多様な働き方は近年、就職活動において学生が企業を選ぶ理由の上位にあげられるなど、社会的に関心の高い事項となっています。企業において長時間労働を是正し、生産性を向上させることは大きな課題であり、企業の社会的責任を果たすことにもつながります。
その課題を解決するために今注目されているのがRPAです。ではRPAを導入することによって具体的にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。ここでは大手商社(以下A社)の導入事例を紹介します。
業務時間の削減に伴う生産性向上の模索
A社では、RPAの導入に先駆けて全社を上げた働き方改革を展開していました。その結果、深夜残業を大きく削減し、従業員の総労働時間を大幅に減らすという成果を出すことに成功しています。ここまでは現代社会において多くの企業が取り組んでいることですが、A社が次の段階として実現を図ろうとしたのは、働き方改革によって減少した業務時間を、どのように有効活用するかということでした。そこで、生産性向上のために取り入れることに決まったのがRPAだったのです。
しかし、ここで大企業特有の新規システムの導入に対する難しさが表面化してしまいます。社内に複数のカンパニーが存在することによって、システムの共通化という新たな課題が浮かび上がったのです。
費用対効果を考えたUiPathの採用決定
新しい技術の導入には、ある程度事前の投資を行うことが不可欠となります。つまるところ、その投資に見合うだけの効果をいかに出すことができるかということが重要なのです。商社業のA社では、RPAの導入を検討し始めて試験運用から一定時間が経過した時期、一度社内に費用対効果における疑問点が生じました。
業務を一部自動化し、それによって大きく生産性を向上させることができるということについてはある程度の確信を得ていました。ただ、企業にとってそこに費やす投資が利益を上回るかどうかは慎重に検討する必要があったのです。
そこでA社では、RPA化の初期段階においてはいかにして投資費用を少なく抑えるかという観点から検討を行いました。そしていくつかの選択肢の中から、初期費用が最も低く、試験運用においても効果を認められたUiPathの導入が決定したのです。その後は、社内において専門の部署を新設し、複数のカンパニーにおいて横断的に浸透させていくというミッションを担うことになりました。
まず、コアメンバーである担当部署の従業員たちが丁寧に他の従業員に対して説明し、理解を促しました。さらに、各部署における導入事例や導入による効果などを伝えるなど様々な工夫を凝らして周知を徹底していったのです。
単純作業の自動化による社員の生産性向上
RPAの導入効果は半年程度で顕れました。ロボットを活用し、これまで社員が行っていた業務の一部を自動化することで飛躍的に生産性を向上させることができたのです。具体例をあげると、インターネット上のサイトから得た商品ごとの情報を処理する作業をロボットが自動で行うことになりました。一連の作業を自動化することによって情報収集できる商品数が従来の3倍になったほか、今後は従来の20倍にも上る商品への展開の可能性が生じるなど、業務の幅が格段に広がりました。さらに、数値などのデータの転記ミスが減るといった恩恵もあるなど、良い効果は多岐にわたっています。これは1つの導入事例に過ぎませんが、RPAの導入によってこれだけのメリットがもたらされるのです。
さらに、副次的な効果はこれだけにとどまりません。いわゆるロボットが行えるような単純作業が人間、つまり従業員の手から離れることによって、より複雑かつ重要な業務に注力することが出来るようになったのです。当初導入の目的としていた生産性の向上によって生じた余剰を別の業務に振り向けるということが、見事に実現されたと言えるでしょう。
最後に
何事も、いきなり会社のすべての部署のすべての従業員に新たな仕組みを浸透させることは困難です。A社のような大企業であればなおさらです。A社がRPAの全社的な導入に成功した背景には、まず各部署で導入したことによる実績や成功をきちんと積み重ね、導入によるメリットを少しずつ多くの従業員が理解するようにしたことです。そのことによって、従業員が上から押しつけられるのではなく、必要性やメリットをよく分かった上で業務を行ったことが大きいと言えます。
今後、さらに全社的な理解が深まっていけば、さらなる新技術を活用したRPAを実現することも可能になり、さらに生産性を向上させることが期待されます。
働き方改革という企業の社会的責任を果たすことにより、企業の社会的価値も向上し、A社を志望する学生が増えることも期待されます。また、いずれロボットやAIが広く社会で活用される時代も到来するでしょう。未来を先取りした企業は、株主などにも広く受け入れられるでしょう。