最近では、Sierやベンダーへ外注するのをやめ、自社で開発・運用をおこなう「システム内製化」を選択する動きが増えてきています。実際に企業が内製化へと舵を切った場合、費用や組織体制、業務フローはどのように変わっていくのでしょうか。
この記事では、内製化した際にかかる費用や、必要な組織体制、成功させるためのポイントなどについて解説します。社内のDX化に向けて、システムを内製化するかどうかで悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
今、DXに向けてシステム内製化を選択する企業が増えてきている
なぜ、「システム内製化」を選択する動きが増えているのでしょうか?その背景には、市場やビジネスのスピードが速まってきたことが挙げられます。
昨今では、SIerによる開発が一般的になっていることもあり、システムの開発から運用までを外注する企業が多いです。しかし、アウトソーシングをすることによるさまざまな課題が発生しているのも実情です。
たとえば、システム障害が発生した際は、発生状況や原因・対応策などを外注先と都度話し合わなければなりません。そこで十分な説明が受けられなければ、ブラックボックス化してしまう恐れがあります。
また、市場の変化に合わせて、システム構成を変更する必要に迫られる事例も多く発生しています。その際に、SIerへ依頼している状況だと、一度決めた要件を後から変更するのに多大な時間と労力を要してしまうのです。
上記のような課題を解決するため、自社で開発から運用までをおこなう「システム内製化」を選択する企業が増えています。幸い、クラウドやローコード開発のツールが広く普及しているので、専門人材がいなくても内製化を進めやすい環境が整っています。
内製化した場合と、外注した場合の違い
では、内製化を選択した場合、費用や組織体制の面でどのような変化が生じるのでしょうか?ここでは、内製化した場合と、外注した際の違いについて解説します。
費用の違い
企業が内製化を選択した場合は、以下のような費用がかかります。
採用・教育費
従業員への給与・賞与
パソコンやサーバーなどの設備購入費
一方で、外注を選択した場合は、以下の費用がかかります。
外注費
内製化は、人件費や設備投資費など、さまざまな内訳で発生するのが特徴。対して外注にかかる費用は、基本的には外注費のみです。具体的にどれくらいかかるのかについては、実施するDXプロジェクトによってさまざまです。
一般的には、内製化の方が初期投資にかかる費用は高いけれども、長期的に見ればコストダウンにつながるといわれています。外注をした場合は、設備投資費や人件費の支払いがないため、初期コストを安く抑えられますが、長期的に見た場合に高コストになってしまう可能性があります。
組織体制の違い
企業がDX推進にあたって内製化を選択した場合、組織体制を自社で構築しなければなりません。その際は、以下のような人材が必要となります。
社内で、さまざまなポジションや専門性を持った人材が協力し合い、開発から運用までを進めていきます。はじめは、人材採用や円滑なコミュニケーション体制の構築に時間がかかりますが、うまく整備されれば円滑に事業を進めていけるようになるでしょう。
一方で外注した場合は、SIerやベンダーと調整をおこなう責任者が必要です。技術面についてだけでなく、ビジネスの方向性と関連付けて俯瞰的な視点で話し合うことのできる人が求められます。
内製化のメリット
それでは、DX推進のために内製化を選択することにどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、3つのポイントで解説します。
開発や改善のスピードを速められる
内製化を選択する最大のメリットは、外部との無駄な調整の手間を省き、迅速に開発や改善を進められることです。
たとえば、システム開発を外注する際は、まず社内で協議をおこない、ある程度仕様が決まってから受注先へ依頼します。その後、先方の事情も加味してスケジュールを調整し、都度やり取りをしながら進めていく流れです。
対して内製化であれば、一連のコミュニケーションをすべて社内で完結させることが可能。スケジュールについても自社の都合で進められるため、スピーディーな開発が実現できます。
また、運用中に機能要件の変更が生じた際、外注だと都度SIerやベンダーへ連絡をし、具体的な納期を決め、納品が完了するまで待たなければなりません。新たに依頼するだけで手間と費用がかかるので、些細な変更がしづらいのがデメリットです。
内製化を選択すれば、社内のシステム担当者へ一声かけるだけで変更作業を始められるのがメリット。業務改善に向けたPDCAを素早く回せます。
知識やノウハウを蓄積できる
システム内製化をすることで、業務をすべて自社でおこなうことになるため、従業員が得た知識やノウハウを会社の資産として蓄積することが可能です。蓄積した資産を、標準化されたフローやナレッジとしてまとめれば、人の入れ替わりがあっても滞りなく業務を遂行できます。
一方でシステム運用を外注した場合だと、一連の業務はSierがすべて実施することになります。一般的には、作業報告や所々のやり取りを通じて業務フローを記録していきますが、それでも、コミュニケーションミスにより一部がブラックボックス化してしまうリスクがあるでしょう。
仮に外注先との契約が終了した場合、ブラックボックス化した業務については、自力で理解・解決しなければなりません。
ビジネススピードや柔軟な対応が求められるDX時代において、内製化を選択することには大きなアドバンテージがあります。
内製化のデメリット
ここでは、内製化を選択するデメリットを2つご紹介いたします。
人材育成に時間がかかる
ひとつめは、人材の育成に時間がかかることです。中途採用した人材が、とくに何も教えなくても自力で学習し、成長していける即戦力であればよいですが、必ずしもそうとは限りません。組織として技術力やコミュニケーション力を底上げしていくには、人材育成が欠かせないのです。
しかし、人材育成は一朝一夕でなしうるものではなく、数か月~数年間と非常に長い期間を要します。定期的に現状や成果を振り返り、辛抱強く取り組み続けることが重要です。
依頼したその日から成果を期待できる外注と比べて、すぐに結果が出るわけではないのがデメリット。自社の組織文化に合わせて育成を実施し、時間をかけて形にしていかなければなりません。
コストへの意識が低下しやすい
2つめのデメリットは、コストへの意識が希薄になりやすい点です。外注では、支払った金額の内訳が明確なのに対し、内製化においては、さまざまな種類の費用が発生することが主な理由です。
とくに、人件費に関しては注意が必要。「人材が足りないから」と積極的に採用を進めていると、あれよあれよと固定費が増大してしまうことがあります。
DXに向けたシステム内製化の可否を判断するポイント
自社が内製化するかどうかを判断する際は、必ず、コスト視点を持つようにしましょう。確かに、開発スピードが上がったり、ブラックボックス化を防げたりすることは大きなメリットですが、内製化した結果、自社の財政がひっ迫する状況は避けるべきだからです。
内製化した際にかかるコストは、給与や賞与などの人件費が大部分を占めます。さらに、教育費用や設備投資費用、必要に応じてコンサルティング費用などがかかります。
これらを、外注にかかる費用と比較し、自社の許容範囲内で収まるかどうかを検討しましょう。内製化へ切り替えた初年度で多額の支出があったとしても、2年後・3年後の計画において外注よりも安く済むのであれば、GOサインを出すべきです。
DX推進のためのシステム内製化を成功させるポイント
ここでは、DX推進のために内製化を成功させるためのポイントを3つご紹介いたします。
優先順位をつける
まずは、どのシステムから内製化を進めるのか、優先順位をつけてから進めることが重要です。そのために、社内にあるシステムを棚卸しすることから始めましょう。
棚卸しがひと通り完了したら、関係部署の担当者へ「業務の流れはどのようになっているのか」「どのような課題が発生しているのか」といったことを確認します。そしてボトルネックになっている箇所を見つけ、該当のシステムから順に内製化を進めていきます。
ただし、すべてのシステムを内製化する必要はありません。基幹業務など、システムを変化させる必要があまりないものは、外注化しておいた方が得策な場合もあります。
ローコード開発を取り入れる
自社でシステム内製化をするにあたって、「技術面の壁」にぶつかることがよくあります。理由として、プログラムを書くことのできる人材がいない点が挙げられるでしょう。
そこで、「ローコード開発」による内製化が注目されています。ローコード開発とは、最小限、あるいはソースコードなしでソフトウェア開発をおこなう手法やツールのことです。
ローコード開発においては、視覚的に操作できる「GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)」を用い、作成したモジュールを組み合わせることでアプリケーションを作成します。これにより、プログラミングにかかる時間を大幅に抑え、開発スピードを向上させられるのです。
ローコード開発ができるソフトウェアは、日本においても徐々に増えつつあります。社内にプログラミングができる人材が少ないのであれば、活用を積極的に検討してみましょう。
人材採用や育成の環境を整える
内製化を推進する際は、専門人材の採用や育成がうまくいくかどうかが最大のカギです。せっかく内製化を進めても、人材の質が低ければ、かえって時間やコストが増大してしまうでしょう。
内製化に向けた人材採用を成功させるには、求人サイトや人材紹介といった定番の手法だけでなく、ダイレクトリクルーティングやSNS採用といった比較的新しいやり方もうまく取り入れることが重要です。
人材育成については、専任の教育担当者を中心に、OJT・OFF-JTを組み合わせながら進めていくことがポイント。もし教育のノウハウがなければ、外部の研修サービスを活用するのもひとつの手です。
内製化のコンサルを活用するのも効果的
ITリテラシーの高い社員が社内に多くいれば、自社内だけで内製化を完結させることができますが、現在外注に頼っている企業の多くは、内製化に対応できる人材をそろえていないことが多いでしょう。そこで、内製化のコンサルティングサービスを活用するのがおすすめです。
内製化のコンサルティングサービスを提供する会社には、技術者の育成支援から開発基盤の提供、開発支援にいたるまで、一気通貫でサポートしてくれるところもあります。知識やノウハウを持たない企業にとっては、心強い存在となるでしょう。
また、自社で課題とする業務のみを、スポットでコンサル依頼できる会社もあります。自社の現状や課題に合わせ、活用を検討してみてください。
コンサルも活用しながら、DXに向けたシステム内製化を進めよう
この記事では、DXに向けてシステム内製化を選択する必要性や、外注との違い、成功させるためのポイントなどについて解説しました。もし内製化へ舵を切るのであれば、優先順位を決めながら、長期目線で辛抱強く取り組み続けることが大切です。
もし、自社で内製化を進められるかどうかが不安だと感じていらっしゃいましたら、専門のコンサルティングサービスの活用も検討してみてください。プロの力を借りることで、より効率的にプロジェクトを進められるようになるはずです。