東京都庁が取り組む
「5つのレス徹底推進プロジェクト」
自治体において行政システムをDX化する動きが加速しています。そのような状況下、東京都庁(以下、都庁)ではDX推進に向けた構造改革の一環として、「5つのレス徹底推進プロジェクト」に取り組んでいます。
5つのレス徹底推進プロジェクトは、これまでの都政改革を継承・発展させつつ、DXの推進をてことして都政の構造改革を推進する取り組みです。2025年度を目処に「デジタルガバメント・都庁」の基盤を構築するための突破口となる7つのコア・プロジェクトの1つとして推進されています。
なお、都庁が掲げる新しい都政は「シン・トセイ」と名付けられ、公式ポータルサイト「#シン・トセイ」(https://shintosei.metro.tokyo.lg.jp/)やTwitterアカウント(@shin_tosei)も設けられています。「シン」は映画の『シン・ゴジラ』の「シン」と同様の使い方となっているようです(意味の解釈は読者に委ねます)。
「5つのレス」とは、「ペーパー(紙)」「FAX」「はんこ(押印)」「タッチ(接触)」「キャッシュ(現金)」をベースにした仕事のアナログ環境を排除(レス)することを意味しています。しかし、5つのレス徹底推進プロジェクトにおいて、これら5つのアナログ環境を排除することが最終的な目標ではありません。業務環境をオンライン化やデジタル化をベースとしたデジタル環境へと転換することで、仕事のベースとなる仕組みや規制を見直し、都政のDX推進につなげていく取り組みとなります。
コロナ禍、3つのレスから5つのレスへ拡張
そもそも東京都庁では、これまでも生産性向上や業環境の機能強化に取り組んできました。2017年度に開始した「2020改革」において、はんこレス、ペーパーレス、キャッシュレスの3つのレスを推進することを掲げています。
その結果、2019年度末の時点で以下のような成果を上げたと報告されています。
・電子決定率が65%まで上昇
・コピー用紙の使用量は2016年度対比で17%削減
・ペーパーレス会議の実施率は67%まで上昇
従来の3つのレスに、新型コロナウイルス感染拡大の影響により浮き彫りとなった課題として、FAXレスとタッチレスが追加されました。結果、5つのレスは相互に関連しており、デジタルガバメントの実現を加速するための取り組みとして徹底推進されています。
5つのレスの詳細と最新の進捗状況
それでは、5つのレス徹底推進プロジェクトにおける5つのレスについて確認していきましょう。
ペーパーレス
ペーパーレスは文字通り、紙を使用せず仕事ができる環境を実現することになります。都庁では本庁だけで2016年度に約2億枚のコピー用紙を使用していました。2021年度には50%削減、2022年度には70%削減を到達目標として設定しています。
具体的には、内部事務のデジタル化を推進するのに合わせて、下記のような施策を実施しています。
・パソコンモニターや会議用モニターなどのデジタルツールを各職場に導入
・各局が購入できるコピー用紙の上限規制を設定
・デジタルツールと新しい仕事の進め方を浸透させ、各フロアーのコピー機を削減
FAXレス
新型コロナウイルスの発生届の送信にFAXが使用されていたことで話題となりましたが、東京都庁においてFAXの利用は少なくなかったようです。2019年度に本庁だけで約55万件のFAXが利用されていました。FAXの送受信数を削減することで、2021年度の達成目標として98%の削減が掲げられています。
具体的には、FAXで行っていた業務をメールなどに切り替えたり、相手方へFAXから電子メールへの切り替えの協力を依頼したり、PCから複合機を通じてペーパーレスでFAXを送受信したりするといった取り組みを実施しています。
なお、FAXレスに関しては、本庁内ではすでに目標を達成し、今後、事業所へと展開するとされています。
はんこレス
はんこレスに関しても、コロナ禍で全省庁での廃止が宣言されるなど話題となりました。東京都庁では、押印廃止のルールを定めるとともに、デジタル化による押印廃止を推し進めることで、都と都民、都と事業者で行っている不要な押印を廃止。東京都庁内の文書による決裁は、2021年度末までにすべて(例外案件あり)を電子化するとしています。
ただし、表彰状、感謝状など押印自体に意義があるもの、金融機関からの指定や国の法令に基づいている押印は継続されるといいます。
2021年1月末の押印見直し状況は、押印を要する事務約18,000件のうち、約1,000件が廃止済み、約14,000件がデジタル化などにより廃止予定だといいます。
タッチレス
タッチレスとは人と人が接触することなく、東京都民と行政、行政内部での事務手続きを非接触、非対面で完結させる行政サービスを実現・定着させる取り組みを意味します。機器との直接的な接触や決裁などで使われる「タッチ」のことではありません。
具体的な対応イメージとしては、Web会議やLINE、チャットボットを活用して、東京都庁や各事業所に来庁することなく行政相談などを実施できるようにすること。説明会や後援会などのイベントに関しても非接触型の開催を推進するとしています。
タッチレスに関しては、数字による達成目標などは示されていませんが、ほかの4つのレスが徹底されていることが後押しとなり、東京都民や事業者の満足度を把握しながら改善や拡充に努めていくとしています。
キャッシュレス
キャッシュレスに関しては、東京都のすべての施設において、クレジットカード、電子マネー、QRコードによる決済手段を導入。入場時から退場時までキャッシュレスで過ごせる環境を実現することを目標としています。
対象となるのは78の東京都民利用施設で、2021年度末で導入完了予定とされています。
▼5つのレスが連携しながら徹底されることでDXへの道が開ける
5つのレスの進捗状況はダッシュボード化(可視化)され、公式ポータルサイト「#シン・トセイ」(上にて最新の状況が公開されています(毎月更新)。
ダッシュボードページのキャプチャ画面
さらに都庁では5つのレス徹底推進プロジェクトに加え、DX推進に向けた構造改革の一環としてデジタルガバメントの実現に向けたDX推進体制の構築にも積極的に取り組んでいます。
その一環として、旗振り役・けん引役となるデジタルサービス局所を設置。同局は、各局および市区町村のDX推進を技術面からサポートしたり、国・市区町村との連携・調整役を担ったりしています。細かな役割や機能は異なる部分があるかもしれませんが、国政におけるデジタル庁のような位置づけとなる組織にあたるものと考えられます。
また、ICT職の採用を強化したり、民間人材を柔軟に登用したりするなど、デジタル人材を確保・活用するための施策も打ち出しています。人材の育成に関しても、デジタルに関する能力だけでなく、行政組織に求められるビジネス力やチームプレイ力、行政力と合わせてバランス良く能力を向上させるための教育なども積極的に展開していくとのことです。
自治体に限らず一般企業においてもアナログの業務環境が数多く残っていたり、業務の内容がブラックボックス化したりしていては、DXを推進するのは難しいでしょう。
今回紹介した都庁の5つのレスへの取り組みすべてが、どの企業でもそのまま応用できる施策ではなかったり、一般企業であれば既に実践されていたりするものもあるかもしれません。
しかし、都庁の方針にもあるように、これらの施策をバラ奈良に実践していたのでは、十分にその成果を得ることはできません。5つのレスが連携しながら徹底されることでDXへの道が開けてきます。
いずれにせよ、DXを推進するのにどこから手を付ければいいのかわからない。DXへの取り組みが上手く進まないといった企業には、参考になる施策なのではないでしょうか。
まとめ
今回紹介した都庁の5つのレスへの取り組みすべてが、どの企業でもそのまま応用できる施策ではなかったり、一般企業であれば既に実践されていたりするものもあるかもしれません。
しかし、都庁の方針にもあるように、これらの施策をバラ奈良に実践していたのでは、十分にその成果を得ることはできません。5つのレスが連携しながら徹底されることでDXへの道が開けてきます。
いずれにせよ、DXを推進するのにどこから手を付ければいいのかわからない。DXへの取り組みが上手く進まないといった企業には、参考になる施策なのではないでしょうか。