製造業において、従業員の生産性を向上させたり、会社の利益を増加させたりするうえで欠かせないのが「KPI」です。しかし、そもそもKPIとは何か、どのような種類があるのか、わからない方も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、製造業におけるKPIの種類や設定方法、運用方法などについて分かりやすく解説します。
製造業で用いる「KPI」とは?
そもそもKPIとは、「Key Performance Indicator」のことで、重要業績評価指標と訳します。言い換えると、企業の最終ゴールを達成するためのプロセスを数値化したものです。
たとえば、製造業において、「利益1億円」を最終的なゴールとして設定したとします。目標を達成するためには、従業員の生産性を向上させたり、不良品の発生を低減させたりしなければなりません。そこで設定する、「出来高工数」や「不良率」といった数値が、製造業におけるKPIにあたります。複数のKPIを運用していくことで、企業の目標達成に近づけていくのです。
なお、例で示した「利益1億円」は、製造業におけるKGIにあたります。KGIとは「Key Goal Indicator」の略で、最終目標を定量的に把握できる指標のことです。KGIのもとにKPIがあることを理解したうえで、設定・運用していくことが大切です。
製造業でKPIを設定する必要性
なぜ、製造業においてKPIを設定する必要があるのでしょうか?以下では、2つのポイントで理由を解説します。
原価管理を徹底するため
KPIを設定することで、製造業における利益の要でもある「原価管理」を徹底できるようになります。原価管理とは、利益を確保するために「標準原価」を策定し、それに応じて生産計画を立てたり、実際原価との差異を分析したりする管理活動のことです。
具体的には、以下の3つのKPIを設定します。
- 材料費…原料費や燃料費など、製品1つにかかった金額が明らかな原価
- 労務費…製品の製造にかかった人件費
- 製造経費…材料費や労務費以外に該当する経費
製造業においてKPIを設定することで、策定する計画の具体性が増します。その結果、自社の原価管理がより実態に近いものになるでしょう。
製造の生産性を向上させるため
「従業員は高いパフォーマンスを発揮できているか」「機械設備は予定通り稼働しているか」などの生産性にかかわる成績を評価するには、数値目標の設定が欠かせません。KPIが設定されていないと、自社の現状がよいのか、悪いのかが分からないからです。
とくに製造現場においては、「ヒト」「材料」「設備」といったリソースに着目してKPIを設定します。システムに蓄積された情報を収集し、KPIと照らし合わせることで、現場のどこにボトルネックがあるのかを把握できるのです。
製造業で用いるKPIの種類
製造業で用いるKPIには、実にさまざまな種類があります。以下では、各分野に分けてご紹介します。
労働生産性に関するKPI
労働生産性を測る指標として、以下のKPIを中心に用います。
- 就業工数生産性:(標準の直接時間:就業実績工数)
- 投入工数生産性:(標準の直接時間:直接作業投入工数)
- 目標比率達成率:(目標直接実績工数と実際直接実績工数の比較)(目標就業実績工数比率と実際就業実績工数比率の比較)
原価差異に関するKPI
原価差異に関するKPIでは、以下の指標を中心に用います。
- 原材料歩留差異:(標準歩留-実際歩留)
- 収率差異:(標準収率-実際収率)
- 工数差異:(標準加工工数-実績加工工数)(標準切替工数-実際切替工数)
- 設備稼働差異:(標準稼働時間-実際稼働時間)
機械設備に関するKPI
設備に関するKPIでは、以下の指標を中心に用います。
- 設備稼働率:(設備稼働時間÷稼働可能時間)
- 時間稼働率:(設備稼働時間÷負荷時間)
- 設備能力:(標準出来高時間÷設備稼働時機械間)
- 設備効率:(標準出来高時間÷負荷時間)
リードタイムに関するKPI
リードタイムに関するKPIでは、以下の指標を用います。
- 製造リードタイム:(目標リードタイム-実績リードタイム)
達成率に関するKPI
達成率に関するKPIについて、以下の指標を中心に用います。
- 製造指図量比:(月初指図量と製造実績量の比較)
- 製造指図工数比:(月初指図標準工数と実際出来高標準工数の比較)
- 生産計画日程比:(月初製造計画日と製造実績日の比較)
- 生産量差:(月初計画量合計-実際生産量合計)
- 生産指図数差:(月初計画指図数-実際指図数)
- 標準工数差:(月初計画標準工数-実際生産標準工数)
製造業におけるKPI設定で失敗しないためのポイント
中小企業がKPIを設定する際は、どのようなポイントに気を付ければいいのでしょうか?以下では、3つのポイントで解説いたします。
自社の現状に見合った指標を選択する
製造業のKPIといってもさまざまにありますが、その中でも自社の現状に見合った指標を選択することが大切です。たとえば、現場の労働生産性に課題を抱えているにも関わらず、測定しやすいからと機械設備のKPIを設定していては改善につながりません。
自社に合った指標かどうかを判断するためには、以下の項目をチェックしましょう。
- 自社が課題としているものか
- 目標の数値を立てられるか
- 継続的に把握できるか
- 検討や改善の施策を行えるか
どのような目的をもって行うのかによって、同じ業種でも設定すべきKPIが異なります。もし数値の測定が難しいようであれば、別途でITシステムを導入してもよいかもしれません。
「SMART」を意識する
SMARTとは、目標設定における大事な要素のことで、「Specific(具体的に)」「Measurable(測定可能な)」「Achievable(達成可能な)」「Related(経営目標に関連した)」「Time-bound(時間制約がある)」の5つの頭文字を合わせています。
KPIの設定においても効果的に活用できるため、以下ではSMARTを使ったKPI設定方法の例をご紹介します。
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Specific(具体的に)
現場の誰が見ても理解できる指標の名前にします。たとえば、「Capacity utilization」や「CU」などと英語で設定するよりは、「設備稼働率」と表現した方が理解しやすくなります。
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Measurable(測定可能な)
設定するKPIは、実際に測定可能なものにします。そうでないと、実態が分からずに検討・改善活動へつなげられないからです。場合によっては、数値計測ができる機械設備やITシステムの導入を検討しましょう。
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Achievable(達成可能な)
従業員のモチベーションを保ったり、適正な稼働を維持したりするためにも、達成可能なKPIを設定することが重要です。そのためには、「過去の実績はどうだったのか」「今からどれくらいの改善を期待できるのか」を綿密に検討しなければなりません。
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Related(経営目標に関連した)
設定するKPIはすべて、経営目標につながるものにしましょう。冒頭でもご説明したとおり、最終的なゴールである「KGI」のもとでKPIを決めることになります。
なかでも、「KPIツリー」を作成するのがおすすめ。KPIツリーとは、頂点にKGIを配置し、各KPIをツリー状にして分類するものです。KPIにおける大目標や中目標なども明らかになるので、それぞれの関わりを一目で把握できるでしょう。
実際にKPIを経営目標と一致させていくには、意思決定を担う経営層との緊密な協力が欠かせません。
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Time-bound(時間制約がある)
設定したKPIを、「いつまでに」達成する必要があるのかを明確にしましょう。「〇月中」と大まかに示すよりも、「〇月〇日」と日付を具体的に提示するのがベターです。決算日や納期などを考慮しながら、トップダウン式で決定しましょう。
製造業でKPIを運用する際のポイント
ここでは、製造業においてKPIを設定した後、実際に運用していく際のポイントをご紹介します。
スモールスタートで始める
製造業でKPIを設定した後は、まず1つの部門を決めて小さく始めていきましょう。いきなり大きくはじめてしまうと、失敗したときの損失が大きいからです。
ITシステムもいきなり高価なものを導入するのではなく、Excelや無料のクラウドツールなどを導入するのがおすすめです。
小さな成功体験を積み上げていくことで、ほかの部門へ事例を紹介したり、ポジティブな感情を伝えたりしやすくなります。組織内の賛同を得ることで、後から思い切った施策を推進していくことも可能になるでしょう。
分析・改善活動をする
KPIをただ設定・観測するのではなく、分析や改善活動へとつなげていくことが重要です。これは、PDCAサイクルの「Check」「Action」の部分に当てはまります。
グラフや表などの資料を作成する際は、品目別・工程別・系列別などに分類して、時系列で「見える化」しておくことが大切です。
改善活動をする際は、現場の関係者へ、できるだけ多くの権限を与えるようにしましょう。改善ポイントを一番よく知っているのは、現場の従業員にほかなりません。
各指標の管理責任を明確にする
設定したKPIに、だれが責任を持つのかを明らかにしましょう。責任の所在が明確でないと、そもそも運用されなかったり、達成への求心力が失われたりするからです。
また、1人で多くのKPIを運用していくこともできるだけ避けましょう。多くの指標に責任を持っていると、意識が分散してしまい、達成スピードも遅くなる可能性があります。
製造業におけるKPIを設定・運用し、利益を増大させよう
この記事では、製造業におけるKPIの概要や種類、設定方法などについてご紹介しました。KPIは単体で成立するものではなく、全体目標であるKGIと関連性のあるものにしていくことが大切です。
また設定する際は、自社で抱えている課題・問題に即したものを選びましょう。運用は全社的に始めるのではなく、スモールスタートにするのがおすすめです。
なによりも、部門間や階層間での協力体制が欠かせません。それぞれが当事者意識をもってKPIを運用していくことが、失敗しないための秘訣です。
もし、インターネットや書籍で満足のいく指標が見つからなければ、自社で独自に策定してもよいでしょう。継続的にPDCAを回していけば、おのずと利益の増大につながるはずです。