業務改革は「BPR」と呼ばれ、組織全体の業務に大きく影響を及ぼす生産性向上施策です。社内では一大プロジェクトとして扱われるため、ミスは許されません。

企業が業務改革へ取り組む際は、手法の種類を知ったり、他社の成功事例を参考にしたりするのが成功への近道です。そこでこの記事では、BPR(業務改革)で採用できる5つの手法を、実例を挙げながら解説いたします。

そもそも「BPR(業務改革)」とは?

そもそもBPR(業務改革)とは、「Business Process Re-engineering」の略で、業務プロセスを抜本的に見直す取り組みのこと。業務フローや人事評価、社内システムなどを再設計し、会社全体の生産性や従業員の満足度を向上させていくことが目的です。

BPRの概念が生まれたのは1990年代初頭で、元マサチューセッツ工科大学教授のマイケルハマー博士と、経営コンサルタントのジェイムス・チャンピー氏によって提唱されました。両者の共著『リエンジニアリング革命』が発売されたのを機に、BPRの考え方が世界的に広まっています。

現在においてもBPRは一般的な取り組みで、日本の大企業から中小企業まで、さまざまな規模の組織で実施されています。

業務改善との違う点は?

「業務改革」とよく似た言葉に「業務改善」があります。自社で何か改革をおこなったり、同僚や部下に説明したりする際に、どちらも混同して使っている方が多いのではないでしょうか?

業務改善は、業務プロセス全体の内の一部を変更し、効率化することを目指します。それに対し業務改革は、業務プロセスをまるごと見直し、会社や組織全体を大きく変化させるのが特徴です。

たとえでいうなら、個々人のタスク管理方法を見直すことは業務改善にあたります。業務全体のごく一部が効率化されますが、組織全体としては大きな変化はありません。

一方でERPなどの組織全体にかかわるシステム導入は、業務改革に該当します。営業・生産・財務など、さまざまな部門が協力し、組織全体の生産性を大きく左右するからです。

「業務改革」と「業務改善」の違いを理解し、自社ではどちらへ取り組むべきなのかを明確にしましょう。

【手法編】BPR(業務改革)で採用できる3つのアイデアと事例

ここでは、業務改革のために採用できる手法と、実際の企業による事例を2つご紹介いたします。

シックスシグマ

シックスシグマは、業務や生産のばらつきを抑えるための品質管理手法で、製造部門や営業部門、総務部門などで用いられています。統計学の手法を使い業務プロセスを分析・改善し、顧客満足度の向上を目指すのが特徴です。

シックスシグマの言葉は、統計学上でばらつきを表す「σ」が語源になっており、1980年にモトローラ社の技術者、ビル・スミス氏が開発しました。その後、ゼネラル・エレクトリック社のジャック・ウェルチ氏が同手法を活用して成功を収め、世界的に知られるようになります。

たとえば生産した製品の内、もっとも平均的な品質のものを0とすると、誤差のあった製品は±1σ、±2σのように表します。数字が大きければ大きいほど誤差が大きいことを意味し、定義したエラー件数を少なくしていくよう努力していきます。

シックスシグマ

※画像は正規分布のイメージです

シックスシグマを営業活動に当てはめると、たとえば、顧客対応にかかった時間を正規分布として表記可能です。顧客へアンケートをおこなった結果、4時間以内に返信があった場合は「満足」、それ以上の場合は「不満」だと答えた方が多かったと仮定し、4時間越えの対応をエラーとして定義してみます。

シックスシグマの考え方によると、100万回あたりのエラー数を3.4回に抑えることを目指しているため、上記の営業活動では、顧客対応100万回あたりで99万9,996.6回は4時間以内に対応しなければなりません。

上記のように、業務で発生するばらつきを分析し、組織全体で高い業務クオリティを保とうとする活動が「シックスシグマ」です。

ソニー:自社流の「ソニーシックスシグマ」を採用し、技術の定量化を促進

1997年と少し昔の事例になりますが、ソニーが実施した「シックスシグマ」についてご紹介いたします。

ソニーは当時、品質改善の活動を製造部門のみでおこなっていました。その他の部門には測定指標がなく、たとえば技術者は、何をもって「よい画質」だといえるのかが不明確で、マーケティング担当者は、どのようなプロセスで売上につながったのかがブラックボックスになっている状態だったのです。

そこでソニーCEOの出井伸之氏が、ゼネラル・エレクトリックのジャック・ウェルチ氏からアドバイスを教わります。「シックスシグマを自社向けにアレンジすることが大切」との助言を受け、2000年に「ソニーシックスシグマ」を導入。

ソニーはシックスシグマを「経営品質を高めるためのマネジメントツール」と定義し、通常の手法にはない「課題設定」「プロジェクト管理・ナレッジ共有」「成果評価」の3点を新たに加えました。

そして活動内容の収集・評価・共有を漏れなくおこなうことで、成果を正当に評価するための仕組みを作り上げることに成功。社員一人ひとりが、業務を判断したり部下に指示したりする際のクオリティが次第に向上していったのです。

参考:日経クロステック:ソニーのシックスシグマ(上)

SCM(サプライチェーンマネジメント)

SCM(サプライチェーンマネジメント)とは、供給業者から最終消費者に至るまでの一連の業務の流れを「チェーン」として捉え、それらを最適化・効率化していくための管理活動です。サプライチェーンの業務として以下が挙げられます。

  1. 調達…受発注管理、原価管理、在庫管理
  2. 生産…生産管理、品質管理
  3. 物流…物流管理、倉庫管理
  4. 販売…販売管理、在庫管理、需要予測
  5. 購買…顧客管理

たとえば、コンビニのPOS(販売時点情報管理)システムを用いた方法が有名です。POSシステムを使い、これまでの受注実績や今後の天候を踏まえて需要予測をし、生産管理や在庫管理の業務へ反映させるといった、高度なサプライチェーンマネジメントも普及しています。

花王:SCMの実施による適正在庫の実現

SCMの手法を用いて業務改革を実践している一例として、花王をご紹介いたします。

花王は、原材料の調達から生産、物流、販売に至るまでの業務を統合管理しているのが特徴。消費者の需要をいち早く予測し、製品を無駄なく製造・供給する仕組みを作り上げています。

花王のSCMの中核を担っているのが、エンジニア集団であるロジスティクス部門です。主に需要予測技術の開発を担っており、システムから得られた情報をもとに供給体制をコントロールしています。

花王の販売システムから発注があった場合は、全国8か所にある自社工場から卸店を通さずに発送することが可能です。製品は一度、国内21か所にある物流拠点に集められ、24時間以内に納品を完了させられる仕組みを整えています。

参考:花王:「よきモノづくり」の現場

シェアードサービス

シェアードサービスとは、複数のグループ企業をもつ会社が、間接部門を一か所に集約させて業務を実施する形態のことです。たとえば、以下の部門が対象となります。

  • 経理・財務
  • 人事・総務・法務
  • 情報システム
  • 監査
  • 物流

たとえば人事業務をシェアード化することで、拠点間での評価方法のバラつきを解消し、より公平な評価基準を設けられるようになります。また、給与計算や福利厚生などの定型業務を一か所で管理すれば、データがひとまとまりになり生産性が大幅に向上します。

シェアードサービスによる業務改革を実施することで、肥大化してしまった業務をスリム化し、データ活用や人材配置を効果的に進められるようになるのです。

LIXIL:シェアード化で経理組織の集約化に成功

トイレやお風呂、キッチンなどの水回りの製品を150か国以上で販売しているのがLIXILグループです。全世界で75,000人以上の従業員を擁し、GROHE、American Standardなど海外の有名ブランドを多数、傘下に収めています。

同社は、2011年から海外子会社を急速に買収・投資し、成長を続けてきたため、経理・決算を把握したり制御したりするのが困難になっていました。

そこで同社は、コーポレートガバナンスを強化するために「Enterpriseプロジェクト」を実施。本社が管轄する社内組織を立ち上げ、9か国27拠点に散らばった経理業務を3つのシェアードサービスセンターに集約しました。

結果として、本社からのガバナンス強化に成功。加えて、シェアードサービスセンターでAIやロボティクスをはじめとした自動化ツールを導入し、業務効率の向上を実現しています。

参考:アクセンチュア:LIXILグループ: 経理組織トランスフォーメーション

【サービス導入編】BPR(業務改革)で採用できる2つのアイデアと事例

【サービス導入編】BPR(業務改革)で採用できる2つのアイデアと事例

ERPの導入

ERPとは「Enterprise Resources Planning」の略で、基幹情報システムのことを指します。主に、ヒト・モノ・カネ・情報の4つの経営資源を統合管理し、有効活用していくのが特徴です。

ERPを活用すれば、以下の業務を一元管理できます。

  • 在庫管理
  • 調達管理
  • 生産管理
  • 販売管理
  • 人事・給与管理
  • 会計管理

今までは、部門毎にそれぞれのシステムが導入されていたため、データを集計したりシステム連携をしたりするのに多大な手間がかかっていました。そこでERPを導入すれば、各部門にあるデータを一つのシステムで一元管理し、経営状態を迅速に把握できるようになるのです。

ERPでは、システムに合わせて業務プロセスを設計していくのが基本なので、必然と各部門の業務フローが最適化されていきます。業務改革の一手段として、ERP導入は非常に大きな効果をもたらすでしょう。

田中科学機器製作:ERPを導入し、業務の属人化から脱却

田中科学機器製作は、石油関連の自動試験機や分析機器を製造・販売する会社。世界30か国に販売代理店を展開し、海外売上比率は7割以上を占めているのが特徴です。

同社が課題のひとつとして挙げていたのは、業務の属人化。たとえば、資材の在庫管理業務は社員個人の知識や経験に依存することが多く、離職や定年退職が進むと承継できなくなる問題を抱えていました。

また海外代理店とのやりとりは、Excelによる帳票出力がメインだったため、非常に非効率な状態が続いていたのです。

そこでERPを導入し、会計・販売・購買・在庫・生産の業務の一元管理を実現しました。一つのシステムから各部門の情報を参照し、経営改善や業務改革へ取り組むことに成功しています。

参照:Microsoft Dynamics 365 Business Central:お客様事例

BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用

BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)とは、企業の業務プロセスの一部を一括して外部委託することです。通常のアウトソーシングとは違い、設計から実施までを一貫して委託するのが特徴。その分野で専門性を有する企業へ任せ、自社は本来集中すべき事業へコミットできるようになります。

BPOができる分野の一例を挙げると、以下です。

  • 経理・総務
  • 人材採用・育成
  • コールセンター
  • 受付業務
  • マーケティング
  • システム開発

BPOでは、顧客との距離が近い「コールセンター」や「マーケティング」の業務も任せられます。社内に専門性を有する人材がいなかったり、人手不足に悩まされていたりする場合は、BPOを活用することで効率的に業務改革を遂行できるでしょう。

ブリヂストン:業務を標準化し、設計者の工数不足を解消

ブリヂストンは、販売網をグローバルに展開するタイヤ・ゴムメーカー。2020年時点でのタイヤ売上高は、226億ドルで世界No.1です。

同社では、「開発業務プロセス改革」を発足し、高付加価値の実現に向けて業務の見直しを実施していました。その過程の中で、設計者がドキュメント作成やデータ転記などの付随業務に追われており、工数不足の状況が続いていることを発見したのです。

そこで、設計業務の標準化や業務の品質安定化を目的として、BPOを活用。社内のドキュメントを整理・リスト化し、業務を作業レベルまでに落とし込んで外部委託しました。

結果、設計開発業務の不備率や手戻りが減少し、約15%の効率化に成功しました。年間38,000時間を企画開発業務に費やせるようになり、付加価値の高い製品開発につなげています。

BRP(業務改革)を実施し、企業の業績を大きく改善しよう

この記事では、BPR(業務改革)の概要や手法、具体的な事例をご紹介いたしました。まとめると、以下の手法やサービス導入によるやり方があります。

  • シックスシグマ
  • SCM(サプライチェーンマネジメント)
  • シェアードサービス
  • ERPの導入
  • BPOの活用

自社で生産性向上のための施策を打ちたいと考えるのなら、まずは「業務改善」と「業務改革」のどちらを目指すべきなのかを検討しましょう。そして自社の課題を分析し、適した方法やシステムを検討すべきです。

ぜひこの記事を参考に、BPR(業務改革)の実施を検討してみてください。

超上流工程の進め方