「DX」にはどのような人材が必要か?

デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)には、どのような人材が必要でしょうか?DXによる大幅な変革が求められる時代に対応でき、今求められている人材はどのような存在か、確認していきます。

DXに必要な人材は、一種類ではありません。たくさんの人が関わってはじめて実行できるので、協調性と自己主張の両立が求められ、バランスが必要です。DX化に必要な役職と、必要な素養について、みていきます。

「DX」にはどのような人材が必要か?

経営がわかる人材

最初に求められるのが、経営がわかる人材です。よく「経営者目線を持って物事にあたろう」といわれますが、経営目線はDX化においてもっとも大切です。ただし、かといっていきなり社員が周りの社員に「DX化が遅れている!」と宣言しても、組織の論理として受け入れてもらえませんから、あくまで目線は経営者でありつつ、実務を進めていく人材であるべきではないでしょうか。

経営がわかる人材は、DX化において欠かせない人材です。なぜなら、DXは構造改革を伴う組織の変革でもあるからです。ただ便利なツールを導入するだけなら、DXとは呼べず、単なるIT化だといえます。IT化は導入しただけでインパクトがありますが、DX化はその効果をより理解して実施する必要があるからです。

DX化を進めていく上で必要になってくるのが、周囲からの信頼と、ITそのものへの深い理解となります。当然ながら周囲からの信頼信用がない人にはDX化を進めることはできません。理由としては、DXはひとりでできるものではなく、トップもボトムもみんなで改革に向き合うことだからです。

テクノロジーを理解する経営層

さらに、テクノロジーを理解する経営層も必要です。経営の仕事は決してひとつではないですし、複雑かつ意思決定を行うものですから、個別のテクノロジーを詳解している暇はないかもしれません。

ただ、意思決定を行う際に、信頼できる技術の責任者からDXについて聞いたり、自ら学んだりする機会は大切ではないでしょうか。少なくとも、大切だと自覚することなしに、手放しでDXを進めていくのは危険です。個別の技術に精通してはいなくとも、精通しており信頼できる人間と仕事ができる関係であることが大切ではないかと考えられます。

DXを設計するアーキテクト

DXは、複雑なテクノロジーと複雑なビジネス構造を、別の複雑さに転換して、効率性を高め、市場競争の中での優位性を獲得するものです。よって、個別の技術に精通しながらも、全体がみえて、さらに設計ができるアーキテクトが必要です。

アーキテクトは技術を正しく理解していることは当然ながら、同時に正しい情報を持っていなければなりません。DXについての「教科書」も「答え」もどこにも存在しませんから、正しい情報を持ちつつ、正しい情報を持った人と意見交換して、自分自身でも考えていく力が求められます。

アーキテクトに求められる能力は多種多様ですが、ひとつにパターン分析があります。DXの先行事例を集めて分析し、成功要因を抽出すること。あるいは、失敗事例から学びを得ること。他社が公開する事例にはノイズも混じりますが、正しく現状を把握できる力も大切です。

実装を理解するエンジニア

さらに、実装の段階に入ると、テクノロジーを理解するエンジニアが人材として必要になります。DXは高度なインターネット技術の上に成り立っていますので、その歴史と成り立ちをちゃんと理解し、最新の情報にもついていけて、同時にバグ(瑕疵)に素早く対応できるスピード感も大切だと考えられます。

技術的な成り立ちは、単なる好奇心以上に重要です。過去を知ることで未来を予測できるからです。どのような最新のテクノロジーも、実は過去の上書きではなく延長線上にあります。たとえば、Javaというプログラミング言語がC言語から来ているように、ビットコインのブロックチェーンが、分散ファイル管理技術から来ているように、テクノロジーは既存のものを上書きしていくようでいて、過去を進化させたものであることが多いのです。

同様に、DXのクラウドや5GやAIなども、いきなり新しい技術が出てきて世界が変わったようにいわれることもありますが、成り立ちをみれば、古い技術が人々と合わなくなった点を乗り越え、新しい技術が生み出されていることがわかります。

それらの点を踏まえて、大切なのは正しい理解です。経営層や経営に近い人材は、たくさんの仲間と一緒に働きます。そこで、コミュニケーションを通じて誤った判断が生まれることもあるのです。話す相手を間違えた場合、結論を間違うことが多々あります。「正しい理解」といいながら、「正解」のないDX化において、若い技術者とも十分にコミュニケーションを取らなければならないですし、若い技術者側も、積極的に意見をしていく必要があります。

DX人材に必要なのは技術理解とコミュニケーション

DX人材に必要なのは技術理解とコミュニケーション

DXを推進するのに必要なのが、技術への理解ですが、技術的な部分は資金があれば補える部分もあります。外注でコンサルを入れたり、自社では足りない技術を外部の人にお願いしたりする方法です。

ただし、お金ではどうしようもない部分もあります。それが、専門的な知見を持った人とのコミュニケーションと、業務への理解です。コミュニケーションは今回の原稿でもお伝えしましたが、業務への理解は、自社の人材でないと、深い理解は得られません。

自分たちの仕事のプロセスがどのようなものであり、どこにボトルネックがあるのか。DXは既存事業の欠点を指摘するような行為なので、心理的な抵抗も生まれがちです。ただし、時代と合わなくなった点を直視し、時流にあった構造にかえていく必要があります。

よって、DX化にもっとも必要な人材は、

  • 課題を深く理解した経営陣
  • 経営陣に課題を正面から忖度なく伝えられる人材

なのです。

特に、この「経営陣に課題を正面から忖度なく」というところは、実際自分ごとになると極めて難しいことです。「既存のやり方でもうまくいっている」「DXに失敗したら自分の評価が台無しになる」「反対している人たちがいる」「自分自身も心理的な抵抗がある」など、「DXをしない理由」はとてもたくさんあるからです。

それでも、組織ごと変化して市場競争に勝ち抜いていくために、DXは越えなければならない高いハードルです。外部の専門家の知見を借りられるところは借りつつ、内部で優れた知見を持つ人材を活用しつつ、進めていく必要があります。

まとめ

DXは大きな課題を乗り越え、組織を自己改革し、市場競争の優位性を獲得するものです。よって、業務にも技術にも精通しており、コミュニケーションを通じて正しい情報を仕入れて自分で解釈し、同時に、DXがもたらす未来を信じられる強固な信念も必要だといえます。さまざまな心理的抵抗が起きるDX化のプロセスでは、リーダーシップイコール未来を見せる力だとも言い換えられるでしょう。

足りない部分は外部専門家の知見を取り入れつつ、結局は自社で進める必要があるDX。必要な人材は多種多様ですが、究極的にはリーダーシップと技術への理解と、周囲からの協力と、本人の強い信念です。DX化は市場で戦うために必要なので、最前線で仕事を知る人は、皆さん関わっていただく必要があります。

DX化においては、極めて有能な人材が求められますので、役職だけでなく素養についてもお伝えしました。