DXを実現しなければ日本の製造業に明るい未来はない
2025年に訪れるという「DXの壁」。業種や規模に関係なくDXに乗り遅れた企業は、将来、事業機会を逸することになると経済産業省は警告しています。
しかし、DXを推進するためには、単にシステムを刷新したり、デジタル化を図ったりするだけでは対応できません。従来の商習慣や組織体制、さらには企業文化までも視野に入れた対応が必要だと言われ、資金も人材もノウハウもない中小企業では二の足を踏まざるを得ないことも多いのではないでしょうか。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)ではこのような状況下、中小規模製造業においてDXへの対応が進んでおらず、「DXを実現しなければ日本の製造業に明るい未来はない」という問題意識から、「中小規模製造業者の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のためのガイド」を公開しています。(https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/mfg-dx.html)
同ガイドはDXに取り組んでいる中小規模製造業の先進的な事例を収集・分析。これからDXを目指そうとしている企業に向け、DXの理解と必要性、そのノウハウなどを整理しています。
本コラムでは、同ガイドにおけるポイントやIPAの取り組みについて紹介します。
製造分野におけるDXとは?
同ガイドでは、製造分野DX(ものづくりDX)に関する素朴な疑問や詳細な疑問について説明するため、「マンガでわかる製造分野DX FAQ編 (https://www.ipa.go.jp/files/000093474.pdf)」を掲載しています。「DXって儲かるの?」、「DXって大企業のものなの?」といった50におよぶ(2021年8月2日改訂版)質問と解答が4コママンガと合わせて掲載されています。
同FAQによれば、ものづくりDXとは以下のように定義され、SCM(Supply Chain Management)やERP(Enterprise Resources Planning )など製造に関係するITの一部も対象とするとしています。
「顧客価値を高めるため、製造分野で利用されている製造装置や製造工程の監視・制御などのデジタル化を軸に、ITとの連携により、製品やサービス、ビジネスモデルの変革を実現すること」
なぜ製造業はDXに取り組むべきなのか
では、なぜ中小規模製造業はDXに取り組むべきなのか。
その背景の1つに、大企業の大量生産を支える垂直統合したサプライチェーンの中で、低価格・高品質・短納期が要求される中小製造業が、下請け構造から脱却して付加価値の高いコンシューマー製品を生み出すサプライチェーンを構築することが求められるとしています。
また、高度に自動化されたスマートマニュファクチャリングによって、コンピュータを利用した柔軟なマスカスタマイゼーションを実現するためには、DXへの取り組みは必須であり、中小規模製造業がDXを実現しなければ日本の製造業に明るい未来はないと主張しています。
DXを推進するための課題と対応策
一方、中小規模製造業がDXを推進するためには、乗り越えなければならない4つの課題があると指摘しています。
【課題1】求められるマインドセットや企業文化の改革
DXに関するインタビューや文献などを調査した結果として、「現状のままでも仕事はできている」、「職人技の仕事だから」と意識を変化させることができないことが、DX推進に対する心理的障壁となっていると指摘しています。
その上で対応策として、経営トップによるコミットメントを高めると同時に、従業員の意識改革、採用・育成、動機付けによるマインドセット、企業文化の変革へと取り組む必要があると提言しています。
【課題2】進まないデータの活用
データを活用するために必要なコストを負担できない、デジタル人材が不足しているというのも、多くの中小企業にとっては共通の課題となっているようです。
しかし、手をこまねいているのではなく、外部資源や外部有識者を活用することも視野に入れながら、まずは可能な範囲の予算と担当者で始めてみることが重要であり、経営者自ら率先して行動する必要があると提言しています。
【課題3】企業間連携を推進する上での課題
中小企業では、すべてを自社のみで実施・負担するのには限界があります。下請け体質から脱却するためには、さまざまな場面で、場合によってはサプライチェーン全体で他社との連携が必要になります。
そのためには、機密情報やノウハウが漏えいするリスクや、情報を守るためのサイバーセキュリティへの対応が重要なポイントになると指摘しています。
【課題4】具体的な取り組み方法が不明
製品・サービス変革に対するDXを推進するための技術や、自社へのメリット、具体的な取り組み方法などがわからないという、率直な点も課題として挙げられています。
対応策としては、社会的な問題に起因する新たな課題はもちろん、顧客からのクレームや現場における問題意識といった身近で発生している課題に挑戦することが重要で、そのようなことがきっかけとなり、収集したデータを使って何か別のサービスを提供できるようになったり、データの収集方法自体がビジネスにつながったりすることもあるとしています。
ガイドの構成
では最後になりましたが、同ガイドの構成概要を紹介しておきましょう。同ガイドは、2020年12月23日に公開されました。以下の項目で構成されています。
(1)製造分野のDXを理解する
製造分野におけるDXを理解するために、製造分野のDXの定義や、目指す姿、推進ステップを示す資料『製造分野のDXを理解する』(PDF)が掲載されています。同資料は、大きく以下の3つの項目から構成されます。
・製造分野におけるDXを理解し、自社に当てはまるかどうかを確認できる「製造分野のDXとは?」
・DXの目指す姿としてスマートプロダクト、スマートサービス、スマートファクトリーを例示した「製造分野のDXとして目指す姿」
・DX推進効果の最大化と持続的な維持・強化する計画を策定するための「製造分野のDX推進STEP」
(2)製造分野のDX事例集
製造分野のDXを理解するための参考事例(14社)と取り組み観点を分類した報告書『製造分野のDX事例集』(PDF)が掲載されています。また、一部の事例を紹介する動画コンテンツ(プレゼンテーション)も公開されています。
(3)製造分野DX度チェック
DX推進における自社の立ち位置や課題を確認するためのチェック項目の掲載が予定されています。経済産業省が取りまとめた「DX推進指標」をベースに、中小規模製造分野に向けてカスタマイズした内容となる予定です。
(4)製造分野DX関連情報
DXを推進するのに役立つ文献一覧と関連組織一覧が掲載されています。
(5)FAQ
「製造分野のDXってなに?」といった基本的な疑問をはじめ、「DXで儲かるのか?」といった素朴な疑問に対する答えが掲載されています。
(6)用語集
ガイド内で利用されている用語や関連する用語が解説されており、2021年8月時点で130 個の用語や略語が掲載されています。
(7)過去のセミナー・イベント情報
過去に実施したセミナーやイベントに関する講演資料(抜粋版、PDF形式)や当日のQ&A(PDF形式)、アーカイブ動画などが掲載されています。
このように「中小規模製造業者の製造分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のためのガイド」は資料と情報が充実しており、中小規模製造業者だけでなく業種や規模が異なる企業にとっても有用な情報源となるでしょう。
本コラムではスペースの関係で各事例については紹介できませんでしたが、別途、紹介する機会を設けたいと思います。