文部科学省が進める「GIGAスクール構想」の実現に向けた、具体的な取り組み内容を解説

GIGAスクール構想は、2019年12月に財務省が発表した「2019年度補正予算案」において、予算が組み込まれたことからはじまりました。そして、新型コロナウイルス感染症が流行りはじめた2020年4月に、当時の文部科学大臣である萩生田 光一氏によって、早期に実現する旨が表明されています。

この記事では、文部科学省が積極的に推し進めている「GIGAスクール構想」の概要や、同省が具体的に取り組んでいる内容について網羅的に解説いたします。

文部科学省が推し進める「GIGAスクール構想」
とは?

文部科学省が推し進める「GIGAスクール構想」 とは?

文部科学省が推し進める「GIGAスクール構想」とは、学校教育の現場でもICTを活用しながら効果的に学習を進められるようにするため、児童や教員がパソコンやタブレットを活用できるようにするための取り組みです。

具体的には、1人1台端末と、高速・大容量のネットワークを整備することで、公正でありながら、個別に最適化された教育の実現を目指しています。教員や児童が端末を活用することにより、一人ひとりのニーズに合わせた個別学習を展開したり、子ども同士でリアルタイムに意見交換をしたりする場が設けられるようになります。

ちなみに、GIGAスクールの「GIGA」は、「Global and Innovation Gateway for All」の略で、「すべての児童・生徒のための国際的・革新的な入口」という意味があります。つまり、教育現場でICTを活用することにより、児童や生徒が国際舞台や革新的な技術などへ、より身近に接することができるようになるための取り組み、だともいえるでしょう。

文部科学省がGIGAスクール構想を推進する理由

そもそも、なぜGIGAスクール構想が提唱されるようになったのでしょうか?以下では、2つのポイントで理由を解説いたします。

国がSociety 5.0 を目指しているため

文部科学省がGIGAスクール構想を推し進めている理由のひとつは、国が提唱した「Society 5.0」の実現を目指しているからです。

そもそも「Society5.0」とは、仮想空間と現実空間を高度に融合させることにより、社会課題の解決や経済発展を目指す、人間中心の社会のこと。Society 1.0~4.0までが、狩猟社会・農耕社会・工業社会・情報社会と定義されてきたのに対し、Society 5.0では、IoT・ビッグデータ・人工知能などを活用し、現代社会がかかえる高齢化・地球温暖化・人手不足といった諸問題を解決していくことを目指しています。

Society 5.0を実現するためには、国をあげたIT人材の教育・育成が欠かせません。そのために、文部科学省ではGIGAスクール構想を提唱し、児童や生徒の段階からITを活用できるようにするための取り組みを進めているのです。

世界と比べてICTの利活用が遅れているため

ふたつめの理由は、世界と比べてICTの利活用が遅れているためです。国立教育政策研究所が発表した『OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント』によると、1週間のうち、学校でデジタル機器を使用する時間は、OECD加盟国のなかで最下位という結果になりました。

世界と比べてICTの利活用が遅れているため

出典:OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント

また、学校外での学習についても、デジタル機器を使用している割合はOECD加盟国の平均以下となっております。
上記のような状況を受け、教育現場でのデジタル化・ICT化を進めるために、GIGAスクール構想を進めているのです。

GIGAスクール構想の実現に向け、文部科学省が進めていること

GIGAスクール構想の実現に向け、文部科学省が進めていること

ICT環境の整備

GIGAスクール構想を実現するために、文部科学省では、学校や家庭でのICT環境の整備を進めています。以下では、現状や課題について解説いたします。

1人1台端末の実現

GIGAスクール構想の実現に向け、文部科学省では1人1台端末の実現を目指しています。具体的には、公立の小学校・中学校等を対象に、1人あたり1台のタブレット・ノート端末を普及させるため、予算を組んで支援する内容です。

また、端末がネットワークへ接続できるよう、インターネット環境の整備もあわせて進めています。学校内で、校内LAN環境や電源キャビネットを構築するために、こちらも予算を組んで支援する内容です。

文部科学省が発表した『端末利活用状況等の実態調査 (令和3年7月末時点) (確定値)』によると、2021年7月末時点では、合計で1,812の自治体のうち、96.2%にあたる1,744の自治体で、端末とインターネット環境の整備が完了しています。調査時点で未了の自治体においても、今後に整備を完了する予定を立てており、最終的には1人1台端末が実現する計画となっています。

今後は、小学校・中学校にとどまらず、高等学校においてもGIGAスクール構想の実現に向けた積極的な支援が進められていくでしょう。

出典:文部科学省初等中等教育局:端末利活用状況等の実態調査 (令和3年7月末時点) (確定値)

校務のICT化

児童・生徒に向けたICTの環境整備とあわせて、校務におけるICT導入も同時に進められています。教員が児童の学習状況等をシステム上で一元管理・共有することで、教員の事務作業の負担を軽減したり、より効果的な教育アプローチがとれたりするようになるからです。

校務におけるICT整備について、文部科学省では、『教育振興基本計画』や『平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針について』といった資料にて、具体的な指針を明らかにしています。上記を参考にすることで、教育現場がとるべき方針の全体像がつかめるでしょう。

家庭でのオンライン学習に向けた環境整備

校内における端末・インターネット環境の整備によって、学校のICT環境が充実した一方で、家庭でのオンライン学習に向けた整備は、それほど進んでいないのが現状です。

たとえば、以下のような問題が挙げられます。

  • 経済的な理由で通信環境が整えられない家庭は、モバイルルーター等をどのように用意するのか
  • 学校から自宅へオンライン授業等をおこなう際に、学校側のマイクやカメラを購入するための予算はどのようにするのか

これに対して文部科学省は、各種補助金や支援制度を用意することで解決しようとしています。具体的には、モバイルルーター等を整備するための補助金、就学援助等の制度を活用した通信費の援助、学校がカメラやマイクなどの周辺設備を整備するための補助金などです。

また、各家庭にあるパソコンやタブレットを最大限に活用するとともに、国として支援を進めるため、小学6年生や中学3年生などの最終学年の児童生徒から、優先的に整備する旨を発表しています。

出典:文部科学省:ICTの積極的な活用による「学びの保障」について

出典:文部科学省:GIGAスクール構想に関するこれまでの主な留意事項の全体像①

ICTの利活用に向けた活動促進

GIGAスクール構想を実現するには、端末やインターネット環境を整備するだけでなく、現場で当たり前のように使われ続けなければなりません。下記では、ICTの利活用促進に向けて、文部科学省が取り組んでいる内容を解説いたします。

GIGA StuDX推進チームの発足

 GIGA StuDX推進チームの発足

出典:文部科学省:GIGA StuDX推進チームの取組について

文部科学省は令和2年12月、「GIGA StuDX推進チーム」による支援活動を展開しはじめました。同チームは、自治体や学校が参考になる情報の発信等を通じて、教育委員会や学校への支援をおこなうことを目的としています。

具体的には、「StuDX Style」のメディアにて、具体的な指導法の事例や、メッセージ動画などを配信。各学校や自治体での成功事例を共有することで、ほかでもスムーズに取り組みが進められるようになります。

また、全国の教育委員会と情報交換をするためのプラットフォームを立ち上げています。これは、文部科学省が、都道府県や地区町村の教育委員会、学校現場と連携することで、取り組みの状況やサポート状況などをスムーズに共有し、協業していくためのネットワークです。

GIGA StuDX推進チームは、令和3年4月に8名の教員を新たに増員し、指導活動を本格的に展開しはじめました。チームメンバーがいかに現場の現状を理解し、コミュニケーションを取っていくかで、成功の可否が分かれるでしょう。

EdTech(エドテック)サービスの活用支援

文部科学省は、タブレットなどの端末を活用した効果的な教育が実施されるよう、EdTech活用に向けた支援をおこなっています。そもそもEdTech(エドテック)とは、「Education(教育)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語で、教育にイノベーションをもたらすサービスやビジネスの総称です。

EdTechの例として、凸版印刷の「navima」や、すられネットの「すららドリル」などがあります。これらを教育現場で導入し、活用することで、データを基軸にした効果的な教育を展開することが可能になります。

経済産業省では、学校現場でのEdTech導入を促進するため、「EdTech導入補助金」を開始。EdTech事業者に対し、導入にかかる経費を補助することで、デジタル教育に必須の教材をスムーズに整備していく予定です。

文部科学省においては、EdTechの開発・活用に向けたガイドラインを策定したり、AIやビッグデータを活用した教育方法を検討したりすることで、活用を促進していく方向性です。

出典:文部科学省:Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性

デジタル教科書の活用促進

EdTechを導入して教材を充実させるだけでなく、児童・生徒や教師が普段使っている教科書についても、デジタル化するための取り組みが進められています。

デジタル教科書に向けた取り組みについては、平成31年4月に、「学校教育法等の一部を改正する法律」が施行され、紙の教科書とデジタル教科書を併用して利用することが可能になりました。しかし、文部科学省が発表した「令和元年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」によると、学習者用デジタル教科書整備率は、全国平均でわずか7.9%と非常に低い結果となっています。

そこで文部科学省は、GIGAスクール構想の実現に向け、「学習者用デジタル教科書普及促進事業」の取り組みを開始。同取り組みでは、1人1台端末が整備されている小中学校を対象にデジタル教科書を提供し、現場で発生した課題などの報告を求めています。そして令和6年度には、小学校にてデジタル教科書の本格導入が進められる予定です。

出典:文部科学省:令和元年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)

出典:文部科学省:学習者用デジタル教科書普及促進事業

出典:文部科学省:(資料3)デジタル教科書に関する制度・現状について (PDF:1.7MB)

1人1台端末の利活用促進に向けた安全の確保

1人1台端末が現実的となってきた現在、学校現場での利活用促進に向けた取り組みが積極的に進められています。

文部科学省が発表した『端末利活用状況等の実態調査 (令和3年7月末時点) (確定値)』によると、令和3年7月末時点で、「端末の利活用を開始した」と答えた学校は、公立小学校で96.2%、公立中学校で91.3%という結果になりました。つまり、ほとんどすべての学校で端末の利用が開始されていることになります。

そこで、安定した運用を続けていくうえで問題となるのが、「セキュリティ」「情報モラル」といった諸問題です。まず、セキュリティについては、文部科学省にて『教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン』を公表。教育現場が押さえておくべきセキュリティの基本から、GIGAスクールにおけるセキュリティ対策方法まで、事細かに記されています。ガイドラインハンドブックを参考にすることで、教育委員会や学校がすべき具体的な施策が明確になるでしょう。

次に情報モラルについては、児童や教員が、GIGAスクールにおいて情報をうまく解釈したり活用したりするために、考え方や態度について理解を深めなければなりません。文部科学省では、『GIGAスクール構想 本格運用時チェックリスト』を提供しており、下記5つのポイントに絞って、学校設置者等が実施すべきタスクを明確化しています。

  • 管理・運用の基本
  • クラウド利用
  • ICTの活用
  • 研修・周知
  • 組織・支援体制

出典:文部科学省初等中等教育局:端末利活用状況等の実態調査 (令和3年7月末時点) (確定値)

文部科学省の取り組みを把握して、GIGAスクール構想の全体像をつかもう

この記事では、GIGAスクール構想の概要から、文部科学省が現在取り組んでいる内容までを、網羅的に解説しました。各学校への端末・ネットワークの整備はほとんど完了しましたが、利活用については、さまざまな課題が待ち受けているのが現状です。

各教育委員会や教育現場では、文部科学省が用意した「GIGA StuDX推進チーム」や、各種ガイドライン・資料などを活用し、一体となって協業していくことが求められます。ぜひこの記事を参考に、今後のGIGAスクール構想の実現に向けた取り組みの参考にしてみてください。

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