アフターコロナの時代を見据えた、テレワークを阻むペーパーワーク環境の解消

国内におけるテレワークの実施状況

2021年7月、米国のIT大手企業Google社は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により見合わせている社員の出社について、再開する時期を同年9月から同年10月に延期すると発表しました。

一方、国内におけるテレワークの実施状況を見ると、2021年5月17日~5月27日に実施された東京商工会議所による『中小企業のテレワーク実施状況に関する調査(2021年6月16日)』(http://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1025071)によれば、東京23区内中小企業のテレワーク実施率は38.4%。すべての企業規模・業種で実施率が低下傾向にあると報告されています。従業員数別のテレワーク実施率を見ると、301人以上の企業が最も高く64.5%。50人以下の企業が最も少なく29.8%と、規模が小さい企業ほど実施率が低い結果となっています。

テレワークを実施する上での課題は、「情報セキュリティ」が最も多く56.7%、次いで「社内コミュニケーション」が55.9%、「PCや通信環境の整備状況」が55.1%、「労務管理・マネジメント」が42.5%、「ペーパーレス」が36.6%となっています。

時代や企業環境によって捉え方は異なるものの、ペーパーレスという言葉は何十年も前から課題となってきたことであり、業務のシステム化やインターネットが普及し、クラウドサービスなどが当たり前に導入されるようになった現在でも課題となっているのには少し驚きました。

とはいえ、確かに社外とのやり取りに紙のFAXを用いている企業は未だ多く、紙の請求書で取り引きしている企業も少なくないでしょう。さらに一般的な郵送物の処理など、会社に行かなければ処理ができないペーパーワーク環境は根強く残っています。そして、一時期、大きな話題となったハンコ(押印)の問題も、ペーパーレスと密接に関連した課題として捉えることができます。

このようなペーパーワーク環境が、テレワークを阻む要因となっているというのは、容易に想像することができます。

国内におけるテレワークの実施状況

FAXの代替手段

では、このようなテレワークを阻むペーパーワーク環境を解消することはできないのでしょうか。もちろん、PCや通信環境の整備状況が課題だという声も多い中で、大がかりな投資やシステムの導入は解決策とはなり得ません。本コラムでは、できるだけ費用を抑えながら、手軽に導入できる方法について考えてみたいと思います。

まずFAXに関する課題に関して。取引先との交渉など多少の手間はかかるかもしれませんが、FAXでやり取りしている書類をデジタル化して、電子メールでやり取りするようにすれば、新たにシステムを導入したりコストをかけたりせずにペーパーレスを実現できます。

相手先の都合で、どうしてもFAXを用いなければならない場合は、複合機の機能を利用するという方法があります(詳細な設定や機能の有無は、複合機の機種によって異なります)。

まずFAXの受信に関しては、受信したFAXデータを画像イメージファイルやPDFファイルとしてファイルサーバに自動で保存する機能を利用します。ファイルサーバに保存されれば、テレワーク環境からでも容易に共有できます。また、FAX受信時にメールに添付して転送してくれる機能を備えている複合機もあるようです。

そして、FAXの送信に関しては、印刷とほとんど変わらない手順でPCから直接FAXを送信する機能を利用します。ただし、テレワーク環境から社内の複合機にアクセスできるかどうかは、リモート環境によって異なるので注意が必要です。

請求書にハンコは必要なのか

請求書にハンコは必要なのか

次に請求書のペーパーワークの代替手段について考えてみましょう。

その前に、請求書の押印について確認をしておきたいと思います。ご存じの方も多いかもしれませんが、請求書に押印しなければならないという法的な根拠はありません。社判などの押印がなくても問題はありません。ただし、一部の企業では押印されていない請求書は受領しないと社内規定で定めている場合があります。そのため、発行する請求書から社判を省力する際には、マナーとしても、トラブルを避けるためにも、取引先への確認は必須となります。

一方、社判を省力して「ハンコ出社」を回避できたとしても、印刷・封入・発送という作業のための出社は必要となります。この課題を解消するためには、請求書をデジタル化してメールなどで送るという方法があります。

なお、請求書のデータによる受け取りに関しては注意が必要で、受け取った請求書ファイルをデジタルファイルのまま保管したい場合は、電子商取引法に基づいて所轄税務署に承認を申請しなければなりません。しかし、受け取ったファイルを紙に出力した状態で保管すれば、申請手続きなどは不要でこれまでと同様の対応で問題ありません。

メールでの請求書ファイルのやり取りには注意が必要

メールでの請求書ファイルのやり取りには注意が必要

取引先との調整を済ませ、メールで請求書ファイルを送受信する際には注意が必要です。これは請求書ファイルのやり取りに限ったことではありませんが、メールの場合は宛先の間違いや添付するファイルの漏れやミスなどが発生しやすく、人的ミスによるトラブルを招きやすいという点です。

また、メールで請求書ファイルを受け取る際にも、メールが埋もれてしまい処理されなかったり、処理が遅れたりすることなどがあります。メールでの処理は手軽で便利なのですが、煩雑だったり、セキュリティに課題があったりしるので注意が必要です。

請求書ファイルのやり取りに関する代替手段

そのようなトラブルを回避し、請求書ファイルの送受信業務を効率化するため、最近では請求書データの管理・発行・送受信を自動化する専用クラウドサービスなども登場しています。また、商用のファイル転送サービスを利用すれば、請求書ファイルと宛先のメールアドレス一覧を登録するだけで、請求書データを自動配信したり、クラウドポスト機能を利用して請求書ファイルを安全かつ容易に受け取ったりすることができます。

各サービスによって細かな仕様は異なるかと思いますが、ファイルを送信・配信する場合はファイルごとに異なる個別のURLが記載されたメールが各メールアドレスに配信され、取引先に請求書ファイルをダウンロードしてもらうという流れとなります。普通に考えれば、作業がシンプルで、リアルタイムに請求書が届くので、受け取り側にとってもメリットは大きいはずです。

郵送物への対応はクラウドポストが便利

最後に、一般的な郵送物に関して。一般的な郵送物をすべてデジタル化してもらい、メールなどで送ってもらうというのは、現時点では現実的ではないかもしれません。しかし、ファイルを受け取るクラウドポストを使いこなすことでメールよりも安全かつ便利にファイルを受け取ることができます。最近は、ファイルアップロードの機能を設けているWebサイトを見かけることも多くなりましたが、商用ファイル転送サービスを利用すれば、アップロード用のURLを発行するだけで、メール添付よりも簡単、安全、確実、容量を気にすることなく、テレワーク環境からファイルを受け取れます。

テレワークの実施効果

テレワークの実施効果

では最後に、『中小企業のテレワーク実施状況に関する調査』における「テレワークの実施効果」の結果について紹介しておきましょう。

テレワークの実施効果は、「働き方改革の進展」が最多で35.4%、次いで「特になし」が34.6%、「業務プロセスの見直し」34.3%、「コスト削減」18.5%、「定型的業務の生産性向上」13.0%となっています。

コロナ禍で業種を問わず、厳しいビジネス環境が続いていますが、この結果を見る限りはリモートワークにより一定の成果が見込めるということがわかります。苦しい状況下で、仕事のスタイルを変えたり、前向きな投資をしたりするのは簡単なことではないと思います。しかし、苦しいときこそが変革をもたらすチャンスのときでもあります。今の前向きな取り組みが、アフターコロナの時代に必ず実を結ぶはずです。