現在、建設業界では「人材不足」「人件費の高騰」など、さまざまな課題に直面しています。それらを解決するための切り札として注目されているのが「IoT」の活用です。
この記事では、建設現場で抱えがちな課題や導入メリット、実際の事例などを解説します。
建設業におけるIoTとは?
そもそも「IoT」とは、「Internet of Things」の略で、今までインターネットに接続されていなかったモノをネットワークへ接続し、データ取得や相互の情報交換を実現する仕組みのことです。
建設業におけるIoTでは、重機や機材・資材、作業員のヘルメットなど、現場にあるさまざまなものがインターネットへ接続されます。位置情報や温度・湿度といったデータを取得でき、それらを一つの画面へ集約したり、双方向でデータ通信をしたりすることで、作業員や現場監督者の生産性向上を図ることができるのです。
建設業で抱えがちな課題
ここでは、普段の業務で建設業が抱えがちな課題を3つピックアップしてご紹介いたします。
若い人材の確保が難しい
建設業で抱えがちな課題の一つに、若い人材の確保が難しい点が挙げられます。とくに「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが付いているように、最近の若年層から敬遠される傾向にあります。
また、社会全体で少子高齢化が進んでいることも、建設業での人材確保を難しくしている要因の一つでしょう。十数年後には、現在のベテラン作業員が次々と引退し、人手が一気に足りなくなる可能性もあります。
厚生労働省が発表した『建設労働関係統計資料』によると、建設業における就業者数は、1997年に685万人とピークを迎えた後、下降の一途をたどっています。近年では500万人程度にとどまっており、新たな働き手が少なくなっているのが一目瞭然です。
建設業に対するイメージや社会的な要因などにより、若い人材の確保が困難になってきています。上記の問題を緩和するには、テクノロジーの活用が欠かせません。
人件費が高騰している
建設業における作業員の人件費が高騰していることも、企業の頭を悩ませる要因になっています。毎月の固定費が上がれば上がるほど、会社に残る利益が圧迫されるため、企業体力の低下につながりかねません。
厚生労働省が発表した『賃金構造基本統計調査』によると、2012年を皮切りに、建設業男性労働者の賃金水準が右肩上がりに上昇しています。これから先も、働き手の減少や需要の拡大などにより、賃金がさらに上がることが予想されます。
上記の課題を解決するには、少ない人手でも建設がスムーズに行えるような仕組みづくりをしていくことが大切です。
労働災害が発生している
建設業は、労働災害が発生しやすい業種として有名です。建機が倒壊したり、足場が崩れてしまったりすることで、ケガや死亡事故につながるケースが多々発生しています。
令和2年に厚生労働省が発表した『労働災害発生状況』のデータによると、労働災害による死亡者数は、建設業において258件となり、全業種において最も多い結果になりました。死傷災害においては14,997人と、さらに大きい数となっています。
最近では、高所作業におけるハーネス着用の義務化などにより、死亡事故件数は年々減少しています。安全性が高まっているとはいえ、万一の企業の信用失墜リスクを考えれば、労働災害を一件も起こしたくないというのが企業の本音でしょう。
近年はテクノロジーが発展してきているため、従来まで人が行っていた作業を、機械で代替できるケースが多くなってきています。点検作業などを機械に任せることで、安全性をより高められるでしょう。
建設業でIoTを導入するメリット
ここでは、建設業でIoTを導入するメリットを2つ解説いたします。
安全性を高められる
建設業でIoTを導入することで、作業員の安全性を高められるのがメリットです。
たとえば、建機や現場にセンサを取り付け、車両の進入や進行方向をお知らせすることが可能です。大型機器と人が接触してしまうことを避けることで、労働災害の減少を期待できます。
また、作業者のヘルメットなどへセンサを装着し、温度や脈拍などの情報を収集することもできます。現場監督者がタブレットなどのモバイル端末で即座に確認することで、非常事態が発生したときでも即座に対応できるので安心です。
建設業でIoTを活用すれば、労働災害の兆候となるさまざまなデータを収集し、予防・対策することが容易になります。
労働時間を削減できる
2つ目に、作業員や現場監督者の労働時間を削減できるのがメリットです。現場の働き方改革を実施し、従業員の満足度を高められるでしょう。
たとえば、高所での点検作業をドローンなどの機械に任せられれば、業務の遂行時間を大幅に削減できます。収集したデータを現場で瞬時に共有することで、次の作業に素早く取り掛かれます。
また、現地に定点カメラを設置すれば、現場監督者が一つの場所からモニターで監視することが可能です。各現場から送られてくる建機や作業員のデータを逐次確認し、対応が必要なときだけに赴けるようになります。
建設業がIoTを導入することで、労働生産性が向上し、必要最低限の人材で事業を運営できるようになるでしょう。
建設業におけるIoT化の現状
建設業におけるIoT化は、世界全体で着々と進んでいます。
2020年にReportocean.comが発表した『IOT In Construction Market Research Report』によると、建設業のIoTの市場規模は、2019年に8179.9百万ドルへ到達しました。その後は14.0%の年平均成長率で成長し、2027年には19,039.8百万ドルへと拡大する見込みです。
上記は世界全体での数値ですが、日本でも同様に建設業のIoT化が進められています。少子高齢化による働き手の減少や、人件費の高騰などを受け、今後も国内のIoT市場は伸び続けていくでしょう。
参考:PR TIMES:建設市場のIOTは、2027年までに1893.6億ドルに達すると予想されています。 CAGR 14%
建設業におけるIoTの事例
ここでは、建設業で実際に展開されているIoTの事例をご紹介いたします。ぜひ、自社で導入する際の参考にしてみてください。
WHERE社:「EXBeaconプラットフォーム」
WHERE社は、現実の出来事をデジタル空間で再現する「デジタルツイン」のサービスを提供する会社。同社は、建設現場向けのIoTサービス「EXBeaconプラットフォーム」を提供し、業務効率化や安全性の向上をサポートしています。以下では、「EXBeaconプラットフォーム」を活用した、建設現場のIoT事例を2つご紹介いたします。
トンネル等工事現場における安全管理
EXBeaconプラットフォームでは、トンネル工事現場など、周囲が暗くなりがちな場所でも安全に作業を実施するためのIoTインフラを構築しています。たとえば、センシングと遠隔表示操作の技術を組み合わせることで、以下の安全管理が実現可能です。
- 車両が接近してきた際に、パトライトの点灯やブザーなどで注意喚起
- 重機や機関車などが現場に入ってきたときに、ライト式の標識で進行方向をお知らせ
- 重機から作業員が降車する際に、パトライトなどで周辺の作業員へお知らせ
これらは、スピーカー・ライト・タグなどがIoTインフラと接続することによって成り立っています。
ビル等建築現場における工事資機材管理
EXBeaconプラットフォームでは、ビルなどの建築現場で持ち込む、建機や資機材の管理も可能です。位置情報や無線鍵システムといった技術を活用することで、高所作業車をはじめとした機器の使用状況や所在を把握できます。
「高所作業車管理ソリューション」を利用することで、高所作業車の現在地を表示したり、場所を検索したり、故障予知などの状態監視をしたりできます。また、予約・配車管理システムを使い、配車手続きを効率化することも可能です。
鍵にはBLEタグの付いたカード型を採用しています。利用時間のデータを取得したり、紛失対応を素早く行ったりできます。
コマツ、NTTドコモ、SAPジャパン、オプティム:「LANDLOG」
LANDLOGは、コマツ、NTTドコモ、SAPジャパン、オプティムで共同運営する土木・建設業向けのICTプラットフォームです。国土交通省が掲げる「i-Construction」や、オープンなICTプラットフォームを実現するために、各社が持つさまざまな技術を集約して誕生しました。
同プラットフォームでは、「Everyday Drone」「SMART CONSTRUCTION Retrofit」「SMART CONSTRUCTION Fleet Device」など、IoTに関するサービスを多彩にラインナップしています。
「Everyday Drone」においては、GCPレスドローンによって土木や建設現場全体を常に確認できます。現場に「Edge Box」と呼ばれるコンピューターを設置し、撮影した地形変化などの写真データをWi-Fiで転送。LANDLOGのプラットフォームを使い、3次元データですぐに確認できます。
「SMART CONSTRUCTION Retrofit」を活用すれば、従来型の建機へICT機器を装着し、高精度な3D施工を実現できます。位置情報を用い、刃先の位置と設計データの差分を示すことで、より効率的に作業することが可能です。装着するIoT機器は、アーム・ブーム・バケット・本体に取り付けるセンサのほか、油圧センサやコントローラなど、多種多様です。
村田製作所:「作業者安全モニタリングシステム」
村田製作所は、京都に本社を置く電子部品メーカーです。同社は、建設現場のIoT製品「作業者安全モニタリングシステム」を提供しています。
同サービスでは、ヘルメットへ取り付けるセンサデバイスを使い、作業者の脈拍や活動量、温度、湿度などのデータを取得。その後、収集したデータをクラウド上のアルゴリズムで解析し、異常値を確認するとメールやブザーにてお知らせする仕組みです。
ほかにも、センサを用いて作業員の入退場を管理したり、高さタグを設置して作業者の高さを把握したりできます。
国土交通省が取り組みを進める「i-Construction」とは
「i-Construction」とは、国内建設業が抱える労働災害や人手不足などの課題を解決するため、国土交通省が提唱した概念です。具体的には、以下の施策を全面的に推し進めています。
- ICTの全面的な活用(ICT土工)
- 全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)
- 施工時期の平準化
なかでも「ICTの全面的な活用(ICT土工)」において、建設業のIoT化に向けた取り組みが行われています。たとえば、ドローンを活用した3次元での測量、ICT建機を使った自動運転での施工などです。
i-Constructionへの取り組みは、大手ゼネコンを中心に実施されているのが現状。今後は、建材・建機メーカーや下請事業者が連携していくことで、業界全体でICTやIoTの活用が進むとされています。
建設業におけるIoTの導入に取り組んでみよう
この記事では、建設業におけるIoT化の現状や、導入するメリット、実際の事例などについて紹介しました。人手不足や人件費の高騰、労働災害の発生といった喫緊の課題を解決するために、IoTの活用が大いに注目されています。
実際に導入するためには、初期投資や業務フローの改善などが必要になってきますが、一度仕組みを構築しさえすれば、労働生産性を大きく向上させることが可能です。
現在では、政府や民間によりさまざまな取り組みがなされています。今回ご紹介した事例などを参考に、自社の建設現場のIoT化を検討してみてください。