今や37億円の市場規模を記録し、さらなる大幅な成長が見込まれているSD-WAN(Software Defined Network)。IDCによれば、今後も成長を続け、2025年には223億円を超える規模になるとの予測も発表されています。SD-WANを利用することで、WANの可視化や管理効率など多くのメリットを享受することができます。一方で、ネットワークの入れ替えとなると、長時間のシステム停止が必要な場合もあり、ビジネスに与えるインパクトも少なくなく、積極的に検討したい一方で慎重な判断が必要になる要素も持ち合わせています。今回は、SD-WANを利用する際に必要な費用やコストに着目し、従来のネットワーク運用に必要なコストと比較しながら、導入と運用に分けて解説します。
1.SD-WANを利用する際の費用
新しいシステムを導入する際には、利用するためだけでなく、導入するためにも費用が必要です。導入時には必要なコンポーネントをすべて揃えるため、まとまった費用が必要になることが多いです。まずは、SD-WANを導入し利用するにあたって考慮すべき費用の種類を紹介します。
1-1.導入に必要な費用
SD-WANを導入する際には、初期費用が必要です。導入に必要な費用は、既存システムの規模や構成、どのように移行するかによって増減します。多くの企業ではすでにネットワークシステムが運用されていますので、SD-WANを導入する場合には、既存システムから新SD-WANシステムへトラフィックを移行することになります。導入費用は一般的に一度のみかかります。
導入の流れはベンダーや企業によって様々ですが、一般的な方法としては以下の3ステップです。
初期検討
SD-WANとはなにか、何が実現可能なのか、どんな課題があるのかなどいくつもの角度からリサーチし、既存のネットワークにある課題が解決されるか、最低限必要な要件はなにかを検討します。
設計/構築
検討結果に基づいて最適な構成やパラメータを設計し、実際に構築していきます。構築の最終段階では、いくつもシナリオを用意して障害試験を行ったり、正常動作での通信速度を計測したりと必要なデータの収集も行う場合があります。
切り替え
既存のネットワークから新ネットワークにトラフィックを移行します。 切り替えにあたっては、SD-WANを利用する環境を新たに構築してから移行する方法と、既存ネットワークのある環境内にSD-WANを最初から引き込み、段階的に移行していく方法があります。一般的には、後者の方法で移行したほうが、新旧両環境を維持する期間が短くなるので、維持費用も少なくて済むうえに、段階的に移行を進めることができます。一方で、前者の方法で移行することにより作業がシンプルになるメリットもあるので、予算やユーザへのインパクトも考慮して検討すべきです。
1-2.運用に必要な費用
SD-WANを導入することができたら、運用フェーズに入ります。運用費用はSD-WANのシステムを利用する限り継続的に発生します。まず、SD-WAN設備の利用費です。利用費は、クラウドサービスを利用するか、オンプレミスを中心にSD-WANを展開するかで大きな差がでることが多いです。クラウドサービスを利用する場合には、提供ベンダーに対して月額でサービス費用を支払います。オンプレミスを中心に展開する場合には、データセンターに機器を導入するためのラックレンタル費や電気代がかかります。
また、サービスや設備の利用費だけでなく、自社内で管理するにあたっての工数も考慮が必要です。ユーザからの問い合わせ対応や新規セグメントの払い出し、利用状況の監視など複数のタスクが存在します。既存のシステム運用にかかっている費用との差分を含めて予算として考慮してください。ユーザの問い合わせ対応については、運用が始まればナレッジが溜まっていくので、時間の経過とともに必要な工数と費用は少なくなっていく傾向にあります。
加えて、新たにSD-WANを利用する場合には、運用担当者が必要なスキルを身に付けるようトレーニングを受講させる必要があります。特にインフラ部分は24時間稼働が必要な場合がありますので、人員計画を整えて必要数を揃えることが重要です。SD-WANは比較的新しい技術であることから、経験豊富な人材が少なく、導入当初はトレーニング期間を長めに設けるなど工夫が必要です。加えて、障害が発生した場合には通常の運用よりも多くの工数が必要になります。あらかじめ余裕を持った予算取りが必要です。
2.SD-WAN導入に伴い不要になるコスト
SD-WANを導入することにより不要になる費用もあります。旧ネットワーク設備の運用に必要な維持費用は移行が完全に終わり、旧ネットワーク設備を撤去すればかからなくなります。多くの場合はオフィスやデータセンターにネットワーク機器が設置されており、データセンターの場合にはラックのレンタル費用がかかっています。全体的なネットワークの規模によって維持費の差は異なりますが、一般的には規模の大きなシステムのほうが、SD-WANに移行した際の維持費の差は大きくなります。
加えて、運用にかかる費用も不要になります。つまり、SD-WANの利用により運用コストを少なくすることができれば、継続的にそのメリットを享受できることになります。SD-WANではネットワークを一箇所で集中管理することができるので、これまでのように各拠点にオンサイトして作業をする必要もなくなり、より少ない工数で実現可能になります。昨今のサービスではAPIが提供されている場合も多く、簡単なスクリプトを記述することで単純な作業は自動化することも容易になりました。これにより作業そのものの工数だけでなく、必要な人的リソースも減らすことができ、費用だけでなく担当者の負担も減らすことができます。また、作業自体が簡単になることで、トラフィックの制御を柔軟に制御することができるようになります。
3.SD-WAN導入に伴い必要になるコスト
SD-WANを導入することで新たに必要な費用としては、SD-WAN設備の利用料と運用コストが挙げられます。SD-WAN設備の利用料は、クラウドを利用することで比較的抑えることができます。クラウドを利用した場合に発生するのはサービス利用料のみで、物理的な機材を購入する台数を減らせる上、データセンターにラックをレンタルしたり現地に技術員を派遣したりといった必要がなくなるためです。
導入においては事前検討で導き出した情報をもとに設計・構築をする必要があります。既存のシステムがある場合には踏襲できる部分もあるため、フルスクラッチでの設計に比べて費用を抑えることができます。また、詳しくは後述しますが、SD-WANでは複数の回線を一元管理でき、トラフィックの制御を柔軟に変更可能です。これまでのネットワーク設計と比較してあとからの変更がききやすくいので、設計にかける時間を削減することも期待できます。
運用コストとしては、日々のユーザ対応やトラブルシュートが挙げられます。SD-WANの特徴として、集中管理があり、各拠点の機器は物理結線さえされていれば、管理コンソールからリモートで設定を変更することができます。各種設定変更やトラブルシュートなどを一箇所で行うことができるので、必要な人的リソースも少なくなり、作業工数自体も少なくなります。また、SD-WANを継続的に利用するにおいてはライフサイクルの運用におけるコストも考慮する必要があります。経年劣化した機器の入れ替えや、組織の編成が変われば大幅な設計変更を行う必要もあるかもしれません。SD-WANを使っていれば、従来のネットワークに比べてとても少ない工数と手間で変更を実現することができます。
4.回線利用のコスト
SD-WANを利用することで管理を一元化し、複数回線を仮想的に1つの回線のように扱うことができます。これまではこれにより、今の環境に必要な帯域を最適化することができ、これまで既存ネットワークでは無駄だった帯域を解約すればコスト削減につながります。また、回線の種別に関わらずトラフィックの通信品質を安定化することも可能です。
現在はAWSやMicrosoft Azure、MS365などをはじめとするクラウドサービスを利用する企業が増え、それが当たり前になっています。従来のネットワークでは、全通信を管理下に置くために、各拠点からの通信は自社で管理しているデータセンターを経由してインターネットに抜けていく必要がありました。一方でSD-WANでは各拠点から直接インターネットに抜ける経路を作ってもトラフィック全体を管理下に置くことができます。その分データセンターで利用していた回線の帯域を各拠点に回したり、時間帯によって必要な帯域をデータセンター側の特定のサービスに回したりと柔軟で効率的な運用も可能です。これにより回線利用に必要な費用も最小限に抑えることができます。
5.「SD-WAN」気になる費用は? まとめ
いかがでしたか?今回はSD-WANの費用について解説しました。導入にあたっては、運用コストやトレーニングも含め、大きな予算が必要です。また、既存のシステムから移行するのもプロジェクトとして動く必要があるでしょう。しかし、SSD-WANを利用することで最新技術を撚り合わせてできた信頼のできるシステムを運用することができ、かつ管理の一元化や利用回線の効率化など運用に必要な費用は抑えることができます。レガシーなシステムの利用は実績も多く、安心感が高いのがメリットではありますが、運用時には障害も含めて大きく工数がかかり続けてしまいます。ぜひ、ネットワークの最新技術である、SD-WANの利用を検討してみてください。
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