近年、クラウド型の製品が多くラインナップされてきたこともあり、中小企業であってもERPを導入しやすい環境が整ってきました。一方で、「導入したところでどのような効果があるのだろうか」「自社の予算内で導入は可能なのか」といった疑問を抱える方も多くいらっしゃいます。

そこでこの記事では、中小企業がERPを導入する目的や、導入費用、導入までに準備すべきことを解説。ぜひこの記事を参考に、ERP導入を前向きに検討してみてください。

中小企業がERPを導入する目的

中小企業がERPを導入する目的

ここでは、中小企業がどのような目的でERPを導入するのかについて、3つのポイントで解説いたします。

データ利活用の促進

近年は、ビッグデータやAIがバズワードになっているように、データドリブンで業務を遂行する重要性が高まっています。そこで、ERPを導入して各部門の業務システムを連携させ、全体最適でデータ活用を進める中小企業が増えてきています。

ERPを導入することで、各部門で収集した情報を吸い上げ、経営ダッシュボードにてデータを確認することが可能です。在庫情報や売上情報、受発注情報などをリアルタイムで表示し、複合的に分析することで、より的確な意思決定ができます。

近年では、業績を急速に拡大させているスタートアップ企業から、安定した需要で何十年も続いている小企業まで、データ活用を目的にERPを導入するケースが増えてきています。顧客ニーズが多様化している現在では、いかにデータを活用して、ニーズを紐解いていくかが求められているといえるでしょう。

業務の効率化

「異なるシステム間で同じデータを二重入力する必要がある」「社内のワークフローが非効率」といった課題を抱える中小企業が、業務効率化を目的にERPを導入するケースも見受けられます。

たとえば、販売管理システムで入力したデータを、そのまま会計システムへ反映させる、といったことが可能です。また、見積の承認基準や発注のタイミングなど、部署ごとでバラバラになりやすい業務を統一することもできます。

従来の紙やエクセルを使った業務フローだと、どうしてもフロー管理があいまいになりやすく、時間の経過とともに非効率さが生まれてしまいがちです。対してERPでは、システムのフローと業務フローが常に一致しているため、効率的な業務管理を実現できます。

ITコストの削減

会計管理システム・販売管理システム・人事管理システムなど、社内のITシステムが増えるにつれ、ITの運用・維持コストが増大している中小企業が増えてきています。そこで、ERPを導入し、システムの運用・保守の一元管理を実現しようとする流れが出てきているのです。

ERPでは、販売・製造・経理・人事・債務・債権など、幅広い業務の情報を統合的に管理できます。ERPとしてひとつのシステムで管理することで、複数のベンダーへ保守費用を支払ったり、システムごとに保守担当者を配置したりする必要がなくなり、運用管理を大幅にスリム化できるのです。

クラウド・SaaSなど、低価格で導入しやすいサービスが増えてきた現在、既存の業務システムを見直す動きが中小企業の間でも広がっています。ERP導入によって、一元管理を実現し、維持費を大幅に削減することが可能です。

中小企業のERP導入にかかる費用

中小企業のERP導入にかかる費用

ここでは、中小企業がERPを導入する際にかかる費用の種類や内訳について解説いたします。

クラウドERP・オンプレミスERPの価格の違い

ERPには、「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類があり、それぞれで初期費用や運用費用が大きく異なります。一般的に、クラウドERPの方が、初期費用を大きく抑えられるため、予算を割けない中小企業にとって導入しやすい形態です。

以下では、クラウドERPとオンプレミスERPでかかる費用の内訳や、具体的な金額相場を解説します。

クラウドERPの価格

クラウドERP導入にかかる費用の内訳は、初期導入費用・ライセンス費用・月額利用料の3種類です。

とくにクラウドERPは、初期導入費用が非常に安く、ユーザー数によっては安くて無料~数万円で済ませられることもあります。ただし、自社に合わせてカスタマイズをすると、クラウドERPであっても高額な導入費になることがあるでしょう。

加えて、要件定義のコンサルティングをお願いしたり、ベンダーへERP教育を依頼したりすると、追加料金がかかる点に留意が必要です。

ライセンス費用は、ERPを利用する事業所やユーザーごとにかかる利用料を指します。初期費用として発生する場合がほとんどですが、なかには月額利用料として請求されることもあるので、よく確認しておくことが重要です。

クラウドERPにおいては、事務所ごとにかかる「法人ライセンス」、ユーザー数に合わせてかかる「ユーザーライセンス」の2種類が適用されることが多いです。利用する事業所やユーザー数によって変動するめ一概には言えないですが、数十万~100万円前後が相場と考えてよいでしょう。

月額利用料は、ソフトウェアの保守費用やデータセンター利用料など、ERPの運用にかかる費用です。ソフトウェアの保守費用は、ライセンス費用に一定の料率をかけて計算されることが多く、データセンター利用料は、月額固定で決まっている場合が多いです。

上記の初期費用をすべて足し合わせると、安くて数十万円~で利用が可能。クラウドERPは導入費用が非常に安い分、ランニングコストがやや高めになりがちな点に注意が必要です。

オンプレミスERPの価格

オンプレミスERP導入にかかる費用の内訳は、ハードウェア購入費用・導入サポート費用・ライセンス費用の3種類がメインです。

ハードウェア購入費用においては、自社内に構築する、サーバーや開発機器、その他ネットワーク機器の調達にかかる費用が内訳になります。中小企業においては、開発機1台と本番機1台が基本的な導入環境で、10万~100万円程度が相場です。

導入サポート費用においては、開発や改修にかかる人件費が主な内訳になります。導入規模や期間によって大きく変動するため、一概には言えないですが、1,000~2,000万円程度を見積もった方がよいでしょう。さらに、カスタマイズしたり拡張機能を加えたりする場合は、追加で100万~1,000万円程度が必要になることもあります。

オンプレミスERPにおけるライセンス費用は、クラウドERPと同様、法人ライセンスやユーザーライセンスを足し合わせて計算することが多いです。相場は、10万~100万円前後になります。

その他では、ERPの操作方法をはじめとした教育費用に10万~100万円前後かかります。

総額では、導入費用に3,000万円程度を要すると考えるのが妥当です。オンプレミスERPは、初期費用が高額になりがちですが、その後の運用にかかる費用を大きく抑えられるのがメリットです。

ERPの費用支払いのパターン

中小企業がERPを導入するにあたって、どのような支払い方法に対応しているのかについても、チェックすべき重要なポイントです。

ERPベンダーによっても異なりますが、基本的には、前払い・分割払い・後払いの3種類に対応していると考えてよいでしょう。一度にまとまった金額を捻出することが難しければ、分割払いにすることで、少額からの導入が可能になります。

ただし、企業の信用力によっては、後払いや分割払いを受け付けてもらえない可能性もあります。検討するベンダーとよく話し合って、支払いをどのように進めていくのかについても忘れずに確認を取りましょう。

中小企業におけるERP導入の手順と、準備すべきこと

中小企業におけるERP導入の手順と、準備すべきこと

ここでは、中小企業がERP導入を進める手順や、ユーザー側で準備すべきことについて解説します。

1.自社で抱える課題の確認

まず、自社で抱える課題を確認・整理していきます。ERPを導入するということは、「何かしらの課題を抱えていて、それを解決したい」というニーズが少なからずあるので、それらを明文化していきます。

課題として挙げられるのは、以下のようなものです。

  • 社内のシステムが分断化され、連携が取れていない
  • データ入力のフローやルールが、部署や拠点ごとでバラバラになっている
  • 経営レポートの作成に時間がかかり、意思決定スピードが遅い
  • 自社でDX化を進めたい
  • ビッグデータを活用して分析を進めたい

課題を明文化する際は、できるだけ具体的に記載するようにしましょう。ただ単に「DX化を進めたい」とするのではなく、「具体的に、どのような部署や業務でデジタル活用が進んでいないのか」「なぜそれが課題となっているのか」といった部分までクリーンにすることが重要です。

課題や目的をより具体化することで、ベンダーと話し合う際に、自社の要望や期待を再現度高く伝えることができます。

2.ベンダーの選定

次に、自社に合うベンダーを選定していきます。具体的には、「RFI(情報提供依頼書)」と、「RFP(提案依頼書)」の作成・提出を行います。

RFIは、ベンダーの会社情報や製品情報、導入実績など、基本的な情報提示を求めるための依頼書です。具体的には、自社の導入目的や適用範囲を記載し、具体的に導入予定がある旨を伝えます。

RFIを複数のベンダーへ発行した後は、通常1~2週間程度で返答が届きます。ユーザー側は、送られてきた事例集やパンフレット、参考価格などの情報をもとに、検討ベンダーをさらに絞り込みます。

RFPは、RFIよりもさらに踏み込んで、自社で求める機能要件や実現したい業務などを記載し、ベンダーへ示すための書類です。具体的には、以下のような内容を記載します。

  • 導入課題・目的
  • 予算
  • 導入スケジュール
  • 機能要件
  • 実現したい業務
  • 社内のチーム体制

自社で発行したRFPにもとづき、検討先ベンダーが最終的な提案書類を作成します。そのため、ベンダーからよりよい提案を引き出すために、数値や5W1Hなどを用いて、より具体的に作成することがコツです。

3.要件定義の実施

ベンダー選定と並行して、ERPの要件定義を進めていきます。

要件定義のプロセスは、ベンダー側ではなく、自社側で主体的に取り組んでいくことが大切。なぜなら、ベンダーは自社の実情をよく理解していないため、具体的な数値やゴールを共有していないと、あいまいなままに機能が実装される可能性があるからです。

具体的には、自社で実現したい業務とERPの機能を比較して、フィットするかしないかを見極めます。これを「フィット&ギャップ分析」と呼び、理想と現実の差を埋めていくための作業を進めます。

たとえば、ERPで会計管理の機能を実装するときは、マスターデータの整理や、ほかの業務システムとの連携確認、フォーマットの確認など、細部まで詰めていく必要があります。その際にベンダーと話し合い、現行の業務へ、ERPをどれだけフィットさせられるかを判断していくのがポイントです。

フィットしない場合は、「既存の業務を変更する」「カスタマイズやアドオン開発を行う」のどちらかを選択します。

4.設計・開発・テスト

次に、ギャップとなった業務に対して、ベンダー主体で設計・開発を実施します。ユーザーは、ベンダーから提示された設計書を都度確認し、当初の期待と相違がないかどうかを確認していきます。

設計や開発が終わると、テストの段階に移ります。主に、ベンダー側で行う単体テスト・結合テスト・総合テストのほかに、ユーザー側で行う受入テストを実施するのが特徴です。細かな調整や確認が終わった後は、運用段階に入ります。

5.運用開始

最後に、本番環境で運用を開始していきます。具体的には、「テスト環境と同じように稼働しているか」「想定していた通りの業務フローが実現しているか」といった内容を確認し、イレギュラーや障害を記録・修正していきます。

運用開始から数か月間は、ベンダーのサポートを受けながら、自立して運用していくための慣らしを進めていくのがポイントです。その後、スムーズに運用できるようになってきたら、現状の業務フローを評価し、さらなる改善に向けてPDCAを回していきます。

ERPを導入して、自社の競争力を強化しよう

この記事では、中小企業がERPを導入する目的や、導入にかかる費用、具体的な手順について解説しました。ERPは大企業に必要なシステムだと誤解されがちですが、中小企業においても導入しやすく、活用の余地は多いにあります。

ERPにはクラウド型とオンプレミス型の2種類があるのが特徴。導入費用を最小限に抑えるのであれば、クラウド製品を選択するのがおすすめです。

今回ご紹介した導入手順や準備すべき内容を参考に、ぜひ、自社でもERPの導入を検討してみてください。

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