「通話はできている。端末も今のところ壊れていない。だからまだ大丈夫」——多くの病院の通信担当者や看護管理者が、こうした判断のもとで構内PHSを使い続けています。

構内PHSのリスクは表面化しづらいため、見えないリスクにこそ積極的に目を向ける必要があります。医療現場において「止まること」は、単なる業務の不便にとどまりません。スタッフ間の連絡が途絶えることは、医療安全や患者対応に直接影響しうる問題です。

そこでこの記事では、構内PHSを使い続ける病院が抱える“見えないリスク”について整理します。さらに、「次世代PHS」とも呼ばれ、構内PHSの後継・代替手段として注目されるsXGPについてわかりやすくご紹介します。

なぜ今も多くの病院で構内PHSが使われているのか

PHSは、2023年3月に公衆サービスが終了した通信方式です。

それなのになぜ、今も多くの病院では構内PHSが使われ続けているのでしょうか。

長年の運用実績がもたらす安心感

PHSは1995年にサービスが開始され、2000年代にかけて急速に普及していきました。特に、医療機器への電波干渉が少ない点が重宝され、現在でも構内での連絡手段として広く定着しています。

こうした長年の運用により、病院内では内線連絡やナースコールなど日々の業務で「現場が慣れている」ことがなによりの安心感となりました。

ですが、結果として構内情報システムの更新に取り掛かりにくい状況を生んでいます。

通信設備の更新が後回しにされやすい背景

医療現場では、新しい通信システムへの移行に伴う業務フローの変更や、スタッフへの研修負担も更新をためらわせる要因です。医療機関において設備更新の優先度が上がりやすいのは、医療機器・電子カルテ・空調設備など、患者の診療や療養環境に直結するものでしょう。

「今の運用で回っているなら、あえて変える必要はない」——こうした根拠のない楽観が、リスクの先送りにつながっている側面があります。通信インフラは「壊れたら考える」対象になりがちで、問題が表面化しない限り予算化の議論にも上がりにくいのが実態です。

PHSサービス終了の影響については、以下のコラムで詳しく解説しています。

関連コラム:PHSサービス終了の影響とは?

構内PHSを使い続けることで生じる「見えないリスク」

構内PHSは「止めることができない」医療現場において、システムの更新が簡単ではありません。

設備更新の優先順位や現場の忙しさなど、医療現場特有の背景も更新が遅れる要因となっています。

しかし、構内PHSをこのまま使い続けることで「見えないリスク」が生じていることをご存知でしょうか。

故障時に「代替が効かない」リスク

PHSはソフトバンクが2023年でのサービス終了を発表し、端末の新規生産も終了となっています。故障しても新しく購入することができません。

また、端末だけでなく、構内システムを支えるPHS交換機やアンテナも徐々に老朽化を迎えています。部品供給や保守体制が確立できていないこのような状況では、構内PHSの「たった一部の故障」によって、病院内の情報システムを全停止させる可能性もゼロではないのです。

音声品質の低下が医療安全に影響するおそれも

PHSは、構内にある基地局の電波だけでは電波干渉が起きてしまうため、公衆PHSによる高い精度の同期信号を利用していました。ところが、公衆PHSサービスが終了することで同期信号が利用できなくなり、通話が不安定な状態になりやすくなっています。

院内を忙しく移動しながらの通話が前提となる医療現場で、通話が不安定であることは、どのようなトラブルにつながるでしょうか。

医療指示の聞き間違いや緊急事態の処置遅れなど、病院内では小さなトラブルがインシデントにつながる可能性を捨てきれません。

BCP・災害対応でのリスク

病院は災害時に重要な拠点となる施設であり、命を守るための「止められない」施設としての使命を担っています。

そのため、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の作成はもちろんのこと、定期的な更新が必要です。災害時の拠点として、病院では水・電力・食料などのライフラインの確保をはじめ、「院内連絡が支障なく行える」体制を維持しておく必要があります。

PHSはすでにサービスが終了し、老朽化したシステムは通常時でさえ不安定になるリスクをはらんでいます。このような状態では、万一の際に指揮命令系統を維持するための通信手段は不可欠です。

Wi‑Fiやスマホ内線では解決できない課題も

「構内PHSがだめになっても、Wi‑Fiやスマホ内線でどうにかできるのでは」とお考えのご担当者様も多いのではないでしょうか。

Wi‑Fiやスマホ内線は、たとえ一時的には連絡をつなぐことができても、医療現場での安定的な運用としては難しい課題があります。

「つながる」と「業務で使える」は別

Wi‑Fiで「つながる」ことは可能ですが、「業務で使う」ことを検討するとなると、以下の課題が残ります。

Wi-Fiの電波は、2.4GHz、5GHz、6GHzの3つの周波数帯です。このうち、5GHzや6GHzといった高い周波数帯の電波は直進性が強く、壁などの障害物に弱いため、設置環境によっては電波が減衰し、接続切れや通信速度の低下が起こりやすくなります。

一方、2.4GHz帯は5GHzや6GHzと比べて障害物の影響を受けにくく、比較的広いエリアをカバーしやすい特性があります。しかし、2.4GHz帯は多くの通信機器や家電が利用する共用周波数帯であるため、環境によっては電波干渉が発生しやすく、通信が不安定になる場合があります。

また、移動中に通話する際、電波の届かないところでは、瞬時に基地局を切り替えて対応(ハンドオーバー)しています。Wi-Fiはこうしたハンドオーバー時に一瞬だけ通信が切れる「瞬断」が発生しやすい特性があります。

さらにWi-Fiの特性として、1つのアクセスポイントに接続しているメンバー全員で、その帯域(データ容量の上限)を分け合う使い方がデメリットとなります。

Wi‑Fiにも IEEE802.11e / WMM によるQoSは存在します。ただし、端末や設計に依存する要素が多く、PHSやsXGPのように通信品質を一貫して制御・保証する仕組みとは異なります。誰かが大容量ファイルをダウンロードし始めた場合、同じアクセスポイントのWi-Fiを使っている内線電話の音声にノイズが入ったり、遅れたりする可能性があります。

医療現場特有の無線通信要件

ここで、医療現場で求められる無線通信の要件を考えてみましょう。まず、通信が止まらないことが最も重要です。

次に、インシデントを防ぐための安定した音声品質と、災害時のための通信システムの信頼性も欠かせません。

Wi-Fiの干渉による影響については、以下のコラムで詳しく解説しています。

関連コラム:工場のWi-Fi干渉の原因と対策は?Wi-Fi・ローカル5G・sXGPを比較

病院のPHS後継・代替として sXGP が注目されている理由

Wi-Fiを構内PHSの代替として使う場合、安定した運用が望めないというデメリットがあることがわかりました。そこで、病院内で使う通信システムの後継として、sXGP(shared eXtended Global Platform)が注目を集めています。

sXGPには、医療現場に特有の課題解決につながる2つの特徴があります。

「通信方式の新しさ」よりも「現場を止めない設計」が求められている

sXGPのメリットは、「現場を止めない設計」が可能な点です。sXGPはPHSと同帯域を使用するため、電波特性が類似しており、建物内での安定した通話品質が期待できます。さらに、ハンドオーバー機能に優れているため、通話品質の安定も確保できます。

また、構内完結型のネットワークを構築できるので、医療データや個人情報を守るセキュアなネットワークの運用が可能です。

sXGPは通信が構内から外に出ず、使える端末をSIMで厳密に管理できます。加えて、携帯電話並みの暗号化も可能と、医療機関の情報システムに必要な機能がすべて備わっているため、医療データや個人情報を守りやすい通信方式です。

sXGPより新しい通信技術としては、ローカル5Gなどさまざまなものがあります。しかし、医療現場では「通信方式の新しさ」よりも「現場を止めない設計」が求められています。こうした安定性の高さが、sXGPが注目されている理由のひとつといえるでしょう。

将来の医療現場を見据えた拡張性

sXGPはスマートフォンの活用が可能なシステムで、将来の拡張性に優れています。医療現場では、現在の安全・安心な運用はもちろんのこと、将来的な現場環境の構築と維持が必要不可欠です。

sXGPを導入することにより、ナースコールや院内業務アプリとの連携など、これまで構内PHSでは不可能だった業務効率化が可能になります。

今後の医療業界で必須となるDX(デジタルトランスフォーメーション)への布石としても、十分に効果を見込める設備投資とすることも可能です。

sXGPの導入メリットについては、以下のコラムで詳しく解説しています。

関連コラム:sXGPとは?Wi-Fiやローカル5Gとの違いと導入メリットを徹底解説

通信インフラの更新は「止まる前」に検討すべき理由

病院内において、通信インフラは患者様の命をつなぐ生命線ともなります。

となると、通信インフラの更新は「止まる前」に完了させることを検討すべきではないでしょうか。

トラブル発生後では判断・対応が遅れる

例として、現在使用している構内PHSに問題が生じた場合を考えてみましょう。

仮に新しい通信インフラの検討を進めていたとしても、トラブル発生時はスムーズな移行が叶いません。新しいシステムの選定・設計・稟議・調達・施工・試験運用——これらのプロセスには、最低でも数か月、規模によっては1年以上かかることもあるでしょう。

その間、院内の通信インフラがストップしてしまうと、現場は混乱状態となります。このような状態では、医療安全リスクの拡大は避けられません。

病院においては、「通信が不安定になってから考える」という対応では、現場への影響を最小化することが難しくなります。設備が動いている今のうちに、現状の整理と検討を始めることが重要です。

段階移行・併用という現実的な更新方法

通信インフラの更新をスムーズに進めるためには、段階移行と併用が効果的です。更新したからといって、いきなり全面切り替えを進める必要はありません。

現場を混乱させずに進めるには、現行運用を止めずに時間をかけて検討できる余地が必要です。その上で移行できる選択肢を広げ、慎重に検討を重ねていくことが、医療現場にとっての現実的な進め方になります。

まずはsXGPの導入で可能になる業務を確認し、将来的なDXやBCPへの活用も視野に入れた段階的な導入計画を作成することが、最初の一歩になるでしょう。

sXGPの将来性については、以下のコラムで詳しく解説しています。

関連コラム:構内PHSの限界とsXGPの可能性―DX・BCPも見据えた次世代業務通信

まとめ|止められない医療現場の通信をどう支えるか、まずはリスク診断から

構内PHSは、今すぐ使えなくなるわけではありません。しかし、機器の老朽化や保守体制の不足といった「見えないリスク」は確実に存在しています。病院内で使うPHSの後継・代替案として、新しい通信システムの検討が必要な段階に差し掛かっています。

西部電気工業では、構内PHSの更新検討をはじめ、医療・介護など「止められない現場」の通信環境の支援を行っています。「今の状況を整理したい」「どんな選択肢があるか知りたい」といった段階から、ご担当者様を一貫してサポートいたします。

院内のITインフラ更新についてお悩みの場合、まずは現在の構内PHSのリスク診断から始めてみてはいかがでしょうか。どうぞお気軽にご相談ください。