
サイネージに使用されるディスプレイは、主に液晶ディスプレイ(LCD)とLEDディスプレイ(LEDビジョン)の2種類に分類されます。どちらも見た目は似ていますが、構造や性能には明確な違いがあるため、設置場所や目的に合ったタイプを選ぶことが大切です。
本記事では、液晶とLEDそれぞれの仕組みや特徴、メリット・デメリット、活用シーン、サイネージにはどちらがいいか、選ぶ際のポイントをわかりやすく解説します。
液晶ディスプレイ(LCD)とLEDディスプレイの違い
液晶ディスプレイ(LCD)とLEDディスプレイでは、光の出し方や内部構造が大きく異なります。まずは、それぞれの仕組みと特徴、似た用語との違いについて見ていきましょう。
液晶ディスプレイ(LCD)の仕組み・特徴
液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)とは、「液晶分子の向きを電気で制御することで光の量を調整する」仕組みのディスプレイです。
液晶自体は光を出さないため、背面にバックライト(多くは白色LED)があり、この光を液晶・偏光フィルター・カラーフィルターを通して映像を作ります。
RGB(赤・緑・青)のフィルターを通して色を表現し、小さな画素(ピクセル)が無数に集まることで画面を構成する仕組みです。
液晶ディスプレイは決まったサイズのパネルを大量生産しやすく、価格が安定しているという特徴があり、屋内サイネージ・テレビ・ゲーミングモニター・PCモニター(PCディスプレイ)といった情報表示の分野で広く普及しています。
LEDビジョンの仕組み・特徴
LEDとは「発光ダイオード」という部品の名称であり、「LEDディスプレイ」はそのLEDを多数配置して映像を映す「自発光ディスプレイ」を指します。
LEDディスプレイとLEDビジョンは基本的に同じ意味ですが、一般的にLEDビジョンが屋外向けの大型タイプ、LEDディスプレイが小型~大型までを含む広い総称として用いられることが多いです。
LEDディスプレイでは、赤・緑・青のLEDチップがそれぞれ発光し、必要な明るさと色を表現します。外部の光源を必要としないため、画面の一部だけを点灯させられる点が液晶とは大きく異なります。
また、LEDは無数の小さな素子を並べて画面を作る仕組みであるため、サイズの自由度が高く、数メートルを超える大型サイネージにも対応可能です。
LEDと有機ELの違い

LEDと似た表示技術として「有機EL(OLED:Organic EL)」がありますが、仕組みは異なります。
LEDは無機素材のLEDチップを使用し、高輝度に強いのが特徴です。一方、有機ELは有機物を材料にした素子が自ら光る方式で、1画素ごとに独立して発光するため、非常に高いコントラストと深い黒を表現できます。
屋外や大型用途ではLEDビジョン、画質重視のテレビ・スマートフォンなどでは有機ELが選ばれることが多く、用途によって使い分けられることが一般的です。
LEDとIPSの違い
LEDとIPSはそれぞれ画面を構成する要素であり、IPSは液晶パネルの方式、LEDはバックライトの種類です。
IPSの特徴は広視野角・高い色再現性、LEDは省エネ性・高輝度が主な利点です。現在多くの液晶ディスプレイは「IPSパネル × LEDバックライト」の組み合わせを採用しており、両者のメリットを兼ね備えています。
また、IPSはTFT(液晶を駆動する薄膜トランジスタ)技術を基盤とした方式の一つで、TFTの中でも画質に優れた改良型といえます。
【比較表】液晶ディスプレイ(LCD)とLEDの違い一覧
液晶ディスプレイ(LCD)とLEDディスプレイは、仕組みが大きく異なるため、得意な場面や適した設置環境も変わります。
下記は、両者の特徴を主要な項目ごとに比較した一覧表です。
| 比較項目 | 液晶ディスプレイ(LCD) | LEDディスプレイ |
| 光の出し方 | バックライトの光を液晶で調整して表示 | LED素子が自ら発光して表示 |
| 明るさ | 一般的に控えめ。屋内向けの標準的な明るさ | 非常に明るい。屋外や直射日光下でも視認性が高い |
| コントラスト | 黒がやや浮きやすく、コントラストは中程度 | 素子ごとにON/OFF可能で、深い黒や高コントラストの表現にも対応 |
| 画面サイズ | サイズに制限があり、大型化は継ぎ目が出やすい | モジュールを組み合わせることで、大画面でもシームレス |
| 消費電力 | バックライト分の電力が必要で一定量を消費する | 表示内容に応じて省電力化可能。黒表示は特に低消費 |
| 耐久性 | 屋外では紫外線や温度差に弱いことがある | 紫外線に強く、防水・防塵対応で高耐久 |
| 設置のしやすさ | 軽量・薄型で比較的設置しやすい | モジュール(ひとまとまりの機能を持った部品)構成のため、設置には専門施工が必要 |
| メンテナンス性 | 故障時は本体交換になるケースが多い | モジュール単位の交換が可能で復旧が早い |
| 価格(導入コスト・維持費) | 導入コストが手頃で運用しやすい | 初期費用は高めだが、長寿命で維持費は抑えやすい |
液晶とLEDには、それぞれ明確な強みと適した用途があります。設置場所の明るさや求める画面サイズ、予算などを踏まえて選ぶことで、より効果的なサイネージ運用につながります。
液晶ディスプレイのメリット・デメリット

液晶ディスプレイ(LCD)は、現在もっとも広く利用されている表示方式で、サイネージからテレビ、PCモニター、ゲーミングモニターなど幅広い分野で採用されています。
ここでは、液晶ディスプレイのメリット・デメリットと、どのような用途に向いているのかを解説します。
液晶のメリット:高画質・低コスト・設置のしやすさ
液晶ディスプレイ最大のメリットは、高精細な映像を比較的安価に実現できる点です。液晶は光を自ら発しないため、画面の均一性が高く、文字や写真、細かな図表をクリアに表示できます。
また、量産技術が進んだことによりパネル価格が安く、サイネージ導入を低コストで始められる点も魅力です。
さらに、近年主流のLEDバックライトは電力効率が良く、省エネにも優れています。近距離での視認性も高く、店舗案内や情報端末など細かいコンテンツにも適しています。
液晶のデメリット:屋外利用の制限・サイズ自由度の低さ
液晶ディスプレイのデメリットとして、構造上の制約が挙げられます。
まず、液晶は自ら発光しないためバックライトの明るさに左右され、直射日光下では画面が見えにくくなることがあります。強い日差しや反射の影響を受けやすく、屋外での利用には不向きとされ、さらに紫外線による劣化や気温変化にも注意が必要です。
また、液晶パネルはガラス層やフィルターなど複数の部材で構成されており、厚み・重さが出やすく、衝撃にも弱い傾向があります。故障時にはパネル全体を交換するケースが多く、メンテナンス性はLEDビジョンより低めです。
液晶の活用シーン:店舗内什器・会議室・公共施設など
液晶ディスプレイは、屋内での高精細表示や近距離閲覧での活用に適しています。
例えば、店舗の案内表示、オフィスの会議室サイネージ、病院や商業施設の情報掲示など、細かい文字を正確に読み取る必要がある用途に最適です。
また、コストを抑えて複数台を設置したい場合や、24時間稼働を想定した監視モニターにも向いています。
画面の大きさに制限はあるものの、一般的なデジタルサイネージ用途を幅広くカバーできるため、「屋内で画質重視」「予算を抑えたい」という場合におすすめです。
LEDのメリット・デメリット

LEDディスプレイ(LEDビジョン)は、LED(発光ダイオード)そのものが光る「自発光ディスプレイ」であり、パネルを組み合わせることで大型画面も構成できます。
ここでは、LEDディスプレイのメリット・デメリット、主な活用シーンを詳しくご紹介します。
LEDのメリット:高輝度・大画面化・屋外耐久性
LEDディスプレイ(LEDビジョン)は非常に高い輝度を発揮し、直射日光下でも鮮明に見える点が最大のメリットです。赤・緑・青の素子が直接光を放つことで、深い黒や高コントラスト表現が可能で、映像の視認性が圧倒的に高いです。
また、モジュールを組み合わせて画面を構築するため、100インチを超えるような壁面全体を覆う巨大ディスプレイもシームレスに実現できます。
さらに、LED素子は耐久性が高く、屋外でも防水・防塵仕様で長時間運用できるため、長寿命でメンテナンス性にも優れる点も強みです。
LEDのデメリット:初期費用・細かい表現の弱さ
EDディスプレイは高性能な反面、導入コストが高くなることがデメリットの一つです。LED素子を大量に使用するため、パネル自体の価格が高く、初期投資は液晶の数倍になることがあります。
また、LEDは発熱しやすいため、密閉空間での設置では放熱設計が欠かせません。ピクセル間隔(ピッチ)が広い製品も多く、近距離では粒状感が目立つことがあり、近距離閲覧よりも中〜長距離での利用向けといえます。
故障時に部分交換ができる点はメリットですが、専門的な施工や調整が必要なため、設置には一定の技術が求められる点にも注意が必要です。
LEDの活用シーン:屋外広告・イベント・大型ビジョンなど
LEDディスプレイ(LEDビジョン)は、屋外広告や大型ビジョン、商業施設の演出用途など、インパクト重視の場面に最適です。
具体的には、ビル壁面を覆う屋外サイネージやスタジアムの大型スクリーン、展示会やライブ会場の映像演出など、大画面で高輝度表示が必要なシーンで力を発揮します。
また、天井や柱を覆う特殊形状のディスプレイにも対応できるため、空間デザインの一部として活用されることも増えています。耐久性や連続稼働にも優れており、24時間屋外でも使用できる強靭さを持つため、長期の広告運用にも最適です。
近距離で文字を読む用途には向きにくいものの、映像の迫力や遠距離での視認性を求める場面では、LEDの方が適した選択肢といえるでしょう。
サイネージでは液晶(LCD)とLEDのどちらがいい?

サイネージに液晶ディスプレイ(LCD)とLEDディスプレイのどちらを選ぶべきかは、設置環境と目的によって判断できます。
屋内で細かい文字や画像をきれいに表示したい場合や、コストを抑えて導入したい場合は、液晶ディスプレイ(LCD)が適しています。
一方、明るい場所での使用や大画面によるインパクトが重要な場面では、高輝度で自由なサイズ設計が可能なLEDディスプレイ(LEDビジョン)が有用です。
液晶ディスプレイ(LCD)とLEDを選ぶ際のポイント
サイネージ用途で液晶ディスプレイ(LCD)とLEDビジョンを選ぶ際のポイントを、より具体的に見ていきましょう。ここでは、用途・設置環境・予算別に推奨されるディスプレイタイプをご紹介します。
用途・目的別に選ぶ
サイネージに使用すべきディスプレイは、「集客」や「案内」といった用途や目的に応じて異なります。まずは「どのような場面で何を伝えたいか」を明確にしましょう。
用途別に推奨されるディスプレイとその理由は、以下の通りです。
■主な用途と推奨タイプ
| 用途 | 推奨タイプ | 理由 |
| 館内案内・店舗メニュー表示 | 液晶(LCD) | 高精細で文字が読みやすい |
| オフィス・バックオフィス掲示 | 液晶(LCD) | コストが低く扱いやすい |
| 集客・広告配信 | LED | 大画面・高輝度で視認性が高い |
| イベント・展示会 | LED | 大型化しやすく、演出効果が高い |
| ブランド訴求(ショーウィンドウ) | 液晶またはLED | 視認距離に応じて選択 |
細かな情報を正確に伝えたい場合や、オフィス用途には、高精細で読みやすい液晶(LCD)が向いています。一方で、店舗や商業施設におけるインパクト重視の演出には、LEDディスプレイ(LEDビジョン)が効果的です。
設置環境と視認距離に応じて選ぶ
液晶とLEDを選ぶ際、設置環境と視認距離も重要な判断材料です。まず、設置環境別の推奨タイプと推奨する理由は、以下の通りです。
■設置環境別の推奨タイプ
| 設置環境 | 推奨タイプ | 理由 |
| 屋内 | 液晶(LCD) | 適度な明るさと高精細表示が合う |
| 屋外 | LED | 高輝度で日光下でも見えやすく、耐候性(雨・風・紫外線・温度変化)に優れる |
| 半屋外(屋根付き入口など) | 液晶またはLED | 明るさと視認性に応じて選択 |
屋内では、画質とコストのバランスに優れた液晶(LCD)が一般的です。一方、屋外でのサイネージ利用では、耐候性が高く高輝度で視認性に優れるLEDの方が選ばれています。
また、視認距離を判断基準とする場合、近距離(1〜3m)では細かな文字や画像を鮮明に表示できる液晶が適しています。中距離〜遠距離(5m以上)の場合は、高輝度で大型化しやすく、遠目でも認識しやすいLEDが効果的です。
予算・運用体制で選ぶ
サイネージ用途で液晶とLEDを選定する際は、運用コストや保守性も視野に入れる必要があります。
液晶(LCD)とLEDのコストや保守性、耐用年数(寿命)は以下の通りです。
■液晶(LCD)とLEDのコスト・保守性
| 項目 | 液晶(LCD) | LED |
| 本体価格 | 比較的安い | 高額になる傾向がある(大型ほど高額) |
| 保守費 | 比較的少ない | モジュール交換などで高め |
| トータルコスト | 初期費用重視なら有利 | 長期運用なら有利 |
| 耐用年数 | 3〜5年程度 | 7〜10年と長寿命 |
これらを踏まえると、予算や運用体制に応じて選ぶべきディスプレイは以下の通りです。
■予算・運用体制別の推奨タイプ
| 予算・運用体制 | 推奨タイプ | 理由 |
| 本体価格重視 | 液晶(LCD) | 導入費用を抑えられ、小型・短期利用に向く |
| 長期運用・耐久性重視 | LED | ・寿命が7〜10年と長く、大型設置でも安定
・長期運用でトータルコストが有利 |
| 保守・修理対応重視 | LED | モジュール単位で交換可能で復旧が早く、運用効率が高い |
短期利用や小規模設置では、液晶(LCD)の方が経済的です。一方、長期運用や大型設置、保守性を重視する場合はLEDが総合的に有利といえるでしょう。
まとめ

液晶ディスプレイ(LCD)とLEDディスプレイの主な違いは、光の出し方や内部構造にあります。
液晶ディスプレイは高画質で安定した表示が可能でコストも抑えやすい一方、輝度や黒の表現には限界があります。活用シーンとして、屋内の店舗什器や会議室、公共施設に向いています。
自発光型のLEDディスプレイは、パネルを組み合わせて大型画面に対応できる点が特徴です。明るく耐久性に優れ、屋外広告やイベントなど、ダイナミックな映像表現に最適です。ただし、導入コストが高額になりやすいことや、熱対策に注意が必要です。
用途別では、屋内で細かい文字や画像を表示する場合は液晶ディスプレイが、明るい環境や大画面で使用したい場合はLEDが有利です。また、短期・小規模運用の場合は液晶、長期・大・長時間点灯ならLEDが総合的に優れています。
用途・設置環境・予算などを総合的に顧慮し、最適なディスプレイを選びましょう。

