働き方改革や新型コロナウイルスなどの影響もあり、日本企業でDX化が積極的に推進されています。そのような最中で、「どのようにDXを進めればいいのかが分からない」「DX推進の際に、どのような点に注意すればいいのだろうか」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、日本企業が目指すべきDXのあり方や、注意点、ポイントなどについて詳しく解説します。
日本企業が目指すべき”DX”とは?
日本企業がDXを推進する際は、単に海外での定石やトレンドをまねるのではなく、日本の実情に合わせて進めていくことが重要です。
そもそも「DX」とは、「Digital Transformation」の略で、スウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念です。大雑把にいうと、「ITの浸透により、人々の生活をよりよくする」という仮説で、アメリカなどの海外企業を中心に取り組みが進められています。
日本においては、経済産業省が発表した『DX レポート~IT システム「2025 年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』の報告書を皮切りに、注目度が高まりました。そして、同年に公開された『デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン』にて、日本企業が目指すべきDX推進の指針が示されています。
現在日本は、「2025年の崖」問題に直面しており、老朽化・ブラックボックス化したシステムが2025年まで残り続ける場合、日本全体での経済損失は最大25兆円/年になると述べられています。年々増加し続ける企業データの活用ができず、DX化が遅れ、国際的にデジタル競争力が低下してしまう恐れがあるのが懸念点です。
加えて、国内では少子高齢化が進み、働き手の減少が着々と進んでいます。とくにIT人材の不足は甚だしく、2030年には、中位シナリオで45万人もの人手が必要になるともいわれています。
日本企業が目指すべき”DX”は、上記のような「システムの老朽化・ブラックボックス化」「人手不足」といった課題を解決するものでなければなりません。
日本型DXでは、単にシステムの改修やリプレイスを行うのではなく、新たにクラウドサービスを活用したり、ローコード・ノーコードサービスを導入したりして、1人あたりの生産性や付加価値額を最大限に高めていくことが求められます。
DX推進の注意点
ここでは、実際に日本企業がDX推進をするうえで注意すべきポイントを2つ解説いたします。
業務効率化がゴールではない
DXを推進するうえで一番注意すべきことは、「業務効率化がゴールではない」ということです。大切なのは、「ITツールを活用して、事業や経営を変化させていくこと」である点を意識しましょう。
例えば、従来のExcelでの顧客情報管理から脱却して、顧客管理システムを導入した場合で考えてみます。顧客管理システムでは、ほかのツールと連携してデータを自動入力したり、メールを自動配信したりできるため、導入直後から大幅な業務効率化を見込めます。
一方で、DXにおいて目指すのは、さらにその先のプロセスです。顧客管理システムの例でいうと、「顧客をセグメントごとに分析し、属性に合わせたアプローチを行う」「蓄積された質問やクレームの内容を分析し、サービス改善や新製品開発へとつなげる」といったものです。
業務効率化が「量的変化」であるのに対し、DXは「質的変化」であるのが大きな特徴。単なる「守りの経営」ではなく、「攻めの経営」を遂行していくための概念であることを認識しましょう。
トップがリーダーシップを発揮しながら進める
DXを推進するうえでは、トップが明確なビジョンを示し、リーダーシップを発揮しながら進めていくことが求められます。「デジタル化を進めれば、何かが変わるだろう」という意識だけでは、現場が何をすればいいのかが分からず、何も進展しない可能性があるからです。
まずは大枠でもよいので、「DXで目指す、企業としての理想の姿」を設定してみましょう。たとえば、以下のようなものです。
- DX推進により、新しいビジネスモデルを開発する
- 国内外の子会社・関係会社のシステムを連結させ、経営の見える化を実現する
- 一気通貫のサプライチェーンを構築する
- 社内のガバナンスを強化する
大きなゴールが設定できれば、あとは、それを実現するための小目標をいくつか決め、理想と現実を近づけられるようにします。
DX推進にあたっては、人事・組織、ひいては企業文化までも変える可能性があるため、経営トップが強い意識をもって進めていくことが重要です。とくに、社内での抵抗や反発があった場合などは、いかにリーダーシップを発揮していけるかが問われます。
DX推進のための4つのステップ
ここでは、DX推進において企業が実施すべき施策を、4つのフェーズに分けてご紹介いたします。
1.業務プロセスのデジタル化
まず初めにやることは、社内における業務プロセスのデジタル化です。今までアナログで管理していたものを廃止し、クラウドやWebアプリケーションなどへ置き換えることで、デジタルによる管理を実現します。
たとえば、以下のような改革例があります。
- 紙の契約書を廃止して、電子契約を導入する
- 受発注情報の管理を、Excelから専用ツールへ切り替える
- オフィス内に構築されているサーバーを、クラウドへ移行する
- 電話やFAXでのやり取りを廃止し、ビジネスチャットツールへ移行する
最初のステップでは、ITツールを導入することが大きな目的となります。
従業員にとっては、今まで慣れ親しんでいたやり方から急に変化するため、反発や混乱が起こる可能性が考えられるでしょう。経営トップや関係者が社内調整を進めながら、いかに当初に想定していた形で導入を済ませられるかが、成功のカギとなります。
2.ITツールを活用するための業務変革
次に、導入したITツールを活用していくために、社内で業務変革を進めていきます。
たとえば、紙の契約書を廃止し、電子契約システムを導入した場合で考えてみましょう。今まで、契約書を手渡しや郵送で渡していた流れが、メールやチャットツールで添付ファイルとして送信するフローに変わります。
それに伴い、社内で、「顧客の連絡先は収集できているか」「どのタイミングで契約書を送信するのか」「送信または受領した電子契約書は、どこへ保存するのか」など、さまざまな内容を検討する必要があります。
このように、一つのITツールを導入しただけでも、業務効率化のためにさまざまな調整が必要になるのです。
3.ITツール内で蓄積したデータの活用
業務改革が完了し、ITツールを運用していくための基盤が整ったら、次に蓄積したデータを活用していきます。
たとえばCRMを導入した場合、顧客の氏名や性別、電話番号のほか、購買日・金額・頻度や問い合わせ履歴といった情報を収集・蓄積できます。集めたデータをもとに、顧客属性をグループ分けして個別最適のアプローチをしたり、最適な訴求タイミングを見つけ出したりすることが可能です。
DXは、単なる業務効率化で終わらせるのではなく、攻めの意思決定へとつなげていくことが非常に大切。データを活用して、次なるアクションへつなげていけるようにしましょう。
4.ツールやデータの全体最適化
最後に、デジタル化のために導入したツールやデータ同士を、部門を超えて連携させていきます。真のDXを目指すには、会社の全体最適を意識して統合管理を実現していくことが重要です。
例えば、在庫管理システムと受発注管理システムを連携することで、受発注を自動化したり、最適な受発注タイミングをリアルタイムで分析したりすることが可能になります。また、営業支援システムと会計管理システムを連携することで、営業マンが作成した見積書・請求書のデータを、会計システムへそのまま反映させられます。
さらに、全社統一のマスターデータを用意しておけば、顧客情報を管理する際に、データの重複や漏れを防ぐことが可能です。
上記のように、会社全体でのツール間連携が進んでいけば、さらなる高度化が進み、DXの実現に一歩近づきます。
DXを成功させるために意識すべきポイント
ここでは、企業がDX推進を成功させるために知っておくべきポイントを2つ紹介いたします。
スモールスタートで運用をはじめる
とくに事業規模が比較的小さい中小企業は、スモールスタートでDX化を進めていくことがポイントです。いきなり大規模な改修やシステム導入を行うのではなく、まずは特定の業務やシステムに絞り、小さな規模から始めていきましょう。
その後、トライ&エラーを繰り返し、少しずつ適用範囲を広げていきます。小さな成功体験を積み重ねていけば、そこで得た知識や経験、ノウハウを、ほかの部門やシステムへ少しずつ活用できるようになります。
また、PDCAサイクルを小さな単位で回していくことを意識しましょう。PDCAは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」を意味し、プロジェクトを継続的に改善し続けていくためのフレームワークです。
たとえば、ITシステムを導入したら、その後の運用計画を策定(P)し、実施(D)していきます。そして、業務上の問題が発生しているかどうかを定期的にチェック(C)し、必要があれば、業務が滞りなく進むように改善(A)していく流れです。
IT人材の採用や育成に注力する
企業のDX推進にあたって、まずはIT人材を採用していくことが急務となります。そもそも、ITに関する知識をもった人材がいなければ、DXの前提であるシステムの導入プロジェクトさえも成功しない可能性があるからです。
IT人材の採用を成功させるには、より効果的な経路で求職者へアプローチをしていく必要があります。近年では、就職サイトや人材紹介サービスの活用といった手法だけでなく、SNSを活用したソーシャルリクルーティングや、Web広告による募集など、多彩な手段から選べるようになっています。「自社ではどのような人材が欲しいのか」を明確にして、適した経路で採用活動を進めましょう。
また、人材を採用したあとも、継続的に育成へ注力していくことが大切です。高度なDX化を進めていくには、エンジニアリングやプログラミング、データ分析といった専門知識だけでなく、企画・設計・デザインなど、事業全体にかかわるスキルやノウハウも必要になります。
必要に応じて、従業員へ複数のスキルを身につけさせたり、より重要な責任を任せたりすることで、DX推進のための組織力を底上げすることが可能です。
日本型DX推進に活用できるツールとは?
ここでは、日本型DXを推進するにあたって、導入しやすいツールの代表例を3つご紹介いたします。
RPA
DX推進にあたって、よくイメージされるのが「RPA」。RPAとは、「Robotic Process Automation」の略で、パソコンの定型業務を自動化できるツールです。
RPAを活用することで、グラフや表の作成、データのアップロード作業などの決まりきった業務を自動化できます。結果、社員のリソースに余裕ができ、より重要なDX施策へ取り組むことができるのです。
ただし、RPAの活用自体がDX化ではない点に注意しましょう。あくまでもRPAはDX化のための手段であり、目的ではありません。
BIツール
BI(Business Intelligence)ツールは、企業内に蓄積されたさまざまなデータを分析し、見える化できるシステムのことです。近年はビッグデータの活用が注目されるなか、データサイエンティストなどの専門人材を必要とせずに経営情報の分析が行えます。
BIツールが活用される場面は非常に多彩。財務分析や営業分析、人事データ分析、顧客分析など、あらゆる業務で用いられます。
ERP
ERPは「Enterprise Resources Planning」の略で、基幹情報システムのことを指します。企業の会計・人事・物流・営業など、それぞれの部門にある情報を、ひとつのシステムで一元管理することが可能です。
ERPは、より高度なDX推進の際に導入される傾向にあるのが特徴。部門ごとのデジタル化が完了していて、さらなる統合管理を実現したいときにおすすめです。
注意点やポイントを押さえ、正しいステップでDX化を進めよう
この記事では、日本企業が目指すべきDXのあり方や、DX推進にあたっての注意点、ポイントを中心に解説しました。
実際に成功させるには、トップが明確な目的・目標をもってリーダーシップを発揮し、小さな業務から適用していくことが大切です。そして、専門のIT人材を採用・育成しながら、業務効率化、ひいてはビジネスモデルの変化をもたらすところまでがゴールになります。
一方で、「どこから手を付ければよいのかがわからない」といった不安をお持ちの方も多いはずです。そのような場合は、まず無料から始められるクラウドサービスを試してみて、実際の業務変化を効果測定してみてもよいかもしれません。
ぜひこの記事を参考に、自社のDX推進を一歩進めてみてください。