業務改善は効率化によるコスト削減だけでなく、顧客価値や市場変化への対応力を向上させ企業の競争力を強化するためにも重要な取り組みです。業務改善を成功させるために効果的な方法の一つが、プロジェクト管理手法の活用です。
本記事では、プロジェクト管理手法を用いた業務改善の具体的な進め方と成功に近づくための3つのアプローチについて解説します。
業務改善にプロジェクト管理手法を用いるメリット
業務改善は、日々の業務プロセスを見直し無駄な作業を省いたり作業手順を最適化したりといった形で効率化を図る取り組みです。
一方、プロジェクト管理は特定の目標を達成するために計画を立案・実行・監視する体系的なアプローチです。これらを組み合わせて業務改善をプロジェクトとして管理することで、以下のメリットが生まれます。
- 曖昧だった業務改善の目標が具体的かつ測定可能なものになる
- プロジェクト管理手法を用いることで業務改善の各ステップを計画的に進められ、場当たり的でない効率的な改善活動が可能になる
- 必要な人材や予算を適切に配分でき、リソースの無駄遣いを防ぐ
- プロジェクト管理ツールの活用などにより、定期的な進捗確認と問題点の早期発見・解決が可能になる
- リスクに対し事前に対策を立てられるため、業務改善の失敗リスクを軽減できる
業務改善をプロジェクトとして管理することで、目標達成までのプロセスを体系的に進められます。
効果的な業務改善プロジェクトの進め方
次にプロジェクト管理の手法に沿った業務改善プロジェクトの進め方について、6つのステップに分けて解説します。
ステップ1:現状分析と課題の特定
業務改善で期待する成果を得るためには、現状の業務と問題点の正確な把握が欠かせません。
現状と問題点を洗い出すために最初に行うのが、データ分析とインタビューの組み合わせによる「課題となる業務プロセスの特定」です。
まず、データ分析を通じて業務に関連する定量的データ(処理時間、エラー率、コストなど)を収集し分析します。次に現場の担当者や顧客に対しアンケートやインタビュー調査を行い、直接情報を収集し潜在的なニーズや具体的な要望を掘り下げます。
最後に収集したデータと情報をもとに、現状の業務フローを図式化し非効率な部分や改善が必要な箇所を特定し課題を可視化します。
例えば「生産ライン改善プロジェクト」において現在の不良品率や作業時間を分析した結果、「手動による品質検査により検査に時間がかかる上に返品率が高い」点を課題として設定するといったケースが考えられます。
ステップ2:改善策の立案
現状分析で特定された課題に対して、具体的な改善策を検討します。改善策の立案で参考になるのが、「ECRS」と呼ばれる業務改善フレームワークです。
Eliminate(排除) |
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Combine(統合) |
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Rearrange(再配置) |
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Simplify(簡素化) |
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これらのアプローチのなかから、現場の意見を考慮しつつコストや実現可能性、効果を評価したうえで改善策を選定します。
先ほどの「生産ライン改善プロジェクト」の例でいうと、マニュアル導入による標準化や自動検査システムの導入による「簡素化」が改善策として考えられるでしょう。
ステップ3:改善目標とKPIの設定
改善策が決定したら、次にプロジェクトの性質に応じた適切な改善目標と具体的なKPI(重要目標達成指標)を設定します。
KPIを設定する際には、以下の「SMARTの法則」に沿って設定するとチーム全員が何を達成すべきか明確に理解でき、業務改善プロジェクトの成功率が高まります。
- Specific=具体的な
- Measurable=測定可能な
- Achievable=達成可能な
- Relevant=関連性がある
- Time-bound=期限を定めた
例えば「6ヶ月以内に不良品による返品率を現在の3%から1%に削減」という具体的な目標を設定することで、数値として指標が測定可能になり改善効果を客観的・継続的に評価可能です。
ステップ4:プロジェクトの立案とリソース配分
目標とKPIを定めたら、以下のステップで実行するための計画を立案し必要なリソースを割り当てます。計画の作成には各種プロジェクト管理ツールを利用すると進捗管理がスムーズです。
- タスクの洗い出し:WBS(Work Breakdown Structure)を作成し、必要な作業を細分化する
- スケジュール作成:ガントチャートなどを用いて、タスクの依存関係や進捗状況を管理できるよう全体像を視覚化する
- リソースの割り当て:各タスクに必要な人材、予算、設備などを適切に配分する
- マイルストーンの設定:重要な節目を設定し、進捗管理と軌道修正を容易にする
例えば「自動検査システムの導入」のケースだと「機器選定」「インフラ整備」「システム設置」「事前トレーニング」などのタスクに分けたWBSを作成し、ガントチャートでスケジュールを設定します。
ステップ5:リスク管理と問題解決
予期せぬ問題によるプロジェクトの失敗を防ぎ、成功率を高めるためにもリスク管理は重要なステップです。リスク管理プロセスは以下の6つのステップで行います。
- 潜在的なリスクの特定
- 各リスクの影響度と発生確率の分析
- リスクの優先順位付け
- リスク対応策の立案
- 管理者の設定
- リスクの監視とコントロール
潜在的なリスクの特定はヒアリングやブレーンストーミング、過去の類似プロジェクトを参考にして行います。また管理者として決定権限を特定の人物に与えることで、迅速かつ適切な判断を可能にします。
例えば改善策が「システムの導入」の場合、リスクとして「従業員の抵抗」や「設備の不具合」などが挙げられるでしょう。それぞれ「説明会の実施と段階的な導入」、「予備の機器確保と定期的なメンテナンススケジュールの設定」が対応策として考えられます。
ステップ6:改善案の実行
改善案の実行段階で必要なのが、作業プロセスの変更やマニュアル作成、現場教育などの実行環境の整備です。
同時に、従業員への周知を行い改善課題と目標(KPI)を共有して理解を促します。実行後は、定期的な進捗確認を行いKPIを用いてパフォーマンスを客観的に評価し、効果を分析します。
また問題点や従業員からのフィードバックをもとに、必要に応じて改善策を調整し継続的な業務改善サイクルを維持します。
プロジェクト管理手法を活用した業務改善の実践を成功させる3つのアプローチ
業務改善プロジェクトを成功に導くには、単なる手法の適用だけでなく、組織全体の理解と協力が不可欠です。以下に、プロジェクト管理手法を活用した業務改善を成功させるための3つのアプローチについて解説します。
ステークホルダーとの効果的なコミュニケーション戦略
業務改善において起こりがちなのが、既存のワークフローの変更に対するステークホルダー(利害関係者)の反対です。業務改善を組織全体に浸透させるには、適切なプロジェクト管理とともに人々の行動や意識を変える取り組みが必要です。
まずステークホルダー分析を行って改善に対する各関係者の態度と反対する理由(習慣を手放す不安や新たなプロセスの習得に関する抵抗など)を把握し、プロジェクトに対する影響度を考慮したうえでコミュニケーション計画を策定します。
改善の必要性とメリットについて説明するとともに、社内に対してはトレーニングプログラムで新プロセスの習得を支援します。成功事例の共有によりステークホルダーのモチベーションを高めるアプローチも効果的です。
さらに定期的なフィードバックを収集し、改善計画を適宜修正して継続的な変革を促進します。
最大限のメリットを享受するための業務改善を実現するには、順序立てて施策を進めることが大切です。以下の4つのステップを踏まえた、計画的な業務改善を心がけましょう。
業務改善におけるアジャイル手法の応用
ソフトウェア開発で生まれた「アジャイル手法」は、プロジェクトの各工程を小さいサイクルで繰り返すことでプロジェクトの柔軟で迅速な進行を可能にする手法です。メインとなるフレームワークの「スクラム」では、以下のようなアプローチでプロセスを進めます。
スプリント方式 | 2~4週間程度の短期間で具体的な改善タスクの設定・実施により大規模な変更を一度に行うリスクを軽減し、早期に改善成果を出せる |
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デイリースクラム | 毎日15分程度の短いミーティングで進捗状況と阻害要因、計画について確認し、問題点を早期に発見・解決する |
振り返りミーティング | 各スプリント終了時に改善の成果を確認し、次の計画に反映させることで継続的な改善サイクルを確立する |
アジャイル手法を業務改善に応用することにより、業務改善にともなう組織の変化への抵抗を減らしつつ、迅速かつ効果的な業務改善を実現できます。
デジタルツールを活用したプロジェクト進捗の可視化と管理
業務改善プロジェクトの効率的な管理には、以下のようなPDCAサイクルの各段階に適したデジタルツールの活用が有用です。
- 計画段階:WBSやガントチャート
- 実行段階:タスク管理ツール・コミュニケーションツール
- 評価段階:KPIダッシュボード
デジタルツールの導入によりメンバー全員がプロジェクトの進捗をリアルタイムで可視化・共有でき、データ分析や関連情報の一元化も含めた効率的な管理により業務改善の成果を最大化できます。
デジタルツールの活用はチームの円滑なコミュニケーションとプロジェクト進行を可能にするだけでなく、RPAによる定型業務の自動化やクラウド化によるデータの一元管理など業務の簡素化・一本化にもつながります。
まとめ
デジタルツールを活用したプロジェクト管理手法による業務改善は、効率的かつ持続可能な組織変革の実現、ひいては事業の競争力強化につながります。
業務改善におけるDX活用について、さらに詳しい情報や具体的な戦略をお探しの方はお気軽に当社までお問い合わせください。