GIGAスクール構想の実現に向けた課題と現状、成功のカギをご紹介

文部科学省は、日本における教育現場でのICT活用の遅れを受け、2020年から「GIGAスクール構想」の取り組みを始めました。現在では、多くの児童のもとに端末が普及されましたが、現場での課題は山積しています。

この記事では、GIGAスクール構想の現状や課題、実現に向けたカギなどをご紹介いたします。

GIGAスクール構想の現状

ここでは、令和3年3月19日に文部科学省が発表した、『GIGAスクール構想の最新の状況について』の資料を基に、GIGAスクール構想が現状でどれくらい進んでいるのかについて解説いたします。

同資料によると、GIGAスクール構想の実現に向け、令和元年度の補正予算において2,318億円、令和2年度の第1次補正予算において2,292億円、第2次補正予算において209億円の予算を計上し、「1人1台端末」の整備を進めた結果、令和2年度内に、97.6%の自治体で端末とインターネット環境の整備が完了する予定です。

GIGAスクール構想の現状

さらに同省は、『「GIGAスクール構想」の実現ロードマップ』を策定し、今後5年間でハード・ソフト・人材の3つの視点から、GIGAスクール構想をどのように進めていくかについて、具体的な計画を示しています。

まとめると、令和3年度現在では、ひとまず各学校へネットワーク・端末の整備が完了し、これから活用・定着のフェーズに入っていく段階だといえるでしょう。現場での取り組みがますます重視されるようになり、各自治体や学校教員などへの負担が増してくるフェーズです。

GIGAスクール構想における現状の課題

GIGAスクール構想における現状の課題

ここでは、GIGAスクール構想の実現にあたり、教育現場において現在発生している課題を解説いたします。「教育/リテラシー面」「運用面」「セキュリティ面」の3つに分けてご紹介するので、今後の取り組みの参考にしてください。

教育/リテラシー面での課題

以下では、教育面やリテラシー面を中心に、GIGAスクール構想の課題を解説します。

学校教員のITリテラシーの問題

まず挙げられるのが、学校教員のITリテラシーの問題です。そもそも、教える側の先生がタブレットやクラウドの使い方を理解していないと、ICT教育は実現しません。

学校の現場では、子供のころからITに慣れ親しんでいる若い教員も多く在籍する一方で、パソコンやスマホを使いこなすのが難しいと感じるベテラン教員も存在します。

後者の方へは、授業支援システムの使い方や、ファイルのアクセス方法・共有方法などについて、イチから教えなければなりません。しかし教育現場では、普段から多忙を極めていることが多いため、研修時間をなかなか割けないのが現状です。

また、GIGAスクール構想や、EdTech(エドテック)の普及に伴い、さまざまな教育テクノロジーが導入されるようになりました。こうした激しい変化へついていくのが大変だと感じている例も多々あるでしょう。

学校教員がITリテラシーを向上させていくことは、GIGAスクール構想を実現する上で欠かせない要素となっています。そのためにはまず、教員への教育を行うことから始める必要があります。

教材やカリキュラム整備の問題

GIGAスクール構想下においては、ICTの活用を前提とした教材やカリキュラムを用意しなければなりません。結果、学校側や自治体に大きな負担がかかってしまったり、適切な教育が施されなかったりする可能性があります。

ICTを活用した教材を用意するには、数ある民間のクラウドアプリケーションの中から、適したサービスを選択しなければなりません。たとえば、同じ小学生向けのプログラミング教材一つとっても、無料から有料のツールまでさまざまにあります。

さらにサービスを導入した後は、生徒が教材を効果的に学べるよう、教員が教え方を試行錯誤する必要があります。英語の教育を例にとると、端末を活用して、リスニングやライティングを行ったり、海外の児童生徒と対話したりするなど、さまざまな活用方法が考えられます。

上記のように、GIGAスクールにおける教育では、教材や教え方の選択肢が一気に広がるのが特徴です。「生徒がいかにして質の高い学びができるか」を念頭におきながら、適切な教育方法を模索しなければなりません。

運用面での課題

次に、運用面での課題を、以下で3つご紹介いたします。

持ち帰り時の対応

GIGAスクール構想の実現にあたって、タブレット端末を持ち帰る際に、どのようなルールを定めるべきなのかについて、現在さまざまな議論がなされています。

たとえば、「YouTubeやTikTokなど、学習系コンテンツ以外にアクセスするのはどうなのか」「チャットツールで友達や知らない人とトラブルにならないか」「持ち帰った端末が破損・故障したときは、だれが補償責任を負うのか」など、各自治体によって見解がさまざまに分かれています。

持ち帰りについて、2021年に先端教育機構が調査した『小中学校における1人1台端末の利活用等における現状と、今後の教育活動への展望』によると、およそ3自治体の内、1自治体で「自宅も含めての利用を検討する」と回答しています。

これから、持ち帰りを採用した自治体で成功事例が出たり、ルール整備が進んだりすることで、さらに持ち帰りを導入する自治体が増えていくでしょう。

トラブル発生時の技術的な対応

機器の不良や設定でのトラブルが発生した際に、技術面で適切に対応するための対策が取られていないこともあります。スムーズな対応ができないと運用が滞ることになり、現場でのICT活用への勢いが衰えてしまいかねません。

たとえば、タブレット端末に関しては、「MDM(Mobile Device Management)」と呼ばれる、端末の一元管理システムを採用することが多いです。すべての端末設定を一括で行えるのがメリットですが、一方で、端末の初期設定を誤ってしまったり、個別に設定変更をしたりする場合は、いちいちMDMへアクセスしなければなりません。

柔軟性と管理性、どちらも両立させるには、専門的な知識や人材が必要不可欠です。

教育員会の協力体制

学校が、いくらGIGAスクール構想やICT化の推進に積極的でも、教育委員会の協力不足により、なかなか進められないでいる場合もあります。

GIGAスクール構想の実現にあたって、今までの各教育委員会の大きな役割は、各学校にネットワークや端末を整備することでした。その後は、現場が担う役割が大きくなるため、自分たちの仕事とは関係ないと認識してしまう事例もあります。

また、「GIGAスクールに携わる担当者が少ない」「担当者の入れ替わりが激しい」などの人的な要因が関係していることもあります。さらに、市や教育委員会側のネットワーク管理の関係で、現場でのICT活用が極度に制限されてしまう、といった事態も起こるでしょう。

いずれも、教育委員会が現場の実情を理解していないことが大きな要因です。現場と教育委員会の双方が、いかにしてコミュニケーションや連携を取っていくかが、GIGAスクール構想の成功を左右します。

セキュリティ面での課題

以下では、GIGAスクール構想を実現するにあたって、セキュリティ面の課題を2つご紹介いたします。

集中アクセスやセキュリティホールへの対策

GIGAスクール構想において、タブレット端末が滞りなく使用されるには、ネットワーク通信が快適に行われていることが第一条件です。しかし、多くの生徒が一斉に接続し、データセンターに負荷がかかってしまうと、通信の遅延や障害が起こってしまう可能性があります。

とくに教育の場では、外部のインターネットへ接続する際に、強固なセキュリティを維持するため、教育委員会や自治体のデータセンターを経由する仕組みを採用していることが多いです。しかし、災害や事件が発生した際に一気にアクセスが集中し、サーバーがダウンしてしまう恐れがあります。

そこで政府は、学校からインターネットへ直接アクセスできる仕組みの「ローカルブレイクアウト」の実現を費用面で支援する取り組みを行っています。ローカルブレイクアウトとは、各拠点からインターネットや特定のクラウドサービスへ接続する際に、データセンターを経由せずに直接接続できる仕組みのことです。

一方でローカルブレイクアウトは、通信拠点が分散するため、セキュリティホールが拠点数の分だけ増えてしまうというデメリットがあります。そのため、各学校にセキュリティ担当者を配置したり、ファイアウォールなどの対策機器を導入したりするなどの工夫が必要です。学校現場にとっては、今まで以上の運用負担を感じてしまうこともあるでしょう。

サイバー攻撃への対策

一般的に、インターネットなどの外部へ接続できるデバイスが増えれば増えるほど、セキュリティの脅威も増すことを意味します。とくにGIGAスクール構想などの開かれたプロジェクトにおいては、システムの構成や内容が公になることも多いため、サイバー攻撃者の標的になる可能性が高まるのです。

また、ITリテラシーがあまり高くない保護者や子供も利用することから、不意に情報が流出してしまうことも考えられるでしょう。外部と接続する端末が増えれば増えるほど、学校や自治体で抱えるセキュリティリスクが高まります。

考えられる攻撃としては、標的型攻撃、不正アクセス、マルウェア、ゼロデイ攻撃など、さまざまです。なかには、システムを整備するだけである程度の対策を実行できるものもありますが、人的な対策が必要なものもあるため、リスクを完全にゼロに抑えることはできません。

学校や保護者がセキュリティへ高い意識をもち、防止策や、万一発生した際の対応策などを事前に検討する必要があります。

GIGAスクール構想の実現に向けた今後の課題

GIGAスクール構想の実現に向けて、学校が今後検討していかなければならない事項の1つは、タブレットの更新費用の問題です。政府は現在、5か年計画に基づいて費用面のサポートを続けていますが、その後も負担してくれるかどうかは定かではありません。

仮に、タブレットの更新費用が自治体負担になると、財政の厳しい自治体でタブレットの買い替えができなくなってしまいます。せっかく進んだGIGAスクール構想も、費用面の問題で断念せざるを得なくなってしまうことは避けるべき事態です。

解決策として、個人所有の端末を学校でも使用する「BYOD(Bring Your Own Device)」の導入が注目を集めています。しかしBYODを採用する場合でも、保護者に費用面での負担をお願いしたり、困窮家庭へのサポートを検討したりと、乗り越えるべき課題がたくさんあるのです。

今後もICTを活用した教育を続けていくには、保護者の理解を得る必要があります。そのためには、取り組みの成果をしっかりとアピールし、ICT教育の必要性を感じてもらわなければなりません。

GIGAスクール構想を実現してくためのカギ

GIGAスクール構想を実現してくためのカギ

上記で、GIGAスクール構想に関するさまざまな課題を挙げました。ここでは、GIGAスクール構想を実現するにあたって、カギとなるヒントをいくつかご紹介いたします。

小さいところからクラウドの活用を進めていく

学校現場でのICTやクラウドの活用を進めていくには、まず、教員が利便性や必要性を理解している必要があります。

すべての教員がICTを使いこなせるようになるために、スモールスタートでクラウド活用を進めるやり方で成功している学校も存在します。たとえば、「児童の出欠席情報をスプレッドシートで管理する」「One DriveやDropboxなどで簡単なファイル共有をはじめてみる」「Google カレンダーで年間日程の共有をする」など、初心者でも簡単にできることからはじめてみるといった具合です。

最初は、ITに疎い教員が利用に戸惑ってしまうかもしれませんが、使い続けるうちに、アクセス性や効率性に気づいていくでしょう。一度利用が定着すれば、さらに踏み込んだICT教育の施策もスムーズに展開できるはずです。

評価体制を整える

2つ目に、何をもってICT教育の成功とするのか、そのためにどのように評価していくのかといったことを整備することが重要です。

たとえば、ICT教育の成功は、単に端末を使いこなせるようになったり、効率的なシステムを整えたりすることがゴールではありません。端末やクラウド教材を用いて、いかに生徒の「情報活用能力」を引き上げていくか、が教員に求められる課題です。

また、従来の教育方法と比べて、生徒の理解度やコミュニケーション能力がどれくらい上がったのかを測るのが望ましいでしょう。生徒や教員の雰囲気で判断するだけでなく、テストやアンケートなどのデータを収集し、具体的な数値として計測すると、より目に見える形で現状を把握できます。

GIGAスクール構想における課題を理解し、実現に向けて取り組みをしよう

この記事では、GIGAスクール構想の現状から課題、実現に向けたヒントまでをご紹介しました。国が、まず形として始めたのはいいものの、現場においては課題が山積しているのが現状です。

今回の記事で挙げた課題は、現場だけではなく、保護者や教育委員会、行政の協力があって解決できる内容です。まずは、周りの組織や関係者と連携を取り、できるところから始めていきましょう。

この記事が、GIGAスクール構想の実現に向けた取り組みの一歩となれば幸いです。

GIGAスクールで気を付けたい3つの落とし穴