自社運用のオンプレミスからクラウドへシステムを移行する企業がクラウドサービスの普及に伴い、増加しています。
「クラウドリフト」「クラウドシフト」「クラウドリフト/シフト」というクラウドの移行方法があるのですが、それぞれの違いやどれを選択すればよいか分からずにお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、クラウドシフトとクラウドリフトは何が違うのか、クラウドリフト/シフトとはどういうものか・メリット・デメリット、さらに、移行にかかる費用や手順を詳しく説明します。
クラウドシフトとクラウドリフトの違いについて
いずれもクラウドへの移行方法である「クラウドシフト」と「クラウドリフト」ですか、異なるのはアプローチ方法です。
【クラウドシフト】
新しいシステムをクラウド向けに開発・導入する形で進める移行方法がクラウドシフトです。これには次のようなメリット・デメリットがあります。
- メリット:本格的なクラウド移行の整理や要件定義に向いています
- デメリット:手間と時間がかかってしまうことはデメリットと言えるでしょう
クラウドシフトは、1から構築するため、細かい要件にも対応できるという点がありますが、その分、専門性が高くなります。社内で開発・導入が難しくなることがあり、その場合、システム開発会社などへ委託しなければなりません。
【クラウドリフト】
既存のシステムをクラウドに最適化しながら進める移行方法がクラウドリフトです。
- メリット:手間の少なさはメリットと言えるでしょう
- デメリット:保守や運用の古いシステムがそのまま残ります
クラウドシフトは大規模なシステム移行となりますが、それとは異なり、比較的小規模から行うことができます。しかし、クラウドへ完全な移行ができるわけではないため、応急処置のようなものであると言えます。
クラウドリフト/シフトについて
クラウドリフトとクラウドシフトの中間的なアプローチで進める移行方法をクラウドリフト/シフトといいます。
クラウドリフトによってオンプレミスからシステムを移行し、次に、環境に適した修正をクラウドシフトによって徐々に行っていきます。こうすることにより、業務遂行を妨げることなくクラウド環境へ移行することができるのです。
クラウドリフト/シフトのメリット
クラウドリフト/シフトについて、6つのメリットを挙げていきます。
手間と時間の節約
クラウドシフトと比べて、クラウドリフト/シフトは移行の手間と時間の節約が可能です。
クラウドシフトで行う場合、新しいシステムの開発や導入が必要となります。これには時間とリソースが相応に必要となります。
一方、クラウドリフト/シフトならば、クラウドへ既存のシステムを移行し、改修は必要な部分のみ行えば完了です。つまり、迅速に移行することができ、業務へ最小限の影響で抑えられるというメリットがあります。
学習コストがクラウドリフトより低い
既存のシステムをそのままクラウドに移行するクラウドリフト/シフトでは、それまでと同様のシステムを利用者は継続して使うことができます。
新しいシステムの学習が不要のため、クラウド移行時の対応がしやすいだけでなく、利用者の学習コストも低減できます。
災害や停電に強い
BCP(事業継続計画)の観点でもクラウドリフト/シフトによるクラウド移行は優れた方法といえます。企業が災害や緊急事態に備えることにより、業務継続性を確保するための計画のことをBCPといいます。
クラウド上に複数のバックアップ拠点を持つことができるのがクラウドリフト/シフトです。これにより災害や停電などによる業務の中断を最小限に抑えられます。
スペースを節約できる
物理的なサーバーやインフラストラクチャを維持する必要がないのがクラウドリフト/シフトです。
つまり、オンプレミス環境と比べたときにオフィスやデータセンター内でのスペースの節約や効率的な活用が可能と言えます。
障害対応の負担を軽減できる
オンプレミス環境と比べると、クラウドリフト/シフトで移行した場合、障害対応の負担を軽減することができます。
クラウドプロバイダの多くは、可用性と冗長性が高く、障害時においても復旧が迅速に行われるように対応しています。そのため、障害対応に企業側でのリソースを多く割く必要がなく、サービス提供も安定したものが提供できます。
サーバーの台数を変えることやスペックを変えることが簡単
オンプレミスでサーバー台数の増減したりスペックを増強したりするには、追加のハードウェア投資が必要です。しかし、クラウドリフト/シフトであれば、容易にこれらの変更や拡張を行うことができます。
リソースを需要に合わせて調整できるため、柔軟にビジネスの拡張に対応できます。
デメリット・課題
多くのメリットがクラウドリフト/シフトにはありますが、一方で、デメリットや課題にも目を向けねばなりません。
以下にクラウドリフト/シフトのデメリットと課題、そして、その解決策について解説します。
セキュリティを強化する必要がある
クラウド環境でのネットワークは、オンプレミスよりもデータやシステムが広いものに接続されるため、セキュリティの強さはより重要なものとなります。
クラウドリフト/シフトの実施には、不正アクセスやデータ漏洩からの保護のために、セキュリティポリシーやツールの適切であるものの導入が必要です。
方法には、クラウドプロバイダから提供されるセキュリティサービスやツールを活用し、セキュリティポリシーを整備するといったものがあります。監視とアップデートは定期的に行い、最小限に脆弱性を抑えることが重要です。
手間とコストが保守にかかる
クラウドリフト/シフトの完了後、クラウドプロバイダにシステムの保守や運用の一部の責任が移行されるものの、適切な管理と保守を企業自身も行う義務があります。
この適切な管理と保守には、手間とコストの追加が必要になることもあります。
保守業務をクラウド移行後に行う際に、コストと手間を最小限に抑えるには、自動化ツールやサービスを活用することが有効と言えます。
人材の育成・確保が必要
クラウド技術に精通したスキルを持つ人材は、クラウド環境の運用や管理に必要です。そのような人材を確保し、育成しなければなりません。
クラウドスキルを向上させるため、トレーニングや認定プログラムを従業員に活用してもらうことも一つの方法です。外部の専門家やコンサルタントの採用も必要に応じて検討すると良いでしょう。
既存のシステムと統合できないケースも
クラウド環境との統合が難しいケースも一部の既存のシステムにはあります。移行が難しいものの例として、古いシステムや特定のアプリケーションが挙げられます。
既存システムの評価や、必要に応じてアプリケーションの最適化や代替策の検討は、クラウドリフト/シフトによる移行の前にしておきましょう。
クラウドリフト/シフトへの費用
主に、次の3つの費用がクラウドリフト/シフトの導入にはかかります。
- 契約料・設定費用などの初期費用
- クラウド移行そのものにかかる費用
- クラウドサービスを運用するための費用
クラウドサービスの契約や設定費用として初期費用は発生します。
この他に、外部ベンダーにクラウドリフト/シフトを委託するならば、それに関連した費用がかかります。移行を自社で行う場合でも、社員の学習にかかる費用や移行サービスの使用料を考慮しなければなりません。
また移行後にかかる、クラウドサービスの運用費用があります。クラウド事業者ごとに異なる月額の利用料金が発生します。
クラウドリフト/シフトの手順
クラウドリフト/シフトを行う手順の六つを順に紹介します。
手順1,策定
まず初めに、移行計画の策定を行います。オンプレミス環境の現状を評価し、クラウド移行に関わる要件をはっきり確かなものにしましょう。
既にあるシステムやデータを評価し、目標・予算・スケジュール・作業範囲などをあらかじめ決めておくことで、効率的な移行が可能になります。
手順2,クラウドプロバイダの選定
次に、クラウドプロバイダの適切なものを選定し、クラウド環境の設計を行います。
クラウドプロバイダであるAWS・Azure・GCP(Google Cloud)などの中から、自社の技術要件やニーズに合うサービスを選定しましょう。
コスト・セキュリティ・サポート・サービスの適合性など、選定する際には比較し、最適なプロバイダを選ばねばなりません。
手順3,クラウド環境のテスト利用
クラウド環境でのテスト利用を本格的なクラウド移行の前に行います。これにより、正常にシステムやアプリケーションがクラウド上で動作するかどうかの確認と、潜在的な問題点の特定をします。
テストは、影響度が低いと考えられるサーバーから、はじめにクラウド化し、実施しましょう。すべてのシステムを一度にクラウドに移行するのは危険です。クラウド環境と自社のサーバーの相性が致命的な影響を及ぼす場合もあるので注意が必要です。
手順4,クラウド移行の実施
他のサーバーを段階的にクラウドに移行していきますが、テスト利用で問題がないことを確認できでからになります。確認は、データを転送やアプリケーションの設定変更などを行いますが、サーバーを停止する必要があるため、計画的に実施しましょう。そうして業務に与える影響を最小限に抑えることができます。
手順5,クラウド環境での運用と効率化
移行完了後の焦点は、システムの運用面と効率化に当てて取り組みましょう。
自動化やスケーリングがクラウド環境では簡単にできるため、業務手順の最適化や運用にかかる費用の削減に努めましょう。
手順6,システム基盤の構築
最終は、クラウドネイティブなシステム基盤の構築です。クラウド環境での運用を想定し、システム基盤を設計しましょう。
想定した設計なら、クラウド環境の特性を最大限に活かした新しい手法やシステム構築方法を導入しやすくなります。
DX推進や業務効率化にも役立つことでしょう。
まとめ
「クラウドシフト」は新しいシステムをクラウドで構築し、「クラウドリフト」は既存のシステムを最適化するという点がクラウドシフトとクラウドリフトの違いとなります。
クラウドリフトとクラウドシフトの、中間的なアプローチ方法であるクラウドリフト/シフトは、どちらもの良い部分を採用したベストプラクティスといえます。しかし、クラウドリフト/シフトにもデメリットはあるため、メリットも多いとはいえ、課題を理解し、対策しましょう。
本記事が、クラウドリフト/シフトを導入する際の手順や費用などの参考になれば幸いです。