従来のERPは非常に高価であったため、中小企業による導入は非常に困難でした。しかし近年では、低価格な中小企業向けのツールが増え、容易に導入できるようになっています。この記事では、中小企業がERPを導入する必要性や、メリット・デメリットについて解説します。ERPが必要かどうかで悩まれている方は、ぜひ参考にしてみてください。
ERPとは
そもそもERPとは、「Enterprise Resources Planning」の略で、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源をうまく分配・活用していくための計画のことを指します。現在では、企業の経営資源を管理できるシステム自体のことをいう場合が多いです。以前は、大企業がERPを導入する傾向にありましたが、クラウドサービスの登場などにより、中小企業でも活用する事例が増えてきています。
中小企業が抱えがちな課題
ここでは、中小企業が抱えがちな課題を3つご紹介いたします。
少子高齢化による働き手の不足
少子高齢化の進行により、新規の働き手が不足していると感じる中小企業は非常に多いでしょう。せっかくビジネスチャンスがあっても、人手が足りないことで断念せざるを得なくなる事態が多々発生しています。
日本の人口は2008年をピークに、だんだんと減少し続けているのが現状です。この傾向は以降も続くと予想されており、2065年には9,000万人を下回ると推計されています。
現時点であっても、中小企業における人材不足の課題が顕在化しています。中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構による『中小企業景況調査』によると、2020年度における従業員の状況について、「不足」と答えた企業の割合が、「過剰」と答えた割合を大幅に上回りました。
参照:中小企業庁:『2020年版 小規模企業白書(HTML版)』
中小企業が今後も存続していくためには、人材獲得へこれまで以上に力を入れたり、ITシステムを活用して1人当たりの仕事量を減らしたりしなければなりません。
労働生産性の低さ
中小企業は大企業に比べて、全般的に労働生産性が低いという課題も同時に抱えています。人口減少が続いている昨今では、いかに1人当たりの労働生産性を向上させていくかが成功の可否を握ります。
財務省が発表した『法人企業統計調査年報』によると、従業員1人当たりの付加価値額は、大企業で1,300万円程度なのに対し、中小企業は550万円程度と大きく下回っています。理由として挙げられるのは、大企業よりも中小企業の方が機械設備への投資が少ないため、生み出すことのできる付加価値額も少なくなってしまうという見方です。
参照:中小企業庁:『2020年版 中小企業白書(HTML版)』
資金力が比較的小さい中小企業にとって、大企業並みの機械設備を導入することは難しいかもしれませんが、低コストのITシステムを導入することによって、労働生産性の向上を期待することが可能です。
社内システムの整備不足・老朽化
日々の業務に忙殺されている中小企業にとっては、業務システムを新しく導入したり、すでに老朽化しているシステムを改修したりすることは、「非常に手間がかかる」と感じることも多いかもしれません。しかし、いつまでもほったらかしにしていると、先述の「人手不足」や「労働生産性の低下」といった問題を引き起こしてしまうのです。
社内システムの整備・改修が進まない理由としては、多忙であることのほかに、「そもそも上司が必要性を感じていない」「新たに予算を割くことが難しい」といったことが挙げられます。社内システムの改革へ着手するには、中小企業に特有のさまざまな課題をクリアしなければなりません。
中小企業がERPを導入すべき理由
なぜ、中小企業がERPを導入すべきなのでしょうか。ここでは、2つの観点で解説いたします。
データを利活用する重要性が高まっているため
近年は「AI」や「ビッグデータ」など、企業が蓄積した大量のデータを活用するための技術がさまざまに登場しています。中小企業がデータを有効活用することで、データ入力やレポート作成といった定型業務を大幅に減らし、従業員の労働生産性を高めることが可能です。
ERPを導入すれば、財務部門・営業部門・人事部門・製造部門など、別々で管理していた情報を統合管理できるようになります。データがシームレスに連携・統合されるため、即座に分析レポートを作成したり、迅速に意思決定をしたりすることが容易になるのです。
中小企業における従業員の日々の定型業務を減らし、労働生産性を高めるためにも、データの利活用は欠かせません。そのために、分断化された情報を統合管理できるERPの導入が必要不可欠なのです。
中小企業向けのクラウドERPが増えているため
近年は、低コスト・短期で導入できるクラウドERPが多く登場しているため、中小企業が導入するための環境が整いつつあります。とくに最近は、「Microsoft Dynamics 365 Business Central」をはじめ、中小企業向けの製品が非常に増えているので、自社に合ったものを見つけやすいです。
クラウドERPとは、クラウド環境で利用できるERPのこと。サーバーやストレージといったハードウェアを自社で構築する必要がなく、サービスとしてインターネット経由で利用できるのが特徴です。
従来のオンプレミスERPでは、専用の機器を社内で構築する必要があったため、高額な初期費用や運用・保守費用がかかっていました。そのため、中小企業にとって手の届きづらいシステムとして認知されていたのです。
中小企業がクラウドERPを採用することで、予算の確保が難しかったり、工数を割けなかったりする場合でも、比較的少ない負担で導入することが可能です。運用に成功すれば、自社の競争力向上につながるでしょう。
中小企業がERPを導入するメリット
ここでは、中小企業がERPを導入するメリットを合計で3つ紹介します。
各部門のデータを一元管理できる
ERPを導入することで、営業・財務・人事・製造など、さまざまな部門に点在しているデータを一元管理できます。結果、異なるシステム間での2重入力の手間を減らしたり、部門間のコミュニケーションを円滑にしたりすることが可能です。
たとえば、営業マンが営業支援システムで見積書や請求書を作成した後に、自動で会計システムへ出力するといったことも行えます。データの整合性が取れているため、営業マンの入力ミスを減らすことができるのです。
また、それぞれの部門で蓄積するデータを確認して、コミュニケーションの材料に使うこともできます。ミーティングの際に、部門間で同じ数値データを用いて議論を進めたり、目標設定の際に、全体最適のKPIを決めたりできるのがメリットです。
迅速な意思決定が可能になる
ERPを導入することで、経営情報を素早く可視化できるため、迅速な意思決定が可能になります。結果、中小企業に強みの「機動力」を最大限に生かせるようになるでしょう。
企業が意思決定をする際は、各部門にあるシステムの蓄積データを収集し、それらをまとめたレポートを作成してから判断することが多いです。レポートの作成にかかる時間は、長くて数週間にも及ぶことがあり、意思決定までに多大な手間や時間を必要とすることが多いです。
ERPを活用することで、レポート作成時の手入力の手間を大幅に削減し、即座に経営状況を把握することが可能です。また、「ダッシュボード」機能により、事業のデータをリアルタイムで吸い上げて表示することもできます。
ビジネスの激しい競争環境を生き抜くためには、迅速な意思決定が欠かせません。中小企業がERPを導入することで、製品やサービスの素早い投入・改善ができるようになるでしょう。
内部統制を強化できる
ERPを導入すると、データの入力方法や保管場所が統一されるため、業務プロセスが明確になり、内部統制の強化につながるのがメリットです。従業員による不正や過失を防ぎ、よりスムーズな事業運営を進めることが期待できます。
とくに最近は、ハードウェアの紛失による情報漏洩や、企業が把握していないシステムでの個人情報の取り扱いなど、さまざまなリスクが潜伏しています。
内部統制を強化することで、企業のコンプライアンスを維持したり、社会的な信用の向上につなげたりできるのが魅力です。中小企業においても、十分に取り組む価値のある内容だといえるでしょう。
中小企業がERPを活用することで、全社的なアクセス権限の設定や、正しい財務データの把握が可能になります。内部統制を強化することで、事業をより前進させられるでしょう。
中小企業がERPを導入するデメリット
では、中小企業がERPを導入することにどのようなデメリットがあるのでしょうか。3つのポイントで解説します。
既存の業務フローと合致しないこともある
ERPを活用する際、既存の業務フローと合致しないこともある点に注意が必要です。基本は、システムの動きに合わせて業務を回さなければならないため、申請業務や承認業務のやり方が変わってしまう恐れがあります。
もちろん、個別にカスタマイズを行えば、自社の業務フローに合わせることも可能です。しかし、多額の費用がかかるうえ、システムの柔軟性が失われてしまうなどのデメリットが発生します。
解決策として、フローの変更が難しい業務を、ERPから切り離して運用する方法があります。ERPをすべてに適用するのではなく、自社の状況に合わせて適用範囲を定めることで、より効率的な運用が可能です。
社内で混乱が生じる可能性がある
ERPは、営業や財務、販売など、さまざまな部門に適用されるシステムのため、導入や運用に際して多くの人がかかわることになるでしょう。その際に、部門間や上下間でのコミュニケーションがうまくいかないと、混乱状態に陥り失敗してしまう可能性もあります。
ERP導入までの期間が長引けば長引くほど、コストや時間が多くかかってしまい、投資対効果を見いだせなくなってしまうでしょう。
対策方法としては、ERP導入のプロジェクトチームを立ち上げる、トップダウン形式で進めていく、などのやり方が考えられます。いずれにせよ、社員全員が協力して導入や運用を進めていくことが重要です。
ベンダーロックインのリスクがある
ベンダーロックインとは、独自の技術や仕様のシステムを導入した結果、特定ベンダーに依存してしまい、他社製品への乗り換えが困難になってしまうことを指します。
とくにERPは、導入範囲が非常に広いため、乗り換えをする際に大きな労力を必要とします。カスタマイズや契約方法などの状況によっては、中小企業がベンダーロックインの状態に陥ってしまい、値上げの交渉などに渋々応じなければならない状況になってしまうことがあるでしょう。
対策方法としては、できるだけベンダーに依存しないようなシステム構成にする、信頼のおけるベンダーを慎重に選定する、などがあります。近年はベンダーロックインが減ってきたとも言われていますが、リスクはゼロではないため、慎重に導入を進めることが大切です。
中小企業がERP導入で失敗しないための選び方
ここでは、中小企業がERPを比較する際に押さえるべきポイントを3つご紹介いたします。
クラウド型か、オンプレミス型か
ERPには、クラウド型とオンプレミス型の2種類が存在します。自社の状況に合わせて、適した形態の製品を導入するようにしましょう。
クラウドERPは、ベンダーのサーバーやネットワークを借りて運用できるため、導入コストや導入期間を大きく削減できるのがメリットです。
一方でオンプレミスERPは、自社で必要なシステムを構築する形態のこと。クラウド型と比べて初期費用は高くなってしまいますが、一度構築してしまえば、運用・保守費用を大きく抑えられる可能性もあります。
業務範囲は合致しているか
検討するERPが、効率化したい業務に対応しているかどうかを確認することが重要です。製品のなかには、会計に強いもの、販売・生産に強いものなどさまざまにあるので、ぜひチェックしてみてください。
加えて、具体的にどのような機能が搭載されているのかまで確認しておけば、導入後のミスマッチを防げるでしょう。
なかには、「プロジェクトごとに経営資源を管理したい」「生産管理や原価管理をより厳密に行いたい」といったニーズを抱える企業もあるかと思います。そのような場合は、業種特化型のERP導入も検討してみましょう。
セキュリティやサポート体制は十分か
とくにクラウドERPを選択する場合は、ベンダーのセキュリティがしっかりしているかどうかを確認しましょう。第三者の評価機関による格付けを取得していたり、ベンダーが定めたSLA(サービス品質保証)のなかで、稼働率保証をしていたりすることもあるので、細かくチェックすることが大切です。
また、導入前や運用中のサポート体制が充実しているかどうかもチェックしましょう。システムの操作方法をレクチャーしてもらえるか、トラブル発生時にすぐ対応してくれるのか、といったポイントを事前に把握しておきます。
セキュリティやサポート体制は、ベンダーの質を見分けるうえで重要なチェックポイントです。資料請求やインターネットによる情報収集、直接の電話などを活用して確認してみてください。
中小企業におすすめのクラウドERP「Microsoft Dynamics 365 Business Central」
中小企業が導入しやすいERPとしておすすめなのが「Microsoft Dynamics 365 Business Central」です。
同製品をクラウド形態で導入すれば、インターネット環境を使ってどこからでもアクセスできるようになります。また、OutlookやExcelなどのOffice製品との連携を容易に行えるのがうれしいポイントです。
搭載する機能は、財務管理・販売管理・プロジェクト管理・倉庫管理・製造管理など、非常に多彩。中小企業向けのツールとして展開されているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
中小企業向けのERPを導入して、自社の事業を加速させよう
この記事では、中小企業がERPを導入すべき理由や、メリット・デメリットなどについて解説しました。人手不足や労働生産性の低下といった中小企業特有の問題を解決するために、ERPの導入は非常に有効です。
中小企業がERPを導入する際は、導入コストや期間を抑えられる「クラウド型」を採用することをおすすめします。クラウドERPを導入することで、予算を抑えつつ、機動力の高い経営を実現することができるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、自社でERP導入を進めてみてください。