EDR(Endpoint Detection and Response)は、パソコンやサーバーなどエンドポイントの脅威を検知し、迅速に対応するためのセキュリティの仕組みです。
サイバー攻撃が高度化・巧妙化する現代において、従来のインシデント対応における課題を解決する手段として注目されています。
しかし、いざ自社でのEDR導入を検討する場合、「どのような効果が得られるのか?」「導入手順は?」といった疑問から、踏み切れない企業も少なくないでしょう。
本記事では、EDRを導入する理由や目的、導入・運用によって得られる効果、具体的な導入手順、導入時のポイントについて解説します。
EDRを導入する理由
サイバー攻撃の早期発見と迅速な対応を実現するためのソリューションとして、国内でのEDR導入が進んでいます。
実際に、エムオーテックス株式会社が発表した「EDR&MDR利用実態調査 2024年版」によると、約8割の企業がEDRを導入していることが分かっています。
企業がEDRを導入する理由として、下記が挙げられます。
- 高度化するサイバー攻撃への対応
- 多様化するエンドポイント端末の管理
- 迅速なインシデント対応と再発防止
これらの課題に対処するため、従来のセキュリティ対策を補完する形でEDRが注目されています。特に、リモートワークの普及や個人所有の端末利用が増えたことで、管理すべき端末が多様化しており、これらを一元的に保護するニーズが高まっています。
そもそもEDRとは?
EDR(Endpoint Detection and Response)とは、パソコンやスマートフォンなどネットワークに接続された端末(エンドポイント)で発生するセキュリティインシデント(不正侵入やウイルス感染など)を検知・分析し、対応するためのソリューションです。
エンドポイント上のプログラム実行やファイル操作などの動作を記録し、不審な行動を見極める仕組みを備えています。
EDRの目的は、エンドポイントに潜む脅威を早期に発見し、被害の拡散を防ぐことです。また、発生後には原因・影響範囲を迅速に特定することで、適切な対応に役立てられます。
EDRの大きな特徴はログの収集と分析にあります。また、長期間保存されたログデータを用いたフォレンジック分析により、過去のインシデントの分析から将来の防御にも活用可能です。
EDRの導入により、以下の4つのメリットが得られます。
- 早期の脅威検知と自動化による迅速な対応
- 影響範囲の迅速な特定
- 高度な脅威への対策
- フォレンジック分析によるセキュリティ対策の改善・強化
EDRはこれらの機能を通じて、複雑化・高度化するサイバー脅威から企業の重要な情報資産やシステムを守る上で重要な役割を果たします。
EDRの主な機能
EDRの主な機能には、以下のようなものがあります。
- リアルタイム監視と脅威検出:プログラム実行やファイル操作を常時監視し、不審な挙動を検出する
- インシデントの分析と可視化:発生したインシデントのデータを記録・分析し、原因と影響範囲を把握する
- 対応の自動化と連携機能:脅威検出時に端末隔離やプログラム停止を自動で実行し、SIEMなど他ツールとも連携する
- 多様な端末への対応:異なるOSやIoTデバイスに対応し、リモート環境でも統一的なセキュリティ管理を実現する
これらの機能により、企業全体のエンドポイントを包括的に保護し、迅速かつ効率的なインシデント対応を可能にします。
EDRの導入・運用で何が変わるのか?期待できる効果
EDRを導入・運用することで、具体的には何が変わるのでしょうか。ここでは、EDR導入によって期待できる具体的な4つの効果をご紹介します。
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ウイルスの脅威を迅速に検知できる
近年のサイバー攻撃は高度化・巧妙化しており、マルウェアの侵入や感染を完全に防ぐことは困難とされています。そのため、侵入防止策だけでなく、万が一侵入があった際に迅速に検知し、脅威を排除する対策が必要です。
EDRは、エンドポイント上のプログラム実行やファイル操作をリアルタイムで監視し、不審な挙動を即座に検出します。
従来のアンチウイルスソフトでは対応しにくいゼロデイ攻撃や標的型攻撃も早期に発見できるため、被害拡大前に適切に対応できます。
ウイルス感染の被害状況を正確に把握できる
EDRには、エンドポイント端末で発生したセキュリティインシデントの原因や経緯を分析する機能があるため、管理者は収集したデータをもとにインシデントの発生や拡散、影響を可視化し、被害の全体像や深刻度を把握できます。
これにより、対策の優先順位を決定し、再発防止策を効果的に講じることが可能になります。
被害の拡散を未然に防げる
EDRは、エンドポイント端末で発生したインシデントに対して適切な対応を行う機能も備えているため、被害の拡大防止にも寄与します。
具体的には、脅威を検出した際、EDRは感染の拡大を防ぐために即座に端末のネットワーク隔離やプログラム停止を自動的に行います。これにより、攻撃の範囲を最小限に抑え、他の端末への感染を未然に防げます。
また、他のセキュリティツールとの連携により、複合的な防御体制を構築できることも大きなメリットです。例えば、SIEM(Security Information and Event Management)を活用することで、複数のシステムからのログを集約・分析し、異常検知を強化できます。
社外からの接続でも安全性を確保できる
EDRはエンドポイント端末が社外のネットワークに接続されている場合でも、クラウド上のサーバーと通信し、データの収集・分析・対応機能を活用できます。
そのため、リモートワークや外出先、出張先などで使用される端末に対しても、セキュリティを維持できます。
また、EDRは管理者が遠隔からエンドポイント端末を操作できるため、トラブルが発生した際には手動で迅速な対応や復旧作業を行うことが可能です。
- EDRの導入方法6ステップ
EDRを導入する際には、適切なステップで進めることで導入後のシステム間の不具合や想定外のトラブルを防ぎ、スムーズな立ち上げを実現できます。ここでは、EDRの導入方法を6つのステップに分けて詳しく解説します。
ステップ1. 導入の目的を明確にする
はじめに、EDRを導入する目的を明確にすることが重要です。企業によって導入理由は異なりますが、以下のような目的で導入されることが一般的です。
- サイバー攻撃への防御力向上
- 脅威を迅速に検出する体制の構築
- インシデント対応の効率化
- セキュリティポリシーの実践と強化 など
導入目的が明確であれば、企業のニーズに合ったEDR製品を選びやすくなり、導入効果を最大限に引き出せます。また、目的を事前に設定することで、導入後の評価基準を定めやすくなり、EDRの運用成果を継続的に測定するための指標としても活用できます。
ステップ2. 現状の環境環境を評価し、影響範囲を確認する
EDRを導入する前に、現在のIT環境を評価することも不可欠です。具体的には、以下のような項目を把握し、EDR導入による影響範囲を確認しましょう。
- 既存のセキュリティ対策
- ネットワーク構成
- エンドポイントの種類(パソコン、スマートフォン、IoTデバイスなど)
また、現状の脅威状況や過去のインシデントを分析し、EDRがどのように効果を発揮するかを予測します。この評価をもとにすることで、導入計画をより具体的に進めやすくなります。
ステップ3. 必要な機能や性能を洗い出す
次に、自社が必要とするEDRの機能や性能を洗い出します。各EDR製品には、リアルタイム監視や脅威の自動隔離など、さまざまな機能が搭載されているため、自社の業種や規模、ITインフラに応じて、どの機能が必要かを検討し、優先順位を付けることが重要です。
また、将来的な拡張性や、他のセキュリティツールとの連携が可能かどうかも考慮しましょう。
ステップ4. 自社に適したEDR製品を選定する
洗い出した機能や評価をもとに、自社に最適なEDR製品を選定します。市場には多くのEDR製品が存在するため、機能の比較に加え、価格やサポート体制も考慮する必要があります。
具体的には、以下のポイントを重視して選定を行うことで、信頼性の高いEDR製品を見極めやすくなります。
- EDRの提供元のサポート体制
- アップデートの頻度
- 既存システムとの連携の可否
- 拡張性の高さ
- 実績や評判
また、デモやトライアル版を利用し、実際の使い勝手を確認することもおすすめです。
ステップ5. テスト環境で動作確認を行う
選定したEDR製品を導入する前に、テスト環境を用意し、EDRが正しく機能するか、既存のシステムと問題なく統合できるかを確認する必要があります。この段階で問題点が発見された場合、実運用前に解決することが重要です。
必要に応じて、ユーザー教育やトレーニングも行い、実運用に向けた準備を整えましょう。
ステップ6. 継続的に運用・監視を続ける
EDRは導入して終わりではなく、継続的な運用と監視が必要です。セキュリティ脅威は日々進化しており、新たな脅威に対応するためのルールの追加や設定の見直しが欠かせないため、定期的な効果測定やアップデートが求められます。
具体的には、EDRから取得した情報やアラートを定期的にチェックし、インシデントへの対応および詳細な分析を実施しましょう。また、EDRの設定やパラメーターも随時見直し、最新の脅威情報や環境の変化に対応できるように調整することで、EDRの効果を最大限に引き出すことが可能です。
EDRの導入時に押さえておくべきポイント
EDRを導入し効果的に活用するためには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。ここでは、EDRの導入時に押さえておくべき2つのポイントをご紹介します。
運用体制を構築する
EDRを効果的に運用するためには、社内の運用体制を構築することが重要です。まずはEDRの運用や監視を行うチームを編成し、セキュリティ担当者を配置することが推奨されます。
運用体制を構築する際には、セキュリティインシデントの発生時に迅速に対応できるよう、各メンバーの役割を明確にしておくと良いでしょう。誰がどのような対応を行うのかを定義することで、混乱を避けられます。
また、運用チームは定期的にトレーニングを受け、最新の脅威情報やEDRのアップデートに対応できるようにしておく必要があります。
必要に応じて、監視・運用サービスの活用も検討する
EDR運用において、自社のリソースや専門知識に限界がある場合、外部の監視・運用サービスを活用することも選択肢の一つです。
専門的な知識や技術を持った外部サービスに監視・運用のサポートを依頼することで、自社内の負担を軽減できます。
セキュリティは企業の重要な要素であるため、信頼性の高いサービスを選定することが重要です。外部サービスを利用する際には、提供されるサービスの範囲や過去の実績なども確認し、信頼性できるパートナーを見極めましょう。
まとめ
EDRはエンドポイント端末のセキュリティを強化するための技術であり、感染後の被害を最小限に抑える機能を備えています。
EDRを正しく理解し効果的に運用することで、エンドポイント端末のセキュリティを向上させることができます。EDR未導入の場合は、この機会に導入を検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、EDRは有効な対策の一つであるものの、企業のセキュリティ対策がこれだけで完結するわけではありません。EPP(Endpoint Protection Platform)やアンチウイルスなどの複数の防御層を組み合わせ、サイバー攻撃の防御と被害の最小化を図りましょう。