ビジネスの効率化やイノベーションを追求する企業にとって、業務プロセスの最適化は避けて通れない課題です。しかし、従来のシステム開発にはコストや時間、リソースの制約が伴います。そのような中で注目を集めているのが、Microsoftの「Power Platform」です。

本コラムでは、Power Platformの概要やできること、活用事例をご紹介した上で、「Dynamics 365 Business Central(D365BC)」との連携についても解説します。

Power Platformとは

引用:AI 搭載ローコード ツール | Microsoft Power Platform

MicrosoftのPower Platformは、「Power BI」や「Power Apps」など、5つのサービスを統合したプラットフォームです。ノーコード・ローコード開発を活用することで、専門的なプログラミングスキルがなくても、アプリ開発やデータ分析、業務の自動化、チャットボットの作成、Webサイト構築が可能になります。

また、Microsoft 365との高い親和性を持ち、単体での業務効率化はもちろん、複数のアプリを組み合わせることで、より統合的なソリューションを構築できます。

デジタル変革(DX)の進展に伴い、Power Platformの需要は急速に拡大しており、ローコードプラットフォーム市場も今後さらなる成長が見込まれています。デロイトトーマツミック経済研究所によると、ローコード・ノーコードプラットフォーム市場は2024年度には前年度比113.5%の3,426億円(*)に達するとされています。

今後、大企業での全社導入や生成AIの活用が加速することが予想され、Power Platformは企業のDX推進において不可欠なツールとして、ますます注目を集めています。

*出典:ローコード/ノーコードプラットフォームソリューション市場動向 2024年度版 | デロイト トーマツ ミック経済研究所

2.各アプリケーションの紹介

MicrosoftのPower Platformには、次の5つのアプリケーションが含まれます。

● Power Automate
● Power Apps
● Power BI
● Copilot Studio
● Power Pages

ここでは、各アプリケーションの概要と活用事例を解説していきます。

① Power Automate

Power Automateは、業務プロセスの最適化を実現するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールです。

ワークフローの自動化や承認プロセスの効率化、異なるアプリケーション間の連携などを通じて、業務の効率を向上させます。直感的で使いやすく、初心者でも簡単に導入・活用することが可能です。

また、Power Automateは1,000以上の外部サービスやアプリと連携できる点も特徴的です。「コネクタ」と呼ばれる機能を活用することで、Microsoft製品だけでなく、さまざまな外部サービスとも簡単に接続し、スムーズに連携できます。

【活用事例】

● 受信したメールを指定した条件に基づき、自動的にフォルダに振り分ける

● 休暇申請などが提出されると、承認者に自動で通知が送信され、承認後に申請者に結果が自動で通知される仕組み作り

● 英語のメールを受信すると自動で翻訳し日本語に変換する など

②  Power Apps

引用:Microsoft Power Apps – AI を使用したアプリの構築 | Microsoft

Power Appsは、ノーコードやローコードで業務に必要なアプリを簡単に作成できるプラットフォームです。「Microsoft Dataverse」「SharePoint」「SQL Server」などのデータソースと連携し、データを活用したアプリを構築できます。また、作成したアプリはインターネット上で実行・共有・公開することも可能です。

なお、以前はポータル(旧称)のタイプもありましたが、2022年にPower Pagesとして独立しています。(⑤で解説しています)

【活用事例】

● 従業員が自身の出勤状況を登録できる勤怠管理アプリを作成。アプリで登録したデータはSharePoint Onlineに保存され、Excelでのダウンロードも可能

● ExcelやSharePointと連携し、フォームやリスト、カレンダー機能を備えたキャンバスアプリを作成する など

③ Power BI

引用:Power BI サービス内の移動 – Power BI | Microsoft Learn

Power BIは、さまざまなデータを迅速に分析・可視化できるアプリケーションです。専門的な知識がなくても、ローコードでビッグデータの解析が可能で、直感的な操作でデータを可視化できるため、迅速な意思決定に役立ちます。

ExcelやSQL Server、クラウドサービスなど多様なデータソースと連携し、リアルタイムのダッシュボードや詳細なレポートを作成できます。これにより、データ入力や分析の負担を軽減しながら、視覚的に分かりやすいグラフを活用してビジネスの状況を素早く把握できます。

【活用事例】

● 社内ヘルプデスクの質問対応に導入しているAIチャットボットのログデータをPower BIで分析し、問い合わせ傾向の可視化やレポート作成を自動化する

● 棒グラフ、円グラフ、地図、ゲージなどを用いて、分析結果をダッシュボードやレポートとして視覚的に整理し、業務の意思決定に役立てる など

④ Copilot Studio

引用:Copilot のカスタマイズとエージェントの作成 | Microsoft Copilot Studio

Copilot Studioは、チャットボットや会話型エージェントの作成・公開ができるサービスです。旧Power Virtual Agentsに生成AI機能が追加され、Copilot Studioとして統合されました。

Copilot Studioでは、トピックや変数を活用し、ユーザーの質問や要望に応じたチャットボットを簡単に構築できます。ノーコードやローコードでカスタムAIエージェントを作成できるため、業務プロセスの自動化が可能です。これにより、企業は自社のデータや業務プロセスに合うAIエージェントを構築し、業務効率化の向上につなげられます。

また、「Teams」「Slack」「Facebook Messenger」などのチャネルと連携し、多様な環境で活用可能です。

【活用事例】

● Copilot Studioで開発したカスタムAIをMicrosoft Teamsに統合し、会議の内容をリアルタイムで記録・整理する

● 社内向けのAIを開発し、情報検索や各部門への問い合わせ対応を自動化し、業務負担を軽減する など

⑤ Power Pages

引用:Power Pages| Microsoft Power Platform

Power Pagesは、Webサイトやブログ、ニュースレターなどのコンテンツを作成・公開できるアプリケーションです。Power Appsの「ポータル」から進化したサービスで、よりデザイン性に優れたWebサイトを簡単に構築できます。

ノーコード・ローコード開発に対応しており、ドラッグ&ドロップの操作でWebサイトを短時間で作成できます。豊富なテンプレートやデータ統合機能を活用することで、迅速にサイトを立ち上げられます。また、セキュリティ機能も充実しており、安全なWebサイトの構築が可能です。

【活用事例】

● 許可申請や承認プロセスをオンラインで管理し、申請の追跡や確認を簡単に実施する

● 顧客からのよくある質問をまとめた「FAQページ」を構築し、問い合わせ対応を効率化

● データやアプリをWebサイトに埋め込み、より充実したコンテンツを提供する など

上記アプリケーションの特徴をまとめると、以下の通りです。

製品名 Column 2 Column 3
Power Automate 業務プロセスの自動化を実現するRPAツール ・メールの条件に応じた自動振り分け

・休暇申請の承認フローの自動化

Power Apps ノーコード・ローコードで業務アプリを簡単に作成できるツール ・勤怠管理アプリを作成し、SharePointにデータ保存
Power BI データの分析・可視化を行うツール ・AIチャットボットのログを分析し、問い合わせ傾向を可視化
Copilot Studio 生成AIを活用したチャットボット作成ツール ・Microsoft Teamsと統合し、会議の議事録を自動作成
Power Pages ノーコード・ローコードでWebサイトを作成できるツール ・オンライン申請管理サイトを作成し、承認プロセスを効率化

3.Power Platformでできること(活用事例)

Power Platformは、ノーコードやローコードで開発が可能なツールであることは理解いただけたかと思いますが、具体的にどのように活用し、何ができるのかが分かりづらい部分があるかもしれません。

そこで、ここではPower Platformの製品を組み合わせることで何ができるのか、活用事例を挙げながら解説します。

① Power Apps × Power Automate

「Power Apps」と「Power Automate」を組み合わせることで、従来手動で行っていた業務の手間を大幅に削減し、業務全体の効率化を実現することができます。

例えば、以下のような活用事例があります。

【貸出管理アプリ】

Power Appsで貸出申請を受け付けるアプリを作成し、Power Automateで承認プロセスや返却リマインダーを自動化することで、社内の備品や機材の貸出管理を効率化することができます。例えば、IT部門では、IT機器やソフトウェアライセンスの貸出状況を効率的に管理できます。これにより、返却期限のリマインドや在庫状況の把握が自動化され、管理業務が簡素化されます。

② Copilot Studio × Power BI

「Copilot Studio」と「Power BI」を組み合わせることで、データ分析が効率化され、迅速かつ的確な意思決定が可能になり、業務の改善に大きな効果をもたらすことができます。

例えば、以下のような活用事例があります。

【カスタマーサポートの自動化】

Copilot Studioを使用して、顧客からの問い合わせデータを自動的に分類し、頻出する問題を特定します。その後、Power BIでこれらのデータを視覚化することで、どの問題に優先的に対応すべきかを明確にすることができます。例えば、カスタマーサポート部門では、問い合わせデータを分析し、顧客のニーズや問題点を迅速に把握することができます。これにより、顧客に対しより効果的なサポートを提供することができます。

③  Power BI × Power Automate

「Power BI」と「Power Automate」を組み合わせることで、データ分析と業務の自動化が一体となり、全体の作業負担も軽減され効果的な改善を実現することができます。

例えば、以下のような活用事例があります。

【在庫管理の自動化】

Power BIで在庫データを可視化し、Power Automateで在庫の更新やアラートを自動化することで、在庫管理を効率化することができます。例えば、製造部門では、在庫状況に応じて生産計画を柔軟に調整することで、効率的な生産が可能になります。これにより、無駄な生産を防ぎ、資源の最適利用が実現します。

4. Power Platform × Dynamics 365 Business Centralの連携

引用:Dynamics 365 Business Central

Microsoftの「Dynamics 365 Business Central(以下D365BC)」は、分散したデータを統合的に管理できるオールインワンのERPソリューションです。Power Platformと連携することで、D365BCをカスタマイズせずにユーザーで不足機能を補完し、データの活用や業務の効率化をさらに推進できます。どちらもMicrosoft製品であるため、高い親和性を持ち、シームレスに連携が可能です。

また、専門的なプログラミングの知識がなくても利用できるため、内製化が可能になり、外部委託のコストを削減し、開発期間を短縮することが可能です。

ここでは、Power PlatformとD365BCの連携のポイントと、具体的な活用例として「Power BI × D365BC」「Power Apps × D365BC」の連携について解説します。

① Power BI × D365BC

Power BIとD365BCを連携することで、D365BC上のデータを簡単にPower BIに取り込み、リアルタイムでのデータ分析やレポート作成が可能になります。例えば、以下のような活用方法が考えられます。

【得意先の売上データ分析】

D365BC上に蓄積された売上データをPower BIに取り込み、リアルタイムで集計・分析することで、売上推移や得意先ごとの売上状況を可視化できます。例えば、特定の期間の売上が急増した得意先を特定し、その要因を分析することで、販売戦略の最適化につなげられます。

【カスタムダッシュボードの作成】

Power BIを活用すると、売上や在庫、購買データなどを一元的に表示できるカスタムダッシュボードを簡単に作成できます。担当者はリアルタイムのデータを基に意思決定ができ、経営層も常に最新のビジネス状況を把握できます。

【データの自動更新】

Power BIの自動更新機能を活用することで、D365BCのデータを常に最新の状態でレポートへ反映できます。これにより、手作業でのデータ更新の手間が削減され、業務の効率化につながります。

従来、データ分析にはCSVファイルをインポートし、手動でデータを加工する必要がありました。しかし、D365BCとの連携では、APIを活用することでスムーズなデータ取り込みが可能となり、手間を大幅に削減できます。これにより、よりスピーディーなデータ活用を実現できます。

EDRと振る舞い検知を効果的に導入・運用するには、以下のポイントを念頭に準備を整えることが大切です。

② Power Apps × D365BC

Power AppsとD365BCの組み合わせでは、D365BC上で行っていた手間のかかる作業をアプリ化し、業務効率化の改善につなげられます。

例えば、物流業務において、ピッキング作業や入出庫管理を効率化するために、以下のようなカスタムアプリをPower Appsで開発できます。

【ピッキングアプリ】

● 機能: D365BCのデータを基に商品のピッキングリストを自動生成し、バーコードスキャン機能を活用してピッキング作業をサポート

● 効果: 手作業でリストを作成する手間が省け、ピッキングミスの削減と作業時間の短縮につながる

【入出庫管理アプリ】

● 機能: 入庫・出庫時の検品作業や在庫管理をリアルタイムで実施。入庫時には商品の状態を記録し、出庫時には在庫の正確な管理が可能

● 効果: 在庫管理の精度が向上し、誤出庫や在庫不足といった問題を未然に防げる

このように、Power Appsを活用することで、業務に最適なカスタムアプリを社内開発できるため、外部開発に依存せずに迅速にシステムを導入できます。また、ローコード開発のため、専門的なプログラミング知識がなくてもアプリの作成や改修が可能になり、開発コストの削減とスピーディーな業務改善を実現できます。

まとめ

今回のコラムでは、Power Platformの概要と、活用事例について解説しました。ご紹介したように、Power Platformを活用することで、業務の効率化を実現することができ、親和性の高い他のMicrosoft製品(「Microsoft 365」や「Dynamics 365 Business Central」など)と連携することで、柔軟なソリューションを構築することができます。

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