
企業のITインフラが高度化する中で、ネットワークの安定運用やセキュリティ強化の重要性が増しています。しかし、ネットワークエンジニアの人材不足は深刻化しており、多くの企業が運用・保守の負担増やDX推進の遅れといった課題に直面していることも事実です。
本記事では、ネットワークエンジニア不足の現状と企業にもたらす影響、具体的な解決策について解説します。
ネットワークエンジニア不足の現状
株式会社バッファローが2024年9月に実施した「中小SIerの業務負担に関する実態調査」によると、経営者の43.0%がネットワークエンジニアの不足を課題として認識していることが分かりました。
一方で、全体の半数以上がネットワーク機器の保守や管理にリモート管理サービスを導入しておらず、負担が高まっている実態が浮き彫りになっています。企業のIT環境が複雑化する中で、ネットワーク管理の効率化が急務といえるでしょう。
企業におけるネットワークエンジニアの役割
ネットワークエンジニア不足が課題視される昨今ですが、そもそも企業におけるネットワークエンジニアの役割はどのようなものなのでしょうか。
ここでは、ネットワークエンジニアの概要やシステムエンジニアとの違い、ネットワークエンジニアが担う保守・運用業務について詳しく解説します。
ネットワークエンジニアとは?
ネットワークエンジニアとは、企業の通信環境を設計・構築し、データ通信の効率化とセキュリティ強化を通じてネットワークの安定稼働を維持する専門職です。主に、LAN/WANの設計・設定、機器管理、セキュリティ対策、トラブル対応、パフォーマンス最適化などに対応します。ネットワークの自動化やゼロトラストセキュリティの導入など、新たな技術の適用が進んでいるため、専門的な知識とスキルが必要不可欠な職種といえます。
システムエンジニアとの違い
システムエンジニア(SE)は、ITシステムやソフトウェアの設計、開発、運用、保守を担当する技術者です。ネットワークエンジニアとシステムエンジニア(SE)の違いは、ネットワークエンジニアがネットワークの設計・運用に特化している点です。
ただし、近年ではクラウドや仮想ネットワークの導入が進み、ネットワークエンジニアにも新たなスキルが求められています。そのため、従来の物理的なネットワーク管理に加えて、プログラミングを活用しながらネットワークを最適化するケースも増えています。
ネットワークエンジニアの保守・運用業務
企業におけるネットワークエンジニアの役割は、ネットワークの安定稼働を維持し、効率的な通信環境を構築・管理することです。
ネットワークエンジニアの業務は、大きく「保守」と「運用」に分けられます。保守業務ではサーバーなどネットワーク機器の監視や管理、トラブル防止の対策を行い、システムの安定稼働を支える役割を担います。一方、運用業務ではトラブル対応やネットワークの最適化、新技術の導入、構成変更などを行い、企業の成長やDX推進をサポートする役割があります。
ネットワークエンジニアが不足している理由・背景
ネットワークエンジニアの需要が高まる一方で、専門的なスキルを持つ人材の確保はますます難しくなっており、多くの企業がエンジニア不足に直面しています。ここでは、ネットワークエンジニアが不足している主な理由や背景について解説します。
ITインフラの高度化による需要の増加
ネットワークエンジニアが不足する理由の一つとして、ITインフラの高度化による需要の増加が挙げられます。クラウドサービスや5G、IoT、ゼロトラストセキュリティなどの技術は、政府の対策を受けて急速に進化しており、企業のネットワーク環境はこれまで以上に複雑になっています。
さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、ネットワークの設計・管理を担う人材の需要が急増しています。
また、サイバー攻撃がますます多様化しているため、企業はセキュリティ強化を迫られており、対応できるネットワークエンジニアの重要性は一層高まっています。
人気職種の偏りが人材不足に影響している
ネットワークの管理を担うインフラ系エンジニアは、以前から慢性的に不足している職種の一つです。
エンジニアの中でも、Webサイトのサーバーサイド開発やデータベース管理を行う「サーバーサイドエンジニア」や、Webアプリケーションやホームページの開発を担当する「フロントエンドエンジニア」は、特に人気が高い傾向が見られます。
株式会社アイデンティティーが公開した「IT人材市況動向レポート2024年8月版」によると、新規採用されたエンジニアの中でもっとも多かったのは「サーバーサイドエンジニア」と「フロントエンドエンジニア」であり、全体の30~60%を占めていました。
このように、特定の職種に人気が集中することで、ネットワークエンジニアなどのインフラ系人材の確保がさらに難しくなり、企業のITインフラ維持に影響を及ぼしていると考えられます。

ネットワークエンジニアの育成が追いついていない
IT業界全体で人材不足が深刻化する中、特にネットワークエンジニアは高度な専門知識が求められるため、即戦力となる人材の育成が難しい状況です。
従来のオンプレミス環境に加えて、クラウドネットワークやゼロトラストセキュリティの運用が求められ、既存エンジニアにも新技術の習得が必須となっています。しかし、これらのスキルを学ぶための教育機会は十分に整備されておらず、多くの企業ではIT人材への投資が不足しており、社内研修や教育制度が不十分な場合もあります。
最近では、未経験者向けにCCNA(Cisco技術者認定)や情報処理安全確保支援士(旧:情報セキュリティスペシャリスト)といった資格取得支援や転職支援スクールが増えており、即戦力となる人材が圧倒的に不足している現状を反映しているといえるでしょう。
ネットワークエンジニア不足による課題
ネットワークエンジニアは企業のITインフラを支える重要な役割を果たすため、不足するとさまざまな課題を引き起こす可能性があります。ここでは、ネットワークエンジニア不足が企業に与える影響について、具体的な課題を見ていきましょう。
ネットワークの安定運用・保守が困難になる
ネットワークエンジニアが不足すると、企業のネットワーク運用や保守が困難になり、業務全体に影響を及ぼします。システム障害や通信トラブルの対応が遅れることで、業務の中断や効率低下が発生する可能性があります。
例えば、ネットワーク障害時の復旧対応が遅れた場合、業務の停滞を招きます。また、監視やメンテナンスが不十分だと、パフォーマンスの低下やセキュリティリスクの増大につながります。さらに、ITインフラの拡張や更新に管理体制が追いつかなければ、新しいシステムに対応できず、ダウンタイムの増加や業務効率の悪化を引き起こします。その結果、企業は生産性の低下や信頼性の損失といったリスクに直面することになります。
また、新しいITサービスの導入や拡張がスムーズに進まず、企業の成長が阻害されることや競争力低下を招くこともあります。特に、競争が激化する市場においては、迅速なDXの推進が企業の生き残りに直結することもあるため、ネットワークエンジニアの確保や育成が重要です。
サイバーセキュリティ対策の遅れ
ネットワークエンジニアの不足は、企業のサイバーセキュリティ対策の遅れを招く可能性があります。サイバー攻撃は日常的に発生しており、ゼロトラストセキュリティや侵入検知システム、ファイアウォールの適切な運用には高度な専門知識が必要です。
例えば、セキュリティパッチの適用やネットワーク機器の更新が遅れると、攻撃に対する防御が不十分になります。また、監視体制が整っていないと、攻撃発生時の対応が遅れ、情報漏洩やデータ改ざんといった深刻な被害につながります。結果として、企業の信用が損なわれ、顧客の信頼を失うだけでなく、法的責任を問われるリスクも生じます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の遅れ
ネットワークエンジニアの不足は、企業のDX推進にも悪影響を与えます。DXを進めるためには、クラウド移行やリモートワーク環境の整備、業務の自動化が不可欠であり、これらを実現するためのネットワーク環境の構築には、十分な技術力を持ったエンジニアが必要です。
クラウドサービスの導入やネットワークの最適化、リモートワークのためのセキュアな通信基盤の整備が後回しにされると、企業の業務効率化やコスト削減が難しくなります。
また、新しいITサービスの導入や拡張がスムーズに進まず、企業の成長が阻害されることや競争力低下を招くこともあります。特に、競争が激化する市場においては、迅速なDXの推進が企業の生き残りに直結することもあるため、ネットワークエンジニアの確保や育成が重要です。
ネットワークエンジニア不足の課題を解決する方法
企業にとってネットワークエンジニア不足は大きな課題ですが、適切な対策を講じることで解決に導くことが可能です。ここでは、ネットワークエンジニア不足の課題を解決するための具体的な方法を3つご紹介します。
採用活動を強化する
ネットワークエンジニア不足の直接的な解決方法は、エンジニアの採用を強化することです。採用活動を強化するためには、魅力的な求人情報の提供や、競争力のある給与・福利厚生の提供が求められます。
また、ネットワークエンジニアに求められるスキルや経験を明確にし、それに見合った人材をターゲットとして設定することも大切です。
ただし、採用活動は時間とコストがかかるため、急速に進化するIT業界においては、採用だけですべての問題を解決することは難しい場合もあります。そのため、採用強化と並行して、人材育成や外部リソースの活用も検討すると良いでしょう。
エンジニアの育成・スキル取得を強化する
採用活動に加え、既存社員のスキル育成も重要な対策です。特に、IT担当者やインフラエンジニアにネットワーク運用やセキュリティスキルを習得させる研修が効果的です。
具体的には、クラウドネットワーク(例:AWS、Azure、Google Cloudなど)やゼロトラストセキュリティに関する知識を深めるための研修や資格支援を行い、OJTや外部研修を活用して実践的なスキルを身につけさせることが求められます。
これにより、社員のスキルアップを促進し、エンジニア不足を緩和し、将来のネットワーク運用やセキュリティ対策に対応しやすくなるでしょう。
ネットワーク運用代行を活用する
自社でネットワークエンジニアを確保するのが難しい場合、外部の専門業者にネットワーク運用や保守を委託することも一つの方法です。
ネットワーク運用代行サービスを利用することで、専門家によるネットワークの監視、メンテナンス、障害対応、セキュリティ対策が可能になり、人的リソース不足を解消できます。
また、24時間365日の監視と迅速な対応をプロに任せることで、ネットワークの安定運用が維持され、業務への影響を最小限に抑えられます。セキュリティやパフォーマンスも確保され、安心してビジネスを展開できます。
さらに、自社のエンジニアは戦略的なIT施策やDX推進に集中でき、業務効率化にもつながります。ネットワーク運用代行は、エンジニア不足の解消と企業成長を支える有効な手段といえます。
まとめ
ネットワークは企業の事業運営において欠かせない要素であり、その安定的な運用が求められています。しかし、ネットワークエンジニアの不足が続いており、適切な人材を確保するのは容易ではなく、多くのリソースが必要です。
ネットワークエンジニア不足の課題を解決するためには、ネットワーク運用代行を活用することがおすすめです。
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