以前は、大企業によってERPの導入が多く進められていましたが、近年は中小企業においても普及が進んでいます。しかし、たくさんの製品がある中で、どのように選べばいいのかが分からない方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、中小企業がERPを導入する際に押さえておきたいポイントを解説いたします。
なぜ、中小企業にもERPが必要なのか?
近年は労働人口の減少が刻々と進み、日本における働き手は減りつつあります。中小企業においても人手不足が深刻化する中、機械にできる業務は任せるべきでしょう。
また「ビックデータ」と言われるように、企業が扱うデータの量が指数関数的に上昇しています。そのような時代背景の中、各部門に散在しているデータを一つのシステムで管理できるのが「ERP」なのです。
従来は、大企業を中心にERPの導入が進められていました。主にSAPやOracleといった高コスト・多機能なシステムが多くを占めていたため、予算が比較的少ない中小企業にとって、導入のハードルが非常に高かったのです。
しかし近年は、比較的安価なクラウド型のサービスが登場してきたこともあり、低コストでERPを構築できる環境が整ってきました。加えて、「Dynamics365 Business Central」のような、中小企業向けのERPもラインナップされてきています。
結論として、労働人口の減少や取り扱うデータの増加といった環境変化のほか、低コストで製品を導入できるようになったことから、中小企業においてもERP導入の重要性が高まってきているのです。
中小企業がERPを導入する前にやるべきこと
中小企業がERPを導入する前に、自社でやるべきことがあります。では、具体的に何をすればいいのでしょうか?
自社で抱える課題の整理
中小企業がERPを導入する前にすべき重要なことは、「課題の整理」です。そもそも、自社で求めているものが分からなければ、最適な製品は選べません。
課題としてよく挙げられるのは、「システム間の連携ができていない」「二重入力の手間が発生しているため、リアルタイム分析ができていない」といったものです。
ほかにも、自社のITシステムが増加してきた結果、管理コストや業務負担が増えている中小企業も存在します。また、比較的早くから内部統制に取り組むためにERPを導入することもあるでしょう。
導入方針の決定
課題を整理したら、次にシステムの導入方針を決定しましょう。具体的には、スケジュールの作成・ゴールの設定・プロジェクト担当者の任命などです。
スケジュールの作成においては、いつ頃までに導入を完了させておきたいかを、大まかに決定しておきましょう。期間を設定しておかないと、プロジェクトの遅延につながってしまいかねません。
ゴールの設定においては、システム導入後にどのような姿になっているのが理想なのか、を形にしていきます。目標の達成度合いを数値で表せる、「KPI(最重要業績評価指標)」を設定するのも一つの手です。
最後に、プロジェクトの担当者を任命します。システムの選定から導入完了まで、誰が責任をもって進めていくのかを明らかにしておくことが大切です。
中小企業に適したERPの選び方
導入方針を大まかに決定したら、次に要件定義と製品選定の段階へ移ります。要件定義とは、自社がシステムに求めているものを、仕様としてまとめていくことです。
実際には、製品を比較しながら自社の要件を作り上げていくことになるでしょう。確認したいポイントは、以下の4つです。
- 自社の規模や業態に合っているか
- 自社に必要な機能は備わっているか
- クラウド型か、オンプレミス型か
- 使いやすさに優れているか
自社の規模や業態に合っているか
中小企業がERPを選ぶ際は、会社規模や属している業態にマッチしているかどうかをチェックしましょう。
当然、大企業と中小企業では導入すべき製品が違います。前者ではSAPやOracleのような大規模ERPが、後者ではFujitsuやOBICをはじめとしたERPが多く導入されています。
また、導入事例として同じ業態の会社が紹介されていることも。そのシステムがどのような企業をターゲットにしているのかを、選定の段階でしっかりと確認しておきましょう。
自社に必要な機能は備わっているか
中小企業におけるERPの選定において、搭載する機能も注視しておくことが大切です。一般的に機能が多ければ多いほど、価格も高くなる傾向にあるので、必要最低限に収めるのが望ましいでしょう。
ERPにおける代表的な機能は以下です。
- 生産管理機能
- 販売管理機能
- 会計管理機能
- プロジェクト管理機能
- 製造管理機能
すべての中小企業で上記の機能が必要になるとは限らないので、各製品で何ができるのかをチェックすることが必要です。後々にカスタマイズも行いたいと考える方は、要件に合わせて個別対応ができる会社を選びましょう。
クラウド型か、オンプレミス型か
ERPには、クラウド型とオンプレミス型の2種類があるのが特徴。中小企業であれば、クラウドERPの導入がおすすめです。
クラウドERPとは、自社内にシステムを保有せず、ベンダーが所有するサーバーへアクセスして使えるERPのことです。一からシステム構築をする必要がないため、初期コストを大きく抑えられるほか、運用開始までの時間を短縮できます。
一方でオンプレミス型のERPは、初期費用や導入時間こそかかりますが、自社の要件に合わせて柔軟にカスタマイズしやすいのがメリット。業態や企業特有の業務プロセスに合わせたシステムを作り上げられます。
中小企業であれば、組織の柔軟性に優れていることが多いため、コストがかからないクラウドERPを導入する傾向が強いです。導入後の規模拡大に合わせて、段階的にオンプレミス型ERPへ乗り換えるのもよいでしょう。
使いやすさに優れているか
ERPを導入した後、実際に利用するのは現場の従業員やシステム担当者です。価格や導入のしやすさはもちろんですが、その後の運用も見据えて選定していきましょう。
具体的には、デモを活用して試運転できるサービスだと、より現場をイメージしやすくなります。また導入後のサポート体制があれば、システム担当者やプロジェクト担当者が安心して利用できます。
加えて、コミュニティが活発であるかどうかも着目すべきポイント。専門家の助言やアイデアを参考にすることで、新しい知見を得られるのです。
【従業員別】中小企業がERPを導入する際に意識すべきポイント
ひとえに中小企業といっても、会社によって従業員の規模はさまざまです。ここでは、従業員別におけるERP導入時のポイントについて解説していきます。
100名未満の企業
従業員が100名未満の会社で、特に成長途中であれば、コア事業への投資がかさみやすい傾向にあります。業務効率の改善に向けたシステム導入へは目が行きづらく、属人化している業務が多々あるのも現状です。
そのため、自社に散在しているデータを集約するためのERP導入がメインになるでしょう。
導入時は、「どのようなデータを管理したいのか」を明確にすることが重要です。「どんなデータでもいいから、とりあえず一元管理していこう」という意識だと、無駄な業務が発生したり、社員のモチベーション低下につながったりしてしまいます。
スタートアップやベンチャー企業であれば、会社の環境変化が非常に速いので、システム導入もスピーディーに行うのがよいでしょう。
100~300名の企業
100~300名の中小企業であれば、中間管理職が多く在籍し、財務システムや販売システム、勤怠管理システムなどが各部門で導入されていることが多いです。部門ごとの業務がある程度効率的に進み、滞りなくシステムへデータが溜まっていきます。
しかし、プロジェクトや部門ごとの成績を確認しようとしたときに、個別導入したシステム間のデータを集計しなければなりません。その作業は非常に煩雑なため、別途でエクセルの表を作っている企業も多いことでしょう。
そのため、100~300名規模の中小企業がERPを導入する際は、「データ統合をいかに実現できるのか」が焦点になります。各部門の担当者を巻き込み、全社的に導入プロジェクトを推進していくことが望ましいです。
ERPの運用時に業務フローの変更が伴うこともあるので、現場の従業員とよく話し合って進めていくことが大切です。
300名以上の企業
300名以上の従業員規模となると、親会社や子会社、複数の支社など、組織形態がより複雑になりがちです。現状のシステムが組織の拡大前に導入したものだと、業務フローと合致せずに非効率さを感じてしまいます。
300名以上の場合は関わる従業員も多いことから、システム選定に慎重になる必要があります。ERP導入のコンサルタントを招集したり、経営陣を参画させたりしながらプロジェクトへ取り組みましょう。
また、導入・運用の規模が比較的大きいのが特徴です。そのため、「セキュリティ対策はしっかりしているか」「自社で求めている品質を満たしているか」といったことも確認することが重要です。長期的な目線で信頼できるパートナーを見つけると、ERPの運用で失敗しないでしょう。
中小企業においてERPの導入に成功した事例
中小企業でERPの導入に成功した事例として、スウェーデンの「iQFuel」社についてご紹介します。
iQFuel社はエナジードリンクの販売を行い、より健康志向な機能性飲料の普及を目指しています。同社はベンチャー企業であり、非常に速いスピードで事業が成長していったのです。その結果、社内の全員が協力して進められるようなITシステムが必要になりました。そこでiQFuel社は、Microsoftの中小企業向けERP「Microsoft Dynamics 365 Business Central」を導入したのです。
導入後は、事業の全体像を日ごとや時間ごとに追うことが可能に。最終的に、注文数が15%増加し、売上が10%増加しました。
中小企業におけるERPの導入で失敗しないためのポイント
大企業よりはリスクが低いとは言っても、中小企業においてもERP導入の失敗は避けたいものです。ここでは、具体的なポイントを2つご紹介いたします。
システムと業務プロセスの相違に折り合いをつける
ERPを導入することで業務の効率化を図れますが、すべてが思い通りにはいかない点に注意しましょう。なかには、システムのフローに合わせて業務プロセスを変更させる必要が出てくることもあります。
特にクラウドERPだと、基本的な機能はパッケージとして提供されているため、細かなカスタマイズは難しい傾向にあります。業界の商習慣が独特な場合や、どうしても業務を変更したくない場合は、一部で導入しないなどの折り合いをつけることが大切です。
もし予算や時間に余裕があるときは、カスタマイズがしやすいオンプレミス型ERPの導入を検討してみてもよいでしょう。
経営者や従業員を巻き込んで進めていく
ERPを導入するとなると、従来のシステムからの切り替えが生じるため、運用にあたって従業員に大きな負担がかかります。従来以上に慎重なデータ入力が必要になったり、セキュリティに気を遣ったりする必要があるのです。
急激な変化をもたらさないよう、製品の導入段階から従業員を巻き込んで進めましょう。「なぜ導入するのか」「導入することによって、どのような変化があるのか」をしっかりと伝えていくことが重要です。
また、大きなプロジェクトであればあるほど、経営陣の協力が欠かせません。「意思決定者にとってどのようなデータが必要なのか」「どれくらいの頻度でデータを確認したいのか」といった情報をヒアリングすることがポイントです。
システムの統合を目指すには、部門間や階層間の連携が必要不可欠。社内でのコミュニケーションを意識していくことが、失敗しない秘訣です。
中小企業向けのERPを導入して、DXを促進しよう
この記事では、中小企業がERPを導入する際にやるべきことや、製品の選定方法などについてご紹介しました。まず製品を選ぶ前に、「どのような課題があるのか」「導入に向けてどのように進めていくのか」を明らかにしましょう。
ERPには「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類がありますが、予算をできるだけ抑えるにはクラウド型の導入がおすすめです。ただ、カスタマイズ性に優れないので、余裕がある場合はオンプレミス型ERPの導入も視野に入れるべきです。