社内に新しいシステムを導入することは、企業戦略や事業の成長にも影響を与える重要な取り組みです。特に全社的に利用するシステムの場合、単なるシステムの入れ替えだけでなく、現状の課題点の洗い出しや運用体制の構築なども求められます。

しかし、時間と労力をかけてシステムを導入しても、事前準備や導入後のフォローが不十分であるとシステムが活用されず、努力が無駄になる恐れもあります。そのため、適切なプロセスを踏んで導入を進めることが重要です。

この記事では、システム導入の重要性や具体的なプロセスと、導入時によくある課題や失敗、失敗しないためのポイントについて解説します。

システム導入の意味

システム導入とは、「業務の効率化」「生産性の向上」「コスト削減」といった課題を解決するために、新しいシステムを社内に導入することです。

長期間使用されているシステムは組織に浸透し、使い慣れたものとなりますが、「この機能があればより便利になりそう」「管理に手間がかかる」「手入力ではミスが発生するため自動化したい」といった改善点が見えてくることがあります。

新しいシステムを導入することで、業務プロセスを効率化し、作業の自動化や時間の削減を実現することが可能です。

システムやツールを導入する重要性

近年、クラウドコンピューティングや人工知能の普及により、業務プロセスを効率的かつ拡張可能に構築するための選択肢が急速に増えています。

適切なシステムやツールを導入・活用することは、業務運営の強化や顧客満足度の向上など、企業にとって重要な価値をもたらすことから、市場での競争力を高めるために不可欠な要素となりつつあります。

システム導入においてよくある課題や失敗

システム導入は業務効率化など企業成長に欠かせないプロセスですが、その過程でさまざまな課題や失敗が発生することもあります。日本トレンドリサーチと株式会社キャムが共同で実施した「社内へのシステム導入に関するアンケート調査」によると、回答者の25.7%がシステム導入において「失敗を経験した」と答えています。正しいプロセスを理解しないままシステム導入を進めてしまうと、次のような課題や失敗が発生することがあります。

  • 業務プロセス全体を把握できていない
  • 業務の最適化や統一化されていない
  • 開発ベンダーとのコミュニケーションが不足している

まず、業務プロセス全体を把握できていないことがよくある失敗の一つです。業務プロセスの全体像を把握せずに導入を進めると、重要な機能の不足や不要な機能の追加など、結果としてシステムが業務に合わないという事態に陥ることがあります。
また、業務の最適化や統一化ができていないという課題もあります。既存の業務フローをそのまま新システムに適用しようとすると、非効率な部分がそのまま残り、システム導入の効果が半減してしまうでしょう。さらに、開発ベンダーとのコミュニケーション不足や要件の曖昧さにより、期待通りのシステムが構築できないケースも見られます。

システム導入を成功に導くプロセス

システム導入を成功させるためには、適切な手順で進めることが重要です。ここでは、システム導入を成功に導くための具体的なプロセスについて解説します。

手順1. システム導入の目的を定める

システム導入を進めるにあたって、まずは導入の目的を明確にしましょう。目的が曖昧なままでは、選ぶべきシステムやプロジェクトの進め方が定まらず、導入後の効果も期待できません。具体的には、「業務効率化」「コスト削減」「顧客満足度の向上」などの目的があります。目的を明確にすることで、関係者全員が同じゴールを共有し、一貫性のあるプロジェクト推進が可能になります。

手順2. システム導入の範囲や規模を決定する

目的が定まったら、次にシステム導入の範囲や規模を決定します。導入するシステムが適用される部門や業務などを確認しましょう。範囲や規模が明確でない場合、予算やリソースの配分が不適切になり、プロジェクトが頓挫する恐れもあります。具体的には、全社規模または特定部門のみの導入であるかによって、必要な機能やサポート体制も変化します。

手順3. 課題の洗い出しと整理をする

システム導入前に、現行の業務プロセスやシステムにおける課題を洗い出し、整理することが重要です。これにより、現行システムのどこに問題があるのか、どのような改善が必要なのかが明確になります。「入力作業に時間がかかりすぎる」「エラーが頻発する」「データの一元管理ができていない」など、具体的な課題を把握することで、導入後の目標設定を行いやすくなります。

手順4. 要件定義を行う

次に、システムに求める要件を整理します。要件定義とは、システムが実現すべき機能や性能、操作性などを具体的に記述するプロセスです。要件定義が不十分な場合、導入後に期待していた機能が不足している、あるいは過剰な機能が搭載されているといった問題が発生しかねません。業務プロセスを自動化するための具体的な機能や、データのセキュリティ要件などを詳細に記述しましょう。

手順5. ベンダーを選定する

作成した要件に基づき、システムベンダーを選定します。ベンダー選定では、提供するシステムの機能のほか、サポート体制や導入実績、費用対効果なども考慮する必要があります。

適切なベンダーを選定することで、導入後のトラブルを最小限に抑え、スムーズな運用を実現しやすくなります。複数のベンダーから提案を受け、見積もりを依頼してみると良いでしょう。デモや試用が可能であれば実施し、事前に実際の操作性やサポートの質を確認した上で、自社の要件に合ったベンダーを選定することが重要です。

手順6. プロジェクトの進め方・スケジュールを立案する

ベンダーが決定したら、次にプロジェクトの進め方とスケジュールを立案します。具体的には、各フェーズの詳細なタスクやリソースの配分、リスク管理などを行います。具体的なスケジュールを立てることで、各段階の進捗を管理しやすくなり、プロジェクト全体を効率的に進めることが可能です。初期設定やカスタマイズ、トレーニング、テスト運用などの日程を詳細に決めておきましょう。

手順7. 試運転後にリリースと本運用を行う

実際にシステムを導入する際には、いきなり本運用に入るのではなく、まずは試運転(パイロット運用)を行うことをおすすめします。これにより、実際の業務でのシステムの動作を確認し、問題点を洗い出して改善できます。試運転が成功した後にシステムをリリースし、本運用に移行します。この段階で初めて全社員がシステムを使用することになるため、運用初期のサポート体制を整えておくことが重要です。

手順8. システム定着のサポートを行う

本運用が開始された後には、システムがスムーズに定着するようサポートを行うと良いでしょう。新しいシステムに慣れてもらうための社内トレーニングや、操作マニュアルの作成、定期的なフォローアップなどが必要です。例えば、定期的にユーザートレーニングを実施し、質問やトラブルに迅速に対応することで、システムの利用率を高められます。

手順9. システム導入の効果を測定する

システム導入は、運用保守と効果検証を行っていきます。システム導入の効果を測定し、導入前に設定した目的や目標が達成されたかどうかの評価を行い、必要に応じて改善策を講じましょう。効果測定では、業務の効率化や生産性の向上、コスト削減などの定量的なデータを収集・分析することがポイントです。例えば、導入前後での業務時間の比較や、エラー発生率の変化を測定し、システム導入の成功を評価することも一つの方法です。

システム導入で失敗しないためのポイント

システムの導入は、企業の効率化や競争力向上において重要な役割を果たしますが、適切に準備し実施しなければ、失敗するリスクもあります。ここでは、システム導入を失敗しないための3つのポイントをご紹介します。

目的に沿って要件の優先順位を整理し、チームで共有する

システム導入の際には目的設定と要件定義を行いますが、すべての要件を同時に満たすことは難しいため、優先順位を明確にすることがポイントです。これにより、限られたリソースの中でもっとも重要な要素に集中でき、効率的なプロジェクト進行が可能になります。目的を達成するために必要な要件をリストアップし、それぞれの優先順位をつけましょう。例えば、新しい顧客管理システムを導入する場合には、次のような要件の優先順位が想定されます。

  1. 顧客データの一元管理
  2. データ分析機能の強化
  3. カスタマイズ可能なレポート機能の検討

重要度の高い要件を明確にすることで、プロジェクトチーム全体が同じ目標に向かって動きやすくなります。

 

業務に適したシステムを選定し、ベンダーと協力して自社の課題に対応する

システム導入を成功させるためには、自社の業務に適したシステムを選定し、信頼できるベンダーと協力して自社の課題に対応することが重要です。システム選定の際には、ベンダーのサポート体制や導入実績、カスタマイズの柔軟性なども重要な選定基準となります。

具体例として、製造業であれば生産管理システムが必要となることが多いでしょう。この場合、実績のあるベンダーを選び、システムのデモやトライアルを通じて、自社の生産プロセスにどれだけ適合するかを確認する必要があります。

また、ベンダーとの協力体制を築くこともポイントです。導入時の課題や要望を共有することで、最適なソリューションを提供してもらいやすくなります。また、定期的なミーティングを行い、進捗状況や課題解決策を共有することで、導入後のトラブルを未然に防ぐことにもつながります。

導入後の管理体制を整備する

システム導入が完了した後も、適切な管理体制を整備することが求められます。導入後の運用や保守、トレーニング、サポート体制を確立することで、システムが効果的に活用され、長期的な成功に寄与します。例えば、新しい販売管理システムを導入した場合、営業部門とIT部門の連携を強化し、システムの利用方法やトラブルシューティングを行うサポート体制を整備するといった方法です。

さらに、システムのパフォーマンスや効果を定期的に評価し、必要に応じて改善策を講じることも重要です。導入後のシステムの利用状況や効果を分析し、改善が必要な点を見つけて対応することで、継続的な業務改善を図りましょう。

まとめ

新しいシステムを社内に導入することは、企業成長にも大きな影響を与える重要な取り組みであり、多くの時間とリソースを投入するプロジェクトといえます。システム導入を成功させるためには、導入プロセスを理解することや、取り組むべき要件に優先順位をつけること、導入後の管理体制を整え効果測定や改善を継続的に行うことが重要なポイントです。

適切なプロセスに沿って、自社に最適なシステムを導入し、業務効率化やコスト削減などの課題解決を目指しましょう。

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