RPAは経理・会計業務との相性が良い
この数年で急速に普及しているRPA(Robotic Process Automation)。定型的な作業を自動化して、業務の効率化や時短化、省人化に取り組む企業が数多く見られるようになりました。その可能性には政府も注目しており、安倍晋三首相が議長を務める「未来投資会議」では、2018年6月4日に示した成長戦略素案の中で、デジタル行政実現の基盤技術としてRPAを取り上げています。
特に、RPAは経理・会計業務との相性が良く、導入効果もわかりやすいと言われており、ある大手企業グループが公表した実例では、RPAを導入して年間で数十万枚の伝票入力作業を自動化したとして注目されています。
なぜRPAは経理・会計業務との相性が良いと言われているのか
ではなぜ、RPAは経理・会計業務との相性が良いのか。その理由としては、(1)経理・会計業務がルールに従いあらかじめ決められた手順で、正確に作業しなければならない業務が多いこと。そして、(2)データ入力や表計算ソフトからのデータ転記など、手作業で実施されている作業が多く残っていること、などが挙げられます。
RPAは「ロボット」とも言われるように、“決められた手順で、自動的に、正確に作業する”ことがとても得意です。しかも、条件分岐などの設定も容易なので、これまで人間による判断や確認が必要だった作業も自動でこなすことができます。
話は少しそれるかもしれませんが、AIと連携すれば人間でも難しかった判断や、人間ではできないような判断を含めた自動化も可能になるでしょう。そのため、2045年を境にAIが人間を越えると言われているシンギュラリティ(技術的特異点)までに、経理業務は人間からAIに代替される仕事の一つとしても取り上げられています。
RPAでシステム同士のデータのやり取りを手軽に自動化
AIとの連携はさておき現実的なレベルで話をすると、RPAは“アプリケーション間をまたがる操作”に向いています。別の言い方をすれば、これまで人間が手作業で実施してきたアプリケーションをまたがる作業を自動化できるのがRPAです。そのため、スプレッドシートやPDFに記載されていたデータを別のシステムに転記するといった手作業を、文句も言わず、ストレスを感じることもなく淡々とこなします。
具体的には、紙伝票やPDF伝票に記載されているデータをOCRでデータ化し、経理・会計システムに自動で入力したり、会計システムとほかのシステムとのデータのやり取りをRPAで自動化したりすることが可能です。
経理・会計業務に限らず、大部分の業務はシステム化されていますが、システム間でのデータのやり取りは簡単ではありませんでした。たとえば、オンプレミスシステム間でさえ独立したシステム間でデータのやり取りをしようとすれば、専用のシステムやソリューションを導入しなければならないことも多く、さらにオンプレミスのパッケージソフトとクラウドサービスなどWebシステムとの間でデータ連携を図ろうとすれば、複雑な仕組みを構築しなければならないことも少なくありませんでした。
もちろん、そのようなデータ連携のすべてをRPAで自動化できるかどうかはケースバイケースですが、手作業による手順が定型化できている場合は、RPAで自動化できる可能性は高いと言えます。
RPA導入で経理・会計部門の残業を削減
一方、導入効果という視点から見たとき、経理・会計業務ではRPAの導入により残業時間を削減できるという、目に見える成果を得やすいという特徴が挙げられます。
経理・会計業務では、特定の時間や締め切り日にならないと作業を開始できない業務が数多く存在し、たとえば、15時にならないと前日の口座への入金確認ができないとか、締め日以降にすべてのデータが揃わないと作業ができないということがあります。
15時を過ぎないと作業を開始できず、当日中にその作業を終えなければならないとすれば、残された数時間以内にその作業を実施しなければならず、ほかの業務の影響などによって作業の開始が遅れれば、残業をせざるを得ないという状況になります。
締め日以降の作業も同様で、1週間以内に月次決算処理をしなければならないとなれば、その1週間に作業が集中し、月末・月初は残業があたりまえということになるでしょう。
RPA導入で業務を並行処理することで人員増と同じ効果が
そのような業務の中でRPAを活用する、すなわちRPAで自動化できる定型的な業務があれば、複数の業務を同時並行的に進めることができるようになり、人員が増えたのと同じ効果が期待できます。そのため、定型作業が多ければ多いほど経理・会計業務では、残業時間の削減という目に見える効果が期待できます。
このようなことから、RPAは会計・経理業務と相性が良いと言われているのではないでしょうか。
RPAの導入フェーズでつまずくケース
このように、RPAを上手く活用すれば大きな成果が見込めます。しかしながら、RPAの導入につまずき、成果を上げるまでに手間と時間がかかってしまい、“RPAは動かない”、“使えない”という雰囲気が広まり、現場の協力を得られなくなるという悪循環に陥ってしまうケースも少なくないようです。
成功した事例はメディアなどにも取り上げられるのですが、失敗したケースは黙殺されてしまうのが世の常ですので、“失敗事例”を見かける機会は少ないのですが、ここではRPAの導入につまずくケースも考えてみたいと思います。
【RPA導入でつまずくケース1】どの業務・作業を自動化して良いのか分からない
いざRPAを導入だ、となっても、どこから自動化して良いのか分からず進められないといった問題が出てくる場合があります。パイロット的にロボットを作ってみようというフェーズでは、適当な業務をピックアップするだけで良いのですが、いざ本格的にRPAによる自動化の展開を図る際、どの業務・どの作業から自動化を進めていけば良いのか分からなくなるケースをお見かけします。特に、ロボットを開発する部隊が情報システム部門であったり、外部の開発会社やRPAプログラマーが軸となって展開する場合は注意が必要です。これらのメンバーは現場の業務についてはよく分からないので、どの業務から着手すれば良いのか分からず開発の待ちが発生してしまったり、感覚的に業務を選び続けてしまったり、現場の要望をそのまま受けてしまう懸念があります。
一方で、現場の人間からするとどの業務がRPAで自動化できるのか、どこまで自動化できるのか、そして自動化の効果がそもそも高いのかどうかが分からないので、どうしてもお見合い状態になったり議論が空中戦になってしまいがちです。
このようなつまずきでRPA展開を遅延させないためにも、現場にはどんな業務が存在していて、どのように業務プロセスが流れており、どの作業から自動化すると効果的なのかを共通理解できる仕組み(後述の業務フローチャート)が効果的です。
【RPA導入でつまずくケース2】自動化するべき優先対象業務を誤る
RPAで自動化する業務について現場にヒアリングをすると、現場の感情や感覚が優先されがちで、自動化のしやすさや自動化後の成果を冷静に分析できずにRPAの導入が進んでしまうことがあります。
よくある例が「面倒な作業をRPAで自動化させたい」という感情が優先されてしまうケースで、人間の感情的に面倒な作業であっても、実質的に月に1回の1~2時間程度の作業であって、自動化をしてもあまりコストメリットを出せないという結果になってしまいます。もちろん、目的が現場のモチベーションアップも兼ねていればよいのですが、やはり経営者の観点からするとその現場のメンタル面もケアをしてあげたいが、まずは優先させるべきはコストメリットやリスクマネジメントの観点で自動化させたいと思うところでしょう。
特定の担当者の感情的ケアはできたかもしれませんが、「RPAを導入しても思ったより成果が上がらなかったよね」とならないためにも、RPA化する対象業務・作業の優先順位づけをしておくべきでしょう。
業務を可視化すればRPAのスムーズな導入が可能
このようなRPA導入の課題は特定の業務に限ったことではないかもしれませんが、これまでの習慣や担当者に任されていた部分が多い会計・経理業務においては起きがちなことで、あらためて業務を可視化することでつまずきの多くを解消できるのではないでしょうか。
たとえば、RPAで自動化する業務を絞り込むための話し合いをしようとしても、業務が正確に可視化されていなければ感覚論での議論が繰り返されがちです。業務が可視化されていれば、共通理解のもと議論ができるだけでなく、RPAによる自動化の影響や効果の見極めがしやすいため、どの業務から手をつければ良いのか、優先順位の判断もしやすくなります。さらに、経験の少ない担当者やシステム部門など経理部以外の担当者でも、議論に参加しやすくなるというメリットもあります。
また、業務を可視化した後で共有/レビューすることで、担当者ごとの作業内容の違いや認識の違いを見つけ出すことができます。シナリオ作成の前に標準化や認識共有を自然と行うことができるので、結果としてどの担当者でも扱える/手直しの少ないシナリオ作りへつなげることができます。
効率的に可視化できる仕組みが重要
一方、通常の業務と並行して可視化作業を進めなければならないので、だれでも簡単に可視化できる環境を用意することも重要です。業務の可視化・改善をスマートに実践できれば、RPAの導入もスムーズで、短期間に効果を享受できるようになります。
RPAの導入において手作業の自動化しか考えていないと、無駄な作業やローカルルールをそのまま自動化してしまうということにもなりかねません。RPAの導入を契機に、自動化と業務可視化・業務改善をセットで実施すれば、その効果を最大限に引き上げることができるでしょう。短期間で効果の高い業務可視化・改善プロジェクトを推進していくには、業務可視化コンサルタントに相談してみるのも良いでしょう。