現在、企業ではクラウドサービスを導入しているところが多くなってきています。さらには複数のクラウドを用途で使い分けている企業も増えています。しかし「基幹システム」は、オンプレミスで運用している企業が多くを占めています。今後のITインフラの運用ではオンプレミスだけでなく、クラウドを複数併用するスタイルが求められてくるでしょう。本記事では、基幹システムをデータセンターで運用する必要性と選び方のポイントを解説していきます。
1.ハイブリッドクラウドの今後の必要性
今や日本の企業でもクラウドサービスを利用するのが当たり前の時代になりつつあります。大半の企業はオンプレミス運用が当たり前ですが、新規アプリの開発ではクラウド前提の開発事例が増えてきています。このような例から、クラウドの運用は今後ますます日本でも普及するとみられています。
1-1.ハイブリッドクラウドという発想について
では「クラウドは万能」かというと決してそうではありません。場合によってはオンプレミスでの運用の方がおすすめなケースもあり得ます。ですからこれからのITインフラの運用で最善の策とされるのが、クラウドとオンプレミスを併用していく手法です。このようなスタイルをハイブリッドクラウドといいます。
もしくは、クラウドの使い分けという発想も浸透しつつあります。クラウドサービス事業者の中でもメガクラウドと呼ばれる有名なサービスがいくつかありますが、メガクラウドの主要なサービスを見てみると、それぞれに強みと弱点があります。ですから強みと弱点を理解するならば、こちらの用途によって、ベストな選択肢を選ぶことができるわけです。さらに言うと、パブリッククラウドに関しても使い分けが最善策となります。そのようにして複数のパブリッククラウドを使い分けながら、オンプレミス運用も併用することでより効率的な運用が可能になるため、いわば「ハイブリッド・マルチクラウド」に移行しつつあるのが現状です。
1-2.ガバメントクラウドというクラウドサービス
政府もクラウドサービスの活用を推し進めています。それが「ガバメントクラウド」という発想です。ガバメントクラウドとは政府が提供する共有のクラウドプラットフォームのことです。内容としては日本全国にある1,741市区町村の自治体が、20業務の基幹系システムを国の定める標準準拠システムに移行し、そしてガバメントクラウドというデジタル庁の整備するパブリッククラウド基盤を利用することを指しています。政府はすでにこの計画を2025年度末までに進めるとしています。このような国の方針に沿って、各自治体も対応を迫られています。
すでに、神戸市では基幹系システムの一部をAmazonのAWSに2023年3月までに移行しています。AWSはガバメントクラウドの一つに選定されています。基幹系システムの一部とは住民記録システムや税金、介護などの情報に関してで、これらをAWS上に構築しています。そのほかにも、住基が共通基盤システムへ移行することも発表されました。このように政府もクラウドサービスを積極的に活用しようという動きを実際に見せています。
1-3.セキュリティ面についての対応
しかし、クラウドサービスを利用するにあたって、セキュリティの問題はどうなのかという懸念も生じてきます。そのクラウドセキュリティに関しても時代とともに変化しています。特に最新のトレンドとして注目されているのが、SASEというコンセプトです。SASEとは「Secure Access Service Edge」の頭文字で、「サシー」といいます。クラウドを、セキュリティとネットワークという2層構造によって管理するクラウドセキュリティ対策というものです。つまりネットワークとセキュリティを一体化したクラウドサービスです。
従来のオンプレミスのデータセンターによる運用には効率的な限界がありました。例えば、データセンターでオンプレミスだと、境界型セキュリティを運用するという発想がベースにありました。このスタイルだとユーザーはいったんデータセンターの内部に案内されます。そしてネットワークの外から内へ案内されます。しかしこれでは2段階の手続きを踏むことになり、データセンターからネットワークに向かうところでつまりが生じます。そしてネットワークの混雑により遅延が発生します。これを回避し作業効率化のために直接クラウドに接続するユーザーもいますが、そうすることによりセキュリティリスクが増大するという危険がありました。
そこで登場したのが、SASEです。セキュリティのマネジメントもクラウドのほうで行うことで効率的な運用が可能になります。まだソリューションによって成熟度にばらつきがありますが、現在セキュリティベンダー側も急速に対応を進めている状況にあり、今後普及する可能性が高くなっています。このようにクラウドユーザーの使い方に合わせたセキュリティが続々開発されており、今後の必要に合わせて更に良いサービスが出ることでしょう。
2.情報システム運用で欠かせないデータセンターの存在
基幹システムは企業のライフラインとなりつつありますが、情報システムはすでにライフラインの一つになっているといっても過言ではありません。もし情報システムがストップしてしまうと、日常生活に深刻で多大な影響を及ぼます。しかしその一方でサーバやストレージなど情報システム運用で重要な役割を果たす為の機器は、熱や湿気、ほこりなど苦手なものが多く大変デリケートで運用コストがかかります。そのために、情報システムをローコストで確実に動かすために注目されているのが、データセンターの存在です。
2-1.本業に専念できるメリット
データセンターとは、サーバやストレージをクライアントから預かって安定稼働させる施設のことです。安定稼働させるためにあらゆるリスクを想定し、対応しているのが特徴でありメリットです。地震などの自然災害でも簡単はに倒壊しないような堅牢な構造の造りになっており、また、安定した電源が確保できるように考えられ、重要な点として不審者の侵入をブロックするセキュリティ設備が装備されています。もし自前でこのような環境を整備しようと思うと、多大なコストがかかるでしょう。しかしこのようなデータセンターを利用するならば、設備投資コストを圧縮しながら、サーバやストレージの運用を専門業者に任せられます。彼らにより、問題が生じないように予防し、もしも異常に気付いた場合にはすぐに対処することができます。そうすることで自分たちは安心して本業に専念でき、作業効率を高められるわけです。
2-2.障害対応を一任できるメリット
どんなに万全の対策を講じても、何らかのシステム障害の起きる可能性はゼロにはなりません。例えば、オンプレミス環境の場合だと、システム障害が発生した場合システム管理者に来てもらって対応してもらう必要があります。その場合、休日や深夜、早朝などタイミングによってはすぐに対応してもらえない恐れがあります。その間、システムは利用出来ず、作業は中断せざるをなくなり多大な損失となります。
一方データセンターの場合、そういった非効率的な懸念を解消することが可能かもしれません。データセンターでは運用スタッフがローテーション制で24時間365日監視しています。ですから、たとえシステム障害が発生したとしても、障害をリアルタイムで確認することができます。そして、運用スタッフが障害復旧作業を速やかに対応します。ですから障害によるシステム利用できない時間を必要最小限に食い止められるわけです。
3.データセンターの運用にあたっての比較ポイントについて
このように、データセンターを利用する事は価値のある事だと思われるでしょう。いろいろなデータセンターサービスがありますが、どの会社を利用するかにあたっていくつか比較すべきポイントがあります。
3-1.災害リスクに備えているか
今や、災害は身近なものになりました。阪神淡路大震災や東日本大震災をはじめ、日本は地震大国です。そして、夏場はスーパー台風と呼ばれる甚大な被害を及ぼす強力な台風が上陸する例も珍しくなくなっています。このような自然災害に対する耐性があるかは比較するポイントとなります。まずは、自然災害発生リスクの低いところにデータセンターがあるか、万が一被災したときにはダメージを軽減するために建物や機器にどのような対策を講じているかよく確認しましょう。
3-2.セキュリティ対策を講じているか
それから、非常に重要な、侵入者を防ぐ為の対策についての確認も必要でしょう。例えば生体認証システムで登録されている人のみ出入りできるシステムを講じているとか、事前申請をした者のみ入館できるシステムをとっているか、などの部外者がセンターの内部に侵入できない対策を講じているかどうかなどは重要な点となります。
3-3.空調管理が適切になされているか
空調管理を忘れてはいけません。空調管理はデータセンターにとって生命線です。もし空調の管理が行き届いていなかった場合、最悪サーバやストレージが高温になってしまって、運用がストップするなどの支障をきたすかもしれません。この空調管理を効率的に実施するために、各業者はさまざまな解決策を講じています。例えば、ポピュラーなのはサーバルームを二重床にする方法です。床下から冷気を送り込むことで温度管理するスタイルです。また最近では熱が吸入側に回り込まないように空気の流れを封じ込めることによって、熱コントロールを行うスタイルも人気です。
3-4.電源が安定供給されるか
電源の安定供給は重要です。この問題はデータセンター選びで重視したいところです。電源を失えば、いかに設備が充実していてもサーバもストレージも動かなくなってしまいます。今は機器の進化によって消費電力量も益々大きくなっているので、十分な電力を確保できているかどうかもかなり重要な問題になりえます。
更に言うと、電源供給体制の確保と共に停電時の対応も検討の余地があります。十分な電源が確保できていたとしても、何らかの理由で停電になれば電源は供給できなくなります。そこでポイントになるのが、UPSです。UPSとは「無停電電源装置」のことです。現在の大半のデータセンターでは、もし停電しても自家発電装置があるのでこちらで電源を確保するという手段があります。しかし自家発電装置が稼働するまでは一定の時間がかかります。その間にもしUPSがあれば電力供給が可能です。UPSがあるのかを確認するのはもちろんのこと、どの程度の容量なのかも忘れずにチェックしておきたいところです。
3-5.立地に対するアクセスはどうか
データセンターは一度企業に任せたのならば、自分たちが行く必要はないとお思いになるでしょう。勿論それがメリットでもあります。しかし実際のところ、保守作業の立会や機器の増設などデータセンターにクライアントが赴く機会は往々にして存在します。そこでもしアクセスしにくい場所にデータセンターがあるのであれば、不効率で不便に感じてしまいます。データセンターがアクセスしやすい場所にあるかどうかも、考慮に入れておいたほうがよいでしょう。データセンターの中にはアクセスしやすい街中に設置されているケースもあります。こういったところを検討することによりこちら側のメリットは大きいでしょう。
4.まとめ
情報システムの運用は業種の関係なく、今では欠かせないビジネス運用ツールの一つになっています。オンプレミスで運用しているところは未だ多いようですが、クラウドサービスやデータセンターのような外部で運用するスタイルも普及しつつありますし、今後も拡大するでしょう。なぜならばセキュリティ対策やシステム運用を効率的に且つ専門的に任せられるので、こちら側は本業に専念することが可能だからです。またデータセンターへの移行は国を挙げて推し進めている政策の一つでもあります。ですからここまで記事をお読みになってメリット、デメリットを考察し良いと思われたのであれば、導入してみることを是非お勧めいたします。