「DX推進に向けた企業とIT人材の実態調査」から考えるDX時代の人材戦略

DX推進に向けた企業とIT人材の実態

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は、企業におけるDXへの取組状況や先進事例、先端デジタル領域において不足が懸念されるIT人材の学び直しや流動実態等の調査を実施し、その結果を「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査(2020年5月14日)」として公開しています。(https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20200514_1.html

この調査は、2018年度にIPAが実施した「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」に続き実施されたものとなります。本コラムでは、同調査におけるポイントと、課題解決に向けた提言について紹介します。

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DXへの取組実態に関する調査結果

同調査ではDXへの取組状況に関して、全体では41.2%の企業がDXへと取り組んでいると回答していますが、規模別で分類すると従業員1,001人以上の企業では77.6%、301人以上1,00人以下の企業では41.9%と全体比率を上回っているものの、300人以下の企業では取り組んでいるという回答の比率が下がり、企業規模によって格差が見られると報告しています。

業種別の取り組み状況を見ると、「電気・ガス・熱供給・水道業」が81.6%ともっとも多く、続いて「金融、保険業」、「学術研究、専門技術サービス業」、「建設業」までが50%以上となりました。

実際に成果が出ている取組内容としては、見込みまで含めると「業務効率化による生産性向上」が66.9%ともっとも多く、「既存製品・サービスの高付加価値化」、「新規製品やサービスの創出」と続いています。

成果が出ている企業の特徴としては、「全社戦略に基づいて全社的にDXに取り組んでいる」という企業、そしてIT業務が分かる役員の比率が高いほど、成果が出ている割合が高く、「連携先とのWin-Win関係」、「DX人材の社外からの獲得」といった、いわゆる外向き問題を課題として認識している企業群が成果を出している傾向にあると報告されています。

一方、DXの成果が出ていない、もしくはDXに取り組んでいない企業には、「危機感の浸透」や「変革に対する社内の抵抗」、「社内人材の育成」といった、いわゆる内向き問題の課題を抱えている傾向が強いと報告されています。

DXの推進に求められる人材タイプ

DXを推進するためのポイントについて同調査では、想いを持ったリーダーの存在を挙げ、リーダーによる経営・顧客・社会の巻き込み力が重要であり、自らの強い想いや信念を持ってDXを推進していく実務リーダーの存在が不可欠だとしています。

また、経営トップにはそのようなリーダーを適切に登用する意思決定や仕組み化を行うことが求められるとしています。

求められる人材のタイプとしては、ユーザ企業、IT企業ともに「プロダクトマネージャー」や「ビジネスデザイナー」の重要度が高く、加えてユーザ企業では「データサイエンティスト」、IT企業では「テックリード(エンジニアチームの技術的なリーダー)」、「エンジニア/プログラマ」の重要度が高いと報告されています。

一方、「先端技術エンジニア」に関してはその重要度が相対的に低いという結果が出ており、その点については、内部での確保よりは必要に応じて外部から調達する形態が中心であるからと推量されています。

IT人材の学び直し・人材流動状況について

ERPの導入形態

同報告書では、IT企業に対するIT人材の学び直し施策の実施状況や、転職エージェント企業等へのIT人材流動状況のインタビュー調査、さらにはIT人材個人に対する先端IT従事者と先端IT非従事者に対するアンケート調査も実施されています。

まず、人材市場におけるIT人材の需要自体はここ数年急増しており、業界内(IT企業間)の転職に留まらず、IT企業からユーザ企業へと異業種間の人材流動が活発化しているといいます。また、転職時に前職と比べて賃金が1割以上増加した割合も上昇傾向にあるといいます。

そのほか注目すべきポイントとしては、先端IT従事者に比べて先端IT非従事者はスキルアップに対する意欲が低く、先端的なIT領域のスキル習得に対して消極的であるという点が挙げられます。

たとえば、「業務外(職場以外)ではほとんど勉強しない」と回答した比率は、先端IT業務非従事者においては51.6%と半数以上を占めたのに対して、先端IT業務従事者では26.2%と業務外での勉強に対する抵抗感が低いという結果が報告されています。

さらに、先端IT業務従事者は「業務上必要な内容があれば業務外(職場外)でも勉強する」、「業務で必要かどうかにかかわらず、自主的に勉強している」など、ほかの回答においても、先端IT業務非従事者と比べてスキルアップに対する意欲が高いという結果も見られました。

勉強の必要性を感じない背景には、先端IT非従事者の約4割が今後も現在と同じスキルが通用すると認識しており、陳腐化することを特に心配していない、新しいスキルの習得は不要だと考えていることが要因として挙げられています。

更に、先端IT従事者と先端IT非従事者の比較に関して、先端IT非従事者は転職を希望していないという傾向が、先端IT従事者に比べて高いと報告されています。先端IT従事者は、「自分のやりたい仕事」、「クリエイティブな仕事」、「先端的な仕事」などを求めて転職するのに対して、先端IT非従事者は「給与」、「社風が合わない」という項目が転職の理由として挙げる比率が高いと報告されています。さらに、「転職活動が面倒だから」という項目において、先端IT非従事者の比率は先端IT従事者を大きく上回っていると報告されています。

課題解決に関する提言

同調査では、今後のITデジタル時代に向けた企業の方向性およびIT人材個人としてあるべき姿が描けていないことが本質的な課題であるとし、企業およびIT人材個人に対する課題を以下のようにまとめています。

そして、課題に対する解決策として企業には、目指すデジタル経営の姿や長期事業ビジョンと、その実現のために必要な人材要件(プロファイル)を明示すると同時に、内部的にはエンプロイーエクスペリエンス(従業員経験価値)の向上を目指して、以下のような施策を実現することが必要だと提言しています。

一方、IT人材個人に対しては、以下のようなポイントが求められるとしています。

そして、一人一人の個人、さらには企業と個人の関係性の変革が重要だと提言しています。