
超高齢社会を迎えることで生じる「2025年問題」は、様々な業界に重大な影響をもたらすと予想されています。特に、医療・介護分野やIT・情報サービス業界、物流・建設・保険業界は深刻な影響を受けると考えられており、適切な対策を講じなければ、将来的に企業の競争力が低下するリスクが高まります。この記事では、2025年問題の概要と特に影響があると予想される業界、IT・情報システムの観点から見た課題とその対処方法について解説します。
2025年問題とは
2025年問題とは、日本が超高齢社会を迎えることで直面するさまざまな社会的・経済的な課題です。主に、社会保障費の増加や医療・介護体制の維持の困難化、労働力不足の深刻化が懸念されています。
高齢化の進行度を示す言葉として、「高齢化社会」(65歳以上が7%超)、「高齢社会」(14%超)、「超高齢社会」(21%超)があり(*)、2025年に日本は「超高齢社会」に突入すると予測されています。
内閣府が公表した「令和6年版高齢社会白書」によると、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、総人口の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になることが見込まれます。
この状況は、医療や介護の需要の急増と、生産年齢人口(15~64歳)への負担増を引き起こします。1950年には5人で1人の高齢者を支えていたものが、2025年には2人で1人を支える状況へと変わる見通しです。
また、企業にとっては人材の確保が喫緊の課題であり、多様な人材の雇用や、ITを活用した業務効率化による対応が求められています。
特に影響があると予想される業界

超高齢社会を迎えることで、さまざまな業界が「2025年問題」の影響を受けると予測されています。特に、労働力の確保やシステムの更新、サービスの見直しが必要な業界では大きな影響が懸念されます。
ここでは、2025年問題の影響が特に大きい5つの業界の課題を詳しく解説します。
業界 | 具体的な課題 |
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医療・介護業界 |
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IT・情報サービス業界 |
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物流業界 |
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建設業界 |
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保険業界 |
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1. 医療・介護業界
高齢化に伴い医療や介護サービスの需要が急増する一方、人材不足が深刻化しています。
特に介護職員不足は深刻で、厚生労働省のデータでは、2026年までに約25万人、2040年までに約57万人を新たに確保する必要があると予測されています。さらに、健康保険組合連合会の推計によると、医療費は2025年までに約57.8兆円に達するとされています。
これらの課題に対応するため、早急な人材確保や効率的な医療・介護体制の構築が求められています。
2. IT・情報サービス業界
IT・情報サービス業界では、IT人材の不足やレガシーシステムの老朽化が顕著で、経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、2025年には約36万人の人材不足が予測されています。また、技術者の高齢化により、システムの維持管理が困難になる事態も懸念されています。これらの課題解決のためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、IT人材の育成、既存システムの刷新や自動化が不可欠です。
3. 物流業界
物流業界でもトラック運転手の高齢化や若年層人口の減少が進み、労働力不足が深刻です。
さらに、2024年施行の「トラック運転者の改善基準告示」により、労働時間の短縮が求められております。これまで長時間労働で補っていた部分を新たな人材確保が必要とされる一方で、離職率増加や配送コストの上昇が課題です。こうした状況下で労働環境の改善や自動化の推進を進め、業界全体の生産性向上を図る必要があります。
4. 建設業界
標準化そのものに対し、現場や担当者が消極的で属人化が解消されないケースが挙げられます。業務が標準化されてしまうと、他の人に任せていた負担が自分にものしかかってしまうことを嫌がって、業務が属人化された状態を望むという消極性です。
また、業務属人化が続いている状態を逆手に取り、担当可能な人物が特権的な地位を享受し、組織に悪影響を与えるというケースも考えられます。業務上のリスクが発生するだけでなく、組織全体のパフォーマンスを低下させる恐れがある、面倒な事態です。
5. 保険業界
高齢者の増加により医療・介護保険の支払いが増大し、保険料の引き上げが避けられない状況です。一方、若年層の新規契約者の減少が長期的な収益低下につながる懸念もあります。こうした環境変化に対応するため、業界は新たな保険商品やサービスの開発を急ぎ、収益基盤を強化することが求められています。
これらの2025年問題の影響を大きく受ける業界では、労働力の確保やシステムの更新、サービスの見直しなど、さまざまな対策が必要です。
IT・情報システム目線での「2025年問題」

本コラムではIT・情報システム目線での「2025年問題」に着目して解説します。2025年問題は、IT・情報システムの観点から、主に以下の4つの課題を引き起こすと予測されています。
- レガシーシステムの老朽化
- ブラックボックス化
- IT人材の不足
- 経済損失のリスク
これらの課題を放置すると、企業の競争力低下や経済損失を招くため、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進と業務改革が不可欠です。
なお、DXを推進できない企業は国際的な競争力を失うリスクが高く、この問題は「2025年の崖」とも呼ばれます。経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、既存システムの技術的な限界と、それによるビジネス停滞が指摘されました。
ここでは、IT・情報システム目線での「2025年問題」について解説します。
1. レガシーシステムの老朽化
多くの企業が長年使用しているITシステムは、技術的に老朽化し、時間の経過とともに肥大化・複雑化しており、ビジネスの進化に対応できなくなりつつあります。
特に、従来型のオンプレミスのシステムや独自開発されたシステムは柔軟性に欠け、最新のテクノロジー(AIやIoTなど)や新しいビジネスモデルを支えることが難しくなっています。
例えば、旧型システムが新しいデータ解析ツールやクラウドサービスと連携できない場合、企業は技術革新から取り残される恐れがあります。この課題を解決するためには、レガシーシステムを刷新し、新しいシステム基盤へ移行する必要があります。
2. ブラックボックス化
長年使用されてきたシステムは、カスタマイズが重ねられることで複雑化し、内部構造が不透明になります。このような「ブラックボックス化」の状態は、専門知識を持つ人材でなければ管理や操作が困難な状態を引き起こします。
特に懸念されるのは、担当者が退職した場合に、その後の管理や更新が困難になる点です。変更内容や潜在的なトラブル箇所が把握できないため、問題発生時に迅速な対応ができません。この状態が続くとシステムのメンテナンスが滞り、業務運営に悪影響を及ぼすリスクが高まります。
ブラックボックス化を防ぐためには、システムの透明化とドキュメント化、新しい人材の育成が求められます。
3. IT人材の不足
レガシーシステムを維持・更新できる技術者は年々減少しており、その結果、システムの適切な運用が難しくなりつつあります。新しい技術に精通した人材は増えているものの、レガシーシステムに詳しい技術者の数は限られているため、システムの維持や更新が困難になっています。
IT業界全体での人材の供給不足は、今後さらに深刻化することが予測され、企業は早急に人材の確保・育成に力を入れる必要があります。
4. 経済損失のリスク
経済産業省が公開した「DXレポート」では、これらの課題が解決されない場合、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が発生する可能性が指摘されています。
具体的には、既存のITシステムの維持管理にかかるコストや、競争力を失うことによる生産性の低下が積み重なることで、企業の競争力が大きく低下する恐れがあることが懸念されます。
このような状況が続くと、国内の産業全体に深刻な影響を与え、経済成長の足かせとなってしまうでしょう。また、企業がデジタル化に対応できない場合、国際的な競争力も低下し、他国の企業との競争で後れを取ることになります。
これらの課題に対処するためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が不可欠です。企業は、古いシステムからの脱却を図り、最新のIT技術を活用して業務プロセスを改革する必要があります。
2025年問題への対処方法

2025年問題を解決するためには、「人手不足の解消」と「DXの推進」が重要です。
特に、IT業界や企業内部でのレガシーシステムを扱える技術者の不足が深刻であり、新しいITスキルを持った人材の確保・育成が急務となっています。
企業は、技術者不足に対処するために、教育・研修プログラムを強化し、デジタル人材を積極的に育成する必要があります。また、テクノロジーを駆使した自動化や効率化を進め、少ない人数でも業務が回る仕組みを作ることが求められます。
また、レガシーシステムの老朽化に対応するためには、DXの推進が不可欠です。最新のIT技術を導入し、システムの刷新を図ることが企業の競争力を維持する解決策となります。
特に、ERPシステムへの切り替えは、その一環として有効な選択肢です。ERP(Enterprise Resource Planning)システムとは、企業の「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を一元管理し、業務効率化や迅速な経営判断を実現するシステムです。
ERPへの切り替えのメリット・デメリットについては、前回のレガシーシステム更改のコラムをあわせてご覧ください。
次回のコラムのご案内
今回のコラムでは、「2025年問題」で企業が直面する課題とその解決策について解説しました。皆さんは、自社の未来像をしっかりと描けているでしょうか?
企業としての競争力を確保し、持続可能な成長を実現するためには、戦略的なIT導入と経営基盤の強化が欠かせません。次回のコラムでは、Microsoftのテクノロジーを活用し、どのようにして経営基盤を強化するかについて解説しますので、ぜひご覧ください。
次のコラムはこちら:「Microsoftの世界でDXを実現しませんか?~次世代を見据えた経営基盤~」