企業の業務効率化は、多くの会社において喫緊の課題となっていますが、煩雑化した業務を数多く抱えている組織では効率化にも限界があります。

そこで近年注目されているのが、業務プロセスを可視化することにより、業務を整理して効率よく働ける仕組みづくりを推進する手法です。今回は、そんな業務プロセスの可視化によって得られる実施効果や、導入方法についてご紹介します。

業務プロセスの可視化とは

業務プロセスの可視化は業務の見える化とも呼ばれ、言葉や数字で業務プロセスを具体的に表そうという取り組みです。

これまで業務は口頭で継承されたり、担当者の感覚によって遂行されることが一般的でしたが、業務可視化の過程においては、これらを全て明文化する事が求められます。また、業務遂行のためにどれくらいの時間がかかっているのか、どれくらいの予算がかかっているのかを明らかにもするため、実態が不透明だったプロジェクトをリアルタイムで検証し、適切な運用が行えるようサポートするなどの効果も期待できます。

なぜ業務プロセスの可視化が必要なのか

業務プロセスを可視化する作業はある程度の導入負担が強いられる一方で、それが直接売上に貢献することはないため、一見すると無駄の多い作業であるとも思われます。しかし、それでも業務プロセスの可視化に多くの企業が動いているのは、以下のような背景が大きいと考えられます。

慢性的な人材不足

一つ目は、慢性的な人材不足の発生と深刻化です。少子高齢化社会が日本でも浸透する中、若い働き手が年々減少しているだけでなく、熟練の労働者も次々と第一線を離れています。

熟練労働者が現場を離れてしまうと、単に労働力が減少するだけでなく、長年培われてきたノウハウも消滅してしまうため、単なる労働力不足以上の問題が発生する可能性があります。技術を継承しようにも、新しい人材が入ってこないようでは引き継ぎ先がいないため、企業の財産として培われた高度な技術が失われてしまうでしょう。

こういった無形の資産を企業に残していく作業の一環として、業務プロセスの可視化は必要とされています。

従業員拘束時間の増加

二つ目に、従業員の拘束時間の増加です。働き手が不足すると、既存の従業員にその負荷が全てかかってしまうこととなるため、どうしても長時間労働や残業が慢性化してしまう企業体質になってしまいがちです。

一人当たりにかかる負担を軽減するためには、業務を見直し、無駄な工程を省いていく努力が必要になります。業務プロセスの可視化は、働き方改革の推進に役立つでしょう。

コスト削減の限界

三つ目は、コスト削減にも限界が近づいているためです。特に製造業におけるコスト削減の限界はすでに迎えているとも言われており、既存業務の無駄を省くことで価格の維持に努める事が必要とされています。

というのも、これまでは工場を物価の安い海外に移転することで、大幅な人件費のカットが成立してきました。しかし近年は途上国における経済発展が進み、物価も急速に値上がりしたことで、日本と大差ない人件費が発生するようになりつつあります。

また、原材料費や生産コストについてもエネルギー価格の高騰や周辺諸国の経済成長によって、やはり上昇傾向が強まっています。そのため、材料費や人件費の削減にはもはや限界が近いといえるでしょう。

そのため、業務プロセスを可視化して既存業務のあり方を見直すことで、根本的なコスト削減につながるアプローチを探っていく必要があります。

DXの推進

四つ目の理由は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進です。生産性の向上やコスト削減において、有効とされているのがITツールの導入を伴う業務改革ですが、その前提として業務の見える化、つまりデータ化を避けては通れません。

これまでアナログ主体だった企業は、まずは業務を可視化するところから始める必要がありますが、業務プロセスの見える化が進んでいるのも、DXの必要性が高まっていることが背景に挙げられます。

業務プロセスの可視化を皮切りに、組織全体のICT活用が進められていくのが理想的といえるでしょう。

可視化ができる主な業務

具体的に、業務プロセスの可視化はどのような業務において実現可能なのでしょうか。結論から言うと、あらゆる業種や業務において、見える化を進める事ができます。ここではわかりやすい事例として、以下の2つの業務の可視化についてご紹介します。

営業

営業活動における業務プロセスの可視化を通じて、業務全体を広く見渡せる環境が整います。担当者がどのようなシナリオを用いて見込み客にアプローチをかけているのか、どの見込み客とコンタクトを取り、感触はどのようなものであったか、どうやって情報共有、およびフィードバックをおこなっているか、ということを隅々まで把握できます。

営業活動を可視化することで、ベテランの担当者と新人担当者の業務プロセスの違いや、改善すべきポイントをわかりやすく注目できるようになるでしょう。担当者間のコミュニケーションを強化し、リアルタイムでの見込み客対応の効率化を可能にします。

製造・生産

製造・生産業務に従事している場合、商品の生産をいかにして効率よく進めるか、品質を高めるためにはどうすれば良いか、というノウハウの共有が重要になります。

これまで生産の現場では「長年勤めることでスキルを磨く」「熟練の技を見て学ぶ」といった、非言語的なノウハウの継承が行われてきました。業務プロセスの可視化を実践する上では、これらをあえて可視化し、口頭で伝えられるような形式に落とし込んでいくことで、ノウハウの提供を短期間で実現する事ができます。

一度マニュアルに落とし込んでしまえば、熟練の技術者がその場にいなくとも高いレベルでの継承と共有が可能となるため、長時間労働を回避したり、高齢になって働き続けなければいけない、という健康リスクを回避したりできます。

業務プロセスの可視化で得られるメリット

業務プロセスの可視化は、実に多くのメリットを実践企業にもたらしてくれます。プロセス可視化のメリットについて、主な利点をご紹介します。

ボトルネックを解消して業務効率化が進む

一つ目のメリットは、ボトルネックの解消です。工程が複雑化した業務においては、一つの工程が遅れてしまうと、その後の工程のスケジュールへ大きく影響する事が懸念されます。業務に悪影響を与えている工程を可視化によって特定することで、ボトルネックを解消し、業務全体の生産性を高める事ができます。

属人化を回避できる

二つ目のメリットは、属人化の解消です。複雑な業務は特定の担当者でしか対応ができない、あるいは独自にノウハウを蓄積した熟練の従業員でなければ高い生産性が期待できないという業務も、可視化によって工程を明らかにし、継承を容易に行えるよう促せます。

意思決定を迅速に行える

三つ目のメリットは、意思決定の迅速化です。これまで業務が不透明だったために、的確な判断に遅れが生じていたのが、プロセスが可視化されたことで、より的確なタイミングで意思決定の判断を下す事が可能となります。

素早い判断を常に出せる環境を整備し、より効率的で柔軟性のある組織作りを実現します。

内部統制を強化できる

業務プロセスを可視化することで、内部統制の強化にもつながります。事業の目標を達成するために設定したルールや、法律違反が生まれないよう義務付けられている決まりごとの遵守は、サステナブルな組織経営には欠かせません。

業務プロセスを客観的に見える化することで、業務そのものをコントロールする能力を高め、適切な働き方を維持することに役立てられます。

具体的な業務プロセス可視化の方法

業務プロセスの可視化を進めていく上では、具体的にどんな手順が必要になるのでしょうか。業務プロセスの見える化を進める方法について、ご紹介します。

スキルマップを描く

まずは、従業員がどのようなスキルセットを持っていて、どれくらいの習熟度に達しているのかを一定の評価軸をもとに明らかにしていきます。

社員の能力を具体的に判断することは難しいものですが、それらを可視化する時間を設けることで、誰がマニュアル作成に携われば良いのか、研修を受けてもらうべきなのか、といった判断を下せるようになります。

プロセスマップを作成する

続いて、プロセスマップを作成します。プロセスマップは、可視化したい業務がどのような工程に基づいて進められているのか、全体像から描いたものです。

業務開始から終了まで、一連の流れをステップごとに分解し、それぞれでどれくらい時間がかかっているのか、どれくらいの費用がかかっているのかなどを明確にしていきます。

マニュアルを作成する

作成したプロセスマップをもとに、業務マニュアルの作成を進めます。プロセスマップだけでは読み手が迅速に情報を得る上では不便も多いため、現場で働く社員向けのマニュアルを作成しましょう。

事前にプロセスを明らかにしておくことで、情報が煩雑ではない、迅速な理解を促せるマニュアル作成を後押しできます。

業務の可視化を進める上でのポイント

業務プロセスの可視化を進める上では、上記のステップを踏襲しつつ以下のポイントを押さえることで、更なる改善が実現します。ぜひ実践に繋げていきましょう。

全社的なデータ活用を推進する

一つ目のポイントは、データ活用の全社化です。業務プロセスの可視化を通じて、単一業務のデータ化を進めるだけでなく、可視化されたデータをより効率よく使えるための仕組みづくりも進める事が大切です。

別の業務や部署でも可視化したデータを運用できるよう、全社的にデータ化及びデータの活用が可能な環境を整え、更なる業務の効率化を進めましょう。

ツールを導入して管理を自動化する

データを効果的に活用するためには、RPAやSFAなどのデータ活用を自動化できるツール導入が有効です。どれだけ業務を見える化しても、運用する従業員が全てマニュアルで対応していては、せっかくの機会をうまく活かす事ができません。

コミュニケーションを円滑に進められるチャットツールの導入なども視野に入れながら、データ活用を推進できるツールの選定に力を入れましょう。

ツール活用に向けた社員研修や人材獲得を実施する

本格的なツール導入、及びデータ活用を進めるためには、DX人材と呼ばれる人材獲得も必要になります。社員向けにITツールを使いこなすための研修を実施したり、DX人材の確保に特化した人材募集をかけ、社内のDXを進めていきましょう。

まとめ

業務プロセスの可視化は、それだけでも業務効率化に貢献できる効果が期待できる一方、更なるデータ活用の機会にも恵まれることとなります。コスト削減に向けた動きが難しくなる中、業務の見直しを図ることは大きな効果が期待できます。

せっかくの業務可視化の機会を有効活用できるよう、データ活用環境の整備を進めていきましょう。

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