ビジネスの規模を大きくしていきたい場合や、多様な働き方の実現や人材の確保を進めようとする場合、ネックとなるのが業務属人化です。特定の人物に依存した業務が社内で残っていると、生産性向上や新しいワークフローの導入などに際し、障害となる場合があります。
この記事では、業務属人化が発生する原因や、解消によって得られるメリット、そして業務属人化を脱却するためのアプローチについて、解説します。
業務属人化の状態とは?
そもそも業務属人化とは、ある業務が少数の人間、あるいは特定の個人に依存してしまっている状態を指します。通常、多くの業務は標準化され、マニュアルを読んだり指導を受けることで、誰でも対応が可能なようになっているものです。
しかし一部の専門性の高い業務や、担当者の性格、時間をかけて磨かれたスキルによって支えられた業務については、標準化ができないこともあります。このような業務を遂行する場合、対応ができる社員に業務を依存することとなり、代替が不可能になるわけです。この状態を、業務属人化と呼びます。
業務属人化が発生している業務があると、対応可能な人材が休暇をとった場合や離職した場合、異動となった場合などに、現場で大きな混乱を招く場合があります。一人の人間に依存しているような職場があることは、対応可能な人間の負担を過剰に大きくしたり、過剰な責任を与えたりすることにつながるため、改善の必要があるでしょう。
業務属人化が発生する原因
上記のような業務属人化が発生する原因には、いくつかの原因が考えられます。主な原因は、以下の5つです。
業務が専門化し過ぎている
業務が極端に専門的である場合、業務属人化を脱却することは極めて難しくなります。特にハイテク関連の業務については、専門のスキルが必要であるとともに、スキル習得が一朝一夕で進まないことから、ある程度業務が属人化するのは仕方のない部分もあるでしょう。
業務が専門化し過ぎている
そこまで専門的な業務でないのにも関わらず、社員間で出来不出来の差が大きく、特定の担当者に業務が依存している場合、マニュアルや研修の不備が考えられます。マニュアルの内容が業務の実態と乖離している、アップデートが行われていないなどの場合、本来可能だったはずの標準化の機会が失われ、特定の人材に生産性が依存してしまうことになりかねません。
標準化の機会を確保できていない
技術的には標準化が可能であっても、そのための人材や時間を確保できないと、標準化が行われず業務属人化が長引いてしまうことがあります。業務属人化についての課題意識を持ち、積極的に取り組まなければなりません。
標準化に現場や担当者が消極的
標準化そのものに対し、現場や担当者が消極的で属人化が解消されないケースが挙げられます。業務が標準化されてしまうと、他の人に任せていた負担が自分にものしかかってしまうことを嫌がって、業務が属人化された状態を望むという消極性です。
また、業務属人化が続いている状態を逆手に取り、担当可能な人物が特権的な地位を享受し、組織に悪影響を与えるというケースも考えられます。業務上のリスクが発生するだけでなく、組織全体のパフォーマンスを低下させる恐れがある、面倒な事態です。
人材の不足
単純に人手不足で、他に業務を任せられる人材が定着しない問題も、業務属人化を悪化させます。職人気質な中小企業などにおいては、この問題が深刻と言えるでしょう。単純に技術を引き継げる人材が入ってこなかったり、人材が確保できてもすぐに転職・離職してしまったりする職場では、標準化は難しい状況です。
業務標準化について
業務属人化の対義語と言えるのが、業務標準化です。業務標準化とは、組織に属する全ての従業員が、特定の業務において同じパフォーマンスを発揮できる状態になることを指します。
誰が触っても生み出させる結果や、結果にたどり着くために必要な時間はほぼ変わらないという状態が、理想的な業務標準化です。
全ての仕事において、業務標準化を実現することは依然として難しいでしょう。ただ、近年は技術革新やノウハウの蓄積に伴い、従来よりもはるかに広い範囲で標準化できる業務が増えているのも事実です。
専門性が高いから、あの人にしかできないからと標準化を諦めるのではなく、一度「どうすれば標準化ができそうか?」ということにも目を向けてみると良いでしょう。
業務属人化を脱却するメリット
業務属人化の脱却によって、企業は複数のメリットが期待できます。
生産性の向上につながる
業務属人化を脱却する最大のメリットは、生産性の向上です。特定の担当者しか対応できなかった業務を、他の従業員にも任せられるようになることで、生産力を倍増することもできるでしょう。
また、専門の担当者が休んでいる間は業務が進まないといった、停滞のリスクを解消することができます。その業務に対応できる従業員を十分に確保し、安定したパフォーマンスを得ることが可能です。
品質が安定する
業務属人化の脱却は、クオリティを高い水準で保つ上でも効果的な取り組みです。特定の担当者に業務が依存していると、その人のコンディションに仕上がりが依存し、品質が高い時もあれば、そうでない時もあるようなブレの発生につながることがあります。
業務属人化が解消されると、このような個人に依存した業務形態から脱却できるので、品質のバランスを保ちやすくなるでしょう。業務を標準化して、マニュアルに従えば一定のクオリティのものを作り上げることができるからです。複数の担当者で業務に対応し、ダブルチェックなどの体制を構築する上でも重要な役目を果たします。
流動的な人材活用に貢献する
人材の流動性を高める上でも、業務属人化からの脱却は重要です。特定のスキルを持った人材を、別の部門へ異動させたいものの、現在の職場がその人によって支えられている場合、それができません。
業務を標準化し、特定の担当者への依存度を低減することは、上記のような課題に対処することができます。業務の専門性を小さくすることで、失われたリソースをすぐにカバーできる体制構築に貢献するでしょう。
業務属人化を解消する4つのステップ
業務属人化を解消する上では、以下の4つのステップに則り業務を改善することが大切です。
1. 業務を可視化する
まずは、既存業務の可視化を進めます。業務がどのように行われているのかを具体的に文字に起こしてみることで、属人化せざるを得ない理由の発見につながるでしょう。
業務が属人化している理由には、場合によって様々なものが考えられます。単純に専門性の高いスキルが問われることもあれば、担当者が他の人より要領よくその業務をこなせるケースや、コミュニケーション能力に長け、営業活動を円滑に進めやすいケースなど、多岐にわたるものです。
また、業務属人化は工夫次第で、標準化していくことも十分に可能です。業務を可視化することで、どのような点に改善の余地があるのかを明らかにして、改善の可能性を探っていきましょう。
2. 業務を分散する
業務の分散は、具体的に言えば業務上発生する責任の分散です。特定の業務に対して、複数の従業員が同等の責任と権限を持つことができるよう配分することで、属人化の解消を進められます。
業務を均等に配分できるような仕組みを整備すると、例え担当者に不在が出た場合でも、他の従業員がその穴埋めを行うことが可能です。責任の分散と引き継ぎについてのフローを整えることで、常に一定の分散体制を維持できるでしょう。
3. プロセスを簡素化する
業務プロセスを簡素なものに置き換えることができれば、業務の専門性を小さくして業務属人化を脱却できます。例えば勤怠管理におけるシフト調整を、専用のソフトで自動化できるよう仕組みを整備することで、誰でもその業務を遂行できるようになるでしょう。
現行の業務が高度で複雑なものであっても、それを簡便な方法に置き換えることで、質の高い仕上がりは維持することができます。全ての業務が簡素化できるとは限りませんが、ルーティンとして発生している業務の多くは、効率化・自動化が可能です。
また、業務の一部を効率化するだけでも、業務全体の特殊性を低減させ、標準化に近づけることができます。
4. マニュアルを見直す・作成する
既存のマニュアルが業務の実態と乖離している場合、マニュアルを見直す必要があるでしょう。マニュアル作成の際には、現行の業務フローを見える化した上で、誰でもわかるようにマニュアルとして編集し直す手続きが重要です。
まずはマニュアルが正しく機能しているかを確認したり、それぞれの業務でマニュアルがきちんと整備されているか、標準化された指導が行えているかどうかを確認したりしましょう。
業務属人化を脱却する際の注意点
業務属人化の脱却に際しては、以下の点を踏まえた取り組みを現場で推進していくことが大切です。
積極的にITツールを活用する
業務属人化からの脱却は、制度変更や既存のリソースを活用するだけでは限界があります。業務のDXを積極的に進め、最新のツールを導入していくことで、ITによる属人化の解消を目指しましょう。
適切な評価制度を設ける
人事評価制度が、属人化が解消された後も正しく機能するようなものとなるよう、見直すことも大切です。
業務が標準化され、これまで専門の職務にあたっていた従業員に不公平感が生まれたり、それ以外の従業員が過度に評価されたりするようなケースを回避できる、新しい評価システムの導入を検討しましょう。
まとめ
この記事では、業務属人化の脱却によって得られるメリットや、どのように脱却を進めていくかについて、解説しました。
業務属人化は、人材の流動性や生産性の向上などの側面から、企業に悪影響を与えているケースが少なくありません。自社の業務プロセスを見直し、属人化が発生しているところは何か、どんな業務フローが属人化をもたらしているのかを考えた上で、解消に向けた取り組みを進めていきましょう。