DX促進や業務効率化に向け、基幹システムの再構築は非常に重要な作業だと言われています。

なぜなら、再構築せずにいると2025年の崖や多くの企業で利用されている基幹システム「SAP ERP」のメンテナンス期間が終了するなど、さまざまなリスクがあるからです。

しかし、そう言われても何のために基幹システムの再構築が必要なのか、わからない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、老朽化した基幹システムの使用に伴うデメリットや再構築で得られるメリットなどを解説していきます。システムの再構築を検討している方はぜひ参考にしてください。

基幹システムとは

基幹システムとは販売・在庫・生産管理など、業務の核となる機能を搭載した独立型のシステムです。システムダウンが起きた場合は業務全域に支障をきたし、復旧するまで社内外に多大な影響を及ぼします。

代表的な基幹システムはSAP社が提供するパッケージで、多くの日本企業も導入しています。

しかし、このSAP社の「ERP」シリーズのメンテナンス期間終了や2025年の崖によって、早急な基幹システムの再構築が必要な状況です。

以下は、主な基幹システムの種類と機能です。

種類 機能
販売管理
  • 受発注データ入力
  • 顧客別の売上実績
  • 売掛金管理
生産管理
  • 商品別の生産進捗管理
  • 製造済み製品の在庫状況
  • 製品の出荷状況
購買管理
  • 注文書作成
  • 伝票発行
  • 買掛金管理
勤怠管理
  • 出退勤管理

ERPや情報系システムとの違い

ここでは、ERPと情報系システムがどのように違うのかを確認していきましょう。以下にそれぞれの役割と実現できるメリットをまとめました。

名称 役割 実現できること
ERP 企業の情報資源を一元管理する役割を担う。

「ヒト・モノ・カネ」といった資源を一元管理し、組織内でのスムーズな情報共有が可能。

必要なデータをすぐに確認できるため、ミスの削減と業務の効率化を両立しやすい。
情報系システム グループウェア・メールソフト・社内SNSなどの社員間での情報共有を活発にするためのシステム。 組織内でのコミュニケーション活性化を図ることができる。システムダウンが起きても自社の損失にさほど影響を与えない。
基幹システム 購買・財務・勤怠管理など、企業活動に必要な業務機能を搭載したシステム。 業務プロセスを自動化しやすい。各部門のデータを連携して管理できる

ここでは、ERPと情報系システムがどのように違うのかを確認していきましょう。以下にそれぞれの役割と実現できるメリットをまとめました。

基幹システムの再構築が必要な理由とは

基幹システム再構築のポイント

ここからは、基幹システムの再構築が必要な理由を解説していきます。

2018年の経済産業省が発表したレポートでは、老朽化した基幹システムを使い続けると、最大年間12兆円の経済損失を被る可能性があるとも言われています。
(参照:経済産業省_デジタルトランスフォーメーションレポート

基幹システムの再構築は、2025年の崖と呼ばれる基幹システムの老朽化に伴うデメリットを回避するために必要だと言えるでしょう。

再構築が必要な理由を以下の4点にまとめました。

  • ランニングコスト増大

  • データの分断化

  • 情報漏洩リスク増大

  • データの継承が困難

それぞれ詳しく解説していきましょう。

ランニングコスト増大

システムの老朽化に伴いメンテナンス箇所が増えると、機能維持のために掛かるランニングコストが年々増大してしまいます。

基幹システムが機能不全に陥ると業務がストップし、莫大な利益損失や顧客からの信頼低下に発展するため、定期的なメンテナンスは避けられないからです。

データの分断化

データ連携がスムーズに取れていないシステムを使い続けると、業務効率は上がりません。一つの作業を完結するまでに時間が掛かってしまうからです。

例えば、発注・在庫・入庫データが連動していない場合、重複発注を回避するために別のシステムにログインして在庫状況を見ながら、発注を行わなければなりません。
そのため、急ぎの発注依頼を顧客から受けた場合は、誤発注のリスクも高まります。

また、10数年以上前に導入した基幹システムを継続して使用している場合、現場の求めているニーズに対応しきれていない場合もあるでしょう。

システムの利便性が低い場合は、社員のパフォーマンスや顧客満足度を高められません。

情報漏洩のリスク増大

続いて、情報漏洩のリスクが増えてしまうという理由です。

ハッカーはターゲット企業から情報を盗むために、ランサムウェア・パスワードリスト型攻撃・脆弱性攻撃など、さまざまなサイバー攻撃を仕掛けてきます。近年は、大企業よりもセキュリティ対策のレベルが低い中小企業を対象にしたサプライチェーン攻撃も多発しており、早急なセキュリティ対策の強化が必要です。レガシー化した基幹システムを使っていると、最新のマルウェアやサイバー攻撃への対策を十分に望めない可能性が高く、情報漏洩に発展するリスクが高くなります。

万が一、取引先のデータが流出した場合は信頼を失い、取引量減少や取引停止に発展するなど、今後のビジネスが大変厳しい状況に追い込まれるため注意が必要です。

また、地震・津波・火事によってシステムトラブルが発生すると、これまで蓄積してきた技術データやノウハウまでも失ってしまいます。

基盤システムに保存したデータの継承が困難

システム管理担当者の退職や転職に伴い、自社の基幹システムに精通した従業員が不在になるとデータの引継ぎが困難になってしまいます。優秀なITスキルを持った人材の獲得が困難だからです。

経済産業省によると2015年時点で既に17万人が不足しており、2025年には43万人まで膨れ上がると試算しています。
資金・人材の両面で制約が大きい中小企業の場合、基幹システムの再構築化によるDXを徐々に進めておかないと、培ってきたデータの継承が難しくなります。

基幹システム再構築によるクラウド化のメリット

ここからは、基幹システムを再構築してクラウド化するメリットを解説していきます。基幹システムの再構築で得られるメリットは以下の4点です。

データの可視化

各業務に必要なデータがすぐに閲覧できる状態を整備でき、業務の効率化を期待できます。

例えば、発注業務に必要な仕入れ先・自社在庫・仕入れ価格などの情報はすべて一元化されており、ミスの削減と業務効率向上が実現できるからです。

また、人事・経理・プロジェクト管理を搭載した基幹システムもあり、一台でコア業務全般をカバーできます。

コストカット

ハードウェアの導入・運用・管理に掛かる費用を削減できるからです。また、オンプレミスとは異なり、サーバーの導入や運用はベンダーに任せられるため、初期費用やランニングコストを抑えられます。

システム管理者の業務負担軽減

アップデートや修正作業を行う必要が無くなるため、システム管理者に掛かる負担を軽減できるというメリットもあります。新機能追加・最新バージョンへの移行・データのバックアップなど、各種更新作業はベンダーが対応するため、システム管理者は他の業務に集中できるからです。

また、オンプレミスでの運用とは異なり、ハードウェアの故障やアプリケーションの終了に伴うシステム変更を行う必要もありません。

最先端技術の活用

外部のクラウドサービスと連携しているシステムが多く、基幹システムの導入で業務の広範囲をカバーできます。

例えば、経理や人事業務の負担軽減を目的に、給与計算・財務会計・予算実績管理などを搭載した基幹システムを導入します。営業部門の強化を同時に図りたい場合は、顧客管理サービス(CRM)と連携し、営業プロセスの効率化を実現可能です。プロセスの自動化や商談管理機能を搭載しており、契約締結のために各社員が行うべき行動を明確化できるからです。

一方、組織全体の残業時間を削減したい場合はグループウェアと連携し、社員同士のコミュニケーションを活性化します。ワークフロー・チャット機能・スケジュール管理を搭載しているため、スピーディーなやりとりを実現できるでしょう。

また、製造業の場合はAIによって製造工程の省人化を進め、人的ミス・コスト・事故の削減を実現可能です。

基幹システム再構築のポイント

基幹システム再構築のポイント

ここからは、基幹システムを再構築する際のポイントを解説していきます。システムの再構築をスムーズに進めるためには、以下の2点を意識してください。

  • 現行システムが抱える課題の明確化

  • 導入時期と予算の策定

導入目的が曖昧なまま選定作業を進めると自社に合ったシステムを導入できず、かえって利便性が低下します。

現行システムが抱える課題の明確化

「データ連携改善」や「バックオフィス機能強化」など、現行の基幹システムが抱える課題を反映したシステム選びが重要です。導入目的が曖昧なまま選定作業を進めると、ミスマッチが起きる可能性が高くなるからです。

自社工場で製品を製造している場合は販売や在庫管理に加え、工程管理を搭載したシステムを選ぶと、生産計画に基づいた納期回答や売上予測ができます。

計画に変更が生じた場合でも画面上ですぐに確認できるため、迅速な対応を取ることが可能です。一方、経費・勤怠・ワークフロー機能を搭載したシステムの選択で、社内業務を効率化できます。

導入時期と予算の策定

「いつまでに・どのくらいの予算」で、基幹システムの再構築化を行うか具体的な目標設定が重要です。

先送りにしていると着手作業が進まないだけでなく、システム老朽化に伴うランニングコストの増大にも悩まされてしまいます。

時期に関しては、2025年までの移行完了が一つの目安となります。現行システムの課題把握やシステムの選定作業など、行うべき作業は多いです。時間がない中での選定作業はミスマッチのリスク増大に加え、社員にも大きな負担が掛かるので避けましょう。

予算に関しては基幹システムにどの程度の機能を求めるかによって、判断は異なります。機能性を確かめるために、1か月間の無料トライアルを実施しているシステムを選ぶのも一つの選択肢です。

まとめ

この記事では、基幹システム再構築が必要な理由とメリットを解説してきました。老朽化した基幹システムを使い続けると、以下のデメリットに直面する可能性があるとわかりました。

優れたITスキルを持った人材の獲得は難しくなっており、既存社員の業務負担を軽減しつつ急速に変化する市場ニーズに対応するためには、基幹システムの再構築が欠かせません。

現在、クラウド上でさまざまな基幹システムのサービスが提供されており、業種・業態に合った選択が可能です。ご紹介したメリットやポイントを参考にしていただき、基幹システムの再構築を検討してみてください。

超上流工程の進め方