今や日本においても、DXが頻繁に叫ばれるようになりました。重要性を理解している担当者が多くいる一方で、「何から着手すればいいのか分からない」「DXプロジェクトがうまく進まない」といった声をよく聞きます。
企業がDXを実現するためには、まず業務を改革していくことが大切。なぜなら、業務改革は着手しやすいうえ、次のDX施策につながりやすいからです。
そこでこの記事では、DXを実現するために業務改革を実施する重要性や、具体的な方法を解説いたします。
DXに向けて、まずは業務改革から取り組むべき理由
「DXの取り組みが初めてで、うまくいくのかどうか分からない」といった課題を抱える企業は、まず業務改革に注力しましょう。なぜなら、複数あるDX施策のなかでも比較的取り組みやすい内容だからです。
DX施策には大きく分けて「攻めのDX」と「守りのDX」の2種類があり、業務改革は、後者の「守りのDX」と関連します。下記では、攻めのDXと守りのDXの概要について説明し、なぜ守りのDXから取り組むべきなのかについて説明いたします。
「攻めのDX」と「守りのDX」
攻めのDXは、自社のビジネスモデルを根本から変革するような取り組みです。たとえば、実店舗で展開している小売店がECサイトやSNSなどのオンラインへ進出し、オムニチャネルを目指すのがよい例です。
攻めのDXは今まで自社になかった新しいものを生み出すため、実行するのに創造性や多くのリソースを必要とします。また、失敗したときのダメージが非常に大きいので、経営者が慎重に意思決定をする必要があるでしょう。
一方で守りのDXは、自社の業務フローを見直し、組織内部からDXを進めるもの。たとえば、既存の機械設備へIoTセンサーを取り付け、データ活用の土台作りを目指すプロジェクトが挙げられます。
守りのDXは、現場の担当者が必要性を理解しているケースが多く、攻めのDXと比べて着手しやすい傾向にあります。さらに、取り組み後の成果がイメージしやすいため、現実的な視点を持って実施できるのがメリットです。
上記で「攻めのDX」と「守りのDX」について説明しました。どちらの方が取り組みやすいのかというと、初めて取り組む企業であれば、圧倒的に「守りのDX」です。まずは業務改革を実施し、「守りのDX」を成功させてから「攻めのDX」にチャレンジするのがよいでしょう。
なぜ、日本企業はDXに乗り遅れているのか?
DXの必要性を理解したうえで、いざ改革を進めようと思っても、なかなかうまくいかない企業が多いようです。
2021年にIPA 独立行政法人情報処理推進機構が発表した『DX白書2021日米比較調査にみるDXの戦略、人材、技術』のレポートによると、DXの取り組みで「成果が出ている」と回答した企業は、日本企業では49.5%にとどまりました。米国の90.1%の割合と比較すると、国として必ずしもうまくいっているとはいえないようです。
出典:IPA 独立行政法人情報処理推進機構:第2部 DX戦略の策定と推進
問題1:部署・部門間の壁を越えられない
ひとつ目は、部署・部門間の壁を越えられない問題です。DXは当然、経営層だけでなくIT部門や各種業務部門が協働して実施するプロジェクトです。よって、会社全体でDXの定義やコンセプトを明確にし、全体で認識を統一させなければなりません。
しかし、部門間での対立があったり、部署・部門を超えた情報共有体制が甘かったりすると、DXプロジェクトの初期段階でつまずいてしまうでしょう。
そのような失敗をなくすためにも、まずはトップがDXの定義や全体像を社員へ伝える必要があります。もし理解を得られていない状況ではじめてしまうと、社員の温度感が低いままスタートしてしまい、軋轢や社内政治が発生しやすくなるからです。
加えて、組織で活用するコミュニケーションツールから見直しを図ることも、部署・部門の壁を乗り越えるひとつの方策です。
問題2:事業戦略との関連性が薄い
いざDX施策へ取り組んだとしても、事業戦略との関連性が薄ければ成果が出たとはいえません。実際に、「DX施策へ取り組んで業務の一部がデジタル化されたけれども、会社全体としてどのような効果が出ているのかが不明確」と答える経営層の方が多いようです。
これには、下記2つの原因が考えられます。
- DX施策そのものが事業戦略に及ぼす影響が弱かった
- 経営層が事業戦略との関連性を認識できていない
どちらでも、計画立案の際に事業戦略との関連性を議論していなかったことが原因です。「本当にその施策を実施する必要があるのか」「もしDX施策が成功したら、事業全体でどのような変化が起こるのか」といったことを事前に検討しましょう。
DXに向けて業務改革で採用できる、3つのアプローチ
ひとえに業務改革といっても、さまざまなアプローチ方法があります。ここでは、DXに向けた業務改革で採用できる、3つのアプローチ方法をご紹介いたします。
トップダウン型のアプローチ
トップダウン型でおこなう業務改革は、事業戦略でとくに重要な業務プロセスを特定し、経営層が旗振り役となって改革していくのが特徴です。
改善対象の業務プロセスを特定する際は、主に事業計画書やKGI・KPIを中心に確認。そして、どの業務が目標達成のボトルネックになっているのかを突き止め、改善施策を検討していきます。
トップダウン型の取り組みは、トップの命令で一斉に現場が動くため、現場主導型よりも求心力が高まりやすいのがメリットです。一方で、経営層が現場を理解していなかったり、経営層のITリテラシーが低かったりすると、的外れな施策内容になってしまうのが留意点です。
現場主導型のアプローチ
現場主導型による業務改革は、言葉のとおり、現場で働く人たちが中心となって改善活動を進めていく形の取り組みです。
現場主導型では、「今、現場でどのような課題が発生しているのか?」「どのようなプロセスだと担当者が業務をしやすくなるのか」を明らかにするなど、まさに現場視点でボトルネックを見つけていくのが特徴。担当者間の合意形成がしやすく、理解度が高まりやすいのがメリットです。
一方で、事業戦略とのかかわりが見えづらかったり、施策内容が枝葉末節になったりしがちなのが注意点。現場主導型で進める際は、施策内容がKPI・KGIとどのように結びつくのかを明確にしてから取り組む必要があります。
プロセスマイニングによるアプローチ
プロセスマイニングとは、システムやツールに蓄積されているデータを活用して、業務を可視化したり改善したりする活動のことです。
たとえば、経費精算業務で説明すると、「申請」「受理」「承認」といった一連の業務のログを取得し、フローを可視化します。その後、時間がかかっている箇所や手戻りが発生している箇所を見つけ、改善ポイントを明らかにするのが特徴です。
プロセスマイニングによるアプローチは、トップダウン型や現場主導型よりもさらに下層にある、システム内のデータに焦点を当てて分析をおこないます。そのため、データ分析に精通した人材がいればうまく進められる一方で、不足していれば進めることが困難になるでしょう。
DXに向けて、業務改革を推進するための5つのステップ
ここでは、DXを実現するために、業務改革をどのように進めればいいのかを5つの手順でご紹介いたします。
1.業務プロセスの整理・可視化
まず、自社の業務プロセスを整理することからはじめます。トップダウン型であれば、部門をまたいだ全社的なプロセスを、現場主導型であれば、その部門や部署での業務プロセスを明確にしましょう。プロセスマイニングによるアプローチを採用する際は、プロセスマイニングツールに記録されたフロー図に間違いがないかどうかを確認します。
とくにトップダウンや現場主導でおこなうときは、関係者間の認識を統一するため、だれにとっても見やすい業務フロー図を作成することが重要。もし、書き方のルールがバラバラだったり、重要な業務がフロー図から漏れていたりすると、正しく分析できません。
そこで、国際標準である「BPMN(Business Process Model and Notation)」による書き方を用いるのがおすすめです。下記では、BPMNの概要や簡単な作成方法をご紹介いたします。
BPMN(Business Process Model and Notation)とは?
BPMNとは、「ビジネスモデリング表記法」と呼ばれ、業務プロセスの流れを一貫してモデル化するための表記法のことです。BPMNでは、主に以下の要素を用います。
- イベント図形:開始や終了、メッセージ受信など、特定のイベントが発生する際に使う図形。小さな丸枠で表示。
- アクティビティ図形:実際の処理内容を表すために使う図形。大きな四角形で表示。
- ゲートウェイ図形:イベントやアクティビティが分岐する際に使う図形。ひし形で表示。
- データ図形:データの保管場所や情報を表すための図形。データアイコンで表示。
- フロー線:アクションの順番を表すための線。用途に応じて、実線や破線、矢印で表示。
BPMNは、一度覚えれば高度な専門知識を必要とせずに作成できるのがメリット。部門内だけでなく、部門をまたいだ業務プロセスの整理も簡単におこなえます。
2.ボトルネックの発見
業務プロセスを明確にしたら、次に業務のボトルネックを見つけます。業務フロー図を見ながら、経営の足かせになっている箇所を探したり、現場の担当者が不満を感じている業務を聞き出したりしましょう。
とくに、「計画で定めたKPIを達成できていない」「会社が定めた業務方針から逸脱している」といった業務については、ボトルネックとして問題が顕在化している可能性が高いです。ほかにも、「非効率さは発生していないか」「担当者のモチベーションは低くないか」「リソース配分はうまくできているのか」など、多角的な視点から分析してみてください。
3.改善案の検討
ボトルネックの業務を発見したあとは、具体的な改善案を検討します。
たとえば、フレームワークのひとつである「ECRS(イクルス)」を活用するのがおすすめ。ECRSは、「Eliminate(排除)」「Combine(結合)」「Rearrange(再配置)」「Simplify(単純化)」の頭文字をとったもので、改善案をさまざまな視点から検討できるのが特徴です。
活用する際は、まず「Eliminate(排除)」から仮説を立てることが重要だと考えられています。「既存の業務を排除できないか、なくせないか」を一度検討した後、それでも難しそうであればほかの3つの方法を検討します。
ECRSを活用するほかにも、マニュアルを作成して業務を標準化する、ITツールを導入して効率化・自動化する、アウトソーシングをして業務を丸ごと委託する、といった施策があるので、さまざまな視点から改善案を検討しましょう。
4.実行計画の作成
改善案を検討したあとは、実行計画を作成しましょう。具体的には、以下を明確に決めます。
- 取り組み内容の詳細
- 開始から終了までのスケジュール
- メンバー構成
- メンバーごとに割り当てるタスク
- 目標(KPI)
- 効果の測定方法
とくに、継続して改善活動を続けていくためにも「KPI」を設定することが重要。具体的な目標数値を定めることで、取り組みの成果を評価しやすくなります。
また、可能な限り実行可能な内容になるよう意識しましょう。もし現実にそぐわない計画になっていると、現場の理解を得られず、担当者のモチベーションが下がってしまうからです。たとえば、実行不可能なスケジュールとならないよう、予期しないトラブルが発生する可能性も踏まえて、バッファ(予備時間)を設けることがポイントです。
5.実施内容のチェック・評価
最後に、作成した計画に基づき業務改革プロジェクトを実施し、定期的にチェック・評価をします。計画どおりに進んでいるか、問題が発生していないかなどを、モニタリングして都度確認しましょう。
業務改革を継続して実施していくには、「PDCA」を意識することがコツです。PDCAは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」の4つの頭文字を合わせたフレームワーク。この4つのサイクルを回すことで、継続的な改善活動が実施しやすくなります。
PDCAサイクルを回す際は、週次・月次・四半期・半期など、チェックタイミングを事前に決めておくのがポイントです。
業務改革を実施して、守りのDXへ着手しよう
実際に業務改革へ取り組む際は、プロセスを整理したり計画を作成したりしながら、正しいステップで取り組むことが重要になります。ぜひこの記事を参考に、DXに向けた業務改革を進めてみてください。