業務効率化に向けたデジタル化から進めてみてはいかがでしょうか。

ここでは紹介しきれなかった事例や、デジタル化へ取り組む際にどれくらいの費用をシステム投資へ使えばよいのかといった内容は資料でまとめていますので、ご興味のある方はダウンロードして頂ければ幸いです。

【無料ダウンロード】DXへの取り組みを成功に導く方法

執筆者情報

株式会社エッグシステム
代表取締役 高橋 翼(たかはし つばさ)

https://eggsystem.co.jp/

【会社情報】

株式会社エッグシステムは、社員数100名以下のベンチャー・中小企業へ寄り添う「コンサルティングエンジニア集団」です。IT部門がない企業向けに、IT部門のアウトソーシングサービスを行い、システムコンサルティングとシステム開発の両面からご支援しています。中長期的なIT戦略の策定からシステムの導入、社員への教育といった運用フェーズまで、ワンストップで対応することが可能です。また、大手コンサルや開発会社の約半分の報酬でサービスを提供することができるなど、費用対効果も重視しています。クライアントの現場へのコミットを起点に、これまで培った幅広い経験とスキルに基づいてアドバイスから実務まで広く行っています。

【プロフィール】

・2008年:埼玉大学を卒業後、新卒で株式会社インテックへ入社。システム開発業務の枠を超えた提案力で計4,000万円の案件を受注、3年目で20名を超えるプロジェクトのリーダーを遂行、5年目で約60億円・200名以上の大規模プロジェクトの企画・プロジェクト管理を行いリリース成功へ貢献。

・2014年:青山システムコンサルティング株式会社へ転職。

・2017年:株式会社エッグシステム」を設立、同社代表取締役。

・2018年:独立。社員数100名以下の中小企業向けにIT部門のアウトソーシングサービス「コンサルティングエンジニアサービス」、IPOを目指すベンチャー企業向け「IT統制サポート」を行う。