
登場からわずか数年で数々のサービスがリリースされ、爆発的にユーザーが増え続けている生成AI。わからないことがあれば、とりあえずAIに質問してみたり、ビジネスシーンではアイデア出しや文章作成などに活用される場面も増えています。一口に生成AIといってもさまざまな種類があるため、それぞれの違いや具体的に何ができるのかわからないという方も少なくありません。
そこで本記事では、生成AIの基本的な仕組みや従来のAIとの違い、生成AIで何ができるのかを詳しく解説します。
生成AIとは?
生成AIとは「Generative AI」ともよばれ、膨大な学習データをもとに新たなオリジナルコンテンツを創り出す人工知能を指します。文章や画像、イラスト、映像、音楽など生成可能なコンテンツの種類は多岐にわたり、自然言語(日本語や英語など)で指示を入力するだけでコンテンツを生成できるため、プログラミングなどの専門的な知識がない人でも簡単に操作できるのが特徴です。
「ChatGPT」の登場を皮切りに、短期間でさまざまな生成AIが登場しており、エンタメ分野はもちろんのことビジネス分野でも広く活用されるようになりました。
生成AIの仕組み
生成AIは文章や画像といった膨大な学習データをもとに、そこに含まれるパターンやルールを自動的に見つけ出します。ディープラーニング(深層学習)とよばれる技術が活用されており、まるで人間がさまざまな情報を学習していくように学習データの量が増えるほど賢くなっていきます。
また、長文の作成や翻訳など複雑な処理が可能になった背景には、「Transformer(トランスフォーマー)」とよばれる技術が生まれたことが大きいといえるでしょう。これは入力された文章を処理するエンコーダと出力する文章を生成するデコーダで構成されており、これらが連携することで文脈に沿って単語を理解したり、情報処理の効率が飛躍的に向上しました。
たとえば、従来の機械的な翻訳では複数の意味をもつ単語を誤って翻訳してしまい、意味不明な文章や不自然な文章が出力されることも少なくありませんでしたが、Transformerによって精度の高い翻訳も可能になりました。
従来の「AI」と「生成AI」は何が違うのか?

AIは決して新しい技術ではなく、実はコンピュータが誕生した当時から研究が進められてきました。
特定のタスクを正確にこなすのが従来のAI
従来のAIは、基本的に人間があらかじめ設定した特定のタスクを正確にこなすために作られてきました。たとえば、メールのスパム判定や顔認証システム、需要予測、製造ラインのロボット制御などが代表的な用途といえるでしょう。
これらは、大量のデータをもとに「分類」「予測」「最適な行動を選ぶ」といった処理を行うことが中心でした。これにより、あらかじめ決められたルールや目的に沿って効率よく作業をこなすためのツールとして広く普及していったのです。
新しいコンテンツを生み出すのが生成AI
生成AIは、これまでに蓄積された膨大なデータをもとに、新しいコンテンツそのものを生み出すことができます。
たとえば、「可愛らしいクマのイラストを描いて」と指示すると、生成AIは自らオリジナルのイラストを製作できます。ほかにも、「春をテーマにした短編小説を書いて」と指示するだけで文章をゼロから書き起こしたり、テーマに沿った楽曲を製作したり、さらにはプログラムコードを作成することもできます。
生成AIの出力には決まった正解がない
生成AIの大きな特徴は、出力されるコンテンツに決まった正解がないことです。
従来のAIはメールのスパム判定や顔認証システムのように、どちらが正しいかを判定したり、需要予測やロボット制御のようにどちらが効率的かを選ぶことに特化しています。これらは正しい答えが決まっているため、同じ質問を投げかけても返ってくる答えは同じです。
しかし、生成AIで出力される文章や画像などは必ずしも答えが一つではありません。そのため、同じ質問に対しても毎回違う回答が返ってくることがあり、人間との自然なコミュニケーションやオリジナリティのあるコンテンツ製作に活かされています。
生成AIは何ができるのか?主な種類と得意とする作業

一口に生成AIといってもさまざまなツールが登場しており、作成できるコンテンツも多様化しています。どういった種類の生成AIがあり何ができるのか、得意とする作業を詳しく解説します。
文章作成
生成AIが広く普及するきっかけとなった「ChatGPT」は、人間の質問に対して自然な文章で答えたり、記事やメールの文面などを作成したりするのが得意です。大量のテキストデータを学習しているため、まるで人間と会話しているかのような自然な会話が成り立ち、出力される文章もほとんど違和感がありません。
また、人間の指示に従って一から文章を作成する以外にも、メールの本文や長文の記事、SNSの投稿文などを短く要約したりすることもできます。
画像・イラスト制作
「DALL-E」や「Midjourney」などは画像・イラストの製作に特化した生成AIで、自然言語によって指示されたテーマに基づいて高精度のオリジナル画像やイラストを作り出します。かつての画像・イラスト生成AIは出力される画像が荒かったり不自然な仕上がりになることも多かったですが、最近では現実の写真と見分けがつかないほど精巧な画像を生み出すことも可能になっています。
また、人間が撮影した写真データを取り込み生成AIが補正したり、アニメーション風に加工したりすることもできるようになりました。
動画制作
従来、高品質の動画に仕上げるためには専用の撮影機材や編集用ソフトが必要であり、テロップやSEなどの編集にも多くの手間と時間を要していました。しかし、生成AIを活用すればカメラや高度な編集技術がなくても動画を自動的に製作・編集できます。
また、たとえば静止画として撮影した人物を動画やアニメーション風に加工したりすることもでき、コンテンツ製作の幅はますます拡大しています。
作曲
「AIVA」や「Amper Music」といった楽曲制作に特化した生成AIも登場しており、指定された雰囲気やジャンルに合わせてオリジナルの楽曲を作ることができます。たとえば、「Amper Music」ではヒップホップやクラシックロック、映画音楽などのジャンルを選択した後、クールや悲しい、幸せといった楽曲のイメージを選び、曲の長さを指定するだけでイメージに合ったオリジナル音源を生成できます。
オリジナル楽曲を作るためには専門的な音楽の知識やセンスなどが要求されますが、生成AIの出現により誰でも手軽に作曲できるようになりました。
プログラミング・コーディング
「GitHub Copilot」や「Codeium」などは人間が書いたコードをサポートしたり、自動的に新しいコードを生成したりすることもできます。「◯◯の機能をPythonで実装したい」と指示を入力するだけで、必要なコードのひな型をすぐに生成したりエラーも修正できるため、コーディング作業の大幅な効率化が期待されています。
コード生成AIの多くは、PythonやJavaScript、C++、Javaなど幅広い言語に対応している点も大きな特徴です。
生成AIのリスク・課題

生成AIは非常に便利なツールではありますが、いくつかのリスクや課題も抱えています。特にビジネスに活用する場合にはこれらを正しく理解し、適切に対応することが不可欠です。
ハルシネーション
生成AIには「ハルシネーション」とよばれる現象が起こることがあります。これは、誤った情報であるにもかかわらず、あたかもAIが事実のように出力してしまう現象です。
たとえば、実在しない企業の情報を記載したり、論文や研究データから事実を捻じ曲げて引用したりすることがあります。これは、AIが情報の本質的な意味まで理解しておらず、文章をただの単語の羅列として認識しパターンに基づいて出力しているため生じる現象です。
ハルシネーションのリスクを十分に理解しないまま生成AIを導入してしまうと、誤情報の拡散によって企業の信用を失ったり、金銭的な損失の拡大など深刻な問題につながる恐れがあります。そのため、生成AIの回答は鵜呑みにするのではなく、必ず人間が確認・検証することが重要です。
セキュリティリスク
生成AIにはセキュリティ面でのリスクも存在します。特に危険視されているのが、個人情報や機密情報が学習データとして取り込まれ情報漏えいにつながるリスクです。また、使用するAIモデルに悪意のあるプログラムが組み込まれていた場合、不正な指示を送ることでシステムを乗っ取ることもできてしまいます。
こうしたリスクを防ぐためには、サービスの利用規約や運用ポリシーを厳格に設けることはもちろん、AIに学習させるデータを慎重に選定することも重要です。
知的財産権の侵害
生成AIは既存のさまざまなコンテンツを学習し、それらをもとに文章や画像などを出力しているため、一見するとオリジナルに見えても学習元のデータに酷似している場合があります。ユーザーに悪意はなかったとしても、結果として著作権や商標権、意匠権などの知的財産権を侵害してしまう可能性もゼロではありません。
特に、画像やイラスト、音楽などのコンテンツ生成ではリスクが高まるため、商用利用を検討している場合には生成物が既存作品に依存していないかを確認する必要があります。
生成AIを活用する企業とそうでない企業間の格差拡大
生成AIに対する企業のスタンスはまちまちで、積極的に活用を進めている企業もあれば消極的な企業もあります。また、業務に活用したくてもノウハウや知識がなかったり、さまざまなリスクにどう向き合っていけば良いのかわからないという企業も少なくありません。
生成AIは業務効率化や生産性向上に大きく貢献するツールであり、活用する企業とそうでない企業の格差は今後拡大していくと考えられます。
今後はマルチモーダル化やパーソナライズされた生成AIも
現在の生成AIは文章や画像の生成、音声生成など、それぞれに特化したAIが存在していますが、今後はマルチモーダル化が進み、ひとつのAIが複数のコンテンツを横断的に扱えるようになると期待されています。たとえば、生成された映像に合わせて雰囲気にマッチしたBGMを自動的に生成するサービスも一般化していくでしょう。
また、個人の好みや企業のニーズに最適化された生成AIも登場してくるかもしれません。ビジネス用には丁寧でフォーマルな文章を、個人利用ではカジュアルな文体を自動で選んで生成するなど、使う人に最適化された応答ができるようになれば生成AIの活用はさらに浸透し、スマートフォンのように身近な存在になるかもしれません。
一方で、今回ご紹介したリスクや課題の解消も不可欠であり、国際的なガイドラインや法律の整備も進められていくでしょう。企業や開発者だけでなく、一般ユーザーにもAIの正しい使い方を学び適切な運用が求められる時代が到来しています。