データセンターの利用経験はありますか?現代ではクラウドサービスの利用が多くなっていますが、ITインフラをデータセンターに設置することは今も変わらず可能で、利点もクラウドを利用するより多い場合もあります。本稿では、特に中小企業でのデータセンター利用にあるメリットとあわせて、多く挙げられる課題とその解決方法、さらにデータセンターとクラウドサービスの特徴も含めて紹介します。
1. データセンターとはなんでしょう?
「データセンター」という言葉にどのようなイメージを持ちますか?データセンターに実際に入室したことがある読者の方もいらっしゃるかもしれません。「サーバやストレージ、ルータなどのIT機器を集約設置し、効率よく運用するために作られた専用施設」をデータセンターといいます。まとめて自社のIT設備を設置することができ、それ専門の設備ならではのメリットがあります。
地震や停電などの災害やネットワーク障害に強く、異なる通信事業者の回線の利用が可能なだけでなく、IT機器にとって最適な空調が整えられているという特徴もあります。
本格的なデータセンターの稼働が始まったのは1995年頃といわれています。その後、第一次データセンターブームが2000年ごろに起こるなど、2022年現在でもIT技術の発展と共に成長を続けています。元々はにオンプレミス環境を自社内に持っているのが当たり前という時代から、自社内に設置されたコンピュータ室、そしてデータセンターへの移行を通り、ハイブリッドやクラウドへと現代へ進化してきました。
近年、出現しているMS365やiCloud、Googleクラウドなどのクラウドサービスにより、直接的にデータセンターをビジネス利用においても意識することは少なくなりつつあります。しかし、バックグラウンドで稼働しているのは物理機器であるという点はどのようなサービスの利用にも共通しており、ほとんどの場合、物理機器が設置されているのはデータセンターです。
データセンターを利用するとなると、通常はサーバラックを借用することになります。サーバラックがサーバルーム内には立ち並んでおり、より厳重なセキュリティがエリアによってはかけられていることもあります。自社の設備を、データセンターの担当部署によって割り当てられたラックに搭載し、配線することでシステムの利用が可能になります。ラックの1エリアに1台のサーバをマウントするのが従来では主流でしたが、ブレードサーバという、4エリアを占拠して16台のサーバを縦に並べて設置が可能など、効率化をさせていた時代もありました。
2. 中小企業でのデータ管理とその課題
それでは、中小企業でのIT環境の状況について考えてみましょう。業界や業務形態によって、中小企業といっても様々ではありますが、典型的な中小企業では小さなラックを自社に持ち、IT環境を整備していたり、より小さな規模の企業である場合には、サーバやネットワーク機器を床に置いていたりするのが一般的です。
物理的なIT環境が社内に整備されていることで、自社の環境がおかれている状況を把握しやすく、運用にかかわる細やかな制御や変更もしやすいなどのメリットがあります。しかし、その一方で、課題もいくつかあります。物理障害が管理している機器に起きることや、回線障害などが、オフィスに引き込める回線が弱いために起きやすく、特に現代のようなアフターコロナと呼ばれるハイブリッドワークの場合も、障害が起きたときに現地に行く必要がでてくるなどの働き方との相性に合いづらさが出ています。
中小企業とはいえ、データ管理に着目してみれば、自治体や業界標準として定められている様々なレギュレーションに従う必要があり、物理からアプリケーションレベルまで、自社の少ない人員によって幅広いレイヤでセキュアに保つのは簡単ではありません。加えて、IT環境をセキュアに保つためには、運用面においても、定期的なパッチの適用や、障害有無の監視、場合によってはアクティビティの監視などIT担当者の負担が大きくなりがちといえるでしょう。
また、災害が起こった場合の耐性は自社内にIT環境を保持している場合には、弱くなってしまいます。オフィスごとIT環境も利用できなくなってしまっては、リモートでの業務もできなくなります。ビジネスが完全停止する事態にもなりかねません。最悪の場合、ゼロからIT環境を作り直す必要があり、復旧するためには多大な労力がかかります。
3. データ管理の課題への解決策
データセンターの利用は、前述した課題の解決策の1つです。ITインフラをデータセンターに設置することにより、最適な環境で機器の運用ができるので、障害の発生率もオフィス内に設置されている場合に比べて比較的減少することが期待できます。
加えて、データセンターにはほとんどの場合、あらかじめ複数の業者から回線が引き込まれているので、スムーズに回線工事が進められ、ときには容易にバックアップ用に別業者の回線を利用することもできることがあります。
データセンターによっては、パッチの適用や簡単な物理交換作業であれば対応してくれるところもあるので、小規模で担当人員の少ない組織においては工数を削減できるというメリットもあります。設計されたものは機密性の高いデータを扱う用であることや、物理的なセキュリティもかなり厳重ですし、災害への対策も前述の通り、レベルは高くなっています。災害がデータセンターのある地域で発生したときはもちろん、リモート接続できる環境はオフィスが利用できなくなっても維持されますし、データセンター内で物理交換が完結する場合もあるので、リスクの軽減ができます。
障害が起きた場合やデータ取り扱いの責任範囲が、クラウドサービスと比較すると、引き続き自社側に残るという点が大きくあります。クラウドサービスでは満たすことのできない要件についても柔軟に取り扱うことができますし、自前のインフラで利用できる最小限の冗長構成をつくれば、中小企業が扱うデータの規模ならばリスクを十分に低減することができるでしょう。
付随するメリットとして、IT機器がオフィス内に設置されていたスペースがあくので、その分を他に活用することができます。規模が大きくない中小企業にとっては、有効活用できるスペースが増える方がよいでしょう。データセンターを利用するには費用がかかりますが、同時にそれによって抑えられるコストもあります。ですから十分な価値があるかどうかを検討する段階で、見極めることが必要です。また、提供しているサービスや料金体系もデータセンターによって様々なので、利用したい地域ごとにリサーチを行ってください。
4. データセンターとクラウドサービス
前項にもありましたが、企業はクラウドサービスを利用することが主流のなかで、あえてデータセンターを選択するメリットについて考えてみましょう。アプリケーション上のデータ以外は、クラウドサービスの中でも主にSaaSを利用すればほとんど意識することなく利用できます。単純に社内のITインフラをアウトソースしたいということであれば、導入も比較的手軽で費用も最小限に抑えられるクラウドサービスを選択するのがよいでしょう。安全性は各クラウドベンダーも昨今では様々な厳しいレギュレーションの基準を満たしていますので、高いといえます。
一方で、データセンターの利用よりカスタマイズ性においては劣る部分があります。提供されるものを利用するのが基本なので、細かくこの部分をこうしたい、といった要望を叶えるのは難しくなります。クラウドサービスの利用はサイバー攻撃者に狙われるリスクが高まります。サービスを提供している業者のサーバをほかの顧客と相乗りで利用するということになるためです。相乗りしている顧客がたまたまセキュリティのリテラシが低くかった場合、自社ではセキュアな設定で利用できていても情報が漏洩するリスクは存在します。
データの取り扱いはあくまでクラウドサービスベンダーに委ねられるので、クラウドサービスを利用することで解決できる場合も多くあるものの、機密性の高いデータや個人情報を扱うときに必要な要件を満たしていない場合には利用すべきかどうかをじっくりと検討することをおすすめします。
また、提供方式によってクラウドサービスにもいくつか種類があり、サービス提供者の責任範囲が前述のSaaSよりも狭くなる順に、PaaS、IaaSがあります。インフラよりも上位のレイヤはIaaSを利用する場合にはすべて自社で責任を持つ必要があります。その分カスタマイズ性は確保できますが、サービス提供者が仮想環境を作ってインフラのレイヤを提供しているケースがほとんどなので、同じ物理サーバに複数の利用者が相乗りしていることに変わりはないことを認識しておくとよいでしょう。
5. まとめ
今回は、データセンターを中小企業が利用するメリットを紹介しました。データセンターを利用するメリットは、クラウドサービスが主流になりつつある現代においても、たくさんあります。現在自社内にIT機器を保持している企業が取り扱っているデータの性質を鑑みたときに移行に課題がある場合には、クラウドへの移行よりもデータセンターの利用を検討するのがよいかもしれません。クラウドが主流である時代は今後もしばらく続くことが予想されますが、トレンドの枠にとらわれず、自社に必要なものは何かをそれぞれの特徴から考えることがビジネスを最適化する近道になります。今回の投稿を中小企業の皆様の参考にしていただければ幸いです。