製造業をはじめとした中小企業が導入・運用しやすいERPとして、近年注目を集めているのが「Dynamics 365 Business Central」です。しかし、その概要や機能、特徴などについて、まだ把握されていない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、Microsoftの「Dynamics 365 Business Central」の概要・特徴・利用するメリットなどについてご紹介します。詳細なプランについても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
Dynamics 365 Business Centralとは
「Dynamics 365 Business Central」は、2018年4月3日に提供を開始した、中小企業向けのERPです。同社が以前から展開していた「Dynamics NAV」の機能をベースとし、さらに改良を加えて登場しました。
Business Centralは、高い機能性に加えて、スピーディーに導入を済ませられるのが特筆すべき点です。最小で1名のユーザーから登録できることや、250名以下の従業員規模を対象としていることから、中小企業においても導入しやすいサービス内容となっています。
また、財務管理機能、営業・マーケティング管理機能、プロジェクト管理機能など、多彩な種類のモジュールを活用可能です。各部門で収集したデータをBusiness Centralで一元管理し、迅速な意思決定につなげられます。
Dynamics 365 Business Centralの特徴
Dynamics 365 Business Centralは、ほかのERPと比べて、どのような特徴があるのでしょうか?ここでは、詳細を3つのポイントで解説します。
さまざまな環境からアクセスできる
Dynamics 365 Business Centralは、さまざまなOS・デバイスからアクセスできるのが特徴です。
OSにおいては、Windows・iOS・Androidの3種類に対応。デバイスにおいては、PCだけでなく、タブレットPCやスマホからのアクセスにも対応しています。
また、オンプレミスとクラウドの2種類から選べるため、自社の要件に合わせて導入できるのが魅力です。
Microsoft 365との連携性に優れている
Dynamics 365 Business Centralは、Microsoftのサービスであることから、同社の他ツールを連携させることが非常に容易です。Microsoft 365には、以下をはじめとしたアプリケーションがラインナップされています。
- Outlook
- OneDrive
- Word
- Excel
- PowerPoint
- OneNote
- SharePoint
- Teams
たとえば、Business Centralの見積もりをOutlook上で自動作成し、顧客へそのまま送信する、といったことも可能です。ほかにも、レポートデータをExcelやPowerPointへ出力するなど、活用方法は多彩です。
2層ERPとして活用できる
中小企業において、国内外でグループを形成している場合や、多くの販売代理店をもつような場合には、2層ERPとしての活用が可能です。2層ERPとは、本社で導入済みの「コアERP」に加えて、支社や支店などが「サブERP」を別に導入する形態を指します。
Business Centralは、サブERPとして、各支社や支店に導入しやすいのが特徴。上位互換の「Dynamics 365 Supply Chain Management」をコアERPとすれば、Microsoft社の製品でERPを統一することも可能です。
2層ERPを実現することで、グループ全体の情報を横断的に分析できるようになるため、業務の標準化を進めたり、ガバナンスを強化したりするのが容易になります。
Dynamics 365 Business Centralの代表的な機能
ここでは、Dynamics 365 Business Centralに搭載されている代表的な機能を7つご紹介します。
財務管理機能
Dynamics 365 Business Centralを活用することで、シンプルで分かりやすい操作画面を使いながら、キャッシュフローや固定資産、プロジェクト原価などを適切に管理できます。
ExcelやMicrosoft Power BIなどと連携させれば、財務パターンを特定したり、キャッシュフローデータをリアルタイムで取得したりできるのが魅力です。
グローバルな拠点を抱えている企業でも利用でき、さまざまな種類の通貨や為替レート、その国の税規制などを考慮しながらデータを管理できます。月次や年次の決算を素早く、スムーズに進められるのが特徴です。
営業・マーケティング管理機能
Dynamics 365 Business Centralには、MA/CRM/SFAに相当する機能を搭載しています。
たとえば、売上の見込みに応じてリードに優先順位を付け、アプローチ対象の見込み客を容易に探し出せます。また、Business Centralに記録された顧客とのやり取りを見返せば、アップセルやクロスセルの適切なタイミングを見計らうことも可能です。
ほかにも、顧客の契約状況を瞬時に把握したり、顧客やグループごとに価格や割引を設定・確認したりできます。
販売・購買管理機能
販売・購買管理機能においては、得意先管理や仕入先管理、受発注管理といった基本的な機能を活用できます。部品をどれくらいの価格で調達しているのか、どの納品先へ何を納品しているのかといった情報を瞬時に把握できるのです。
ほかにも、トリガーに応じて自動発注をかけたり、購買計画の策定を支援したりできるのが魅力。品目数や発注数が多くて購買を把握しづらい場合や、納品を適切に管理したい企業にとって、使いやすい機能です。
在庫管理機能
Dynamics 365 Business Centralを活用すれば、自社の在庫状況はもちろん、サプライチェーンの在庫も簡単に把握できます。
管理画面に登録された品目は、物流現場においても簡単に移動したり削除したりできるのが特徴。売上予測や在庫切れも把握することが可能で、部品の補充が必要になると、自動で発注書を作成できます。
プロジェクト管理機能
社内で一時的なプロジェクトが発生したような場合でも、Dynamics 365 Business Centralのプロジェクト管理機能で対応できます。
具体的には、精度の高い原価計算・タイムシートの作成・レポートの出力機能などを活用可能。プロジェクト実施中に発生した修正にも細かく対応し、予実管理を徹底できます。
また管理画面を見ながら、「今どれくらいのリソースが使われているか」「かかった原価をどれくらい回収できているのか」といった情報も確認できるのがうれしい点です。
BIを活用した高度な分析も可能で、さまざまな指標をもとに、プロジェクトの現況をリアルタイムに把握できます。
サービス管理機能
Dynamics 365 Business Centralでは、契約後の製品・サービスの状況や、割り当てたタスクの状況を一元管理することが可能です。
たとえば、出荷済みの商品を自動で登録したり、配送状況を一目で把握したりできるのがメリット。もし返品や修理が発生した場合は、どのような状況になっているのかを管理画面から追跡できます。
顧客へのタスクが発生したときは、適した人材を割り当て、詳細内容を円滑に伝達できます。
倉庫管理機能
自社の倉庫に仕掛品や製品を保管している場合でも、Business Centralの倉庫管理機能で、リアルタイムに把握することが可能です。
事前準備としてまず、レイアウトをもとに在庫置場やゾーンを設定した後、各品目の最適な配置場所を決定していきます。ピッキングや出荷なども考慮して決めれば、クロスドッキングの実現も可能です。
製造業向けの機能
製造業向けの機能においては、詳細な部品表を作成したり、部品や原材料の注文情報を表示したりできます。
また、複数の部品から作られる製造物を登録することも可能。特定の製品へリソースをかけすぎていないか、簡単にチェックできます。
複雑で環境変化が激しいような製造工程であっても、計画に沿った作業の実施が可能になります。
Dynamics 365 Business Centralのプラン
Dynamics 365 Business Centralのプランは、「Dynamics 365 Business Central Essentials」と「Dynamics 365 Business Central Premium」の2種類があります。それぞれの機能の違いは以下です。
Dynamics 365 Business Central Essentials | Dynamics 365 Business Central Premium | |
---|---|---|
登録可能なユーザー数 | 無制限 | 無制限 |
登録可能な会社件数 | 無制限 | 無制限 |
複数の環境での使用 | 〇 | 〇 |
財務管理機能 | 〇 | 〇 |
営業・マーケティング管理機能 | 〇 | 〇 |
販売・購買管理機能 | 〇 | 〇 |
在庫管理機能 | 〇 | 〇 |
プロジェクト管理機能 | 〇 | 〇 |
サービス管理機能 | ― | 〇 |
倉庫管理機能 | 〇 | 〇 |
製造業向けの機能 | ― | 〇 |
Essentialsプランにおいては、Premiumプラン同様、ほとんどの機能が搭載されていますが、「サービス管理機能」や「製造業向けの機能」は搭載されていません。両者には機能と価格の違いがあるので、自社に適したプランを選択しましょう。
Dynamics 365 Business Centralを導入した事例
ここでは、Dynamics 365 Business Centralの導入に成功した事例を3つご紹介します。
属人化から脱却し、スムーズな業務承継へ
石油・石油化学に関する自動試験機や分析機器などを手掛ける、田中科学機器製作株式会社は、資材管理などの業務において、属人化の課題を抱えていました。過去に会計・販売管理ができるパッケージソフトを導入していましたが、とくに資材管理の部門には適さず、数名の担当者に頼りきっている状況が続いていたのです。
そこで同社は、Dynamics 365 Business Central(旧 Dynamics NAV)の導入を決意。6人体制のプロジェクトでスタートし、約半年でノンカスタマイズのシステム構築を完了させます。
結果、資材管理部門においてもツールを適用することに成功しました。同社はこれから、ERPの活用範囲を徐々に広げていくことで、取引先や海外拠点とのスムーズな連携を模索しています。
意思決定の迅速化や、正確な数値の把握に成功
人工宝石加工業をはじめとする事業を営む、アダマンド並木精密宝石株式会社は、海外メーカーとの競争激化に伴い、意思決定スピードを向上させていくことを必須の課題として挙げていました。
以前は、フルスクラッチの基幹業務システムを導入していましたが、個別カスタマイズを進めすぎたがゆえに、数値管理が属人的になってしまっていたのです。経営会議用のレポート作成に1週間程度かかるなど、意思決定に多大な時間を要していたのです。
そこで同社は、4社のコンペを開催し、最終的にDynamics 365 Business Centralに決定。最低限のカスタマイズを行い、1年程度で運用を開始します。
結果として、今までに1週間程度かかっていたレポート作成が、数時間程度に短縮。経営指標や製造原価といった数値をリアルタイムで把握するための仕組みが整えられました。
急成長を続けるビジネスへの対応に成功
サスペンションボート用のシートを製造するUllman Dynamics社は、年間50%のビジネスの成長に伴い、既存のERPでは複雑さに対処できない状況が続いていました。
同社は、グローバル企業として成長していくための拡張性と、高い柔軟性を要件にERPを選定し、Dynamics 365 Business Centralに決定。はじめは、オンプレミスの「Microsoft Dynamics NAV」を導入し、リリースとともにクラウドの「Microsoft Dynamics 365 Business Central」へ切り替えました。
導入後、デバイスや場所にとらわれずにERPへアクセスすることが可能に。従業員のだれもが重要なデータを追跡できるようになりました。
また、今まで手作業で行っていた注文プロセスを、ほとんど自動で遂行できるようになったのです。結果、納期の短縮に成功し、より多くの製品を作れるようになりました。
Dynamics 365 Business Centralを導入するメリット
ここでは、Dynamics 365 Business Centralを導入するメリットを2つご紹介いたします。
最新テクノロジーを活用できる
Dynamics 365 Business Centralには、Mixed Reality・IoT・AI・機械学習など、近年発展を続ける技術が活用されています。高度なテクノロジーをベースに分析することで、深度や正確性の高い情報を得ることができるのです。
Business Centralの開発陣は、日々サービスの改良に努めており、着々と新機能をリリースしています。導入することで、Microsoftが開発した新機能をいち早く活用し、ビジネスの新しい洞察を得たり、今までと異なるアクションにつなげたりできるでしょう。
信頼のおけるパートナーを見つけやすい
Dynamics 365 Business Centralを導入する二つ目のメリットは、導入に関する専門知識を持ったパートナーを見つけやすいことです。Business Centralはグローバルな販売ネットワークを有しており、コンサルティング・導入支援などにおいて、質の高いアドバイスを受けられます。
とくに、初めてERPを導入される方であれば、専門家へ相談しながら取り組んだ方が、結果的にコストや時間を削減することにつながるでしょう。自社の業務改革を迅速に遂行するためにも、プロと併走しながら取り組むのがおすすめです。
Dynamics 365 Business Centralを導入して、自社のデータを一元管理しよう
この記事では、Dynamics 365 Business Centralの概要や特徴、機能などについて解説しました。Business Centralは、250名以下の中小企業を対象としたERPで、Excelなどのアプリと連携させながら、シームレスな業務運営が可能になるのが特徴です。
搭載する代表的な機能は、以下です。
Dynamics 365 Business Centralには、「Essentials」と「Premium」の2種類のプランがあります。価格や機能に違いがあるので、慎重に検討しながら自社に合ったプランを選択しましょう。
Business Centralはリリースから間もないサービスですが、日本においても成功事例が次々と報告されています。自社に散在している情報を一元管理したいと考える方は、ぜひ導入を検討してみてください。